(by paco)459普天間問題をどう読み解くか

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(by paco)普天間問題で鳩山政権が、というより、鳩山首相が「座礁」しています。メディアの報道を見ると、なんだか鳩山はただのアホ、という感じの論評が多いのですが、僕は必ずしもそういう見方はしていません。

もちろん、今のところ、「うまくやっている」とはお世辞にも言えないわけですが、どう解釈したらいいのか、分解してみたいと思います。

大きくいって、少なくとも4つの切り口があります。

・うちなーんちゅ(沖縄人)にとって、鳩山はどう見えているか
・民主党vs官僚の戦い
・普天間の海兵隊は必要なのか?
・対米従属vs東アジア共同体

ひとつひとつ考えていきましょう。

■うちなーんちゅにとって、鳩山はどう見えているか

twitterなどで見ると、沖縄の人々にとっては、鳩山首相の評判は悪くありません。特に自民党の歴代首相と比較した場合、自民党政権よりずっといいという評価が、特に若い人など一般市民の間ではあるようです。

その理由は、日本の首相として、はじめて沖縄の基地問題について、「県外移設や縮小、廃止」を前提に考えてくれた、ということです。自民党政権の、沖縄に対する視線は、ある意味植民地を見るような視線であり、沖縄に米軍基地を置くことをどこまでも既定事実とする態度でした。

日米同盟は最重要だと自民党政権は言い続けてきたわけですが、その同盟の核になる米軍基地の70%は沖縄においたまま。もし日米同盟がそれほど重要なら、本土にも相応の基地を置くべきで、沖縄という「辺境」においたままで「重要」と言い続けるのは、一般的な感覚では欺瞞に見えます。

しかも、沖縄が基地を負担している状況を引き替えに、政府は沖縄に大量の「援助」をばらまいてきたわけですが、「基地の負担をお願いする代わりに、お金で」というのは、聞こえはいいものの、一度日本政府からの援助金に頼ってしまえば、なかなかそこから抜け出られない体質になってしまいます。援助金に頼っている人からは、基地がなくなっては困るという意思が出てくるし、恩恵を受けていない人からは「基地はいらない」となる。沖縄の内部で世論が二分され、両者が選挙などを通じて相争っていれば、外から見ている日本政府は漁夫の利を得ることができる。

これはイギリスが発明し、世界中の植民地を支配するために使ってきたオーソドックスな手法で、インドも中国も、これによって弱体化させられ、支配を受けてきました。日本政府は、沖縄にこの手法を適用することで、沖縄を弱体化し、「独立の気運」をつくらないようにしてきた、ということもできます。

本土の人は実はほとんど知らないのですが、明治12年の「琉球処分」まで、沖縄は正式には日本国ではなく、中国と日本(江戸幕府)に属する、二国従属の国として生き延びてきました。琉球処分で琉球王朝が廃止され、正式に沖縄県が設置されたのですが、このような経緯から考えても、歴代日本政府が沖縄をどこか「半植民地」として扱ってきたという見方もできます。この経緯は、北海ども同じで、北海道の先住民、アイヌ民族に対する扱いも、旧土人保護法に見られるとおり、植民地支配を思わせる強制同化をめざす法律でした。ちなみにこの悪名高い北海道旧土人保護法が廃止されたのは、たった13年前の1993年です。

太平洋戦争中、日本軍が沖縄でなにをしたかを見ても、日本人(本土人)が沖縄をどのように扱ってきたのか、いろいろと告発できるのですが、長くなるのでこのへんで。

要するに、自民党政権の間は、沖縄の基地は「金と引き替え」に「押しつけられ」「固定化され」て、本当の意味で民意に基づいて基地を受け入れているのではないと見るべきなのです。そんな中、鳩山首相は、基地移設問題についてだけのために沖縄を訪問し、その方法について、真剣に県民に語りかけた。その内容は県民の期待にそうものではなかったにしても、固定化された現状を偏向したいという語りかけを真剣に行った首相は、沖縄の本土復帰(何年だか知ってますか? 1972年です。1945年の敗戦から27年も米国に占領されていたのです)以降、はじめてだということに、理解を示した沖縄県民は多かったのです。

結果的に鳩山首相のプランは成功していないのですが、もともと沖縄の基地問題は容易に解決できないことは、沖縄県民自身もよく知っています。焦って安易な解決(もともとの辺野古埋め立て案)に戻るよりは、今回ようやく始まった日本政府との対話と議論を積み上げてほしいというのが、県民の感情だということです。

注意が必要なのは、テレビ、新聞などのメディアは、まだ民主党政権になれておらず、ポジティブな見解を表明することがほとんどないという基本姿勢です。「へたれ保守」が多く、旧来の状況を固定化することが正義だという思考停止状態のメディアが多いので(その方が議論が楽ちん)、メディアの見解はネガティブですが、そのバイアスをはずしてみることは必須です。

■民主党vs官僚の戦い

ふたつ目の視点は、民主党政権の基本的なコンセプトである、官僚の力をそぐことと、公開性です。

米軍基地問題の争点は、日本と米国の関係だけでなく、実は政府(内閣と与党)と官僚の権力闘争でもあるということです。米軍基地関係の予算は外務省が握っていますが、外務官僚のとっての外務省とは、北米局、つまり対米予算を握っていることが権力の源泉なのです。

普天間など、沖縄の基地が固定化し、日本が基地を受け入れたり、米軍に対して思いやり予算をつけたりするほど、外務相の裁量権限が大きくなる。万が一にも米軍が日本から去るなどということがあれば、外務省は丸裸です。普天間移設をこじらせるなというメッセージに沿って情報をメディア流し、メディアにその方向で論評させているのは、外務省です。

しかし、以前も書きましたが、なぜ外務省が日本の外交、軍事戦略の方針を決める権限があるのでしょうか。日本の進むべき道の意思決定は、主権者たる国民の意思であるべきです。外務官僚は、国民の意思を受けて官僚になっているわけではなく、テストと現外務官僚の裁量(お手盛り)によって決まっていて、国民に対する責任はありません。国民に対して、意思決定のぜひの責任を持っているのは国会議員であり、選挙によって選ばれた国会議員の意思決定だから、米軍基地も受け入れるべき、というような正当性が出てくるし、国会の意思決定がよくないと思えば、次の選挙で国会議員を落選させることができるのは国民なのです。

民主党政権は、官僚という権力の源泉がよくわからない人たちから、権力を剥奪し、国民の意思、つまりは国会と内閣が意思決定権を多く持つ、ということを狙っていて、これが「政治主導」です。この考え方に則って普天間問題を見れば、民主党にとって、普天間問題がこじれることは、政治的成功です。安易に辺野古海上の旧案に戻ることが、民主党の敗北なのです。

鳩山首相とオバマ大統領との「非公式な飲食中の会談」などで、こういった状況について、説明と議論が行われたのではないかと僕は思っていますが、どうでしょうか。

■普天間の海兵隊は必要なのか?

そもそも論として、普天間に米海兵隊は必要なのでしょうか。

僕は軍事の専門家ではないのですが、いくつか情報収集をしてみると、海兵隊が沖縄にいる必要は必ずしもなく、今の軍事技術(移動の高速性)を考えれば、グアム島で十分というのが本当のようです。グアム島の北マリアナ政府は普天間の海兵隊基地受け入れを了解する議決を行っていて、米軍自身も、過去10年にわたって少しずつ進めてきた軍事再編の中に、海兵隊のグアム移転はかなり早期から書かれています。

海兵隊は米軍の切込隊長で、機動力勝負の軍隊ですから、沖縄(グアム)にいるねらいは、台湾海峡有事(中国軍が台湾に軍事侵攻する)、または北朝鮮有事への対応が最大のねらいでしょうが、こういった事態になる可能性自体がかなり下がっていること、起きたとしても、グアムからでも十分対応可能と言うことを考えると、普天間に海兵隊がいる軍事戦略上のメリットはあまりないようです。

むしろ、沖縄に海兵隊を置いておきたがっているのは、海兵隊を用心棒として持っておきたい、外務省の意思という可能性が高く、しかも、用心棒が必要かどうかより、用心棒代の予算を握っていたい権力欲から、外務省が「沖縄に海兵隊は必要」というプロパガンダを行っているとみたほうが良さそうです。

一方、肝心の米国はどう見ているのか。オバマ政権は、クリントン政権(ブッシュJr.の前の政権)と同様、軍縮を行って浮いた予算を内政に回したいと考えています。オバマ政権は海兵隊をグアムに引き上げさせたいのでしょうが、一方、米国内の軍産複合体は、軍事予算が減れば死活問題なので、沖縄駐留を継続したいのかもしれません。米国内の権力闘争もからんで、海兵隊がどこにいるべきかは、答えが不透明ですが、沖縄にいなければならないと決めつけるのは危険です。

■対米従属vs東アジア共同体

もうひとつの争点が、東アジア共同体構想です。

民主党政権は、対米従属一辺倒をやめて、中国、韓国とともに、東アジア共同体をつくりたいと考えて、これは米国の軍縮派(主にニューヨークの資本家グループに支援されている)の考えと共通する戦略です。

ここにASEANがからんできます。ASEANでは、中国の影響力がどんどん強くなっていますが、中国とのビジネスは悪くないものの、中国ばかりがプレゼンスが大きくなると、調子に乗って無理難題を持ちかけられても、文句が言えなくなる。日本を巻き込むことで、ふたつの大国をうまく利用しながら、バランスを取ろうというのが、タイやインドネシア、マレーシアの考え方です。ASEANと中国、韓国、日本、そしてそこにオーストラリアとニュージーランドを加えて、西太平洋共同体をつくる。ここに、軍事的な安全保障機能と、経済的な通貨統合機能を持たせ、EUのような大きな経済圏をつくれば、資本家はそこに投資しておおいに儲けることができる、というわけです。

日本人は中国と組むことを嫌う人が多いのですが、その理由はなんでしょうか。

という話は、<おとなの社会科>06「中国」でも話しあったのですが、問題はあるにせよ、中国と日本が組めば、世界ナンバー2とナンバー3の経済大国がタッグを組むことになるのですから、メガバンクの合従連衡を思い出せば、組み合わせとしてはなかなかよい組み合わせです。日本は、人口減少による国内マーケットのシュリンクを、成長著しいアジア諸国をマーケットに組み込むことで、発展が期待できるし、日本の経験豊富な金融政策によって、通貨政策をリードすることもできます。

と、あまり夢を語るつもりはないのですが、東アジア共同体(西太平洋共同体)が、対米従属より「悪い、ダメだ」という根拠の方を聞きたいものです。時代はどんどん動いているのですから、ドラスティックな変化をむやみに恐れていると、じり貧になります。

東アジア共同体をめざすには、この地域に米軍が大量に駐留するのはよくありません。韓国では、順次米軍が撤退し、再来年、2012年には軍事行動の指揮権が韓国軍に移管されます。こういう東アジアの状況を見れば、沖縄にある米軍基地がどんどん縮小されるのも、時代の流れということができ、そうなれば、普天間問題の解は、本土移転ではなく、グアム移転ということになります。

鳩山首相のひょうひょうとした姿を見ていると、このあたりの本当のお年どころを隠し持っているのではないかと感じられるのですが、僕の買いかぶりかもしれません。

ということで、まだまだニュースが飛び出しそうな普天間移設問題ですが、じっくり見ていきたいと思います。

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