(by paco)先週に続き、地域活性化のアプローチについて書きます。
「田舎ビジネスとグローバルビジネスとの対比を見た上で、ここに僕は「Japan Cool」という概念を加えることで、田舎ビジネスに新しいポテンシャルを見出しているのですが、それについては、来週書きたいと思います。」
と予告して、先週終わったのですが、「Japan Cool」という言葉は知ってますか? <おとなの社会科>セミナーのときに話したら、意外に認知度が低かったので、ちょっと意外だったのですが、あなたはどうでしょうか。
Japan Coolとは、今の日本にある、わりと身近な文化について、「日本はかっこいい」という印象で世界から受け取られているという言葉で、北米、欧州、東アジア、南米、さらにロシアや中東、アフリカに至るまで、世界のあちこちで、日本の現代文化に対して高い評価がなされています。
具体的に「かっこいい」ものととして、もっとも代表的なのは、寿司でしょう。Sushiという言葉がそのまま世界中で流通するようになっているし、Raw Fishつまり刺身の代名詞としても機能していて、「生の魚」を著す単語がわからないような国でも、Sushiといえばわかってもらえることが多いようです。
Sushiのどこに、世界がcoolを感じているかというと、他の国にはない独自の食文化であるというのはもちろんですが、ヘルシーでローカロリーな点、そしていたみやすい生の魚を酢で締めた米で持ちをよくするという合理的な工夫とか、色彩や形が美しく、様式化されている点も好評価です。さらに寿司ネタとしてさまざまな魚が使えるだけでなく、サラダや生ハム、豚トロなど多くの食材を受け入れるクロスオーバーなところも、伝統とハイテクを共存させている日本文化の代表格という理解のようです。さらにいえば、回転寿司のような大衆的な食べ方から、一見さんお断りの店もある奥深さも、coolの理由なのでしょう。もっとも、カウンターで注文する本来の寿司屋より回転寿司の方が高級だと思っている外国人も多いようなので、このあたりは誤解もあるはずです。
Japan Coolの例をさらにあげましょう。
アニメやコミックが評価されていることは知っている人が多いと思いますが、その評価の深さもかなり奥行きがあります。はじめは、ガンダムやエバンゲリオンに代表されるような、精緻なメカなどに興味が集まっていたわけですが、次第に理解が深まり、こういった作品の世界観そのものが評価されるようになりました。コミックは、欧米人から見ればもともとは「こどものもの」といった認識なのですが、日本のアニメ・コミックは、深く、精緻な世界観がベースになっていて、ギリシャ神話やグリム童話などに劣らない、というよりそれらを越える背景を持っていることに、興味をそそられているようです。さらに、日本の作品によく見られるのは「複雑な物語展開」で、単純な善悪二元論をとらず、中間領域や多面的な見方を含ませて、曖昧さの中に人間の本質を見せるような作品が多いことも、新鮮に映っています。鉄腕アトムは、初期の作品ではアトムが悪事を働く人間と戦って勝利するという勧善懲悪型だったわけですが、後期になると、ロボットが、自分の「創造主」である人間を殺していいのか、ロボット同士で「殺し」合うことはいいことなのか、といった哲学的なテーマに、アトムが悩むようになります。
米国では、ハリウッドの大作が必ずそうであるように、善と悪が明確にあり、悪が最後に打ち負かされるのは当然という善悪二元論で単純に世界を切り分けるメンタリティが支配的でした。しかしその米国も、今世紀に入って9.11テロで悪の挑戦を受け、しかし挑戦を受ける理由のひとつに、米国自身の世界に対する理不尽な行いがある、ということが次第にわかってきて、世界が善悪二元論では説明がつかないことに、ようやく気がつくようになります。これは日本人から見れば「何をいまさら……」という感じですが、米国人にとっては中間を認める日本文化は新鮮で、世界を捉えるための重要な示唆を与えていると考えられるようになってきました。
中間を認め曖昧さ、しかしだからこそ人間社会の奥深さを感じさせる日本のアニメ作品は、単にメカやアニメテクニックで評価されているわけではないし、日本発の世界観が世界に受け入れられることを通じて、世界の文化そのものにも影響を与えているのです。
もうひとつれをあげれば、ファッション、特に若い世代のストリートファッションです。ファッションの中心地として、パリやニューヨークとともに東京の名前が挙がるようになったのは20年以上前からですが、今世紀に入って特に、日本のストリートファッションに注目が集まっています。パリやニューヨーク、ミラノなどのファッションは、特定のセンシティブな人たち(要するに金持ち)がリードしているという理解なのに対して、日本でファッションをリードしているのは、原宿や澁谷に代表される「庶民の町」に集まる若い世代で、お金をかけずにグローバルブランドのベーシックな服を巧みに組み合わせ、さらに古着までもうまく使って、おしゃれを自然に楽しんでいることこそがcoolなのです。
ほかにも、J-POP、ゲーム(ビデオゲームだけでなく、カードゲームやボードゲーム)、料理、小説など、さまざまな現代日本文化がJapan Coolとして、海外で高い評価を得るようになっているのです。
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さて、すっかり説明が長くなってしまいました。田舎ビジネスを考えるときに、地域のリソースとしての農業やクラフトを軸にすることは重要だし、地域にすでにいる人間のリソースをいかに活かすかが重要、という話を前回したのですが、ここにJapan Coolの要素を加えると、田舎ビジネスが東京をとばして、ダイレクトに世界につながるようになります。
僕のセカンドハウスがある山梨県北杜市の明野町には、「ハイジの村」という、かつて県と国が中心に出資してつくった小さなテーマパーク(公園)があります。バラなど花を中心にしたところなのですが、ここでコスプレイベントが開催されるようになりました。東京などからバスでコスプレ愛好者が集まり、思い思いのコスプレで、ファンタジックな園内で写真を撮って楽しむ、というイベントです。
そこそこ広い園内は、チロリアンなデザインで統一されているし(ま、薄っぺらな感じではありますが、そこがまたコスプレチック)、花が咲き乱れているのでコスプレの写真を撮るにはぴったりだし、夜はライトアップした中世ヨーロッパ風の建物の前で、剣士のコスプレで戦っている雰囲気、というのも、はまりがいい。
コスプレは、アニメ文化のひとつとして世界中に広がっていて、アジアはもちろん、米国や欧州にもコスプレイヤーはたくさんいます。発祥の地・日本ではどこかオタクの、秘めたる趣味といったイメージがありますが、海外では趣味のひとつとして堂々と楽しまれていて、米国でもスイスでも、コスプレイヤー代表の中川翔子のイベントに数千人が集まる、といった状況です。
県や自治体の金を使ってつくったテーマパークですが、そのままでは入場者が集まらず、赤字を垂れ流したあげく、廃園、というパターンが多いのですが、コスプレを軸に再活性化を図るというモデルは、これからの田舎ビジネスの可能性を感じさせるモノでした。
でした、と過去形にしたのは、実は中止になってしまったのです。次第に人気が集まり、順調に参加者が増えていたようなのですが、どうやら頭の硬い人たちが文句をいったらしく、中止になったとのこと。こういう頭の硬い人たちに、しょこたんの海外イベントにどれだけコスプレーヤーが集まり、人気が高いのか、Japan Coolがどれほど評価されているのか、教える人がいなかったのはとても残念なことです。
このイベントは中止になってしまいましたが、可能性の大きさは示されました。
田舎ビジネスのマーケットを、周辺の都市との人やモノの往復ときめる理由はありません。実は、田舎から、東京を飛び越して、いきなり世界とつながって、世界から田舎ビジネスを利用し、楽しみに来る例がじょじょに出てきているのです。
そのひとつの例に、北海道の、昭和新山で有名な壮瞥(そうべつ)町で毎年開かれる「昭和新山国際雪合戦」があります。真冬、観光客が途絶える季節に、雪合戦をスポーツとして楽しもうという手作りの企画が発展して、今では3000人の町に3万人の客を集めるまでになっています。この大会に集まるのは、国内のみならず、フィンランドなどのウィンタースポーツの国々、さらにオーストラリアなど、季節が反対の国からも参加者や観客が集まり、首都を通り越して、海外とダイレクトにつながる田舎ビジネスに育っているのです。
この国際雪合戦には、地元の人の多くがスタッフとして参加していて、使用する機具なども地元の町工場や大工さんが開発するなど、まさに地域の知恵と技、人が結集して、世界から人が毎年集まる状況を生み出しているというのが、先進的です。いちばん「厳しい時期」を楽しんでしまおうという日本人のメンタリティは、Japan Coolの一例として理解されていると言えるでしょう。
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田舎ビジネスは、グローバルビジネスと違って世界をマーケットにすることが必須、というわけではありませんが、世界とつながっていけないということもありません。
グローバルビジネスでは、標準化によって世界を均質にしてしまうデメリットがありますが、国際雪合戦のように日本発の手作りイベントに世界が共鳴すれば、地域の独自性を残しながら世界とつながることができ、田舎ビジネスのマーケットは広がるのです。
農産物を取ってみても、すこし前は日本の農産物は価格競争に負けて縮小する一方でしたが、ブランド米やリンゴやミカンなどの果物、ホタテなどの海産物が輸出され、評価を受けるようになってきました。行き先のパターンとしては、香港や上海、台湾など、中華圏の南のほうが中心で、日本の寒い地域で撮れた高品質な農産物を、りんごなどが珍しい南の人たちに高級食材として食べてもらう、というねらいが実を結ぶようになりました。アジアの発展に伴って経済力のある富裕層が増えたことも、マーケットの拡大につながっているし、日本の食材の安全性も高い評価になっています。
この例も、東京の人は知らなくても、海外の人は知っているという点で、海外とダイレクトにつながる田舎ビジネスといえます。
Japan Coolという日本に対する高評価は、大都市発のグローバルビジネスより、田舎ビジネスとセットにした方が、さらなる評価がされやすいと考えられます。前述のコスプレ大会も、海外に情報発信し(インターネットで各国語版をつくり、来訪の仕方を案内すればよい)、コスプレイヤーを集めれば、大きな大会にできたはずです。成田や羽田から山梨に来るのではなく、セントリアや長野空港につくチャーター便を出して海外客を集めれば、さらに21世紀らしい田舎ビジネスになるでしょう。
田舎ビジネスを起こして地域を活性化してみたいと考える人は、ぜひJapan Coolの要素を組み込むことを考えてください。島根県がゲゲゲの鬼太郎をモチーフに採用し、空港を鬼太郎空港と命名したようなことを、さらに積極的に行って、海外に発信すればよいのです。
地方はダメだといじけている場合ではありません。日本がクールとして注目されている今こそ、地方が世界とつながり、オリジナリティある活性化を狙うチャンスなのです。
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