(by paco)498韓国からの宅配便から「グローバル人材」が見える

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(by paco)企業の人材育成担当者と話していると、どの企業からも共通して聞かれるのが、グロバリゼーション、グローバル対応人材とは何か、どうやって育成するか、ということだ。

ビジネスのグローバル化が加速している、というのは多くのビジネスパースンが感じていることだし、これからさらに進んでいくことは、たぶん間違いない。というところまでは合意する人が多いとしても、ではグローバルなビジネスに対応して人材とはなんなのか、それを定義するとなると、どの企業もなかなかできていない。

「グローバル人材の定義とはどのようなものか?」
「グローバル人材を育成するにはどうしたらいいか?」

この問いに対する答えを求められることが多くなってきて、僕自身も、特にここ数か月、いろいろ考えている。そんな中で、ひとつヒントになりそうな経験ができたので、そこから話をしてみたい。

●韓国から、デジカメが届いた

ヤフーオークションでカメラやレンズをおとして買う、売る、が僕の趣味のひとつなのはご存知の通り。先日、オリンパスのコンパクト一眼、PEN E-P2をオークションでおとして購入した。

オークションの説明では、

  • 新品
  • 保証1年付き
  • 国外仕様のカラリング(シルバーに黒グリップ。国内はシルバーにベージュグリップ)
  • レンズキット(標準レンズ付きのセット)からレンズを除いたカメラ本体のみの販売
  • 海外からの発送になります

という内容だった。日本仕様ではないものの、製品は新品に間違いないようだし、価格は国内仕様の量販店と比べて3?4割安ということで、落札。

翌日、電話がかかってきた。ちょっと聞き取りにくい感じで、聞き返すと、オークションで落としたこのカメラの配送先について、確認の電話だった。発信元は都内の番号だが、電話の話し方で韓国語ネイティブらしいことが感じられる。

到着日予定日によって、東京か六兼屋か、と思っていたので、確認すると、通常中1日、遅くとも中2日でとどくという。では、山梨にお願いしますと、住所を確認して、電話を切った。その後、「発送完了」メールが届き、EMS(国際宅配便)の伝票番号が付いていた。

L1010065.JPGL1010066.JPGL1010067.JPG到着は予定通り、中2日で、最寄りの日野春郵便局の配送員が届けてくれたその箱には、ローマ字で書かれた発送元があり、ハングル文字のテープでていねいに梱包してあった。あけてみると、ていねいに梱包材で囲まれたカメラの化粧箱があり、さらに空けてみると、もちろん本体は新品、付属品も揃っていて、違うのは、マニュアルが英語版とハングル版月期、日本語版が付いていないこと。電源を入れると、標準が英語になっていた。言語セットを日本語に変えれば、なんの問題もない。

これまでも海外から商品が届くこともあったけれど、今回は心に響くものがあった。

まず、オークションそのものはYahoo!ジャパンの普通のオークションだということ。海外発送という表記はあっても、説明上はまったく日本語の普通のページであり、出品者はストアで、住所は神田、責任者は日本人名だった。

しかし、実際の業務は、韓国出身の韓国人がやっているのは、上記の電話で明か。日本語がちゃんとできる担当者が神田にいて、顧客とのやりとりをした上で、韓国に発送依頼を出し、韓国にある在庫を国際スピード便で発送するという手順だろう。

円高還元対象消費という記載があり、為替メリットが出るために、韓国から発送しているようだ。

というあたりまで考えたところで、ではそもそも、なぜ韓国で仕入れて、日本に直送すると安くなるのか?という点だ。円高基調なので、輸入価格が安くなるのはわかる。しかしもともとはオリンパス製だ。もし日本でつくったものを韓国に輸出し、それをまた日本向けに売るなら、円高差損と差益が相殺され、安く売ることはできないだろう。あるいはオリンパスが円高基調でも 価格に還元できず、無理をして以前の為替相場に基づいた価格で売っているのだろうか? だとしたら、この価格はオリンパスとしては大損価格になるだろう。

そこで改めて製品の出所を見てみると、「Designed by Olympus in Tokyo made in China」とある。なるほど、中国生産品を韓国に輸出し、それを日本に持ってくれば、為替はまるまるメリットになる。原価はかなり安く、韓国と日本では購買力の差を考慮して、日本で高めの価格設定をしている、ということが推察できる。

しかも、レンズキットをばらして売っているのがポイントだろう。ざっと価格を調べてみると、レンズキットとボディのみの価格差はアマゾンの価格で1万1000円ほど。レンズ単体の価格が2万4000円ほどなので、ばらして売れば、かなり利幅があることがわかる。レンズの価格差1万3000円を、レンズと本体の価格の割引分に使えば、どちらも2?3割以上安くでき、価格競争力を確保しながら、販売上の利益も得られるという計算になりそうだ。

ちなみに、本体が中国製なのは、韓国仕様だからなのか、日本仕様もそうなのかと調べてみたところ、わかる範囲では日本仕様も中国製だった。この製品は中国でしか作っていないのだろう。であれば、性能には差がない正規品ということになる。

中国、韓国、日本の国境と、レンズキットのメーカー値引き分をうまく活用することで、このビジネスは成り立っているようだ。

さて、このビジネスから僕が理解した、「グローバスビジネスとグローバル人材」について、考えてみよう。

■外国語力は、ピンポイントでも良い

今回の例では、外国語力が問われるのは、僕のところに電話をかけてきた韓国人だけだ。日本の販売店と、韓国人スタッフのどちらが主導権をとっているのかまではわからなかったが、韓国人側が主導権を持っている可能性も十分あり得る。

上記のようなビジネスモデルに気がついたら、自ら韓国に出向いたり、あるいは日本に来る必要は必ずしもなく、それぞれ相手国のパートナー企業を探せばよい。その段階では外国語が必要になるのは間違いなく、今回の例では韓国人がビジネスを発想し、日本のパートナー企業を神田に見つけ、日本に駐在して、オークションで落札されたら、発送先などをFIXして韓国のスタッフに連絡するという、カナメの部分を担当しているのだろう。

つまり、僕の想像が正しければ、僕のところに電話をしてきた韓国人スタッフこそがもっともグローバルな動きをしていてい、他のスタッフはローカルで動いていればよい。つまりひとりでビジネスを設計してしまえば、あとはカナメの部分だけを自分でやり、ほかはローカルスタッフでよいのだ。

このビジネスがグロバリゼーションの恩恵によって生まれているにしても、語学力という点では、ひとりが、多国語をひとつ(この場合は、韓国人が日本語を)、そこそこ話せればよいことになる。

彼の日本語力から考えて、日本語を勉強してから1?2年かもしれないが、それでも、ビジネスの仕組みをつくる発想力と実際にハンドリングする力さえあれば、ひとりで十分ひとつのビジネスが回せることがわかる。

こういった、ひとりで、それほど堪能ではない語学力でも、ビジネスをつくって回せてしまう感覚こそが、グローバル人材の要件なのだと思う。

■商品と価格の知識と、独自の販路に気づく力が利益を生む

このビジネスの場合、デジタルカメラの商品知識と価格相場を熟知していることが、独自のビジネスを発見する前提になる。この点では、課の韓国人スタッフはかなりの目利きといえる。

実際、同じ時期のオークションで同じ機種を5台程度出品していたが、すべて売り切っていた。4日程度のオークション期間で売上25万円。もちろん、この売上にかかる彼の手間はおそらく実働丸1日分程度だろう。利幅はわからないが、悪くない働きだと思う。

同じく重要なのは、レンズキットを分割したときに、レンズだけでも売れるマーケットを持っていることで、ヤフーオークションはこういった売り先としては確実性が高い。オークションをチェックしてみたら、同じショップが、分割したと思われるレンズを1万7000円で出品していた。上記のアマゾンでの価格(1万1000円と2万4000円)を見ると、まさに中間を狙っている。まだ2本売れ残っているので、やはりレンズのみのほうが売りにくいのはやむを得ないが、それでも3本は売ったことになり、売れ残る可能性は少ないだろう。

一見売りにくいものでも、販路を知っていると、ビジネスを成立させることができる。このあたりも、特定のカテゴリーの商品に知識が深いこと、ネットでの情報収集力があれば、ビジネスモデルが構築しやすくなる。

企業人として考えると、今、オリンパスのカメラを扱うビジネスパースン(オリンパス社の営業や問屋、販売店の社員)にこういった支店が持てるかどうか、ということになる。カメラという商品には詳しいだろうし、通常の商習慣は熟知しているだろうが、オークションでの格や売り買い情報については、意外に詳しくないことは推察できる。たとえば、量販店に行って聞いてみると、その商品がネットでいくらが最低かを知っている販売員ばかりではない。ましてメーカーや問屋ではさらに知らない可能性が高い。

自分が扱う商品なのに、自分がいるルートから外れる情報を知らない、ということが、ビジネスモデルをつくれない理由のひとつにありそうだ。

■国境線の有無ではなく実質的な距離感持っていることことで、サービスが生み出せる

今回特に感じたのが、「実質的な距離感」を持っているかどうか、という点だ。

このモデルを考えた人物は、韓国から日本のどの地域に対しても、中1?2日で確実に届き、関税などの問題もない、ということを熟知していた。つまり、国内で宅急便をやりとりするように、日本と韓国との間も宅配便がまったく同じようにやりとりできることを、熟知していたわけだ。

もちろん、調べればこのようなことはすぐにわかる。しかし、重要なのは、感覚的に知っていることだ。

トウキョウからサッポロに荷物を送るのと、プサンからホクト市に荷物を送るのは、まったくおなじだということ自然に理解できること。そこには、日本海という国境の海は、津軽海峡と同じ程度の離れ方だという理解がある。

これを延長すれば、トウキョウとホンコン、ソウル、ホーチミンの間でやりとりしながらビジネスをすることも、まったく違和感がなくなる、というより、違和感を感じないことが、グローバル人材だと言うことになる。

たとえば、東京で開業した人が、次に支店を出すときに、大阪に出すか名古屋に出すかと考えるのとまったく同列に、上海に出すか、ムンバイに出すか、と比較検討できることを意味する。

ムンバイのオフィス事情を知っていることが重要、ということにもなるが、別の見方をすれば、各都市がオフィスのレンタルの条件をある程度そろえてくれれば、いちいち調べなくてもかんたんに判断できるようになる。

国境線で距離の遠近を測るのではなく、同じ感覚でビジネスや生活ができるいくつかの都市を知っていて、それがたまたま国境の向こうにあるだけ、という感覚なのだ。トウキョウからオオサカに支店を出すときには、県境について意識することはまずないが、トウキョウからピョンヤンだと、どうしても国境が意識される。これをほとんど意識しないのが、グローバル人材なのだ。

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ということで、今回は小さなオークションでの買い物から、グローバル人材について考えてきた。まず、グローバル人材とはどのようなものかの定義を考え、具体的に像を結ぶ作業が先にあり、そこから育成方法の話にならなければいけないが、今回の考察がそのためのヒントのひとつになると思う。

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