(by paco) ロジカルシンキング研修をあちこちの企業で実施しているが、受講者の年齢は年々若くなっている。この仕事を始めた10年前は30代後半、当時の日本企業の課長前ぐらいが中心だった。最近では新入社員から3年目ぐらいまでに受講させる企業が多くなった。カフェテリア方式で自主選択型であっても、実際に来る受講者は、20代ということも多く、会社の思惑と同時に、受講者のマインドも、若いうちに学びたいという方向になっている。
◆草食化する男子と、肉食に見える女子
そんな中、特に入社3年目ぐらいの研修の実施経験に着目すると、各社に共通して感じるのが、「女性が増えた、女性が強くなった」という点だ。これは文系職、理系職関係なく、女性が強い。グループワークをさせていると、女性が入っているグループは概ね女性がリードしている。よく観察すると、リードしているとは限らないのだが、議論を活性化するような発言を、いいタイミングでしている。話題の中心になっている女性も多い。
一方、男性は、当たりが柔らかく、自分が前面に出る人が少ない。たまにしっかりした自我や個性を感じさせる人がいると、自分の世界から出てこないように感じさせる。考えていること自体はなかなかいいのだが、「これは自分が勝手に考えていることで、人に伝えるほどのことない」というような態度で、出し惜しみしているような感じにも見える。しかし、閉じこもっているというような、社交性がないタイプではないが、自分の本音はうまく隠しておくという印象だ。
スマートでクールだが、情熱は前面に出てこない。まさに草食、という言葉を感じさせる。
もっとも、本物の草食動物は、決して、前に出てこないタイプではない。うさぎを多頭飼いすると、ケンカが絶えない状況になりがちで、中に「いじめられっ子」が生まれ、他のうさぎから攻撃を受ける。長い耳も攻撃対象になり、かみ切られて血だらけになったり、本当に耳が食いちぎられてしまうこともある。本物の草食動物はかなり競争的、攻撃的なので、今いわれる「草食男子」という比喩には違和感を感じるものの、まああくまでもイメージ、ということで考えておきたい。
個人的には、見るからに前向きで、なんでも率先してやるタイプは、男女とも、あまり好きではないので、歓迎すべきことだと思っている。いわゆる体育会系の人材像のことだ。
ちなみに、この体育会系人材については、「賢いスポーツ少年を育てる 」の著者・永井洋一が、 「日本人スポーツ選手の決定力不足の問題は、少年期のスポーツ教育に問題がある。考えさせないからだ」と主張していて、僕としては「ようやくこういう分析がきちんと出されるようになったか」と我が意を得たりの感は強い。
ちなみにこの永井洋一さんのインタビュー録音がこちらにあります。J-WAVEのJAM the WORLDから。
ここで注意が必要で、「前に出るタイプ」イコール「体育会系で考えていない」、「あたりがやさしく、周囲を見るタイプ」イコール「草食系で、考えている」というように短絡すべきではない。
「前に出るタイプ」イコール「体育会系で考えていない」という点については、日本企業が体育会系の採用が好きな時代が長く、かつ、永井洋一の指摘をもとにすれば、ある程度納得感がある。しかし「あたりがやさしく、周囲を見るタイプ」イコール「草食系で、考えている」かどうかは、別の問題だ。「草食系で、考えていない」という人材である可能性もある。実際、草食男子のほうがよく考えているかというと、草食系に対する僕の評価がずれている可能性もあり、よく見る必要がある。ただ、ひとつ言えることは、草食男子は決めつけをあまり行わずにコミュニケーションを取る能力がある。「こんなものでしょ」とすぐに答えに飛びつかない姿勢はあり、この点で、ロジカルシンカーとしての資質は、草食系の方が高いと感じさせることが多いのは事実だ。
一方、女子の方は肉食化しているのかというと、確かに比較するとそのように見える。グループワークでも、女子が前に出ていることも多い。でも、そういう人が多いかというと、目立つだけで、そうでない女子も多い。よく観察すると、男子の積極さが縮減し、そのぶん女子の存在感が水面より上に出てきた、というのが正しい理解だろう。男子がどうだこうだというよりは、むしろ、男女に性差がなくなり、個人差の方が大きくなったと言うことだと思う。
◆中国で肉食男女を雇用する企業
そんな中、今日のasahi.comにこんな記事が出た。以下はサマリ。文末に、全編を載せておく。
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中国で新卒争奪戦 日本企業、「負けず嫌い」求める
http://www.asahi.com/business/update/1120/TKY201011200289.html
……中国上海で、人材大手のリクルートが中国の有名大新卒者向けに初めて開いた集団面接会。米コンサルティング大手、ボストンコンサルティンググループ……同社は近年、東大や慶応大などの有名校を中心に日本で年十数人を採用してきた。だが、「安定志向の草食系が多く、戦闘意識の強い野武士タイプが減っていた」と内田氏。それで中国に来てみたら、「負けず嫌いで、競争意識の強い、我々の大好きなタイプがうじゃうじゃいた」
同社は、面接時の日本語能力は不問。面接に来た学生の大半は一度も海外へ行ったこともないのに英語を滑らかに話す。日本語など、素地があるから内定後に学ばせれば十分という考え方だ。中国の学生は転職意識が高いのがリスクという人もいるが、内田氏は「日本でも2?3年で辞める草食系エリートは多い。定着するかは会社次第だ」と意に介さない。
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上記の考察と、この記事を対照すると、日本男子が草食化して、意欲的な人物が採用できなくなったので、中国での採用がはじまっている、というように読める。なるほど、そういうこともありそう。
この外国人採用の動きは、研修の場でも実感がある。ここ1?2年ぐらいのことだが、若手の研修に外国人が混じるようになった。それも新卒採用された外国人だ。学歴はさまざまで、日本人の採用と同様に、ストレートに大学を出て採用になったものもいるし、大学を出てから現地で仕事をして、日本の大学院で学んで採用になったという、キャリアを積んだ人も混じる。出身地は、中国、マレーシア、タイ、インド、モンゴルなど、アジア諸国だ。
高校ぐらいから、親について日本に来ている人もいれば、大学から日本で、その時点から日本語を勉強したという人もいるが、いずれも、日本語歴3年程度で、漢字も含めてかなり正確な日本語を操れるところも共通している。日本語を学びつつ、専門分野での勉強もそれなりにきちんと学んでいて、本当に優秀、という印象だ。もちろん、男女はどちらもいる。
僕は研修などでこういった人に会うと、必ず話をすることにしているが、「いずれ母国に帰るつもりなのか?」と聞くと、多くは「特に考えていない」という。帰らないと決めているわけではないが、日本なり、他の国で仕事をし続けることに違和感を持っていない。感覚は、コスモポリタンという印象で、日本であっても米国であっても本国であってもかまわない、ということだろう。東京勤務でも大阪勤務でも、どっちでもいいやというのと似ている。
前々回に、「日本の若い社員が海外勤務に出たがらなくなった」というのとは、かなり違う印象だ。このあたりが日本の若者の草食感を物語っているのだろう。
となると、ただせさえ、日本の若者には職が少なくなってきているのに、海外の魅力的な人材との競争をすることになり、負けていく状況になりそうだ。
「アジア内での競争の時代になっているのだから、それに対応する積極的(肉食的)な子育てと学校教育が必要だ」という意見もすぐに出てくるだろうが、僕は若干懐疑的だ。
というより、あまり競争的な人材には興味がない。これまで会ってきたアグレッシブな人に、あまり魅力を感じないというのもある。
僕は、負けず嫌いや競争意識より、しなやかさの方を重視している。自分のゴールは見据えながらも、状況に応じて、無理をして闘わず、壁を乗り越えたり壊したりするのではなく、横に移動して壁が切れていたり、なくなっている状況になるまで回り道する。
実は、この「回り道説」は、AKBの仕掛け人である秋元康の言っていることでもあり、壁を壊したり乗り越えたりする人材を求めることは、今の時代にふさわしくないような、あるいは、そうでないやり方を獲得する方が、中国などの人材と露骨な競争をせずに、自分たちの道を進めるはずだと思っている。
この「しなやか系人材」という意味でいうと、草食男子や、草食男子の中で水面上に上がってきた日本女性(もしかしたら、それは<森ガール>系)は、これからの日本のビジネスパースンの将来を担う大事な存在なのだと思う。ぱっと見、中国のアグレッシブな人材に手を出したくなるが、何が必要な人材なのかをよく見極めたいところだし、就活大学生や転職希望者は、あまりアグレッシブなところ演出するする必要はないと思う。
とはいえ、現実にアジアからの人材の競争に負ける日本の若者が出てくるのは、ほぼ間違いないことだと思う。
僕からのおすすめは、無理に競争せず、都会での仕事に固執せず、地方にいって、小さなビジネスに関わることだ。具体的には<おとなの社会科>地域活性化の回でレクチャーしたので、興味のある方は、<おとなの社会科>を受講しよう。来年また地域の問題は扱うことになると思う。
と言っていわないのもずるい感じがするので、大枠だけ。
地方で、小さな資本で、地元の資源を地域内か、大都市のやりとりで循環させる事業を興すことだ。「道の駅」で地元産の野菜や花を売る、というは代表的でわかりやすい例だが、教育や介護の分野でも新しいチャレンジをしている人は多い。収入そのものは多くなくても、生活はしやすく、安定感のある仕事人生を送ることができるポテンシャルがある。
無理に競争してストレスをためるより、横にずれて壁が切れたところで自分の道を作ることが、日本の若い男女が向かうべきひとつの道だと思う。
▼中国で新卒争奪戦 日本企業、「負けず嫌い」求める(全文)
http://www.asahi.com/business/update/1120/TKY201011200289.html
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日本の企業が、本格的に中国で大学新卒者の確保に動き出した。年630万人という世界最大の市場に狙いを定め、日本本社の幹部要員として採用する。中国では、優秀な人材は待遇のいい欧米企業に流れていた。日本企業は、高給の「本社採用」を武器に、中途の即戦力も併せて呼び寄せる考えだ。
「金鉱を掘り当てた気分。正直、ショックです」
中国上海で、人材大手のリクルートが中国の有名大新卒者向けに初めて開いた集団面接会。米コンサルティング大手、ボストンコンサルティンググループ(BCG)の内田有希昌パートナーは2日間の面接を終え、こう感想を漏らした。
いい学生が2?3人いればと半信半疑で参加したが大当たり。「すでに上海と北京で6人に内定を出し、さらに数人採用するかもしれない」
同社は近年、東大や慶応大などの有名校を中心に日本で年十数人を採用してきた。だが、「安定志向の草食系が多く、戦闘意識の強い野武士タイプが減っていた」と内田氏。それで中国に来てみたら、「負けず嫌いで、競争意識の強い、我々の大好きなタイプがうじゃうじゃいた」
同社は、面接時の日本語能力は不問。面接に来た学生の大半は一度も海外へ行ったこともないのに英語を滑らかに話す。日本語など、素地があるから内定後に学ばせれば十分という考え方だ。中国の学生は転職意識が高いのがリスクという人もいるが、内田氏は「日本でも2?3年で辞める草食系エリートは多い。定着するかは会社次第だ」と意に介さない。
リクルートによると、3?6日、北京と上海で開いた面接会に参加した大学は39校。北京大や清華大、上海の復旦大など中国のトップ校を中心に約1万人の学生が集まり、その中から適性テストや面接を通過した大学4年生計1千人が面接に臨んだ。
リクルートの上海現地法人で面接会の責任者、伊藤純一さんは、中国人学生の人気が高かった背景を「日本企業の中国現地法人は欧米企業より給与が安く、優秀な人材の確保が難しかった」と説明する。現地法人採用だと企業のトップにはなれないとも見られがち。それが、今回は給料が高く、昇進もできる本社採用なのでたくさん集まったとの見方だ。
一方、企業の方は、三井住友銀行やみずほフィナンシャルグループ、キリンビールやコニカミノルタなど22社が参加した。各社とも人事権限のある責任者が現地入りし、数日間の面接で内定を出すスピード勝負の会社もあった。
参加料は1社100万円。さらに1人採用するごとに110万円支払う契約。決して安くないが、リクルートは「日本の10倍以上、630万人もの新卒の中で競争に勝ち抜いてきた人材から選べる」と価値の高さを強調する。
上海の面接会に臨んだ玩具大手タカラトミーは「あまりに優秀。日本の学生より自分のキャリアアップの計画が明確で、上昇意識がある」(福元紀哉人事室長)との理由で、予定の2人を上回る3人に内定を出した。同社は将来新卒採用の半分を外国人にする計画があり、「中国人の採用が増えれば、その分日本人の枠が少なくなる」と話す。
中国の学生も、チャンスととらえる。復旦大日本語学科4年の女子学生(22)は「日系の現地法人の給与は3千元(約3万7千円)程度だけど、日本だと初任給が約20万円と全然違う」という。本社採用なら責任ある仕事ができるのも魅力と言い、「同級生はみな米国、英国で就職する。私も海外で働きたい」。
メガバンクの面接に参加した上海の同済大日本語学科4年で、週末は復旦大で国際経済も専攻する徐爽さん(21)は、「外国人を採用しようという気持ちが伝わってきた。日本の企業文化も変わってくるんじゃないか」と期待を込める。
新卒だけでなく、すでに働いている現役の人材を確保する動きも始まった。中国最大の国営人材派遣会社「上海FESCO」海外就職サービス部門と、日本で中国ビジネス支援を手がけるAコマース、外国人専門人材派遣のグローバルパワーの3者は10月に提携。中国内の事務管理職(ホワイトカラー)の人材を日本企業の本社に紹介する事業に乗り出した。
上海FESCOが、外資系企業などで働く社員から日本企業への転職希望者を募り、紹介する。年内に上海で日本企業約50社を集めた合同説明・面接会を開き、3年後には対象企業を500社に増やす方針だ。
Aコマースの秋葉良和代表によると、中国人の人気は欧米企業が集めがちだったが、2008年のリーマン・ショック以降は「雇用の安全を重視する日本企業の良さが見直されている」という。
中国でのビジネス拡大を目指す日本企業には、「日本人による営業では限界があり、優秀な中国人に本社で企業文化を身につけてもらい、市場開拓を任せたい」(食品大手)との声が強い。
BCGの内田氏はいう。「優秀な外国人を採用することで、日本人の目の色も変わるだろう。グローバルでの競争意識に目覚め、学生も社員も危機感を持ってくれれば成功だ」(奥寺淳=上海、斎藤徳彦)
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