(by paco)471知恵市場を総括する

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(by paco)先週、知恵市場をフェードアウトさせようかという話を書いたのですが、どうしようかなといろいろ考えているところです。

そこで、どうするにせよ、このタイミングで知恵市場でやってきたこと総括しておくのはよいことだと思い、書いてみることにしました。

■知恵市場は、知恵の自由市場

昔話になりますが、知恵市場の出発点は、1997年頃、高橋Toshiさんが当時のパソコン通信「NIFTY SERVE」で出会ったメンバーを中心に、何かやろうと仕掛けたことが始まりです。そのまえに、Toshiさんはグロービスでネットを使ったコミュニティのチャレンジをしていて、GNETというフォーラムをNIFTY SERVEないに運営していました。会社の方針もあって、GNETを閉じてインターネットに移行するというタイミングに、グロービスと言うよりは、もっと幅広いテーマで集まっていたコミュニティを独立させて何かできないかと言うことになり、僕を含めて30名ほどが集まって、ネット上で激論が戦わされました。

その中でコンセプトが磨かれ、最後までそれに賛同したのが、Toshiさんと、僕と、阪本啓一さん(Surfrider)でした。

このときのコンセプトは、ざっくり以下の通りです。

(1)ネット上に人が集まって、インタラクティブに知恵が生み出されることを実証しよう。
(2)新聞やテレビなど、既存のメディアでは流され本当の情報がやりとりされる場を作ろう。
(3)つまり、知恵が交換される場をつくり、いろんな人が大道芸のように知恵の創造を行い、それに対してお金も含めた価値がやりとりされる仕組みをつくろう。
(4)できれば、これらがビジネスとしてまわり、金銭的にも持続可能にしよう。

(1)は今の時点ではなんでわざわざ目標の1に掲げる必要があるのか、というほど現実のものになっていますが、当時は、パソコン通信・インターネットは「オタクのくだらないおしゃべりの場」という理解が中心で、まともな情報が交換されたり、まして創造されることはない、というのが多くの人の常識だったのです。この目標に対して、知恵市場では、メーリングリストで毎月テーマを決めてディスカッションを行い、そこでの成果をまとめた「知恵市場エッセンス」というメルマガを発行して、集約することで実現しました。非常に先進的な試みだったと思います。

(2)については、今も変わらず知恵市場の問題式の中心のひとつですが、これは今のタイミングでは<おとなの社会科>のテーマとして、結実してます。もちろん、知恵市場でも一貫して行ってきました。コミトンで書いてきたことも、メディアであたりまえのように言われていることを疑い、どう考えるべきなのかを探ること、に尽きると思います。

(3)は、(1)にあるとおり、当初はメーリングリストでリアルタイムに行ってきましたが、のちに今の知恵市場の形にリニュアルして、セレクトされた人がセレクトされた情報を発信することで、知恵の交換を行う、形に変えました。ここが思うように昨日しなかったのは、僕の失敗のひとつです。

(4)のために、上記のメルマガ「エッセンス」を有料版で発行し、今はこれをコミトンという名称のwebマガジンにしたのですが、ビジネス的な成功と得るような状況には到達できませんでした。これも、失敗です。

■知恵の交換の失敗

知恵の交換は、ML上でやっていたときは、一定の成果を上げられたと思います。というか、思っていた以上の成果と言ってもいいでしょう。

今考えても、とてもハイレベルのやりとりが活発に行われ、エッセンスにまとまったものも、知恵の集約ができていました。

しかし、実際にそれを運営し続けるには、運営者側にも、参加者側にも大きな負荷がかかり、結局は数年で終演させることになりました。また参加者も、次第に負荷がかかって、長期間続けることは難しいモデルだったのだと思います。

金銭的な報酬があればできたのか。

確かにもし十分な収入があれば、状況が違っていたかもしれません。しかし、おそらく、結果は変わらなかったでしょう。それは、このしくみの構造的な欠陥によるものです。

ネット上のディスカッションが活性化し、内容の濃いやりとりが多くなれば、それだけ、(無償の)参加者に多くのアウトプットをしてもらっていることになります。同時に、あまり発言をしないで聞いているだけの人(ROM)も多くいて、この人たちも知恵市場のメンバーと位置づけて、歓迎していたのですが、有料版を発行していくと、矛盾が生じてきました。

有料版を買っている人は、MLでも多く発言する人になります。つまり、議論にしっかり参加していたので、まとめを読みたい、というニーズです。発言のモチベーションも、受信のモチベーションも高い人たち。しかし、エッセンスという有料コンテンツは、この発信する参加者によってつくられている構造になっていたので、彼らにとって見ると、ただでML上で情報発信した上に、有料でそのまとめを買う、という関係になりました。

だからといって、この「発信する参加者」が不満が多かったわけではなく、買ってくれていたのですが、しかし僕らとしては、いちばん貢献してくれた人に多く返すのではなく、さらに金も取る、という関係が濃くなっていくことに、矛盾を感じざるを得ませんでした。

本来であれば、積極的なひとには無料でメルマガを読んでもらい、ROMの人たちに有料で買ってもらう構造が想定されていたのですが、残念ながら、こういう流れにはなりませんでした。

ここが、僕の仮説の失敗です。

知恵の交換そのものは成功したものの、それに対する報酬の支払いや現金化に失敗した、ということです。

■有料メルマガの失敗

よいコンテンツをつってそれを必要としている人に提供し、対価をもらって運営する。という本来のメディアの形を、インターネットという新しい世界で実現したいという思いはありました。

このため、値付けを低価格にして、値段を理由に買わない、ということの内容に設定しました。月額500円を出せないビジネスパースンはいない、という仮説のもとに設定したわけです。当時は紙媒体が主流だったので、「髪を刈っているのか、コンテンツを買っているのか」という問いに対する答え探しでもありました。

有料版の売上は、最大で1000件(人)程度、現状は、200名程度です。

1000名は、確かにひとつの到達ポイントでした。これは行けるかも、という気持ちにもなりました。しかし、それ以上に伸びなかった。伸びないことがわかってきました。無料版のメルマガの読者の増加が頭打ちになり、MLへの参加者数も頭打ちになりました。母数が増えなければ、有料版への移行も増えないし、当初、有料版の告知と有料をしっかりやると言っていた@niftyやまぐまぐプレミアム(有料版発行サービス)も、結局はあまり役に立たず、伸ばすことができませんでした。ほかにも、Kスクエア(僕が関わっていたQ&Aサイト)など複数の場所でコンテンツの販売実験を行ったのですが、結局有料版単独で伸ばすこともできませんでした。月額課金、単品のコンテンツ売り、類似の内容をセットにしたセット売り、割引パックなどを試みましたが、いずれも失敗しました。

インターネットは発展し続け、テレビのチャンネルが増えて、「これからはコンテンツビジネスの時代だ」と言われ続けたのですが、残念ながら、知恵市場ようなまじめで堅いコンテンツがその主役になることはありませんでした。

途中、神保哲生氏の「マル激 トークオンデマンド」が始まり、結果的に、こちらは、宮台真司の参加もあって、営業的に成功しているとのこと。コンテンツの質では負けていない自負はありましたが、知名度や深めの下限など、何らかの理由で同じ道は進めませんでした。

ただ、こういった(まじめ系の)有料コンテンツで成功したところは、ごく限られていることを考えると、僕らが努力不足だったとはいえないと思っています。

現在も、有料コンテンツの中心は、エロ系、ギャンブル系が中心で、そこに音楽とビデオコンテンツが入ってきましたが、これらは紙やCD、DVDをネット上にメディア変換しただけで、ネットならではのコンテンツ生成を行っているわけではありません。

ネット小説やブログの書籍化などの逆流現象で課金に成功したところはありますが、それも新しい事業領域を切りひらくまでには至っていません。

結局、ネットのビジネスは、広告モデルに限定され、ネット独自の課金モデルを実用できたところは、今に至るまでなかったと考えると、知恵市場の失敗も決して僕らの努力不足とはいえないと思います。ただ、失敗は失敗です。

■ブログによる知恵の交換の失敗

MLでの議論が次第に下火になり、あらたに構想したのが、ブログによる情報交換です。MLはリアルタイムに近く、その結果、保存が利きにくいし、コンテンツの密度も薄いので読んでも価値や意味が抽出しにくい。そこで、ブログという形にして、ある程度まとまりのあるコンテンツを、書く能力のある人に限定して書いてもらい、そこにコメントやトラックバックを張り巡らせることで、質と密度とインタラクティブ性のある知恵の交換ができるのではないか、と思い、つくったのが、今の知恵市場サイトです。

知恵市場当初のねらいである

(1)ネット上に人が集まって、インタラクティブに知恵が生み出されることを実証しよう

はMLより、ブログのコメントとトラックバックの方がふさわしい、と思えました。そのために、サイトをリニュアルし、バックヤードでプログラムを組んで(100万円以上を投資して)、今の知恵市場の仕組みをつくりました。

滑り出しは理想に近く、いい感じに進められていたのですが、ひとつ落とし穴がありました。

スパムコメントとスパムトラックバックが増えてしまい、知恵市場内の記事相互や、外のブログとの、有効なリンケージができなくなってしまったのです。当初は手動でスパム削除をして、本来のリン系じをしナップスのように張り巡らせる努力をしたのですが、すぐに破綻しました。

結果、コメントもトラックバックも、受け付けられなくなり、ねらいは破綻しました。

おそらく、Mixiのコミュ機能を使えば、ねらいに近いことができたのではないかと思いますが、一方で、Mixiはメンバーがクローズドで検索から新しい読者に来てもらうこともできないため、開かれた場をつくりたいという僕の希望には合いませんでした。もし、Mixiが当初からマイスペース程度の公開性を持っていれば、もしかしたらMixi上で知恵市場ができたかもしれませんが、Mixiでは有料課金ができないので、いずれにせよ、トータルでは知恵市場の理念が実現されることはなかったでしょう。

 ★ ★ ★

ということで、ざっくり振り返って、知恵市場の達成と失敗をまとめてみました。

まあ、全体として、挫折と言っていいと思います。

ただ、ぼくにとっては知恵市場から得たものはあまりに大きく、もちろんやってきたことはまったく後悔していないし、投下したリソースより、リターンのほうがはるかに大きかったのは間違いありません。知恵市場なしに、僕の今はありません。

その上で、知恵市場の理念をこれからどう残し、発展させていくのか。そして知恵市場のねらいだった

(2)新聞やテレビなど、既存のメディアでは流され本当の情報がやりとりされる場を作ろう。

については、<おとなの社会科>という形で、新たな発展を見ています。

ほかのねらいについて、どう引き継ぎ、形を変えて発展を狙えばいいのか、これからまた考えてみます。

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