(by paco)先週に引き続き、原発問題とエネルギーインフラの方向性についてFAQをお届けします。
★政策と政治的意思決定について
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■原子力はなぜ使われはじめたのでしょうか?
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1945年、第二次世界大戦末期に、米国は原子力爆弾の開発に成功して、最後の敵国である日本の攻撃に使いました。広島と長崎にはそれぞれ、ウラン型、プルトニウム型の原爆がおとされましたが、このふたつが違う方だったことからも分かるとおり、米国の原爆投下のねらいは、開発した原爆の威力を確認することに合ったと言われています。
原爆投下によって日本は降伏し、第二次大戦は終わりました。今後、大きな戦争が近い将来起こる可能性はなくなり、原子爆弾開発に関わってきた科学者や技術者は行き場をなくします。そこで、今度は兵器としての原子力ではなく、他の用途を考え、それが原子力を使った発電システムでした。
原子力の平和利用という名の下に、米国は「米国には向かわなくなった」日本に原発をプレゼントします。当時の米国は世界の王者としてたいへんに気前がよく、また東西冷戦を引き起こしつつ、「仲間」になった日本には原発や石油、自動車やエレクトロニクスなどの技術を分け与えて、懐柔しました。
1950年代に原発をつくってみてはという話が日本に届き、1960年代からは本格的に日本で原発をつくる体制が、東芝、日立などの電機メーカーを中心に整いはじめ、日本原子力研究所が1963年に茨城県東海村で1動力試験炉で発電に成功。1970年には美浜発電所1号機、1971年に福島第一発電所1号が稼働して、それ以後、次々と原発がつくられて、現在、事故を起こした原発を含めて55基、世界では435基(2008年)があります。
日本は被爆国であり、原子力への恐怖感はありましたが、その一方で1960年代から高度成長期に入り、エネルギー需要が急速に伸びて、電力不足が起こりました。その一方で、1973年のオイルショックが起こって、石油資源を持たない日本にとっては、石油以外のエネルギー資源を持つことは重要だったために、エネルギーの安全保障の観点からも推進が期待されました。
被爆国としての恐怖感と、エネルギーへの気球という矛盾をやり過ごすために、政府が中心になって「原発は安全」キャンペーンが張られ、原発の危険性に口を挟むことが難しくなっていきます。原発をやめるなら、経済発展をやめるんだな、というおどしがリアリティを持っていた時代でした。
その一方で、石油や石炭の利用による大気汚染が深刻になり、環境規制が厳しくなって、石油より汚染が出やすい石炭の仕様が押さえられました。これによって、供給が不安定な石油には頼れない、汚染源になる石炭は使えない、しかし経済のためにエネルギーは必要、という状況になり、原子力利用が肯定されたのです。
技術的にも、当初考えられていた以上に原発技術は安定的であり、「大事故」*も経験しなかったことから、利用が進みました。
ある時期までは、原子力は日本の社会と経済に可能性と「夢」*を与えてきました。しかし、問題もじょじょに明らかになっていきます。
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■原子力を推進してきた人は誰なのでしょうか。
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原発を推進してきた中心的な関係者は
(1)米国の原子力産業と米国政府
(2)日本の経産省エネルギー担当部局、資源エネルギー庁
(3)電力会社。特に東京電力と関西電力
(4)電機メーカー(発電など大規模電気利用機器をつくる製造業)
(5)ゼネコン(原発の建物を作る)
(6)(3)?(5)の下請け企業群と従業員(非正規雇用も含む)
(7)原発や電力のPRを行ってきたテレビ局などメディア企業
が中心であり、これらの関係者と家族を含めると、数百万人が、原子力を推進してきた側で職を得て、生活してきました。ちなみに、電力会社の労働組合である電力総連(全国電力関連産業労働組合総連合会)参加の労働者だけでも21万人です。
原発推進と、広く電力会社の従業員や電機メーカーの従業員では立場が違い、みなが原発推進ではないと考えるかもしれません。ましてテレビ局は無関係と思うかもしれませんが、関係が深いのです。大震災後、AC(公共広告機構)の広告ばかりになる中、東京電力の節電を促す広告が流れ続けたのは好例でしょう。電力会社は広告業界とメディア企業にとって、無視できないビッグスポンサーなのです。
では、これらの人々は、なぜまぜこぜで「原発推進は」と呼ばれしまうのでしょうか。
日本の電力供給を担うのは全国10の電力会社で、法律によって強い規制を受けていて、「地域独占」と「供給義務」があります。
地域独占とは、それぞれの電力会社がテリトリを持ち、電力供給事業は独占的に担い、競合企業は存在できないことが法律によって決まっています。この独占の規制は非常に厳しく、全国に10の電力会社以外の電力会社はなく、事業を行うこともできません。この場合の「事業」は、必ずしも利益雅出るかどうかも関係ありません。
電力供給そのものが、10の電力会社意外にはできず、やると罰せられるのです。
たとえば、Aさんが自宅の屋根に太陽光パネルと小さな風車を設置しました。ここでできた電気を、敷地をまたいで隣に送ることも認められないのです。特に間に公道があれば、それが歩くことしかできない狭い道であっても、道を越えて電力を送って使うことができません。お金のやりとりがなくてもです。
この「地域独占」の法律によって、電力会社は守られ、競合がない安定企業になっています。ちなみに都市ガスの場合は、エリア競合は起きないように棲み分けられていますが、エリアが狭く、特にエリア周辺部(郊外、農村部)ではプロパンガス事業者と競合するため、ずっと競争的な市場です。
もうひとつの特徴である、供給義務。これは独占と引き替えに、そのエリアを担当する電力会社は求めがあれば必ず、必要なだけの電力を供給しなければならないと決まっています。どんなに山の中であっても、離島であっても。電力需要が多くなっても、供給できるように発電設備を用意する義務があります。今回の事故のような緊急事態のときはエクスキューズができるものの、それ以外の平常時では、地域内のユーザーから求めがあれば、電力を供給しなければならないのです。
このふたつのしくみが日本の戦後の発展を支えてきました。
しかし、すでにすみずみまでインフラ整備が終わり、経済発展もほぼ止まって成熟期になっている現代の日本で、この地域独占と供給義務のセットが合理的なのかどうか。電話や鉄道を考えれば、地域がひとつの鉄道会社しかないという状況がすでに終わっているわけで、電力の自由化が進んでいないことが、原発の事故のひとつの背景にあることは示唆されます。
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■電力供給の充実と原発はイコールではないのでは?
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高度経済成長や生活水準の向上に伴って、1960年代から電力需要が伸びていきました。一時的な現象を除けば、一貫して電力需要は伸びるグラフを描いています。
では、日本がこれまで取ってきた、電力需要の伸びを原発でまかなうという方法が合理的だったのでしょうか。
実際に、原発は増え続け、90年代後半には日本の電力の34%が原発でつくられていました。しかしその後減り、2008年には26%に減っています。2007年に起きた中越地震によって柏崎刈羽原発が事故を起こし、停止した影響です。
http://www.enecho.meti.go.jp/topics/energy-in-japan/energy2010html/japan/index.htm#04
現在でも原発依存度は4分の1程度であり、主力はガス、石油、石炭を燃料とする火力発電です。原発の代わりに火力発電を増やせば、原発がなければ電力がまかなえないわけではありません。
しかし火力発電にはCO2発生による地球温暖化問題への影響があり、増やせないという事情があります。確かに原子力は、発電時にはCO2をほとんど排出しないため、温暖化対策上は有利です。
とはいえ、原発にはCO2発生量が不明瞭という課題を抱えています。先ず、燃料であるウラン鉱石を掘り出し、分離して濃度あげ、燃料棒をつくるまでに発生するCO2。これについては、実はあまり正確な数字が出ていません。電力業界と原子力業界派独占的であることもあり、情報公開が不十分なのです。
さらに、原発での燃え残りである使用済み核燃料の保管と無害化でもエネルギーが必要であり、さらに寿命が来た原発の廃炉に関わる、特に高濃度放射性廃棄物の処理や保管にもエネルギーが必要です。一例としては、使用済み核燃料は、数十年から数百年以上にわたって、冷却管理が必要ですが、冷却のためにファンやモーターを回し続けなければならないのです。そのために必要なエネルギーについては、実は、使用済み燃料の管理方法そのものが決まっていないために、正確な必要エネルギーが分かっていません。
さまざまな試算がありますが、これらの分を加えると、原発はCO2が少ない電源とはいえなくなっていて、電力会社もこれを認める形で、かつては「原発はCO2発生が少ない」と行っていたのに対して、今は「原発は発電時にCO2がでない」と言い換えられています。
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ということで、原発の話をもう少し続けたいと思います。
(あまりこの話ばかりだと飽きそうなので、適宜楽しげな話も混ぜたいと思っています)
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