(by paco)今週は、6月第5週なので、休載の日ですが、ちょっと短い記事を書きます。
最近、いろいろな方面で脳の研究が進んでいて、びっくりするようなことがわかってきているので、そんな話を少し。これから書くことは、まだはっきりしないことも多いので、十分説明がつかないかも知れませんが、決してウソではありません、テレビ番組や雑誌などで、取材されているものです。
◆脳は「成長」する
以前は、脳は、生まれて7すぐに持って生まれた細胞数のままで、あとは時間とともに減っていくだけ(死んでいくだけ)と言われていました。また、脳は、3分の1しか使われていない、という説もありました。しかしだんだんこの説があやしくなってきています。
細胞数の方は研究がまだ十分ではないのですが、脳の成長、活性化とは、細胞数ではなく、ニューロン(脳細胞の枝のようなもので、ほかの脳細胞と接続して情報交換する)の接続数だということがわかってきて、細胞数がどうなろうと、ニューロンの接続は個体が死ぬまで成長し続けるらしい。つまり、90歳でも100歳でも、またどれほど脳にダメージを受けようと、成長したり、回復したりする可能性持っているのが脳だということです。
脳卒中で左半球に大きなダメージを受けた脳科学者の記録があります。彼女は、左半球のダメージのために言語能力を失うのですが、その後、彼女の母親による支援、というか、二人のやりとりの相互作用の結果、言語能力を取り戻し、話し、書く力が回復するのです。
もともと脳科学者ですから、非常に論理的な脳を持っていたわけですが、左脳にダメージを受けて結果、いったん論理性を失ってしまいます。しかし、母親との「訓練」の結果、言葉や数概念、論理の多くを回復して、脳科学の知見をもとにした講演を数多く行えるまでになります。研究の結果、彼女は残った右脳を使って言語や論理思考を回復したとのことで、脳は驚異的な可塑性(あとから変更できる力)を持っていることがわかってきました。いてみれば、足が手のように自由に動くようになった、という感じです。
そんな彼女が、脳卒中で倒れてから意識を回復するまでの間に、極彩色の夢を見ていて幸福感の中にあったとか、論理性を回復したと行っても、以前とは違う、かなり自由な飛躍を持った論理性だとか。もしかしたら、普通の人は左脳が右脳の自由な発想を押さえているのかも知れません。
先天性や後天性(幼い頃の高熱など)の知的障害があっても、訓練によって、知的能力をある程度回復する例もわかってきていて、何らかの理由で脳の能力が機能しなくても、回復や、あるいはそれ以上の機能になる可能性さえ秘めていることがわかってきたのです。
◆昏睡中でも脳は「生活」している。
「昏睡days」という本がありまして、読み始めています。著者は大学生のときのある日、突然くも膜下出血に襲われて昏睡状態に陥り、一時は命も危ぶまれたものの、数週間後、奇跡的に意識を取り戻します。
その後、彼女が話し、そして本に書いたことは、驚くべきことでした。意識を失って昏睡中、彼女は倒れた朝そのままに、日常生活を送っていたのです。夜、頭痛がして「早く寝よう」と寝て(その時、彼女はくも膜下出血でベッドサイドに倒れていた)、その後、彼女は普通に目ざめて大学に行き、友だちに会い、アルバイトにも行って、普通に生活し、そして普通以上の楽しく暮らしていた、というのです。
親やともだちは、彼女を見舞い、昏睡しているのをみて、かわいそうに、苦しいのかも、と思っていたわけですが、本人はいたって脳天気に日常生活を送っていた。
で、その後、彼女はじょじょに意識を回復するのですが、それからの方が苦しみが襲ってくるわけです。体が自由に動かない、脳にダメージを受けて自分の意思がはっきりしない、不安が押し寄せてくる、つらいリハビリなど。
現実より、昏睡状態の方が幸せだった、のかも。体がどうであれ、脳というのはそれ時代永遠の製を生きることができるのかも知れません。人間の認識というのは、すべて脳の中で行われます。見るもの、聞くもの、すべて、光や音そのものを認識しているのではなく、いったん脳で情報処理して、世界を再構築して認識している。だったら、その再構築する能力さえ機能していれば、脳にとっては昏睡でもあるいは死でも、幸せな製なのかも知れません。このあたりを書いたのが、村上春樹の小説「世界の終わりとハードボイルドワンダーランド」で、その中の「世界の終わり」の章が、すべて主人公の脳の中の永遠の日常、ということになっています。まさにまさに。
長期間、昏睡状態の人が、突然目ざめたり、また昏睡したりということもわかってきました。数年間植物状態に陥った人が、外からの刺激(体を動かしたり、言葉掛けなど)で目ざめたり、ある種の薬を飲ませると、しゃきっと目ざめ、まるで毎日そうであるかのように、家族と庭で食事を楽しみ、フリスビーをして遊び、また数時間後に昏睡状態になる、ということもあります。薬は、なんだかわかりませんが、それ用のものではなく、頭痛薬とかそういうよく使われているもので、なぜその薬によって目ざめるのか、なぜ数時間でまた昏睡してしまうのか、まったくわかっていない。ただ、起きると普通の人だということみたいです。
★ ★ ★
脳って本当に不思議です。まだまだ、きっと不思議なことがあるのでしょう、僕らの常識をぶちこわしてくれるような。
コメントする