(by paco)今日は9月11日。2001年9月11日の同時多発テロから9年経過した。だいぶ昔の話になり、若い読者の中には、そもそもこの事件がどれほどの衝撃を与えたかを知らない人も増えてきている。何しろ、今年企業に入った新入社員世代は、2001年にはやっと中学生になったぐらいで、世界で起きることなど、本当に遠く感じられる時期に起きたことなのだ。
あの日から、何が変わったのか、このタイミングで振り返っておきたい。
2001年9月11日。この日、僕は申し込んでいた人間ドックを受けに区役所に行った。サクサク終わって、家に戻ろうとしたときに、猛烈な雨になっていて、台風が来ていたのだと思う。かんたんにやみそうにはなかったし、交通機関が近い場所でもなかったので、あきらめて濡れて帰ることにした。まさにバケツをひっくり返したような雨、という天気で、服が濡れるだけでなく、プールで泳いで目を開けているような感じで、はっきり見えないほどの雨。ただ、季節柄寒くなるようなことはなく、どこまで濡れるんだろうと、下着の中にも流れる雨水をおもしろがりながら、20分ほど歩いて家までたどり着き、そのまま風呂場に飛び込んだところを妻にパパラッチされた。写真が色あせずにハードディスクに残っている。
そんな夏の終わりの1日の夜、NHKのニュースを見ていると、予定されていたニューヨークからの中継がはじまった。と思ったら、映った映像はWTC(World Trade Center)に1機目が突っ込み、ビルから白煙を上げている映像で、当時ニューヨーク支局長だった手島特派員が映っていた。ちょうどWTCを背景にして、金融か何かのレポートをするところだったのが、そのままテロの映像になったのだった。おかげで、期せずしてNHKは2機とも突っ込むところを中継で放送することになった。
まさにリアルタムで旅客機が突っ込み、白煙を上げる映像を見ながら、「これは本当のことじゃない。みたいだ」と感じた。でも、まさかNHKのニュースの中継で手の込んだCG映像をわざわざ流すはずがない。1機目が突っ込み、また2機目がまだだったときには、「事故に違いない」と思っていた。でも、2機目が突っ込んでからは、ますます頭が白くなった。事故に違いない、でも続けて2機、隣接するWTCに偶然突っ込むはずがない。それに、もし旅客機がトラブルに陥ったとしても、わざわざ高層ビルに突っ込むはずがない。必死に回避するはずで、引っかかるぐらいのことはあっても、ど真ん中に命中するはずがない。しかも2機ともだ。狙ってやったとしか考えられない。
テロだ、と感じる。以前もWTCは爆破事件にさらされていて、狙われやすい象徴的なビルなのだ。でも、それ以前のオクラホマのテロのこともうっすらと覚えていて、このときは確か、国内の不満分子が犯人だったはず。ではこのテロも国内犯人? それにしては大がかりに過ぎる。
と思っていたら、ワシントンのペンタゴンに同じく旅客機が突っ込んだというニュースが飛び込んできて、映像も映った。ペンタゴンが燃えている。
しかし……
その時点で、僕のような素人でさえ、これはなんかおかしい、と感じていた。米国は世界最高の軍備を持っているのに、なぜ3か所も突っ込まれるのを阻止できないのか。ニューヨークは不意を突かれたとしても、ワシントンに突っ込まれるということはありえない。当時、リアルタイムで映像の中継を見ていた時点でさえ、そう感じた。
改めて3つのテロの時刻を調べてみると、
WTC1機目→午前8時46分(現地時間)
WTC2機目→午前9時3分
ペンタゴン→午前9時38分
となっている。1機目と2機目は17分の違い。でも17分あれば、スクランブル発進のファントム戦闘機がニューヨーク上空に到着するには十分な時間だ。2機目を撃墜することはできなくても、追尾していていいぐらいなのに、2機目もノーマークでWTCに突っ込んでいる。おかしい。しかし、ここまでは、不意を突かれた、でも説明できなくはない。
ペンタゴンの9時38分はどうしても説明できない。
最初のWTCから50分近くあれば、全米どこにでも空軍機が到着していいだろう。最初の2機がためらいもなくWTCに突っ込んでいることを考えれば、ほかの旅客機が少しでもおかしな挙動をすれば、すぐにでも撃墜しなければならない。それが防衛するということだ。しかも、ニューヨークが狙われたということは、ワシントン、それもホワイトハウスとペンタゴン(国防総省)はどうしても守らなければならない場所だ。シロウトの僕にもわかる。
そのペンタゴンに、旅客機が突っ込むのを阻止できなかった。
どう考えても、これは軍が正常ではない。米国に何が起こったのか。世界中の人がそう思った。
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この事件は、民間機がハイジャックされて、攻撃された。どこかの軍が攻撃を仕掛けたわけではない。猛烈な被害は出たけれど、これは事件か事故ではあっても、戦争とはいえない、というか、この時点では、映像を見ている僕たちの頭に「戦争」ということばはまったく浮かんでいなかった。ちょうど、交通事故を見て、戦争とは思わないように、ボクシングを見て戦争とは思わないように、戦争ということばが思い浮かぶ状況ではなく、せいぜい「犯人は誰なんだろう」ということだった。犯人はいるだろうが、それは戦争の相手というイメージにはなりようがなかった。
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正確な時刻は忘れたけれど、ほどなくブッシュがどこかの庭で記者会見した。その最初の記者会見で「やったのはイスラム原理主義者で、オサマ・ビンラディンだ。これは新しい時代の戦争だ」と宣言した。
この宣言には猛烈な違和感を感じた。
まず、ブッシュがなぜ脳天気にも屋外で記者会見しているのか。狙われる心配はないのか。確か米軍は、「エアフォース1」に大統領を載せて、ホワイトハウスなどを狙われるのを避けながら上空で指揮を行うはず。でなければ、ホワイトハウスなどの地下防空壕などにいるはずだ。なのに、ブッシュは晴天の屋外で記者会見をしている。脳天気な絵だった。
次に、なぜ犯人を名指してきるのか、まったくわからなかった。そもそもテロなのか、事故なのかもはっきりしていないときに、テロであって、犯人まで名指しできるのはどうしてか。
3つめに、ブッシュが戦争という言葉を使ったのも、猛烈な違和感だった。戦争というのは、相手が国か、それに準じる武装勢力の場合に使う言葉で、武器を持たず、民間航空機をハイジャックしたこの事件は、戦争とは呼ばないだろう。普通。それを戦争と呼べるのはなぜか。
テレビの解説者は、ブッシュが国民の不安を取り除くために、強い姿を見せたのだと行っていたものの、もしこれで「強い指導者で良かった」と思う国民がいるとしたら、アメリカ人はなんて単純なんだろうとも感じた。こんないい加減な説明で、安心するなんて。むしろ余計に不安にならないか?
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のちこの違和感は、9.11陰謀説の始まりになり、今もこの違和感は、解消されていない。
ブッシュが屋外で会見を行ったのは、これ以上のテロがないことをはっきり知っていたから、という以外に理由がない。知っていたと言うことは、つまりブッシュが犯人を知っていて、わかっていてやらせた可能性が高い。本当に不意打ちなら、屋外で会見を行うのは危険すぎる。
確かに犯人は明らかにされたけれど、20人と言われる犯人のうち、5人ぐらいは、偽名のパスポートを使っていて、本人はサウジアラビアなどに実在していることがわかっている。偽名だから仕方がないと言いたいのだろうが、それでは犯人がわかったことにはならない。そんな状況なのに、本当にあるかいだがやったと言える証拠は何か。実は、明確な証拠はいまもない。本当のことは隠されたままだ。
アルカイダ、オサマ・ビンラディンという犯人グループが、どうしてそんなに速く判明したのか、その説明もなかった。まるであらかじめわかっていたかのような印象を残したまま。
9.11はテロである。普通、テロは、戦争ではなく、事件として扱われ、警察が担当する。ブッシュが「戦争」と呼んだだめに(しかも、犯人もわからないうちから)、事件の翌日ぐらいからは、米国が、アルカイダをかくまっているアフガニスタンと戦争を始める、という話になっていた。なぜこれが「事件」として警察が扱うのではなく、戦争として軍が扱うのかが、まったくわからないままに。
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少し話を戻す。
この年、2001年1月に、共和党のブッシュJr.が大統領に就任。いまいち指導力がないぱっとしない大統領という印象だった。それから8か月後、9.11テロを境に、ブッシュの名声は一気に高まっていく。それまでの弱々しい、無能な印象から、戦争を指導する強い指導者であるか膿瘍に。その変貌ぶり自体が違和感だった。
ブッシュが政権につく前の8年間は、民主党のビル・クリントンが政権を担った。クリントンが就任したのは1993年。その2年前、冷戦が終結して、ソ連が崩壊し、米国は冷戦に勝利して「唯一の超大国」と呼ばれた。クリントンはクリーンで知的なイメージをひっさげて登場し、軍備縮小を宣言した。冷戦が終わり、米ソの核戦争の可能性もなくなり、世界はこれでついに平和で戦争がない時代を迎えた、まもなくやってくる21世紀はついに戦争が終わる時代であり、本当のパクス・アメリカーナ(アメリカによる平和)がやってくると世界中誰も感じていた。1990年代。
日本では、バブルが崩壊し、退却戦の厳しい時期を迎えたが、それでも戦争が遠のき、世界のリーダーアメリカがしっかりしてくれているなら、日本が厳しくても、ある意味、安心感があった。
2000年の大統領選挙で、クリントン政権の副大統領・ゴアと、ブッシュJr.が選挙戦を戦った。僕はバカっぽいブッシュの顔を見ているのがイヤだったし、当然ゴアが当選するものと思っていた。ブッシュが当選したあとも、投票のごまかしや選挙人登録の意図的なミスなどが報告されたものの、結局僅差でブッシュが勝ち、そもそもブッシュの大統領としての正当性も危うい印象だった。
その8か月後、9.11が起き、ブッシュは強い大統領として世界に君臨し、日本を含めた同盟国を強引に誘ったり恫喝したりして、アフガニスタンに侵攻。たちまちに席巻して勝利したかに見えた。さらに2003年、フセインが核兵器を開発している、アルカイダがいるといちゃもんをつけ、イラクに侵攻。世界中が一気に戦争の時代に入り、心が冷え冷えする。21世紀に入っても、戦争はなくならなかった。どころか、ますますひどい戦争になった。何がひどいか。
強い2者が闘う戦争もひどい。消耗戦になる。
強い国と、非常に弱い国が闘う戦争はどうなるか。
一方的な虐殺になる。アフガンでもイラクでも、9.11後に数百万人と言われる人がアメリカと同盟軍によって殺された。ほとんどが非戦闘員である。日本もアメリカの同盟国としてこの戦争に参画し、殺戮に協力し、それ以前に相手国から受けてきた尊敬をすべて失った。
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さて、ここから世界はどのように進んでいくのだろう。
米国はイラクから撤退中だが、これはどういいつくろっても敗北である。
オバマはイラクよりアフガン、といっているが、これも敗北は目に見えている。
アフガンは、過去100年、イギリス、ソ連、米国と侵攻したが、侵攻した強い国は結局国力をすり減らして、衰退している。
米国は、ソ連がアフガン侵攻で衰退して自滅したことにより、唯一の超大国になったのに、そのアフガンに侵攻して、結局米国も自滅している。恐るべしアフガン。
9.11以降の動きを見ると、米国は、予想がつく敗北に自ら入っていったとしか思えない。田中宇は、自滅による多極化戦略と分析する。
自滅する米国。
その米国に、日本は今もべったりくっついて離れようとしない。いや、日本の外務省は、それしか考えられない組織だから、そうなっている。
自滅する米国に必死にしがみついていていいのか?
来週の民主党選挙は、これを問う選挙でもある。
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