(by paco)先週の続きを書く。
尚、この話は先週8月10日に実施した【エネこみ】リアルミーティング2の内容とかぶるので、このときの音声も合わせて聞いてもらうと、理解が深まる。
前回、ロジカルファシリテーションの観点から、堀さんと孫さんの「トコトン議論」の議論の課題を解説した。実際に行われた議論に即して、どのような議論にすべきだったのかを解説した。
今回は、そもそもどのように議論すべきだったかについて書きたい。
■事前にイシューを合わせる
今回の「トコトン議論」はふたりとも、twitter上で自分の意見をかなり言い合ったいた。と言うことは、すでにどんな点で意見が食い違っていたのかが見えていたということであり、であれば、その食い違いを明確に浮き彫りするところまでは準備することが可能だった、と言うことだ。
ファシリテータの役割は、このような、事前に整理できる論点(イシュー)を明確にして、その点については、比較が容易なように準備をしてもらうという大切な役割がある。議論を始めてから、議論を通じてイシューを合わせるのではなく、事前にイシューを合わせてスタートできれば、そのほうが議論はわかりやすいし、平行線に見えることも避けられる。
では、今回の議論ではどのように合わせればよかったのだろうか。
まず、両者のメインメッセージを見てみよう。
孫さん「私は原発ミニマム論者」
堀さん「私は電力安定供給論者」
それぞれの主張を見て、そういう意見もあるよね、と納得してしまっては、ファシリテータの役割は果たせない。
このふたつのメインメッセージは、議論をするにふさわしい、「対照的な」メインメッセージなのだろうか。
かならずしも対立的・敵対的である必要はないが、対照的であるべきだ。
もしふたつのメインメッセージが一見かなり違うが、よく考えるとほぼ同じだとしたら、議論をする必要はなくなってしまう。議論がよい議論になるかどうかは、両者のメインメッセージがきちんと対照的になっているかどうかにかかっている。
改めて、上記のふたつのメインメッセージを見て、どうだろうか。
堀さんの「電力安定供給論」というメッセージをもし孫さんに示したら、もちろん孫さんも賛同するだろう。孫さんは情報革命の仕事をしており、その事業は電気で駆動されているので、電気力が安定しなくてもいい、たまには停電もあってもいい、とは言わないだろう。
とすると、堀さんと孫さんは対立していないのだろうか?
そんなことはない。実は、堀さんの電力安定供給というのは、誰もが否定できないメッセージではあるが、実は、堀さん自身の立場を明確にしていない言葉なのだ。ふたりとも、電力安定供給は主張したい、という共通のメッセージは持ちながら、一方で孫さんはそれを「原発をミニマムにして実現しよう」と言っていて、堀さんは、「……」と言っているわけだ。
堀さんがいっている「……」とは何だろうか。
ファシリテータは対談が始まる前に、両者に上記を確認して、堀さんには、孫さんの主張に対照的な、どのようなメッセージを持っているのかを、言葉にして示してほしい、それが議論をする前提だから、と話し、「……」の内容を準備してもらわなければならない。
おそらく、堀さんの主張は
「(電力の安定供給を実現するためには)自然エネルギーには頼れないし、原発をよりうまく使っていくのがもっともよい」
というような主張になるだろう。
■サブイシューを用意する
メインメッセージが決まったら、サブイシューをある程度用意する。
ある程度というのは、完璧に用意してしまえば、ふたりのライブの議論の幅を限定しすぎることになるし、まったく用意しなければ、議論がスムーズに進まないからだ。
今回の場合は、事前にtwitter上でかなり明確に主張がされていたので、そこからイシューをピックアップすることになる。たとえば、
(1)放射能飛散の被害はどの程度か
(2)原発を使わずに、電力をまかなうことはできるのか
(3)日本社会はそのコストを負担することができるのか
(4)気候変動(CO2)問題をどのようにクリアするか
(5)その他
(6)哲学・宗教から見て原子力のような高リスク、大規模技術とどう付き合うべきか
と言ったことが考えれる。もちろん、これがベストかどうかは十分検討すべきだが、「使える」イシューリストにはなっているだろう。また、この場合は、5つでMECEを構成したいにしても、MECEでなければならないとまで厳密に考える必要はないだろう。トコトン議論は、あくまで議論であって、議論が価値あるものになることが、イシューリストの最も重要な役割だからだ。
ちなみに(5)はtwitter上でのやりとりには出てこないイシューで、ドイツの原発議論の中で検討されたものを付け加えたものだ。実際には、(1)?(5)を提示して合意をとった上で、(6)を加えるのはどうか、とファシリテータがふたりに確認することになるだろう。ふたりが拒絶すれば、無理に(6)を入れるべきではない。
前回の「電磁波リスク」の議論は、(1)の中のさらにサブイシューとして位置づけられる。低線量長期被爆に関するリスク評価の方法論の違い(孫さんは予防原則、堀さんは現在わかっている知見重視)もこの中で議論される。
つまり、(1)?(6)の中で、さらにどのような議論をすべきか、3階層目のサブイシューまでファシリテータは用意する。3階層目も、理想的にはMECEになるべきだが、優先すべきは議論の価値が上がるかどうか、という観点だ。
(1)放射能飛散の被害はどの程度か
a.現状の飛散でどの程度の被害を見込むのか
b.改善策はどの程度行えばいいのか
c.他のリスクと比べて、リスクは大きいのか
d.両者が考える、理想的な放射能飛散対策(事後)はどのようなものか
(どのようにすれば被害を防げるのか)
(2)原発を使わずに、電力をまかなうことはできるのか
e.安全に原発を使っていくことはできるのか
f.原発を止めたら、本当に電力はまかなえないのか
g.再エネはどの程度使えるのか
h.再エネにはどのような技術があり、ポテンシャルはどうか
i.再エネ利用にはリスクはないのか、どの程度あるのか
j.長期展望(2050年ごろが目安)に立った場合、どのようであるべきか
k.化石燃料はどの程度利用可能なのか
(3)日本社会はそのコストを負担することができるのか
l.原発のコストはどの程度と見積もるのか。
(原発は本当に安いのか)
m.それぞれが理想とする電源を使った場合、コストはどの程度になるのか
n.コストは誰が負担するべきか
o.コスト負担の方法はあるか
p.コストは社会にどのような影響を与えるか
(4)気候変動(CO2)問題をどのようにクリアするか
q.CO2問題をどの程度重大と考えるか
r.CO2削減の観点から、電源はどうあるべきか
s.原発を使っていけば、CO2問題は改善するのか
あらかじめこのようなイシューリストを双方に提示した上で、他にイシューにしたいようそがないか、双方に確認。追加があれば、追加する。
そのうえで特に重要なイシューを決める。たとえば、a.やc.は、実際に放射能リスク問題として議論がされているので、ここは必須項目として設定すべきだろう。
こういったサブイシューに落とし込み、それぞれが情報を持ち寄れば、論点と双方の判断の違いが明確になるので、議論がかみ合い、見応えのある議論になるし、議論の優劣も明確になる。
その際、事前に双方に示すこととして、「専門家でないから」と議論を逃げずに、factsを可能な限り集め、それを元に自説を理由づけることを核にすることが重要だ。ここまで準備をして当日の議論に臨めば、議論もかみ合い、どちらがよし詳細に情報を集め、結論を出しているかも、クリアに浮かび上がるだろう。
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ロジカルファシリテーションでは、前回と今回で示したように、議論のフレームを構成し、議論時点ではそこからずれないように、議論の目的を見失わないように、中立の立場で議論してもらうことが、大事な役割になる。
このようなファシリテータが不在だったことが、今回の議論を不毛にした。次があるとすれば、こういった役割を果たすファシリテータを用意して、議論をしてほしい。
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