(by paco)参議院選挙で民主党が負け、みんなの党が躍進した、ということになっています。といっても、みんなの党は参議院でやっと11議席、衆議院で5人の少数政党であることには代わりありません。
とは言うものの、一気に10議席を伸ばした今回の参院選挙の結果は、躍進と言っていいでしょう。
そのみんなの党は、マニフェストではなく、アジェンダという名称で政策を提示しています。「わかりやすい」「新しい」と何となく評価の高いみんなの党ですが、僕はけっこう危うさを感じていて、今週はそんな話をします。
最大の危うさは、「わかりやすさ」の中にあります。
★ ★ ★
参院選に勝って、政権のキャスティングボードを握るようなポジションにあるみんなの党ですが、民主党をかなり激しく批判し、アジェンダを共有できないなら、政策協調はしないと言っています。
東京選挙区から当選した松田公太議員は、インタビューで「アジェンダに合意するかどうかは、企業理念を共有できるかというのと同じ。共有できないようなら、企業合併も成功しない」と説明しています。
ちなみに松田議員はタリーズコーヒーを創業して成功させ(すでに辞職)、ホリエモンとも交流がある、40代の(元)経営者です。
http://www.your-party.jp/members/sangiin/matsudakouta.html
有権者の多くがビジネスパースンである現在、この話は一見分かりやすく、歯切れよく聞こえます。しかし、よく見ると、「アジェンダの合意」というのは、みんなの党のアジェンダに合意することを、政策協調の踏み絵にしているという意味であり、自分は変えないけれど、あんたたちが変えるなら協調する、というとてもタカピーな言い方です。しかも、相手の民主党は、負けたとはいえ最大政党で、参議院では300議席を持ち、国民の支持をいちばん受けているのは間違いない。
企業の合併でも、一方の企業理念を押しつける合併というのはなく、合併後の新しい起業をどうするか、合意できるかどうかの協議をするのがあたりまえで、まして、小さな起業のほうが大きな企業の経営理念を曲げさせる、というのは、おかしな話です。
みんなの党の主張はわかりやすい、というのが評価ではありますが、わかりやすさのウラには、これまでの政党が言わなかったことがある、ということでもありますが、同時に、それは現実的に違うんじゃないの、ということでもあるわけです。
大事な理解は、政治は企業経営とは違う、ということです。
企業経営は、特定の目的のために集まった社会の中の小規模集団です。誰が参加し、どのように運営するかは、自由だけれど、それはあくまで小規模集団だから認められることです。
政治は、国や自治体を運営するしくみです。企業と違うのは、そこにある個人が参加するかどうかを自主的に選べないし、選ばないことが当然だだという点です。
日本に生まれれ、日本人の良心を持っていれば、自動的に日本国民になり、通常は田国民になることはできません。これは他の国でも事情は同じです。一方企業は、どの企業に入るか、別の企業に転職するか、自由に選べるし、実際的な選択肢があります。だからこそ、各企業は経営理念を明確にし、仕事内容と報酬を示して、自分たちに見合う人を仲間に取り入れようとするし、あわない人を排除することが許されます。
国や自治体は、考えが合わないからと言って、排除することは許されないし、もちろん、考えが合わない個人にとって、国を変える選択肢はありません(政治亡命や難民など、例外はありますが)。
松田議員のような企業経営者が政治に参画すること自体は、歓迎すべきことです。しかし、企業の経営と国の経営を同一視している発言には、とても違和感を感じるし、誰か間違いを修正してやって、といいたくなります。
★ ★ ★
次に、経済運営についてみてみます。自民党、民主党が消費税増税を掲げて選挙を戦ったのに対して、みんなの党は消費税を上げずに、経済を活性化することで税収を上げるという政策を掲げています。どちらがいいか、という結論は、今のところ僕には不明なので、結論の話ではありません。
みんなの党は、経済活性化のためには法人税率を下げる、といっています。現在、最高税率が40%程度なのに対して、20%以下に下げる、というわけです。
一例として、シンガポールや香港の法人税が15?18%であり、このままでは主要企業はこういった地域に本社を移してしまう、というわけです。税率が高いと、稼いでも投資に回る量が少なく、企業の業績が上がらない。業績が上がらないと社員への支払いも上がらない、というロジックです。説得力がありそうに見えます。
しかし、本当にそうなのか。
法人税率を下げて企業が投資や従業員への分配に回せばいいのかもしれませんが、収益分を資本家への配当に回したらどうなるか。あるいは、投資にばかり回して、従業員に配分しなければどうなるか。
資本家に回せば、国全体としてみれば貧富の差の拡大につながります。そこに個人の所得税率の引き下げも加え得れば、米国のブッシュJr.政権がやったように、貧富の差が広がり、先進国なのに、たくさんの貧困者を抱えることになるという実例があります。この点について、みんなの党が党答えるのか。あるいは、経営者としての松田議員がどう答えるのか。
また、資本家への還元ではなく、投資に回ったとしても、その投資から得る利益が従業員に還元さえれる保証はありません。企業の資産がふくらむばかりで、従業員に回るかどうかは、分かりません。従業員に回さないと、ペナルティがあるような仕組みをつくらなければ、企業経営者は従業員には払わない可能性が高いのです。それゆえ、「最低賃金制度」があるわけですが、最低賃金が従業員の生活を成り立たせるのに十分な金額であるとはとてもいえないのが現状です。
もちろん、民主党の言うように、増税分を戦略産業への国家投資にあてて産業を育成し、増税して最低賃金を上げて、個人購買力を上げる、という政策がうまくいくか、かどうか、僕には正直よくわかりません。しかし、みんなの党のいう政策は、小泉政権の政策そのものであり、ブッシュJr.政権の政策と同じように見え、その結果をどう克服できるのかを示さなければ、歴史に学んだ主張とはいえないでしょう。
問題なのは、みんなの党の政策そのものではなく、一見して分かりやすい政策を、安易に受け入れてしまいがちな国民の見識です。
これを、よく「衆愚政治」とか「ポピュリズム」といい、大衆の知性の乏しさが、見た目だけのよい政策を支持してしまい、誤った方向に導いてしまうことを指すのですが、そのような方向にならないように注意深く見て、行動する必要があります。
★ ★ ★
上記の点でみんなの党に近いのが自民党で、当選した佐藤ゆかり議員は、日本の国際競争力が17位から27位に後退したことを問題にしていています。
国の国際競争力が落ちることは、ゆゆしき時代のように感じます。でもそうなのか。
国際競争力とは、スイスのビジネススクール「IMD」(国際経営開発研究所)が発表しているもので、IMDはグロービスの堀さんが目標にしている、「社会認知型ビジネススクール」の草分けです。上記の順位後退はIMDが発表している「2010年世界競争力年鑑」によるものです。
ではこの国際競争力とは何を表す指標かというと、海外企業が投資を行うときに、投資しやすく、投資効果が高い国や地域かどうかを数値化しているものです。
海外から魅力的に見えているということではありますが、それが本当によいことなのか。たとえば、1990年頃、日本がバブル経済頂点で米国経済が落ち込んでいたときには、日本企業がこぞって米国の不動産や企業を買収し、投資しました。その結果、米国からは日本がアメリカ経済を買いに来たと、非難を浴びました。海外からの投資は、国内から見れば、海外からの日本買いに見えるわけで、それを手放しでよろこぶべきかどうか、もう一度考えるべき時です。投資を受ければ、その投資によって得た利益は出資国に還元されます。ハゲタカファンドが出資したと非難を受けた新生銀行再生のときのことを考えれば、外国からの投資をどう理解するかは、そう単純ではないことが分かると思います。
もうひとつは、日本には今、カネが余っているという点です。外国からの投資が有効なのは、国内に資金が不足して、市場を開拓したいが資本がないときでしょう。今の日本は決して資本が不足しているわけではなく、資本を投じる対象が不足しています。魅力的な事業対象がないことが、国際競争力を下げた理由のひとつなのは事実でしょうが、少なくとも、今の日本では、外資を積極的に受け入れる必然性があるわけではないでしょう。
さらに、円高であることも国際競争力の低下と関係あるのではないかと思います(国際競争力指標に為替相場が影響を与えているのかは分かりませんが)。円高になれば、1ドルで投資できる円は少なくなるわけで、日本に投資するときには円高だと、不利になります。もちろん、投資の回収時点では、逆に働くので、為替相場は国際競争力指標にはニュートラルに働いているのかもしれませんが、少なくとも言えるのは、今の日本の円高は、経済の低迷と比較するとアンバランスな状況ではないかと思えるので、こういった状況が国際競争力に影響しているということは言えるでしょう。
僕自身は、国際競争力が下がったことを問題にするよりは、僕は国民の生活意識、豊かさや生活の安心感の意識が下がっていることの方が、よほど問題だと感じます。
「国際競争力が10位も下がった」と言えば、とんでもない問題のように感じるかもしれません。しかし、何が問題なのかは、注意深く考える必要があります。国際競争力という指標を重視すること事態、社会を見るパラダイムが古いのではないかと感じます。
★ ★ ★
ということで、今回は政党の経済政策をどう読み解くかについて考えてみました。僕はこの分野の専門家ではないので、どれが正しいか判断は難しいのですが、あなたの判断の参考にしてもらえればと思います。
★ ★ ★
さて、政治の話はここまでで、最後に、ご相談。
この有料版知恵市場と、無料版知恵市場、両方ですが、そろそろフェードアウトにしようかと思っています。
まだ決めたわけではないのですが、コンテンツの面でも顧客の面でも固定化し、存在意義が薄くなっていると感じています。
有料版は終了、無料版はコンテンツ更新をやめる方向で検討中です。その後どうするかについても、あわせて考えているところですが、まったくの白紙です。<おとなの社会科>との関係をどうするかも、大事なポイントです。
また決めたわけではないので、気が変るかもしれませんが、近いうちに結論を出すべきかなと思っています。
これについて、意見などあれば、ぜひお聞かせください。
paco@suizockanbunko.com
よろしくお願いします。
コメントする