(by paco)今週は第5週なので、本来はおやすみですが、短いものを書きます。といいつつ、けっこう書いちゃいそうです。
昨日、のあのわというバンドのライブに行ってきました。メジャーデビューはしているものの、それほど知られたバンドではないし、アルバムを2枚出しているものの、活躍という点では取り立ててみるべきものはありません。
しかし!!
実力は本当にすばらしいバンドで、まさに奇跡的な音楽をつくります。
女子ボーカル、ドラム、ベース、ギター、キーボードの楽器隊が男子、という5ピースで、普通の構成といえるのですが、実は見た目はっきり違うのが、ボーカルのYukkoがチェロを弾く、という点。ボーカルマイクの前に立ち、歌いながら、あるいは感想としてチェロを弾くのですが、これは他のバンドにはないオリジナリティです。チェロを弾くことについて、Yukkoは「大きな楽器を弾きたかった」と言っているのですが、彼女はピアノもちゃんと弾けるし、以前の別のバンドではボーカル&ギターだったので、そういった経験の中から、外見から普通のバンドにはない個性をめざしていたことがわかります。
とはいえ、のあのわの音楽性は、Yukkoのチェロにあるわけではありません。
彼らの音楽を決めているのは、ドラムとベースのすばらしいコラボレーションから生まれる強力な通奏音で、5拍子だとか、3拍子に2拍子が挿入されるなど、変拍子を多用したり、バラードのスピードから高速までを一瞬にして移動してみせる多彩なリズムにです。しかも、さらっと聞くとそれがアクロバチックであることを感じさせないさりげさもあり、初めて聞くと普通のポップスにも聞こえつつも、音楽の構造を聞き分けていくと、どうやってつくっているのか、見当も付かない印象の複雑な音楽を、5人それぞれのカラーを出しながら作り上げているのです。
ドラムとベースは、普通のバンドでもソロを取るなど、目立つことはあまりないし、目立たない方がいいのですが、ギターとキーボードも、間奏で泣かせのソロを取って目立ったり、かっこよくはやびきすることもほとんどありません。気をつけてないと、なんでこの人たちがバンドにいるの?というぐらいの感じに聞こえます。でも、よく聞いていくと、ムダと思えるぐらいの速弾きでドライブ感を支えていたり、切れのよいカッティングで楽曲にメリハリを付けたりしていることに気がつくのです。
僕は彼らのライブを、去年と今年、2回見ているのですが、この楽曲をよくライブでできるなあと思う演奏です。CDであれば、ミスしても、あるいはスピードについて行けていないことがあっても、後の処理でどうにでもできてしまうのが今のデジタル技術なのですが、ライブではそういう細工は無理。複雑なリズムの変節ポイントを完璧に決めなければ、楽曲として成立しないのですが、ここもあそこも、完璧に決めてくる、という技術、というより、練習量なのでしょう。血のにじむような練習を、5人でやらなければ、できるようにはならないでしょう。その蓄積を、たった4分のライブでやってのけるそのエネルギーに、圧倒されるライブです。
この楽曲「Melt」ですが、何拍子か、カウントしながら聞いてみてください、普通、わからないと思います。ボーカルのメロディはわりと普通ですが、バンドの演奏がすごい。後半3:30あたりのカオスからの立ち上がりのキレは、70年代のプログレッシブロックバンドのそれを完全に超越しています。
と、まずバンドに注目してもらった上で、ボーカルです。
Yukkoのボーカルは、これも本格的に歌を歌ったことがある人ならわかるのですが、とにかくエアーが多い。発音していない息だけの成分がたっぷり入っていて、ウィスパリングボイス(ささやき声)のようで、音量はかなり出ている、という歌い方で、のどにものすごく負担がかかるのですね。かつ、表現力が豊富で、歌い方の引き出しがたくさんある。リズミカルな早い歌から、ジャジーで複雑な歌い回しまで、さらりとやってのける。昨日のライブでは、ピアノ弾き語りもやっていて、これがまた心にしみる歌でした。
そこに、チェロというひびきの厚い楽器が乗っかるのだから、もう、おなかいっぱい、高密度バンドなのですが、それが、ぱっと聞くとそんなに重厚に聞こえないようにさらりとやってのけているのですね。
ここでもう1曲。
先ほどの「Melt」よりもさらにマニアックです。もっとポップで聴きやすい曲もたくさんあるので、リコメンドに従って聞いてみてください。
さて、こんなすばらしいのあのわなんですが、バンドとして、歌い手として、必ずしも調子がよくないようで、前回のアルバムから1年たつのに、その間シングル1曲、今回のツアーも4講演とちょっとさびしい感じで、本人たちも「もっとやりたかった」と言っていました。東京キネマ倶楽部でのライブは、500人以上の定員を満員にしていたので、決して人気がないわけではないのでしょうが、なぜでしょう?
事務所とレコード会社のビジネス上の事情もあるのでしょうが、バンドメンバーの課題もありそうです。もちろん、本当の事情はわからないので、雑誌やラジオ、ライブでの発言から想像できること、になりますが、Yukko自身が精神的に弱い面があり、ものをつくる人に降りかかるいろいろな「風」をうまくいなしたり、かてにしたりすることが苦手のようで、たぶんちょっとしたことでネガティブな影響を受けてしまっているようです。過去の作品の中に、「カエル」「モグラ」と、地面で鬱屈している主人公の歌があるのですが、たぶん、これは彼女のひとつの気持ちの表れでしょう。奇跡的なバンドではあるものの、その音楽を完成させるために必要な、技術面のみならず、精神面でのパワーはすさまじいものがあると予想され、それもバンドの状況がよくないことのひとつだと想像できます。
「ツアーの前まであまり歌えていなかった」とライブ中にYukkoが発言していましたが、それはきっと本当なのだと思います。「私のまわりから人が去っていく」とも言っていたので、これも本当なのでしょう。仕事関係なのか、恋人や友人なのかはわからないけれど、精神的にダメージを受けたのは間違いないようです。
何かをクリエイトするのは、ものすごい負荷がかかるもので、若いメンバーにそれに耐える精神力と体力があるか? 彼らの音楽は、ガラス細工のような精巧さですから、なおさらです。
次のアルバム、次のライブを聴きたいと心から願っていますが、かなうものなのか、と切ない気持ちにもなった昨日のライブでした。
最後に改めて強調しておきますが、昨日、2010年11月27日の東京キネマ倶楽部でののあのわライブは、日本のポップ史上に残る最高のライブでした。その場にいられた幸せと、演奏を聴かせてくれたメンバーに、感謝。
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