(by paco)金曜日、東北から関東にかけて、大地震に襲われて、福島第一原発、第二原発が破壊された。「ついに来るものが来た」と思ったものの、これまでも日本の原発はきわどいところを切り抜けており(その点、確かに「安全」ではあるのだが……)、今回もそれほどの大事には至らないだろうと思っていた。しかし、今回は本当に危ない状況が続いている。
いつもなら、状況がはっきりしていない間は、冷静に、情報提供に留める、というスタンスでいるのだが、今回は一歩進めて、反原発の旗色を明確にし、問題が進行中の段階から、責任問題を表に出して発言している(特にtwitter上)。
その理由は、<おとなの社会科>をやってきて、一般市民の「物忘れの速さ」について、強い問題意識を感じたことが大きい。
9.11以来、現在進行形の事象を分析し、考え方を提示してきたが、たとえばイラク戦争の問題点を、振り返りやすいようにと、ある程度事態が進行して、数年たってから解説しようとしても、そもそも聞いている人が、そもそも戦争ってまだやってたんだっけ? なんで戦争を始めたんだっけ? 日本は関わってないんだよね、という感じで、何があったかもすぐに忘れてしまう。これは進行形の時に、何に注目するべきか、視点を持っていない、つまりニュートラルにメディアから流れてくる情報を受け流しているからだろうと考え、今回は、進行形で流れてくる情報に、かなり逐一コメントをすることにした。
こういうやり方をすると、批判も多く、ツイッタ上でもいくつか、「そんなことをするな」というような意見をもらっている。しかし今やっておくことが、問題の本質を理解する方法だろうと思っている。
まだ、実質2日間しかたっていないが、今の段階で注目してほしい点を記しておきたい。
◆原発の「安全神話」は跡形もなく崩壊した
まず、今回の福島第一原発1号機と3号機で起きていることは、政府と東京電力が言ってきた「原発の安全神話」が完全に崩壊したことを示している、と改めていっておきたい。
原発の安全神話とは、原発は二重三重の安全装置があるので、事故が起きても、その範囲内に留まり、危険な状況にはならない、ということにある。つまり、問題が起きても「まあ想定内ですよ」というわけだ。
しかし今回の事故は、完全に想定を越えている。
運転中の原発が、地震発生と同時に緊急停止装置が働き、いったん核反応(臨界)は止まった。ここまでは正常動作。その後、冷却水が高温の炉を冷やしてじょじょに停止状態に戻るはずだった。
しかし、冷却水が蒸発して失われて、その冷却が止まった。冷却水に浸かっているはずの燃料棒が水面上に、70センチから170センチ露出したと発表されている。燃料棒は全体で4メートル(400センチ)ほどあるので、ほぼ半分近くが露出して、その部分はまったく冷却がない状況になったということだ。
燃料棒は、直径1センチの金属の筒の中にウランのペレットがつまっているものだ。金属の筒の厚みは1ミリほど。非常に薄い。冷却水が失われて水面上に出ると、高温になり、金属の筒が破壊したり、融ける可能性がある。これが炉心溶融だ。炉心融けると、燃料が制御棒の制御の範囲から越えて、制御が効かなくなる。最悪の場合、いったん止まった臨界が、再び始まってしまう際臨界になることもある。こうなると、原子炉はまったく制御が効かなくなり、すべての燃料が核分裂し尽くすまで燃え続ける状態、いわゆる「チャイナシンドローム」になる。この言葉は、米国で同様の事故を想定した映画名としてつけられ、その映画公開後ほどなくして、スリーマイル島の事故が発生したことで、予言的な映画になった。米国から制御が効かなくなった炉心が、地面に穴を開けながら地下に潜り続け、米国にとっての地球の裏側、中国まで達する可能性がある、と言う意味だ。もちろん、そのような事故は史上起きたことがないので、あくまで、想像の範囲に過ぎない。
今回の福島原発の事故はもちろんそこまでには至っていないが、炉心の一部が溶融した可能性があり、冷却に失敗すれば、最悪、再臨界もありうる状態で、今も行方を見守っている状況だ。
原子炉を収めている格納容器内の冷却が失われたので、東京電力と政府はここに海水を満たして、冷却する選択をした。内側に圧力容器、その外側に格納容器。これらは金属製。二重の容器の外に、コンクリート製の建屋が作られている。1号機では水素爆発によって、建屋は吹っ飛んでしまったが、格納容器と、その内部の圧力容器はなんとか守られたようだ。
冷却がなぜ崩壊したのかは、おそらく現場の専門家もつかめていないだろうが、水の循環ポンプが止まって過熱状態になって破損したか、地震の震動そのものでどこかが破断したかのいずれかだろうと思われる。
いずれにしても冷却がなくなり、過熱によって炉が暴走しそうになったために、空だき状態になった格納容器内に海水を満たすという選択をした。
問題はこの点についての、政府の発表と、メディアの紹介だ。
「安全確保のために、念のための措置」などと説明していたが、これは明らかな間違い。すでに通常の防御方法はすべて破壊され、コントロール不能になった。つまり、二重三重の安全装置がすべて破壊されて、打つ手がなくなった、そこで、最後の手段として、安全策としても設計上も正式に取り入れられていない、海水注入、という方法をとるしかなくなった、というのが、本当なのだ。
繰り返すが、念のためではなく、もう打つ手がなく、考えられる最終手段として、海水を入れて、あとはなんとか冷却が進んでくれと運を天に任せている状態、なのだ。
とは言え、注水した格納容器は、本来水で満たすものではない。設計上は水の重さや圧力に耐えると言っているが、機械設計に関わるものの考えとしては、とても保証できない話だろう。しかも、この炉は40年間、設計耐用年数を超えて運転され、長年、中性子線でダメージを受け続けてきてもろくなっている。今回の地震で直接的、物理的なダメージを受けている可能性もある。ひとまず注水には絶えようだが、今後、この格納容器が破損して、注水した水が失われるようなことになれば、手のつけようがなくなるだろう。
↓こちらの図がよくわかる
http://plixi.com/p/83638679
今はほんの小康状態にあるに過ぎない。これが収束に向かいうる小康状態なのか、再び悪化をたどるかは、瀬戸際という他はない。
◆耐用年数が切れている1号機
今回事故の1号機は、1967年に竣工した、日本でもっとも古い原発のひとつ。すでに40年以上経過している。
設計時点では、どうやら耐用年数は発表されていないようだが、減価償却は16年、耐用年数は30年が想定されていた。それが、のちの伸ばされて、今は60年になっている。確かに普通の金属と困苦リートン構造物なら、メンテナンスをしっかりすれば持つだろう。しかし原発が置かれている環境は過酷だ。常に放射線にさらされ、高温にさらされている。金属疲労が起こりやすく、金属疲労が進むと、低温でもろくなりやすくなる。
今回の地震で、1号機が事故を起こしたのも、老朽化が原因だった可能性も十分ある。30年を超える原発を、速やかに廃炉にすべきというのは、反原発関係者がずっといってきたことだが、無視されてきた。起こるべくして起こった事故、といえる。
今回、海水をいきなり注入しているが、おそらく15度前後だろう海水を、200度を超えるだろう炉内に注入して、温度衝撃(ガラスのコップにお湯を入れるのと同じ)で破断、またはさらに強度が落ちる可能性もある。
今はなんとか持っているようだが、まさに綱渡りのような策をとっていることを理解してほしい。
◆プルトニウム燃料を使っている3号機も事故
1号機に続いて、3号機も冷却不能になり、同じく海水注入が行われている。実はこの3号機は、さらに危険な炉だ。燃料にMOX燃料が使われている。
MOX燃料は、通常のウランではなく、ウランにプルトニウムを混ぜた混合燃料だ。本来、この炉では使わない設計だ。プルトニウムを混合すると、炉の燃焼(核分裂反応)が不安定になりやすく、暴走の危険が高いと指摘されている。反原発派の猛反対をよそに、MOX燃料運転が開始されて、まだ半年もたたないところで、今回の事故。
この事実は3つのことを意味する。
ひとつは、核反応が暴走しやすいことが、海水注入までの事故敬意に影響がなかったか。
ふたつ目、これから海水注入後も、再臨界などの危険を誘発しやすくないか。
三つ目、海水注入がうまくいかずに(海水が抜けて炉内が過熱、爆発するなど)、内容物が外に放出された場合、ウラン以上のプルトニウムが放出される、ということ。
ツイッタ上では、「誰がそんなことを認めたんだ」とツイートが出ていたが、僕らがあちこちでMOX燃料反対を言っても、誰も聞く耳を持たなかったのだ。
1号機、3号機ともに、まだ瀬戸際だが、うまくいかなかった場合のリスクは、3号機のほうがはるかに高い、という点に注目しておこう。
ちなみに冷却に失敗してチェルノブイリと同程度の事故になった場合、チェルノブイリで放出された放射能の範囲との対比があるので見ておこう。
http://convini.ddo.jp/imguploader/src/up7882.jpg
◆原子力推進派の説明をよく見ておこう
これまで日本の主流は原子力推進で、どのように安全神話を説明してきたか、よく見ておこう。
彼らは、今回の事故に責任を負わなければならない。
あり得ないと言い続けてきた事故が起きたことについて、口をつぐんで、「これは想定内」「結果オーライ」ときっと言うはずだ。「想定外だったが、ちゃんと治めたので、すばらしい」とまでいうかもしれない。翼賛メディアもそれに準じるだろう。しかし、断固理解するべきなのは、決して想定内でもなければ、結果オーライではない。どんな状況になってもやむを得ないほどの危機的状況だということは覚えておこう。
◆収まってからどうするか?
今回の事態をぜひリアルタイムで見守ってほしい。そして、この危機が無事に収まったとしても、それで原発を使い続けていいのか、収束させるべきなのか、よく考えてほしい。僕はぜひ原発から脱却してほしいと願っているし、今回のことが世論を動かすとよいと考えている。しかし選択は日本人全員のものだ。それぞれがどうあるべきか、考えてほしい。
今すぐすべて廃止、が僕らの主張ではない。じょじょに廃炉していき、自然エネルギーを増やし、20年程度かけて原発に依存しない国にする。40年ほどかけて、自然エネルギー100%に持っていく。それは決して夢物語ではない。これほどのリスクを冒す勇気と集中力があるなら、必ずできると思うし、そのためにこそ、知恵と金を使うべきだ。
ネットでも情報がたくさん出ているので、ぜひこれを期に、自分の問題として考えることを期待している。
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