(by paco)先日ある企業に呼ばれて、震災対応ということで、半分ビジネス、半分ボランティアのサービスができないか検討している、という話を受けた。
半分、というのは、ビジネスになることが前提だが、もし国の役にたつなら、利益が取れなくてもやる可能性を排除しない、と言う意味。相談内容の一部を紹介しつつ、このタイミングでどのように考えていけばいいか、考え方を学んでほしい。
■節電支援サービスの「いい筋」の見方
最初に検討に上ったのが、節電支援サービス。節電が必要な夏だし、いろいろな人が手軽に節電に参加できるように、節電の方法を示すと同時に、実行した内容に応じて、何らかのサービス、たとえばプレゼントがもらえたり、ポイントをもらえたり、というような仕組みがつくれないか、というもの。
あくまでビジネスメイキングのタイミングなので、具体的に、どこかのショップと組むのか、ネット上のサービスにするのか、あるいは行政とつながるかなどはじょじょに固めるとして、こういったことを検討することに意味があるかどうか、と言う段階での相談だ。
実はこういうサービスについては複数の団体から相談を受けていて、やはり関心は高いのだろう。
さて、このタイプのサービスの見方だが、基本的には、まず、今年の夏の節電については、すでに「決着」が付いていて、追加でやる必要はなく、やるべきことの手も打たれている、と言うこと。
ざっくり言えば、一般市民やスモールビジネスにできることは、エアコンの設定温度やムダな照明を消すといった、昔からいわれていたことをやるだけで、それ以上にできることはほぼない。もちろん、ムダに使うべきではないが、すでにこれだけ気温が上がる中で、「エアコンは使わないように使用」とキャンペーンを張れば、熱射病患者が増えるだけだ。
7?9月は電力豊富で涼しい長野県でリゾートオフィス!というぐらいドラスティックなキャンペーンなら「あり」だが、そういう発想をするところはほとんど無い。
また、節電方法も、今年の夏の場合は、ピークシフトが最も重要なのだが、節電というと、ピークにはあまり関係が無い「照明を消す」などが入りがちだ。日照時間が長い夏は、もともと昼間照明を使う必要は少ない。夜の照明を減らしてもピークシフトには関係ない。というように考えると、もともとこういった日常生活の節電でやれることはほとんど無いのだ。
しかも、すでに夏の電力量はほぼ足りている。火力発電所をめいっぱい稼働させ、夜の発電を揚水発電所にためておけば、ピークも不足になる可能性は少なくなった。しかも、大口需要家の需給変動契約を対象に、厳しいときには一方的に電力供給を止めることができる。このように、すでに打つべき手は打っているので、個人や一般オフィス向けに追加のキャンペーンは必要ないのだ。
では電力関係では何もしなくていいのか。
■半恒久的節電で、できることは多い
「エアコンを使わない」というような良心に頼った節電ではなく、長期的な展望に立った節電方法なら、やれることはたくさんある。これらはピークシフトというよりは、一般的、かつコストダウンにつながる節電だ。つまりは、企業向けが中心になる。
たとえば、屋根に省エネ塗料を塗る方法。反射率が高くて太陽熱をはじき、保温性をもたせて、室内の冷暖房の熱を逃がしにくい塗料が開発されている。郊外の大型ショッピングセンターなど、広さのわりに屋根が広い建築物には特に有効で、10?20%の省エネ(=電力削減効果)がある。
また窓ガラスに貼るフィルムも一定の効果があるし、天井付けのエアコンの吹き出し口に取り付ける、自然回転型のファン(ときどき見かける、風車のようなもの)も、室温を均等にして、エアコンの効きをよくする効果がある。
スーパーマーケットなどの保冷ショウケースに取り付ける透明カーテン(熱を逃がさない)や、出力消費を見える化するための消費電力が計測できるコンセントも省エネに貢献する。漠然と省エネするのではなく、何かをやったら実際に減ったかどうかを確認できれば、PDCAを回すことができ、実質的な削減方法を自主的に開発できる。
これらのような、主にビジネスで使い、かつそれほど多額の出費が必要のない省エネ咲くに特化して、何らかの支援システムを作れば、今年の夏数か月ではなく、長期的にも使えるサービスになるだろう。
たとえば省エネ塗料であれば、塗料と塗布工事の両方について、エコポイントにあたるようなボーナスポイントを付与すると支援になるし、商品だけでなく、工事も対象にすれば、雇用にもつながる。
削減実績を公開すればさらに追加のボーナスが出るようにすれば、情報共有も進むはずだ。
このようなやり方は、今年の夏の電力不足には直結しないものもあるが、じわじわと省エネが進み、CO2削減につながるし、電力料金のコストダウンになるので、経営にも貢献する。
同じように省エネをテーマにする新サービスなら、こういった方向感を立てた上で、実現するための戦略を立てることが重要で、これなら意味の無い節電に誘導することもない。
■風評被害を防ぐサービス
「風評被害を防ぐ」と言うアイディアもいくつかの企業や団体から相談を受けた。いずれも単純に実現すると、よからぬ結果を招くので十分注意深いプランニングが必要だ。
コミトン読者にはあらためていうまでもないが、宮城県南部から関東にかけては、原発事故の汚染が広がっている。放射線量は事故以前より明らかに高いし、「暫定基準」を下回ったとしても、危険度が高い放射能の食品がふくまれているだろう。さらに、測定の頻度が少ないために、測定の網から漏れて、暫定基準を超える高い汚染のある食品が出回っている可能性も否定できない。
つまり、「風評」は風評ではなく、本当に危険なものである可能性が排除できない中で、「風評被害を防ぐ」サービスを行えば、被爆を広げてしまうリスクがあるのだ。
「利益が期待できなくても、意味があるならやろう」という善意が、かえって悪い結果になる可能性もあるのだ。
この分野はなかなか代案が出しにくいので、よほど理論武装をしっかりしてさせない限り、手を出さないのが賢明だ。
しかし、あえてやるなら、十分な測定とトレーサビリティが確保されていることが全体になるだろう。
と思ったら、らでぃっしゅぼーやと大地の会が、かなりしっかりした方針を出していることが分かった。この件に関する僕のツイート。
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らでぃっしゅぽーや http://t.co/afPyd4r、大地の会 http://t.co/tb0DvKG あたりは、食品の放射線監視体制がだいぶ整ってきたなあ。生協はまだまだ、生産者寄り。らでぃっしゅぐらいやってくれると、ほぼ安心できそう。他も追随してほしい。
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で、この件についての、facebook上での補足。
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ここまでやらないと、安全は確保できないと思います。あとは、基準値をどうするか。今のところ、これらの企業も国の暫定基準を使いながらも、それ以下になっているのでokですが、基準内だけど高め、と言う数値の時に、どこで線引きをするか。
十分安全マージンを取った数値を、多様な専門家が集まった検討委員会を設けて、設定するべきです。
で、これを国全体の方針にする。
本来は、まず、「本来ここまでやるべき」という方針(原理原則)を打ち出し、「すぐにはできないから、順番にやる予定、3か月以内に実現する。仮にその間、汚染が多めのものを食べても、3か月以内に達成できれば、年間の被曝量は○○なので、安心できる。
これが世界標準のやり方。
日本は順番が逆で、現実を回してから、ちょっとずつ小出しに手を打ち、しばらくたつと、「え? やってたの?」となる。こういうやり方だと、結果は似たような物でも、世界からは信頼されないのですね。
ちなみにコストはすべて、東電と国が負担するべきです。汚した責任者が、負担するのは当然です。これも原理原則ですね。多額であっても、将来、多くの健康被害が出るよりはずっと安いはずです。国際的な信用失墜のよるダメージも大きい。
で、東電は払えるのということになりますが、ここからは、東電処理スキームが重要で、経産省の古賀さんやISEPの飯田さんがいっている方法をベースにして、株主責任、経営責任、貸し手責任を問い、次に経産省の責任を問い、どうしても足りない分を国民が税金や電気料金で負担する、問うことになるでしょう。
これまで機能していた考え方が、いつの間にか、忘れ去られてしまうのも日本の不思議なところ。
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このような方針や考え方を前提にした上で、それなのに風評被害が起きているということであれば、それを防ぐということに価値があるのだが、実際にはやるべきことができていない。
その状況の中で「風評被害」といっているので、いつまでも「風評」も「被害」もなくならない。本来あるべき状態が存在していなければ、すべてが風評というよりは「可能性」になり、「実害」になりかねないのだ。
これからも、震災や原発問題で、社会に貢献したいという活動が検討されると思うが、その適否に不安があれば、ぜひ相談してほしい。最優先で対応していきたいと思っている。
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