(by paco)513公共を実現するために、役所と政治を理解する

| コメント(0) | トラックバック(0)

(by paco)前回の国旗国歌の話をつつけつつ、NPOの役割、そしてその間をつなぐ機能について考える。

■公共とは全員を包み込む利害調整機能

「公共」とか、「公」とは、ひとつの国や地域、社会を包み込むしくみのことを指している。

ここで重要なことは「すべての構成員」を包み込むことが重要だ。

日本では、公共とか、公共心というと、たとえば国旗だとか国歌だとかの話になることがしばしばだ。なぜ公共と国旗国歌が関係するのかというと、すべての人に対して、国旗や国歌に対して同じ考えを持つようにさせることができれば、国旗国歌が国民を包み込んでいるように見えるからだ。

そこで、公共を考える人は、国旗や国歌を全員に強制しようと考える。しかし、国旗も国歌も、必ずしも全員に受け入れられるとは限らないので、国旗国歌の強制は、結局、国民の一部を排除することにつながる。

国旗国歌を強制したい人、それを支持している人は、こう言う。「卒業式や入学式など、限られた機会だけじゃないか、それさえ国旗や国歌の決まり事を守れないのは、社会のルールが守れない人間だ」。こうして、国旗や国歌に疑問を持つ人は、排除されるか、あるいは排除された気持ちになる。

ところで、元に戻れば、公共とか公というのは、全員を包み込む機能ではなかったのか。誰か排除されるような決まり事を作ることを、公共と呼ぶのは、順番が間違っている。誰も排除されない、せめて、多少居心地が悪くても、誰もがその場にいてもいいような、差し支えないようなやり方をすることが、公共というものだろう。

米国のように、民主主義などの考えに共鳴した移民が集まってつくった、と言いうるような人工的な国はべつにして、日本のような自然発生的な国は、そこに住み、そこで生まれた人間すべてを国民と見なして、その全員を包み込んでいくしかない。その包摂性こそ、公共の最も基本的な概念になるべきだろう。

国旗国歌を強制しようという人たちは、強制されてもかまわないと自覚している人だけで構成される国をつくることで、全員が国旗国歌に包まれていることを実現しようとする。しかし、公共の概念から考えれば、ひとりでも国旗国歌の強制を認めたくないなら、そういう考え方自体、あるいは考えを持った人の存在もまた、認めなければならない。この順番が重要だ。

教育の場で国旗国歌を強制しようと優先的に考える人が多いのは、子供たちはまだ国旗国歌についての判断材料をもっておらず、容易に受け入れやすいと考えるからだ。いったん学校で受け入れる姿勢をつくれれば、その後、成人になっても、そのまま(無批判に)受け入れるようになる可能性が高い。

多様な考えを持った国民を包み込む公共をつくるより、限定的な考えを共有する国民を育てて、結果、公共が共有される状態をつくる方が、手っ取り早く、確実だと考えているのだ。

ちなみに、企業であれば、特定の考えやコンセプトを社員に対して強制することは、極端出ない限り、許される。企業はいずれにせよ、全国民を雇用することはできず、国民のがわからすれば、その企業に所属するのが意に沿わなければ、他の企業に行くことができる。企業は社会の中のサブシステムだから、それでいいのだ。

学校、特に公教育は、サブシステムではない。社会の構成員になっていく子供たちが、原則的に全員、通過するからこそ、公教育と呼ばれる。だからこそ、公教育の場で選択権なしに強要することが問題になるのだ。

と言うことで、全員に、意図的に強制し、拒否できないようなことをしようとするのは、公共とはいえない。

※ちなみに日本国憲法では、国民の義務は納税と勤労、教育(を受けさせる義務であって、受ける義務ではない)だけだ。国旗・国歌に忠誠を誓う義務は記されていない。

■NPOの仕事がレベルアップすると、政治が必要になる

国旗や国歌を国が決めて、その理解を深めることを学校などでやってはいけないというつもりはない。しかしそれによって誰かが排除されることがないように細心の注意を払わなければならないだろう。

国旗国歌を強く支持する人も、支持したくない人も、同じように学校で学べるようにするにはどのようにしたらいいのか。利害の対立を調整することが必要になる。この調整機能が政治だ。

NPOは民間団体ではあるけれど、公共の機能を自ら進んで果たそうとする団体だ。政治や行政が果たせない機能、こぼれ落ちてしまう事柄を解消しようとする行動こそ、公共の仕事そのものだ。

だとすると、NPOには政治のもつ、利害調整機能が必ずついて回ることが分かる。「森を育てたい(森なんか無くたって別にいいんじゃない?)」「コストをみんなで負担すべきだ(なんで自分が負担しなくちゃいけないの?)」「みんな森を大切にしよう(自分は関わりたくない)」。故郷の仕事をしようとすると、どうしても、反対や中立の意見が出てくる。どんなにいいことをしていても、どんなに必要性があっても、反対の存在は否定できない。

公共の仕事と担うということは、こういった反対の立場の人との利害調整機能を自ら進んで果たすことを意味する。

ところが、多くのNPOはこの利害調整機能を政治家や役所に任せきりにしてしまおうとする。「大切な仕事なんだから、税金を出してください」というのは、上記の2番目の議論「コストをみんなで負担すべきだ(なんで自分が負担しなくちゃいけないの?)」に対して、利害調整の努力を放棄して、税金という形でみんなの負担を強要することを当然と考えていることを意味する。

「公共の仕事=利害調整=立場の異なる人とのコミュニケートと合意形成」なのだ。

政治(議会)や役所は、このような利害調整機能を果たしている。NPOが政治や役所ができない公共の仕事を担うということは、単に仕事をするだけでなく、仕事をするにあたっての利害調整機能もまた、担わなければならない。

では、どのようにやるか。

この利害調整機能についてのノウハウが、圧倒的に不足しているのが、日本のNPOだ。あるいは、現場の仕事をやる能力は十分付いてきたので、利害調整機能の不足が、重要な課題としてクローズアップされている、と言ってもよい。

■政治と役所のしくみを理解し、動かす力をつける

ではどのように、利害調整機能をつければよいか。

まずやらなければならないのは、役所のしくみとメカニズムを理解することだ。これまで利害調整機能を担ってきたやり方を学び、どこまでが役所のしくみでできて、どこができないのか、なぜできないのかを理解すれば、どのようにすれば調整機能が果たせるのかが理解できる。

たとえば、集会所やセンターなどの運営にNPOが関わっているとする。

今回の3.11地震のときに、会合を行っていた市民が、帰宅できなくなり、一晩泊まることになった。集会所には食糧や水の備蓄がなく、周辺のコンビニに買い出しに行ったりしたものの、十分な量にはならなかった。

この反省をもとに、運営NPOは役所に「1日分でいいので、食糧と水を備蓄してほしい(予算の確保)」と頼みに言ったが、結局実現しなかった。必要性は理解してくれたものの、現実には難しいと断れてしまった。必要性がわかっているなら、なぜ食糧を用意しないのか。NPOスタッフは怒りを感じているものの、どうしようもなかった。

このような場合、役所の構造と、行動パターンを理解してアクションをとることが必要になる。

まず、役所の出先機関の中で、食糧の備蓄がある場所を聞いてみる。知っているのはどのセクションかを聞くとよい。

出張所や防災センターには備蓄があるはずだ。

次に、なぜそこには備蓄があるのか。どのような理由で備蓄するかどうかが決まっているのか、確認する。その理由と照らしたときに、集会所に備蓄が無い理由に合理性があるかどうかを確認する。備蓄の量や内容が変更させるタイミングを確認する。

これを押さえておけば、次の変更の機会に、集会所にも食糧や水を備蓄する予算がとれるよう、働きかける場所と方法がわかる。うまくいかないようなら、議員を通じて働きかければ、かなり効果が上がる。

実は、最初の部署で食糧備蓄を断られたのは、備蓄を担当する責任の部署ではなかったからだ。役所の職員は、自分の責任を超えた仕事をするのを嫌う。別の部署に放せば変えることができるかもしれないが、越境して仕事を頼めば、次のときに向こうから余分な仕事が降ってくる可能性がある。自分の仕事を増やさないためにも、人の仕事を増やさないことが行動パターンになっている。これを縦割り行政という。

そこで、相手に直接行動してもらうことはあきらめ、自分が行動する場合の、アクションの先を聞き出すことにする。「役所の出先機関の備蓄を管理しているのはどの部署なんですか?」

ここから上記の話につなげれば、食糧備蓄の責任機関なので、無視しにくくなり、予算取りの目的が果たせる可能性がある。また地域選出の議員に話して、役所に働きかけてもらうと、動きが速くなる。しかし、役所に直接議員が働きかけることを嫌うマインドも強いので、信頼関係を失う可能性がある。つまり、役所の行動原理を知っておくことで、最もよい働きかけができ、ねらいの実現されるのだ。

■役所を動かす知識を共有する

実は、このような役所の原理は、一部のNPOはすでに知っていて、行動している。しかし、それがそのNPOの中だけに留まっていて、別のNPOには知見やノウハウが共有されない。そのことによって、力が発揮できないNPOが多いのだ。

そこで、NPOを結ぶ連合団体をつくり、このような役所や政治についての事実関係やメカニズムを共有すれば、NPO全体のパワーは大きくなる。

これが中間団体連合会構想で実現したい機能だ。

利害調整という行政や政治の機能を担うには、どうしても行政や政治のメカニズムを知る必要がある。個々のNPOが個別に知識を深めるより、横に共有すれば、動きが確実になる。

NPOは政治や行政の知識を深めることで、より協力に動くことができるようになる。これまで毛嫌いして関わらなかったところに、いかに食い込みつつ、しかし取り込まれないように、うまく政治や行政を動かせるかが、公共機能のパワーを決める。

役所や政治ができる利害調整を最大限発揮させつつ、そこからこぼれる部分をNPOが担うという役割分担が機能すれば、日本はこれまでよりずっと「大きな社会」を実現できる。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://w1.chieichiba.net/mt/mt-tb.cgi/334

コメントする