(by paco)503原子力の夢は消えた(再掲)

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(by paco)原発後のコミュニティ【iwato】を立ち上げ、かなりバタバタしています。


★「原発以後」を構想するコミュニティ【iwato】
http://www.otosha.com/column-1/%E3%80%8Cgenpatsugo%E3%80%8Dwokousousurukomyuniti%E3%80%90iwato%E3%80%91nisankawo

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ひとまず、以前の原稿を再掲して読んでいただこうと思います。

2003年2月3日のコミトンです。

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今週は原子力の話です。最近、テーマの広がりというか、「飛び」がすごいですね、前回の094号は料理の話でした。

今回の原子力の話は、[com2]MLで始まりました。もともとは、衆議院議員・河野太郎のメルマガ「ごまめの歯ぎしり」1月22日号に、「自民党のエネルギー調査会長である亀井善之代議士が、最近出版した本の中で、国策としての原発推進は、もはややめるべきだと書いている(サイン入りで本を頂きました)。原発推進をしていた自民党の調査会の会長が、もうそういう時代ではないと主張する時代になった。あとは役人だけだよ、頭が切り替わらないのは」とあり、このメールを僕が[com2]MLに転送したのが始まり。いよいよ日本でも原子力の時代が終わるね、というところから始まりました。

その後、MLで元原子力関係のエンジニア、Yさんからいろいろな専門的な情報をいただき、「原子力は終わったのか?」というような話をしていたら、タイムリーなことに、1月27日になって、名古屋高裁金沢支部で、高速増殖炉「もんじゅ」の「無効」判決が出て、国が全面敗訴しました。この判決に対しては、国が上告しているので、確定はしなかったのですが、高裁で国の主要な政策についての「無効」判決が出た意味はとても重いものです。

というような話をしていたら、Toshiさんが「あまりに展開が早いし、専門的すぎて、どういう話かわからないよ」というので、全体を整理してみたいと思います。

その後、MLで元原子力関係のエンジニア、Yさんからいろいろな専門的な情報をいただき、「原子力は終わったのか?」というような話をしていたら、タイムリーなことに、1月27日になって、名古屋高裁金沢支部で、高速増殖炉「もんじゅ」の「無効」判決が出て、国が全面敗訴しました。この判決に対しては、国が上告しているので、確定はしなかったのですが、高裁で国の主要な政策についての「無効」判決が出た意味はとても重いものです。

というような話をしていたら、Toshiさんが「あまりに展開が早いし、専門的すぎて、どういう話かわからないよ」というので、全体を整理してみたいと思います。

もともと僕は原子力の専門家ではないし、専門家でも「正しい」情報を持っているとは言えないような状況になってきているので、これから書く内容にもあやしいこととか、不適切な表現などが出てくるかもしれません。気がついたところがあれば、ぜひ指摘してください。

ただ、大きな構造のとらえ方には間違いがないように書くつもりなので、そこがわかってもらえるとよいと思います。

■日本の電源は3分の1が原子力


現在日本の電力は、その3分の1が原子力でつくられています。この数字だけを見ると、原子力に頼っている生活の中で「原発の時代が終わった」と聞くと、生活に大きな不都合が出てきそうな気がするかもしれません。大停電がおこるといったことを言うひともいるのですが、そういう話ではありません。

たしかに消費された電力をつくった発電設備の比率は、3分の1が原子力ですが、日本の事業用の発電設備全体から見ると、原子力は20%を切っています。つまり、キャパシティとしては2割しか占めていない原発をフル稼働し、ほかの発電を止めて、「3分の1を原子力でまかなっているというデータにしている」わけです。

さらに、日本にある発電設備の総量をフル稼働させると、年間の総使用量の2.5倍以上電力をつくるだけの能力があり、原発をいっさい使わなくても電力が不足することはまったくないということがわかります(資源エネルギー庁の最新データから)。


つまり、3分の1が原子力というのは事実ですが、それは「原発を動かしてなんとか確保している電気」なのではなく、「原発以外の電源で十分やっていけるけれど、原発を最優先してほかは止めておき、3分の1の実績を確保している」というデータなのです。

ここで先にいっておくと、電力としては足りていても、原発以外の主要な電源である火力発電では、化石燃料を燃やすのでCO2が発生して環境によくないから、CO2発生の少ない原発を優先しているのでは?という指摘があるわけですが、実はこれもあやしいことがわかっています。「あやしい」原因は主にふたつ。第一に、原発自体はたしかにCO2をあまり発生しないわけですが、原発の燃料をつくる、また燃え残りの放射性廃棄物を処理するといったところで多くのCO2が発生するので、見た目ほどCO2の発生は少なくないということがあります。もうひとつは、原発でつくった電力の使われ方で、「揚水発電所」や「深夜電力」に多く使われているのですが、これらは無駄が多く、総合するとCO2の発生は決して少ないとは言えないことがわかってきています。この点については、機会を改めて説明したいと思います。

■原発の「夢」


では、原発のそもそものメリットは何だったのでしょうか?

日本で原発がつくられるようになったのは、1970年代。このころは石油への依存度が高く、中東の政治情勢によって、石油危機が起きたこともあって、中東の石油に頼らないエネルギー源が求められていました。原発で使われるウランは、米国で採掘できたため、安定供給が可能と思われたのです。つまりエネルギー供給地の多様化によって、安定を図ることが目的のひとつでした。

供給の安定を目的にウランの利用を考えたわけですが、ウランは石油と同じ地下資源で、その採掘可能年数も当時で数10年程度とされており、決して「長期的に頼れる燃料」ではありませんでした。だとしたら、原発をつくってもあまりメリットがないように思えるのですが、原発には「夢」があったのです。

ふつうの原発(軽水炉と呼びます)でウランを燃やしてエネルギーを取ると、プルトニウムという物質ができます。このプルトニウムを取り出し、再処理して、高速増殖炉という別の原子炉に入れると、このプルトニウムが再度燃えるのです。実は、通常の原発でもプルトニウムは燃えるのですが、おおざっぱな説明として理解してください。この高速増殖炉では、核反応によって入れたプルトニウム以上に多くのプルトニウムが生まれると考えられていました。当初の計算によると、一度入れた燃料が炉内で増殖し、100倍にも増えるとされたのです(現在の見積りでは1.3倍程度)。ウランの採掘年数が30年でも、それを原発で燃やしてプルトニウムをつくり、それを高速増殖炉に入れてさらに燃やすと、燃料が増えて結局3000年も使える、という計算です。

これが可能になれば、もう日本はエネルギー源の心配をしなくてすむ。これが「原子力の夢」でした。

さらに、原子力利用には、もうひとつ、「核融合」という分野があります。軽水炉、高速増殖炉は、核分裂によってエネルギーを取り出すのですが、核融合は文字通り、ふたつの原子をひとつにすることでエネルギーを取り出すというもので、この反応は太陽など、恒星で起こっているものです。核融合は文字通り「人類が太陽を手に入れる」ことになる技術でした。ちなみに、核融合の「燃料」になるのは水素で、原理的には海(水)に存在しているものです(取り出すのは大変ですが)。核融合では資源枯渇の心配もないと考えられていました。

核分裂と核融合はまったく別のサイエンスであり、技術なのですが、どちらも原子力エネルギーであり、軽水炉→高速増殖炉のあとに、核融合炉が生まれ、日本と世界は、永遠にエネルギー不足から解放される、というのが、1960?70年代に世界が見た「原子力の夢」だったのです。

■20世紀後半は、「科学」という宗教を信じた世紀

ここまでの説明を整理しておきます。

原子力は、もともとは石油(というか中東)に頼らないエネルギー源を手に入れるために利用が始まりました(ほかにも、もちろんいろいろな理由がありそうです)。しかし、ウラン資源はもともとそれほど量がなく、数十年程度しか資源の寿命がないことは、早くからわかっていました。しかし、ウランを燃やす原子炉(軽水炉)を動かすと、プルトニウムができる。これを取り出して、高速増殖炉に入れると、消費する以上にプルトニウムを生み出すことができるので、無限とも言えるエネルギー源を手に入れることができる、というのがシナリオだったのです。またこういう「核分裂」を扱う技術に成熟すれば、「核融合」というさらに高度で無限のエネルギー源も手にはいる、と考えたのでした。

時は1960?70年代。アポロが月に行き、農業では農薬と化学肥料による単作栽培「緑の革命」によって生産高が飛躍的に向上し、人間は科学技術によって思いつく夢はいくらでも叶えることができると思い始めていました。多くのSF小説やSF映画、アニメーションがつくられ、21世紀には人間は宇宙に植民地を広げ、自動車は空を飛ぶと思っていた時代です。

しかしこのような夢というか、確信は、「科学技術」が見せてくれた単なる「夢」であったことが、その後、次第にわかってきました。20世紀後半は、科学という夢を信じ、浮かされていたという点で、「科学という宗教」が世界を支配した時代だったということができます。

では後半では、原子力の夢がどのように崩壊していったかを見てみます。

■高速増殖炉の失敗

原子力で無限のエネルギーをつかむためにどうしても必要だったのが、高速増殖炉です。この高速増殖炉が、実は決定的に失敗してしまいました。

この先は少し専門的になるので、気をつけて読んでください。まず、ふつうの原子炉では、ウランを燃料にします。ウランには235と238のふたつがあり、235が燃料として使う物質です。しかし自然界で掘り出されたウランには、235は0.7%しか含まれていないので、これを2?4%に濃縮して、この濃縮されたウランを燃料にします。

軽水炉では、ウラン燃料のなかでウラン235が分裂し、熱を出すと同時に、中性子を出します。この中性子が、「燃えないウラン」の238に吸収され、プルトニウムに変わるというのが、原発で起こっている反応の原理です。

このとき、中性子が加速しすぎないように、核反応を水の中で行います。これに対して、高速増殖炉では、中性子を減速せず、高速で反応させる必要があるため、水ではなく金属のナトリウムを使います。ナトリウムは、一番普通には塩素を結びついて塩化ナトリウムになっていて、これは食塩です。しかしナトリウムだけを単体で取り出すと、独特の性質を示します。金属ナトリウムは常温ではすでに融点に近く、ナイフで切れるぐらいの柔らかさです。空気に触れるとたちまち酸化し、水が触れると反応して爆発状態になります。

高速増殖炉では金属ナトリウムを水の代わりに使うのですが、核反応で炉内の温度が上がってくると、とけて、配管内を流れ始めます。運転中のナトリウムの温度は500℃です。この、金属ナトリウムを使うというのが、高速増殖炉の大きな問題です。

次に、核反応そのものを見てみます。軽水炉(ふつうの原発)では、燃えるウランである235は2?4%程度で、しかも反応を進める中性子は周囲の水で減速されているので、反応はゆっくり進みます。この、反応がゆっくり進の点が、原発の安全性のひとつの理由です。これに対して高速増殖炉では、水の代わりに金属ナトリウムが周囲にあり、また燃えやすいプルトニウムが高濃度で存在しています。そのため、プルトニウムが燃えて中性子を出し、その中性子がウランにあたってさらに中性子を出し、という核分裂反応が一気におこります。軽水炉では原理的に「ゆっくり」反応させればよいのですが、高速増殖炉では「反応をどんどん進め」なければ意味がないため、それだけ制御が難しくなるのです。

実際、フランスで開発してきた高速増殖炉「フェニックス」では核反応の暴走事故がたびたび起きて、原因も対策もつかめていません。高速増殖炉は、ふつうの原発と比べて、圧倒的に「コントロールしにくい」原子炉なのです。

さらに、話は戻ってナトリウムの問題があります。ナトリウムは、本来は炉内の配管をぐるぐる回っていて外には出てこないのですが、万が一配管が壊れて外に出れば、大事故につながります。空気中では酸素と反応して大火災を起こし、水に触れると爆発します。そのナトリウムの入った配管が、原子炉から出てきて、水の通った配管と接触し、ナトリウムの熱を見ずに伝えると、水が沸騰して、この水蒸気でタービンを回して発電するのが、高速増殖炉の発電の原理です。

このしくみで重要なことは、高温の金属ナトリウムが入った配管が、金属管を挟んで水と隣り合わせになっているという点で、もしこの配管が破損してナトリウムと水が接触すれば、巨大な事故になります。これ自体はナトリウムの爆発事故ですが、その事故の影響で原子炉が破壊される危険や、ナトリウムによって熱を外に出していた原子炉が、熱の行き場をなくして暴走する危険などが考えられます。

▼高速増殖炉についてはこちらなどを参考に
http://www.fepc-atomic.jp/basic_study/cycle/cycle_06.html
http://www.geocities.jp/tobosaku/kouza/fbr1.html


まとめると、高速増殖炉のリスクはふたつです。金属ナトリウムという熱を伝えるための媒体の取扱が難しすぎるという点。実際、日本の高速増殖炉「もんじゅ」(福井県敦賀市)では、ナトリウムの配管の設計にミスがあり、配管が破損してナトリウムが空気中に漏れ、火災を起こしました。もうひとつのリスクが核反応そのものが高速で不安定であり、暴走しやすいこと。コントロールが難しく、技術も確立されていません。


高速増殖炉は、日本だけでなく、米国、欧州ともに開発を進めてきましたが、すでに欧州も米国も、高速増殖炉の開発を中止しており、日本だけがまだ「あきらめていない」状態です。しかしその日本も、もんじゅのナトリウム火災事故以来、実質的に開発が止まっているし、最初に書いたとおり、高等裁判所でももんじゅの設置認可を無効にするという判決が出ているので、実質的には、開発を進めることは不可能になったと考えるべきでしょう。

■夢の崩壊

けっこう専門的なので、理解が難しいと思いますが、もう少しがんばってください。

元に戻りますが、原発を使う意味は、高速増殖炉と組み合わせることで、永遠とも言えるエネルギーを手に入れることができる点にありました。しかしその高速増殖炉の開発がすでに終わっていて、今の技術では開発不可能ということがわかったということですから、原発(軽水炉)が単体で残ってしまった形になります。

高速増殖炉を前提としない原発(軽水炉)は、では有用なのでしょうか?

燃料資源の面で言うと、特に魅力的ではありません。CO2排出は少ないと言われていますが、実は、ウランの採掘や濃縮の段階で使われるエネルギーの詳細が発表されていないため、本当にCO2排出が少ないのか疑われています。

こうなると、原発自体の存在意義があやしいのですが、さらに追い打ちをかける事実があります。

まず、放射性廃棄物の問題。原発で燃え残った燃料棒には、プルトニウムをはじめとする放射性の廃棄物がたっぷりつまっています。プルトニウムは、わずか数グラムで数万人の致死量にあたるというとんでもなく毒性が強い物質で、自然界には存在していない物質です。毒性(放射能)は、時間とともにじょじょに落ちていきますが、その毒性が半分になるまでの期間(半減期)が、2万4000年にも及びます。すでにプルトニウムが日本だけでも10トン単位で存在していますが、これを今後数万年にわたって管理していかなければならないのです。しかもプルトニウムは今も動いている原発から、つぎつぎと排出され、増え続けています。

「夢」では、これを高速増殖炉で燃やす予定だったのですが、これが開発不可能となったことで、プルトニウムは、夢の燃料から単なる重たいお荷物になってしまいました。それに伴って、原発は、いいことがない上にお荷物を生み出す、有用性のほとんどない設備になってしまったのです(発電設備そのものは日本では十分足りていることを思い出してください)。

核エネルギーを使いこなすことを描いた「原子力の夢」は、ここへ来て完全に崩壊してしまったのです。

これが、欧州も米国も実質的に原発廃止に向かっている理由です。日本政府だけがこの事実を隠し通して、真剣にこれからなにをすべきかを考えていません。

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今回は「核エネルギーの夢」とその崩壊を追いかけてきました。原発の危険や無意味さはほかにもいろいろあるのですが、ここでは大きな構造をつかむだけに留めておきます。

原子力の夢=軽水炉+高速増殖炉=無限のエネルギー
ここから高速増殖炉がなくなると何が残るのか。(とっても恐ろしい)本当のことがわかってくるのは、これからです。プルトニウムという十字架を背負って、21世紀は始まりました。

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