(by paco)541マスメディアの報道は、成り立ちと構造から、どうしても「知りたい情報」が伝わらない。

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(by paco)現代社会では、身近な情報以外のほとんどすべてをメディアからの情報に頼って生活している。メディアの中でも、テレビ、新聞の二大マスメディアは圧倒的な影響力を持っており、エネルギー問題や原発事故を正しく理解するためには、大きな役割を果たしてほしいと期待されている。

しかし、実際には、市民がほしいと思う情報が伝わってこないという経験を、今回の原発震災で多くの人が実感することになった。

マスメディアからは大量の情報が流されたが、どのテレビ局、どの新聞も、あまり変らない内容の情報が多く、また内容的にも納得がいかないと感じられるものが多かった。

  1. 大メディアがどのように事実を伝えなかったか
  2. なぜ大メディアには、事実が伝えられないのか

の2回にわけて分析する。


■炉心溶融は3月11日はわかっていたが、広く報道されることはなかった。

一例を挙げる。

3月11日に地震があり、地震の約1時間後に最初の津波が原発に押し寄せた。この結果、原発は全電源を失い、危機的状況を迎える(→Click!)。原発の知識が少しでもあるものなら、非常用も含めて全電源が失われることは、そのまま冷却の失敗を意味し、遠からず原発の冷却水は沸騰して蒸発し、原発は暴走してしまうことを知っている。

では、3月11日、政府や東京電力本店は、このことをどのように認識していたのか。そして、それを国民にどのように伝えたのか。

政府は、3月11日の午後10時ごろには原発は炉心が融けて、コントロールできない状況になることを予想していた(「自由報道協会が追った3.11」(扶桑社)p.175)。この予想はのちに、東京電力自体の報告書によって追認されている(2011年5月15日)(→Click!)。つまり地震当日の夜遅くには原発は炉心が融けて、コントロールできない状態になっていることを、政府も東京電力も理解していた。

一方、この事実はマスメディアを通じて国民に届けられたのか?

地震の翌日17日の記者会見で原子力安全・保安院の中村審議官は、炉心溶融が起きていると考えられるという見解を示し、各社も報道した。

しかしこの直後、中村審議官は更迭され、これ以降、炉心溶融の事実は政府と東京電力から説明されることはなくなる。それに伴って、大手のテレビ、新聞からも炉心溶融の事実は語られなくなり、「直ちに影響はない」と繰り返し報道されるようになる。

炉心溶融の事実を政府と東京電力が正式に認めたのは、事故から2か月以上たった5月15日。(→Click!


この間、2か月は、大メディアから炉心溶融の事実が説明されることはなかった。あなたはこの間、事故を起こした原発がどのような状態になっていると考えていただろうか。まったく関心がなかったという人はべつにして、関心を持ってみていた人なら、改めて振り返ってみると、確かに事故直後から炉心溶融など、深刻な事態になっていることはほぼ理解していたのではないかと思う。しかし、それは政府と東京電力という当事者からは正式に語られることはなかった。twitterやブログなどのネット上では、「すでに炉心は融けている」「圧力容器、格納容器は壊れている」と多くの人が発言した。しかし彼らに対して原発と政府、東電を信頼する立場の人物からの過激なコメントが寄せられ続けた。

「専門家でもないのに、なぜ壊れているとわかるのか。いい加減なことをいうと許さない。加害者はおまえだ。」
「ジャンボジェットが突っ込んでも大丈夫なように設計している圧力容器が、水素爆発ぐらいで壊れるはずがない。」
「東電の職員ががんばってるときに不謹慎だ。」

原発容認派と原発反対派のやりとりが2か月近く続いた背景には、政府と東電が事実を認めなかったことが大きい。

■マスメディアはジャーナリズムの責任を放棄した。

しかし、そこにもうひとつの背景が見て取れる。情報を伝えているマスメディアが、政府と東電の主張のみを伝え、それを会議する情報を伝えず、政府・東電の情報を精査しなかったことだ。

本来、メディアで情報発信を担当するジャーナリストは、少しでも真実に近づくために、複数の情報源にあたり(裏をとり)、自ら情報を判断して、どの情報源のどのような情報が真実なのかを提示すべく、努力するのが役割だ。

原発事故でいえば、政府・東電の発表をそのまま伝えるのではなく、それ以外の情報源にあたり、より合理性の高い説明を選び、また自らの言葉に変えて、伝えることが期待されている。でなければ、単に政府の広報誌と同じだ。

ところが、原発事故の報道は、政府・東電の発表に疑わしい部分があったにもかかわらず(上記のように炉心溶融については、いったん発表されてすぐに消滅。「安全」も根拠なく言われ続けた)、その点を指摘したり、分析したりすることはなかった。政府の発表をそのまま垂れ流し続けたことによって、国民は一方的な情報だけが大きく伝えられるようになり、それを疑う主張は激しく攻撃されるようになり、結果として、事実の認識ができなくなるだけでなく、正しい認識を伝えた一部のジャーナリスト、個人のネット発信者などが攻撃されることになった。

改めて確認しておくべきは、少なくとも、大メディアは、ジャーナリズムの本来の役割をまったく果たす意思を失っていた、という点だ。政府・東電の発表が正しいか、間違っているかにかかわらず、それを確認しようとする機能を失っていたことは事実であり、日本のジャーナリズムは決定的に信頼を失った。

■真実を伝えたネットメディアと個人発信者

その一方で、インターネットがマスメディアが伝えない情報を伝え続けた。原発事故後、「おそらく報道以上のひどいことが起きているに違いない」と多くの市民が感じた背景には、テレビや新聞では見聞きしなくても、ネットの情報をチラ見したり、その話を友人から聞くなどして、うすうす知ることができたからだろう。

原発の事故について、より適切な情報を伝え続けた発信者をいくつか挙げよう。

原子力資料情報室


福島事故のはるか以前から原発の問題を指摘し続けてきたこの団体では、事故直後からUSTREAMなどを通じて記者会見を中継し続け、その後もデモを主催するなど、活発な活動を行っている。

特に、元東芝のエンジニアで、福島原発の設計者でもある後藤政志氏の解説は詳細かつ適切で、事故後の自体を政府や東京電力に代わって、伝え続けた。そしてその説明は、結果的に東電の報告書とほぼ同じ内容であり、的確な分析だったことがわかる。もし後藤氏が政府のスポークスマンの1人となって自体を解説したり、あるいはテレビや新聞で解決をくり返していれば、原発事故後の人々の理解が混乱することはなかっただろう。

環境エネルギー政策研究所

所長の飯田哲也氏は、日本でもっとも知見の深いエネルギー分野の専門家であり、グローバルな視点から、日本のあるべきエネルギー政策を語れる人物だ。基本的に、脱原発、再生可能エネルギー推進だが、そのベースは民主的な合意形成であり、それが実現できれば、社会は原発や中央集権的なエネルギーインフラから、分散型、ネットワーク型のエネルギーインフラにならざるを得ないと主張する。本サイト【エネこみ】の理論的バックボーンは飯田氏の主張をベースにしている。

●個人

神保哲生氏
ビデオジャーナリストとして、大メディアが流さない情報を伝え続けている。

広河隆一氏
国際的フォトジャーナリストとして、チェルノブイリ事故、パレスチナ問題など、世界の理不尽を取材、発表し続けている。氏が発行する「デイズジャパン」は、現在日本で唯一の本格的フォトジャーナリズム誌。

宮台真司氏
社会学者。社会システム理論をもとにした「あるべき社会」の観点から、原発問題の問題点を告発している。

上記の各メディア、個人は、渡辺パコが特に信頼する情報源である。他にも個人、団体に多数有力な情報源があるが、特に信頼の置けるところだけを挙げた。

原発事故後の日本では(実は、事故以前からだが)、適切な情報は、大メディアを見ているだけでは受け取れないことがはっきりした。大メディア以外からの情報源(主にインターネット)を持ち、自ら分析的に判断する力がないと、この時代に未来は切り開けない。エナジーシフトは、情報の判断力を持つ人々が主体的に動く必要がある。

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