(by paco)今週も先週に引き続き、原発についてのFAQです。
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■原発推進はカネのためにやってきたのでしょうか。
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原発の推進の目的は何だったのか。推進論者の強硬な姿勢を見ると、よほどカネが儲かるのかと真意を疑いたくなりますが、半分あたっていて、半分違います。
当たっているというのは、原発を巡って多額な金が動いているという事実で、確かにカネは原発推進の大きな魅力になっているでしょう。しかし、特定の誰かが公金をたっぷり横領しているとか、そういうことではないし、原発だけが特別に汚職が多いというわけではないと思います。
しかしカネは無関係で、すべては日本のエネルギーのため、みながそれだけのために一生懸命やったのだというほど、好意的に理解することはできません。原発を進めることは、やはり「おいしい」のです。
原発は、大型プロジェクトです。原発1基のお値段ですが、最新鋭の、北海道電力泊(とまり)発電所3号機(910MW=91万キロワット)は約3000億円。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/iinkai/teirei/siryo2003/siryo19/siryo1-2.pdf
しかし、これは設置に関わる値段で、運転にはこれに加えて燃料代と運転員の人件費、そして整備費がかかります。さらに仕様済み核燃料を保管、処理する費用。
ここまでのお金は、電力会社が裁量的に分配を決めることができます。原発の敷地を整備する土木工事、建屋はゼネコンの仕事。原発本隊や発電設備、送電設備などは電機メーカー。そしてメンテや運転に関わる多くの労働者。原発で多くの人が仕事とお金をシェアしています。
ここまでは電力会社が払うコストですが、国もたっぷりお金を投じています。「電源開発促進対策特別会計」という特別会計予算があり、この予算は「電源開発」ですが予算の大半が原発関係に使われています。その額、毎年2200億円という巨額です。
http://www.meti.go.jp/gather/downloadfiles/g50909a04j.pdf
この国の予算は、原発立地の自治体体にさまざまな名目で支払われます。原発立地の地域には立派ながスポーツ施設や学校の改修が優先的に行われ、ハコモノがつくられますが、全学国が出してくれるわけではなく、補助費がそれぞれ決まっています。お金が国から降ってきて、ハコモノをつくるゼネコンにお金が回り、そこで働く人の生活を支えてはいますが、そのお金は自分のビジネスで稼いだものではなく、原発のおこぼれに預かっているだけです。さらに補助金によってハコモノを建てても、全額ではなく一部は自治体の負担なので、その負担分は長期にわたって、自治体の予算を締め付けていきます。もともと過疎地など財政基盤の弱いところが、これらのカネ目当てに原発を誘致しているので、一部の負担でも重くのしかかってくるのです。
このように見てくると原発をつくることによって実に多様な人々が「恩恵」に預かっていることになります。しかしそれ以上に重要なのは、その恩恵が上から下りてくる恩恵だということ。国や電力会社は、金の支払い元として誰に金を回すかの自由裁量権を持っていて、これを利権と呼びます。カネの使い先を自由に決められうといのは権力そのもので、いったん権力を握ってしまえば、その魅力のあまり、絶対手放したくなくなる。
別の側面。一度握った人がその権力を勝手に手放せば、その人から恩恵にあずかっていた人は強制的に手放すことになりますから、恩恵にあずかっている人は、権力を持っている人に「その権力を手放してはいけません、握り続けて、今まで通り、私たちに恩恵をください」と強く願うようになります。
利権は、利権を持っている人の願いだけではなく、利権の恩恵にあずかる人の願いにもなり、複合的に存続することになるので、自発的に小さくなることはありません。
時代が変わり、原発が時代に合わなくなっても、他によい選択肢が出てきても、課題が大きくなっても、自らそれに合わせて変ることができなくなり、ますます強く利権を守る行動に出ます。原発は安い、原発は安全、原発は未来的、原発は環境によい、などあらゆるロジックを総動員して守る。守るためにも予算を付ける。原発の宣伝のためにたくさんの新しい仕事と雇用が生まれ、やめられなくなる。これが今の日本の、経産省、資源エネルギー庁、電力会社、電機メーカーなど、原子力村、電力村ををつなぐ構造です。
原発推進は、カネのためにやっているといえなくはありませんが、カネを自らの中で回す権利(利権)を維持するためにやっているということもできます。そのどちらでもあるのです。
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■核燃料サイクルとはなんですか。
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原発は、それ単体では、あまり魅力的に見えません。原発の燃料ウランは、枯渇性の地下資源で、現在のところ、採可年数(使える年数)は60?100年程度(資料によって異なる)。石油が40年、石炭が150年、天然ガスが60年程度の数字が併記されます。
つまり、ウラン燃料による原子力発電は、他のエネルギー源と比べて資源面で見て、特段の魅力はないのです。
しかし、そこにマジックが登場しました。高速増殖炉です。
ウランを燃料とする原発(軽水炉)を運転すると、ウランがなくなり、微量のプルトニウムができます。これを化学処理して取り出し、ウランと混ぜて特別な燃料をつくって、高速更埴炉という×のタイプの原発に入れて燃やすと、あら不思議、運転するにつれて、燃料だったはずのプルトニウムが増えていく、つまり増殖するのです。
軽水炉(現在の原発)と、新しい高速増殖炉をセットで使うと、ウラン燃料投入し、プルトニウムを増やしながら使えるので、実際に使える使用期間はもっと何倍にも伸びる!!
60年だった採可年数は200年にも伸びるから、すごいんだ!、エネルギーを無限に使える、と説明されました。つまり、原発は、高速増殖炉とセットでこそ、夢の電源であって、原発(軽水炉)単体なら、それほどメリットがないのです。
※軽水炉は発電時にはCO2は出しません。しかし燃料をつくる過程、使用済み燃料を処理する過程で、エネルギーが必要になるため、トータルではCO2が多く発生します。使用済み燃料の処理方法が決まっていないため、正確な数値は出ませんが、処理方法によっては火力よりCO2が発生するといわれています。
ではこの夢のような高速増殖炉は、できたのでしょうか。
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■高速増殖炉とはなんですか。
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実は、できなかったのです。世界中で開発競争が行われたのですが、米国、英国、フランス、ドイツ、ソ連、ともに計画を放棄。欧州では共同で研究だけは続けてられていますが、実用化に向けたものは放棄されています。
日本だけは、あきらめきれずに開発を続けています。福井県にある高速増殖炉(実証炉)もんじゅ。1991年に完成し、試運転を始めたものの、事故ばかり。95年についに大事故を起こして試運転もストップ。しかししぶとく修理され、2010年(昨年)、運転再開したものの、炉内にクレーンの一部を落とすというとんでもない事故を起こし、運転を続けるのも止めるのもできなくなっています。この間、かかった予算は当初予算、5,900億円。事故を繰り返し、現在までに2兆4000億円かかっています。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%82%E3%82%93%E3%81%98%E3%82%85
さらに、この間の研究により、高速増殖炉を運転しても、燃料はほとんど増殖しないことが分かってきました。燃料が倍に増えるのに90年もかかるのです。
http://sky.geocities.jp/nuclear_faith/dream/3-2-1.html
http://www.gensuikin.org/gnskn_nws/0302_5.htm
金食い虫で、事故ばかり起こして危険で、しかも燃料もほとんど増えない。高速増殖炉は実質的に失敗していて、それに伴って原発が夢のエネルギーである理由もなくなりました。
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■核燃料の再処理とはなんですか。
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原発が「魅力的だ」という説明を支えているもうひとつの仕掛けが、「使用済み核燃料の再処理」です。
前述のように、原発は単体ではあまり魅力はなく、高速増殖炉とセットで魅力が出ます(と日本では長いこと宣伝されています)。
原発にはトイレがないと言われますが、使用済み核燃料は処理方法が決まっていないために、原発の建屋内にずっと保管されています。そのため、福島原発の事故でも使用済み核燃料プールが壊れて、大問題になっているわけです。
この「トイレがない」問題を解決するために、使用済み核燃料を処理して燃料を取り出す、ということを考えつきました。使用済み核燃料を強酸で溶かして、処理すると、プルトニウムとウランに分けることができます。プルトニウムを使って高速増殖炉用の燃料をつくることと、再処理といい、このための工場が青森県六ヶ所村に作られまた。日本原燃株式会社の六ヶ所村再処理工場です。
この工場が、もんじゅと同じくらい「意味が分からない」施設です。そもそももんじゅが実用化されていないのに、使用済み核燃料の再処理を行ってプルトニウムを取り出そうとしています。しかしプルトニウムはすでにフランスの再処理工場に依頼して戻ってきていて、たっぷりあります。使う先もないのに、急いで再処理する必要はないのです。
もんじゅ同様、完成後、工場の試運転をやってみたのですが、事故続きで稼働できません。ついに去年、稼働は2年後と宣言して、大規模な補修に入りましたが、おそらく稼働できないでしょう。というのも、世界にある再処理工場のあちこちで事故が起き、今動いているのは、フランスのラ・アーグ工場のみ。イギリス、ロシア、米国など、多くの場所でひどい事故を起こし、稼働していないのです。
この六ヶ所村再処理工場は、2兆1900億円かかった上に、稼働さえしていません。
再処理工場と高速増殖炉が稼働しないことには、使用済み核燃料は行き場がなくなり、ゴミの処理もできません。行き先が決まらない核のゴミ問題と、僕たちはこれから数千年付き合わなければなりません。
ちなみに、世界の原発使用国で、核のゴミの処理方法を確立した国はありません。原発をたくさんもっているフランス、原発発祥の米国でも、核のゴミは行き場が決まっていないのです。
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福島事故を機会に原発問題に関心を持つ人が増えたのは、とてもよいことです。しかし、ことが複雑でなかなか理解できない、という感じかと思います。
今後ともなるべくわかりやすく解説していきます。
かなり控えめに見ても、めちゃくちゃな進め方だということがわかるかと思います。
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