(by paco)僕の記事ではおなじみの田中宇(たなかさかい)が、ここ2年度、ずっと「景気は二番底に落ちる」という分析を出しています。
米国経済は、一見回復したように見えるが、単にオバマ政権による政策マネーが市場に流れ込んで、相場を押し上げているだけで、実体経済はよくなっていない、という分析です。
日本も株式相場やGDPなど、指標を見れば、少しよくなっているようですが、生活実感はよくなっている感じは少ないようです。これから、僕らの世界はどこに向かうのでしょうか。
実は、このテーマは僕にとっては「トラウマ」で、2008年秋に書いた「384日本経済は踏みとどまる」で、大はずしをしているからです(;_;)。タイトルの通り、リーマンショックの中で日本経済は「何とか勝ち組になれる」と書いたのですが、結果は、先進国の中でもっとひどい落ち込みを経験し、今もよくなったとはいえません。
予想が外れた大きな要因は、日本経済が外需に頼っている状況を見誤った点です。
◆外需に頼る構造と、内需縮小
1990年代のバブル期、円高に振れる中で、生産拠点を国外に出していきました。特に自動車は現地生産を進めて、トヨタやホンダは北米や欧州に生産拠点を置き、日本からの直接輸出を減らしました。ほかの製造業でも中国やアジア諸国に工場を作り、為替相場の影響を受けないようにしてきました。円高/ドル安・ユーロ安になっても利益を出すためには、外貨建てのビジネスをやっておくのがいちばんだからです。
しかし、実際にはリーマンショック以後の景気後退の影響をもろに受けたのは日本でした。その理由について、僕は残念ながら正確な分析をする力がないのですが、大きく言えば、日本がここ20年ですっかり外需に頼る国に変っていたということです。「もうちょっと内需比率が高いと思っていた」ということですね。感覚的な言い方しかできないのですが。
国内のメカニズムでいうと、90年代のバブル期に、国内の生活水準が上がり、円高になり、相対的に日本の人件費が大幅に上がって、生産拠点としての競争力を失いました。そこに中国が製造業で台頭してきたために、日本の産業はどんどん中国に流出したわけです。その一方で、米国のサブプライムローンなどによる「金づくり政策」でつくられたバブルの金で、世界中からモノを買い続けました。日本で企画し、中国でつくり、米国に売ることで日本経済は回ってきたのです。その間、国内では、企業が人件費削減によって体質改善を図ってきました。特に小泉政権以降は、「人」に手をつけやすくなり、雇用の規制は崩壊して、いくらでも安く、いくらでも自由に雇用を調整できるようになりました(これが派遣社員問題や、フリーター問題を生みます)。その結果、国内での金回りが落ちて、内需が伸びなくなり、米国のバブルに頼った利益構造が加速してきました。
為替相場の変動につよい産業構造はつくったのに、肝心の市場をバブルの米国市場に頼ったために、米国のバブル崩壊によるマーケット喪失と、雇用崩壊による内需喪失の両方にぶち当たり、先進国の中で最悪の経済停滞を招いたのではないかと思います。
つまり、「人」についての歯止めの崩壊が、企業の経営を楽にした反面、内需をどんどん痩せさせてしまい、体力が落ちていた、ということです。ただし、同じように内需が小さくても、外に複数の市場を持っていれば、ここまでの落ち込みは防げたでしょう。中国やインドなど、ほかの市場に目を向けずに、米国市場のみに頼ったことが、リー万色の影響を日本がもろに受けた原因ではないかと思います。
僕のような個人事業主にとっては、収入源を複数持っておくことはもっとも基本的なリスク管理です。1社、ひとつのビジネスに頼ると、その事業やそのクライアントが行き詰まったときに、仕事全体が崩壊してしまうので、できれば3本柱クライを用意しておくことが望ましい。もちろんなかなかそううまくはいかないのですが。
◆対米従属政策と、対米依存経済が進行していた
日本が米国経済にこれほど頼ってきたということについて、政府も、経済アナリストも、ほとんど説明や指摘をしてこなかったのは、不思議と言えば不思議です。おそらく、政治的に「対米従属」が国是になり、米国以外のマーケットを撮りに行くことが、「対米従属を壊す」として、排除されたことが原因でしょう。
小泉政権では、首相自ら靖国に参拝したり、中国のサッカー競技場での日本に対する嫌がらせを大きく報道するなどして、日本は中国との関係が悪くなるようにメッセージを発してきました。これは中国がよくないのではなく、中国と仲良くできないので、米国と仲良くするしかないのだというメッセージを国内外に発していたのです。米国が本当にそこまで日本の対米従属を望んでいたのかは、疑問ですが、日本の政治経済の中枢にとっては、それが重要だった。その結果、中国市場やインド市場でのプレゼンスを確保できず(することをしないで)、米国市場に頼る結果になり、リーマンショックの影響をもっとも受けることになった、というのが今の僕の分析です。
再度ざっくり整理しておくと、
(1)90年ごろの日本のバブル→円高→為替変動に耐えるために生産を海外に移す→米国ではサブプライム・金融バブル→米国の借金購買力が世界を牽引→日本は中国でつくり北米に売る→リーマンショック→マーケットを失う→日本の景気後退
(2)90年ごろの冷戦終結→90年代は米国は「唯一の超大国」→00年代に入りBRICsが台頭→小泉政権は中国と小競り合いをわざと繰り返す→対米従属に好都合→BRICsマーケットに食い込まない15年→経済も対米依存が深まる→リーマンショック→マーケットを失う→日本は景気後退
(3)90年ごろの日本のバブル→円高→国内人件費が相対的に高騰→人件費を下げる圧力を受けて小泉改革→解雇の自由と時給低下→企業は儲かり労働者は疲弊→国内購買力が低下→内需縮小→外需に頼る→リーマンショック→マーケットを失う→日本は景気後退
というように、政治と経済両面の対米依存と、人件費圧縮による内需縮小が今の苦境の原因ということになりそうです。
僕の、2008年秋時点での分析が不足だったのは、小泉政権下での「対米従属一辺倒」という政策まではわかっていたものの、それが「米国経済に頼り切って、たの外需が獲得できず、しかも内需も痩せた」という、政治から経済につながるメカニズムを捉えきれなかった点でしょう。ハンセイしなくちゃ。
◆「人」に手厚くして、内需を起こす
では、これからどうしたらいいのでしょうか。
小泉政権の「ミス」に、その後の自民党政権(阿部・麻生)がどの程度気づいていたかはわかりませんが、小泉があまりにも人気がありすぎたために、大きな修正を加えることができずに、自滅しました。そこに登場したのが民主党政権なので、小泉政権のミスをどうやって修正するかが大きな鍵になります。
民主党政権に対して「改革を後退させるのか?」といった罵声が浴びせられていますが、「小泉改革のミスを修正する」のが目的ですから、「小泉的な改革」は後退させなければなりません。
上記の分析からわかることは、一般労働者への分配が小さくなったことによって、消費が低迷したことを修正するべき、ということです。そこで、今民主党政権がやろうとしているのは、労働者への分配、つまり時給を上げるべく、最低賃金の向上や安定して働ける状況をつくることで、これによって一般市民の生活を向上させ、内需につなげることがねらいになります。非正規雇用の人が抱える問題として、単に収入が少ないということだけでなく、収入が不安定(=仕事がいつなくなるかわからない)ことがあり、不安定さに備えようとすると、消費に回るお金が小さくなります。収入向上が重要なのはもちろんですが、仕事と収入の安定がさらに重要ということです。
一方、教育無償化を進めていますが、こちらは教育水準を上げて、より高収入で働ける人を増やす、ということにつなげる政策です。時間を切り売りする仕事ではなく、付加価値を付ける能力があれば、それだけ収入面につながり、産業も力が付きます。とはいえ、本当に教育によって付加価値が付く仕事ができる人が生まれるのかが重要で、今の教育方針では、これが心許ない。学校無償化と並んで、真にビジネスに必要な能力が付く教育に転換する必要があります。この方向は、決して「基礎学力重視」ではないはずです。
もうひとつの「修正」は、対米従属からの転換です。ということは、対中重視と言うことになり、小沢幹事長が600人を連れて中国に言ったことは、この文脈に沿ったことになります。日本では対米従属で喰っている利権がたくさんあり、ジャーナリストや学者などもたくさんいるので、対米従属が国益だと声高に叫んでいるのですが、叫んでいるときは断末魔というか、このままでは苦しくなりそうなので叫んでいるので、いわゆる「へたれ保守」のジャーナリズムや学者のいうことは話半分で聞いておくべきです。メディアで言えば産経新聞、ジャーナリストで言えば櫻井よしこが代表(もっとたくさんいますが)ですね。
この対米従属に関する焦点になっているのが普天間基地移設問題で、対米従属利権の頂点に君臨するのが外務省です。民主党政権は、普天間問題の解決を暗礁に乗り上げさせる戦略だと思えるので、解決できずに「新しい基地をつくる」という外務省の仕事がなくなれば、外務官僚の利権をひとつ引きはがすことに成功します。普天間問題では対米関係の悪化がよく言われますが、鳩山政権が戦っているのは米国ではなく、外務省(官僚)だということを理解しておく必要があります。
対米従属と対中協調(従属?)とどちらが日本にとってよいのかは、まだまだ議論が必要ですが、この点については、今週4月7日(水)から始まる<おとなの社会科>06「中国」でも考えていきたいと思います。
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