(by paco)「グローバル人材を育成したいが、どうしたらいいか」という質問を受けることが多くなっている。3年ぐらい前からのことではあるが、今年は急にリアルになってきていて、企業自身がグローバル化について、新しい局面を迎えていることが感じられる。
では、「グローバル人材」とは何か、と問い直してみると、はっきり意見を持っていることは少なく、相手国に対応した語学はやっているが、それだけでは十分じゃない、というような中で、「語学意外のものも含めたグローバル人材」というような定義しかないのが現状のようだ。もちろん、企業によっては明解な定義を持っているとこもあるのは、いうまでもない、あくまで、平均的な現状だ。
グローバル人材を考える前に、そもそも企業のグローバル化について、どんな現状にあるのかを見てみたい。
■グローバル化の4つの類型
◎グローバルマネジメントを徹底する企業
この類型の代表格は、米国発祥の大企業で、すでに世界中にさまざまな拠点を持ち、世界中合わせてひとつの企業としてマネージしている企業だ。製薬企業、石油メジャーなどのエネルギー産業、ケミカル、バイオ、ITなどさまざまな業種がある。僕が長くおつきあいした会社では、ファイザー製薬が代表格だ(以下の情報は、ファイザーのものというわけではなく、複数の企業の情報を総合して書いています)。
これらの企業ではすでに10年、20年以上前から、グローバルマネジメントを導入していて、新しいものではない。しかし、日本から見ると、新しい局面に入っている。
これまで、グローバル企業の日本法人は、世界の中で独自の地位にあり、そのことで「無風状態」が許されてきた感がある。
まず、日本市場がけっこう大きく、グローバル企業といえども、日本市場を日本法人の自由にさせておいた方が、結局はうまくやれてきた。製薬会社で言えば、グローバルで開発されたもののうち、日本市場に都合がよさそうな物だけを世界から持ってきて、日本向けにアレンジすることもできたし、日本市場用の製品を日本の研究所から生み出し、日本のマーケットに提供することもできた。世界に出せるものはそれを世界に提供することもしたけれど、しなくても日本だけで開発、発売できたりした。
しかし、2000年代にはいって状況が変わってくる。日本市場が縮小傾向になり、売上が悪くなってきた。その一方で、コストがかかり、収益が落ちつつある。このような状況は、本当は90年代から始まっていたのだが、2000年代になると中国など新興国マーケットがはっきりと成長しはじめたために、日本の価値が相対的に魅力的でないことが明確になってしまった。
このような中で、日本法人と日本市場が独立性を失い、グローバルマネジメントに「吸収される」傾向が強まっている。
これが、グローバルマネジメント型企業で、「グローバル人材」が明確に求められるようになってきた背景にある。
具体的には、仕事の流れが変わった。これまでは、日本として何をつくり、何を売るかを考え、グローバル(本国本社)と協調するスタイルだったのが、本国からの支持・指令が増え、本国のやり方で世界中をコントロールしようとする傾向が強まった。これは、本来は以前からそういうスタイルだったものが、「独立が認められていた」ために、無風状態に近かったものが、状況が変わったことによる。
たとえば、商品は、日本仕様のものを作れていたのが、世界仕様のものを日本でも同じように売れ、というように支持される。一方で、日本の消費者が変わったわけではないから、世界標準の仕様では日本では商品力が落ちる。たとえば、ブランド力が足りなかったり、パッケージやデザイン、広告ツールまでもが、日本人にはフィットしない、ということが起きる。そこで、「売れなくなりますよ、何とかしてください」と本国に交渉するも、「隣の中国では売れている」「日本ばかりにコストをかける理由がない」などの理由で、受け入れられない。
ただで最プレゼンスが落ちている日本法人と日本市場が、ますます縮小してしまう、そしてそれが日本法人社員の責任と見なされ、場合によっては地位があぶない。何とか世界と対等に渡り合える人材がほしい。これが、このタイプの企業のグローバル人材のニーズになる。
◎日本発のグローバル企業
もともとが日本資本の企業で、日本では充分にプレゼンスがあり、世界への進出、特に輸出ベースでの進出はすでに一定量ある、というタイプの企業。この中には、上記の海外発のグローバルマネジメント企業と同じように、日本発の世界企業になっている企業もあり、トヨタやホンダなどの自動車メーカーはそれに当たる。しかし、トヨタ・ホンダほどのグローバル企業は日本ではまだまれで、多くが「世界企業になりつつあるが、人材がついて行けていない」というところが多い。
ひとつは、これまでは日本マーケットが中心で、海外比率がまだ2?3割程度という企業で、この場合は、世界売っているものの、限定的なマーケットに商社や海外の現地企業との合弁などを通じて売っているレベルで、企業として本腰を入れている状況にはない場合がある。さらには、すでに50%を超え、70%以上も海外で売り上げているに状況になっているにもかかわらず、まだ企業としてグローバルマネジメントが確立できておらず、上記の「グローバルマネジメント企業」に脱皮するための人材が足りない、という場合だ。
実際には、マーケット的にも人材的にも、これから本腰を入れる企業と、ある程度経験(を積んだ社員)はあるが、それが組織として、人材育成としてしくみ化されて折らず、先駆者の後を継ぐ人材が組織的に輩出されるようにはなっていない、という場合だ。
◎海外に生産拠点を置くグローバル企業
このタイプの起業は、中堅企業に多く、日本でモノづくりをやってきた企業が、円高などによって海外、特に中国やベトナムなどに工場を作り、生産拠点にしている。
もともと企業規模もそれほど大きくはないので、少数のパワフルな人材が海外の工場長などとしてがんばってきたが、後継者が不足していたり、次の手を考えられる人が足りないという悩みを持つ。マーケット的も、日本向け中心だった状況から、グローバルでつくりグローバルで売ることをめざすべきか、まだ見極めが付いていないこともあり、企業経営そのものに直結する人材が求められている。
とはいえ、もともとが中堅企業なので、人材育成システムも不十分なところがあり、育成すべきか、中途採用すべきか、OJTで密着して育ててしまうか、方法論そのものも場当たり的になりやすい。
◎商社型グローバル企業
いわゆる大手総合商社やそれに準じる専門商社がこれ。ジャパンマネーとメイドインジャパンが世界を席巻した時代からの海外経験を持ち、買い付け、販売、プロジェクト推進には力を持っているし、人材もはじめから世界で活躍することが前提で入社してくるので、本質的にはあまり問題は感じていない。
しかし、実際には、世界の中で企業に向けられる目は厳しくなっており、環境や人材の扱い方など、CSRの観点でずれたことをやってしまうリスクや、ビジネスチャンスを逃すリスクなどに気付いていないことも多く、グローバル化がすでに進行しているがゆえに、仕事はうまく回すが、新しい時代にたいおうできるかは、こじんまかせになっていることが多い。組織的な方向付けについては、日本の総合商社は以前から弱点で、CSRが重視される時代の中で、個人差が出やすく、リスクが増えたりビジネスチャンスを放置するなどの事態が起こりやすい。
21世紀に尊敬されるビジネスパースンとして、たとえば中国やロシアの承認との違いをどうだしていくのかという点でのグローバル人材が求められているが、この点に課題意識を持っている商社自体が少ないのが現状。
●企業ごとのコンサルティングが不可欠
僕自身の仕事との関係で言えば、ロジカルシンキングにしろ、<おとなの社会科>にしろ、おとなの学びの場を提供する仕事であり、ビジネス力をつけることが目的と言うことでいうと、上記のようなグローバル人材の育成という点で、役割を果たせると思っている。
とはいえ、どの企業に対しても、これをやればいいですよ、というようなメニューがあるかというと、そうはいかない。4つの類型それぞれが直面する課題がかなり違うこと、緊急度も高いことを考えると、企業の状況を分析し、どのような育成方針の下、どのような手を打っていくのか、そこに具体的な研修をはめていく作業が不可欠だ。つまり、人材育成コンサルティングを行い、経営とのマッチングを図る必要がある。
特に育成スケジュールの観点は重要で、短期?長期の戦略を立て、10年後に活躍できる人材の育成も含めて、ていねいに行わないと、この変化の時代に人が追いつかない事態が起こる。というより、これまでのつけが回ってきていると言えるのだが、今後はその轍を踏まないようにするべきだ。
とはいえ、このコンサルティングができる人材がまた、限られている。
経営コンサルティング、マーケティングのコンサルティングなどはいくらでもあるが、人材育成に特化したコンサルはまだほとんどいない状況で、僕が知る限り、adatの福澤英弘さんぐらいだ。
もちろん、僕も依頼いただければ、通常のコンサルティング(論理思考の時間貸し)として、知見を提供できると思うが、やはり福澤さんの知見と経験は豊富だ。
これまでは、いわゆる研修会社の営業が、さっくりとコンサルティング的な企業を提供していたわけだが、グローバル人材については、多くの研修会社でコンサルティング力が追いついていない状況だ。一方、グローバル企業の人材育成担当は、いちばん主体的にコミットすべきではあるものの、力不足の感がある。
若手を育成する仕事だから、若い人にやらせよう、という企業が増え、育成担当者が低年齢化していることは悪いことではないものの、全体感を持って人材育成戦略を立てるには、経験も知識も不足している例が多く、その点でも専門コンサルタントに仕事を依頼した方がいいと思わせる理由になっている。
●ディスカッションと<おとなの社会科>は必須
その中で、僕が提供できるメニューとして、「ロジカルシンキングをベースにしたディスカッション」と、<おとなの社会科>は、どのグローバル企業にも共通して提供できる基礎的な育成メニューになる。
ロジカル・ディスカッションは、ディベートに似ているが、ディベートのように相手を打ち負かす主張の仕方を学ぶのではなく、相手からの理解と共感を得ることを目的に、イシューの把握や議論の分岐点を明確にした上で、自分の主張を行うことを学ぶ。
<おとなの社会科>については、コミトンでも何度も書いているので重複するが、やはり海外とビジネスをやるからには、相手国や世界の状況についての見識は必要不可欠だ。
とはいえ、どちらも企業向けに「この1日研修で十分力が付きますよ」と言えるほど、研修としても定番化しているわけではなく、まだまだ手作りの段階だ。現状、クライアントの状況把握を踏まえて、カスタマイズして提供しているが、次第に形も完成していくことになるだろう。
考え方としては、世界に出て仕事をするために必要な「装備」を国内で十分学んでもらうということをめざして、その中の主要なメニューをしてディスカッションや<おとなの社会科>を用意していきたいと思っている。
ヒマラヤ級の高山に登るには、それなりの訓練と装備がいるし、そのための金銭的・時間的な投資も必要だ。企業の人材育成担当者にはその点をよく理解してもらいと思っている。
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