(by paco)今週はビジネスネタ、仕事の話をします。
あなたは会社でどんなポジションでしょうか。ノンタイトル(平社員)、課長、部長……。今週のテーマはマネジャー、具体的には課長(か、一部は部長?)の仕事についてです。もしあなたが平社員なら、上司の仕事ぶりを思い出しながら読んでください。あなたが課長や部長なら、まさにぴったりの話です。
課長(ミドルマネジャー)の仕事とは、何だと思いますか? まずはちょっと考えてみてください。答えは少し後で。
僕は1980年代の末ぐらいから経営について実地で学んできました。ひとつは企業取材をたくさんしてきたので、たくさんの課長や部長に会い、どんな仕事をしているのか、聞き、コピーに書いてきました。また、経営者や、経営学の教授、経営コンサルタントに会うことも多かった。そんな中で、日本の経営の問題点について、理解を深めてきたのですが、80年代から90年代にかけての問題は、経営トップ層の見識不足、経営学的知見が薄いことで、戦略の筋が悪くなっている、ということでした。
しかし、90年代後半から00年代にかけて、この点はかなり前進して、ケイエイ戦略については、割合か大観が少なくなりました。具体的には、絞り込み(選択と集中)戦略、有志から投資へというファイナンス戦略、縦割り組織を変える試みを中心とする組織戦略、人材戦略、そしてマーケティングについても、大きく変わり、ムダなアクションが以前と比べるとずいぶん減りました。
この進歩の背景には、やはりMBAに代表される経営学の知見が日本にも導入され、学ぶ場が増え、人材が育ったからだと思います。
ここ20年で日本の経営のクォリティは大きく前進したのですが、これに対して、進歩が遅いのがマネジメントのクォリティです。
という前置きがあって、上のイシュー「課長の仕事はなんですか?」という問いが出てきます。このイシューに適切な答えを持っている企業が少ないことが、今の日本企業の競争力不足につながっている、というのが僕の理解です。
日本の大手企業では、課長の仕事は、「自分のチームに振られた目標を達成すること」だと理解されていると思います。
営業課長なら、営業する商品とターゲット、数値目標や予算が与えられる。システムなどの開発課なら、開発案件数や金額の目標が課せられる。この課せられた目標を期限内に達成することが課長の仕事という理解です。このことをよく「仕事を回す」と表現します。
「とにかくか(チーム)にふってきた目標が達成できなければ責任が果たせないのだから、何が何でもやらなければならない。そのためには、予想より少ない人員であっても、設備が不足していても、部下の能力が仕事にミスマッチであっても、とにかく仕事を回して片付けることが自分の仕事なのだと考える。
その結果、課長の仕事は、「自分の課にどんな仕事が来ているのかを把握」して、「誰にやってもらうかを決めて依頼し」「期限内に終わったかどうかを報告させ」、「終わらない事態に陥る前に、処理できるように手当」し、とにかく終わらせる、ことだと考えます。
この一連の「仕事を回す」ことが最優先であり、それだけでいっぱいいっぱいになるので、それ以外の仕事は「勘弁してくれ」「仕事が回らなくなっていいのか!」と拒絶反応を起こす課長が多くなる。
実は、ここに大きな問題があります。
では課長の仕事とはなんでしょうか。もちろん「仕事を回す」ことは仕事のひとつですが、すべてではありません。次の4つがマネジャーの仕事です。
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●1.方法論
最適な方法を見つける。常に今の方法がベストなのかを疑い、もっとも効率的な方法を考え、指導する。
●2.部下の把握
部下の能力を常に把握し、リソースにあった公平な仕事配分を行う。リアルタイムで調整する。
●3.人材育成
部下の育成計画を立て、半年後、1年後の成長を図る。その成長見通しに合わせた業務配分を考える。
●4.仕事の未来を創造する
今の仕事は今後どうなっていくのか、何が求められ、何はダメなのかを常に考え、先取る方法を考える。
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「仕事を回す」ことしかしていない課長は、この4つのうち、2.の一部をやっているに過ぎません。部下に新入社員がいる場合は、やむを得ず3.を考えることになるでしょうが、新入社員でなければ、3.は考えないか、部下自ら考えさせて、そのあとは放置(仕事が育てる)と考える課長が多いでしょう。
1.に目が向いている課長はけっこういけている人ですが、目が向けられても、有効な方法を見つけられなければ、「気になっている、悩んでいる」だけに過ぎません。増して4.を実行できている人は、ほとんどいないのではないかと思います。
ここに、日本企業が賢い仕事ができていない理由があります。
経営ボードメンバーが会社の方向性を決めて現場に実行を指示しても、それを実際に具現化できるかどうかは、課長と部長クラスが、それを理解し、現場で行動に移せるかどうかにかかっています。
新しいやり方に変革するよう、上が指示し、大まかなやり方を示したとしても、それを実際に現場の仕事、1人1人の社員の仕事に落とし込めるかどうかは、課長の力量になります。課長にはその役割が期待されているわけです。上の4つの仕事のなかでは、主に1.がそれにあたり、1.のために2.や3.が必要になるし、その方針がたしかによい方針だと理解するためには、4.が必要です。
しかし現実には、「仕事を回す」ことにいっぱいいっぱいで、いずれも手をつけることができない課長が多い。さらに悪い場合は、自分の仕事は「仕事を回す」ことなのだから、それ以外の仕事を入れてくれるなと不機嫌になったり、「そんなことをすれば現場の仕事が回らなくなり、目標が達成できないけれど、それいいのか」と脅したりします。
上の4つが課長の仕事だと理解していれば、そんな大それたことは言えないはずなのですが、現実には「仕事が回らなくなるけどいいのか」と暴言を吐く課長や部長を何人も見てきました。
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もちろん、現実を見れば、課長の気持ちもわからなくはありません。仕事は多く、部下の数は減らされ、残業も制限されている中で、仕事を回さなければならない。増して部下の女性が産休を取ると言い出したり、係長がうつになったりすれば、仕事を回すことさえできない。そこに、若い男性社員までが「男も育休をとれるんですよね」と行ってきた日にゃ、爆発!という状況です。
しかし、このようなマネジャーのゆとりのなさ、仕事を勝手に縮小する行動が、経営ボードの意思を末端に浸透させることを阻んでいるわけで、会社をクルマにたとえれば、アクセルの下に風船がはさまっているようなもので、分でもなかなかスロットルが開かず、やむなく思いっきり踏みつけたら風船が割れて一気に加速して事故が起きる、ということもあります。大型タンカーを運航するように、舵も加減速も思ったるく、思うように運転できない、というわけです。
市場の動き、経営環境がこれだけ動きが速くなっているのに、船長が舵を切ってもなかなか曲がらないようでは、船は座礁して当然です。日本企業が今ひとつ元気がないのは、ここに大きな原因があると僕は見ています。
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ではどうすればいいのか。
もちろん答えは簡単で、上記4つができるように、研修などによって課長の能力を開発し、さらに改めて課長のミッションを設定すればいいのです。実際はどうかというと、実はこれはすでにやっているのです。さすがに課長に昇進するためには、マネジャーになるための研修を経ているわけで、普通ならそこで理解できているはずのことです。
学んでいるのにできない、学んでいるのに、いつの間にかやるべきことを忘れて現実に振り回されている。そんな実態なのだと思います。
だとしたら、何が必要なのか。
最も重要なのは、課長のマインドセットを変え、「そのぐらい軽い軽い」と思えるところまで、持っていくことだと思います。
つまり、課長が自らを低く見積、できることまで「いっぱいいっぱいで無理」を拒絶してしまう甘えがある。
「なんだ、精神論かい」と思うでしょうが、マネジャークラスになると、ここはけっこう重要です。自分を低く見積もってしまえば、そこで進歩は終わりです。自分を高く見積もれば、もっと能力を開発することはできる。課長になるということは、自分をストレッチして行くことに喜びを見出し、いずれは経営ボードに近づくルートに乗るということですから、常にストレッチした仕事をやっていくことを自ら望んだということです。であれば、課長の仕事ぐらいで心が折れているようでは、そもそもマネジャー?経営ボードの道を進む資格がないのです。
その一方で、マインドセットを高めるための方法は、実は、あります。otoshaこと<おとなの社会科>はその主要な方法だと思っていて、世界と歴史を知れば、ものごとを動かしている人がどう考え、行動しているのか、そのマインドを知ることができます。そしてその人たちが必ずしも天災や特別な才能を持っているわけでもなく、自分の役割を自覚し、必要な手を打っているだけだと言うことにも気がつきます。自分にも歴史の主要プレイヤーになる力があるかも、と気がつけば、課長の仕事をこなすことぐらいでへこたれてはいられないと言うことに気がつくのです。
もちろん、ほかにもいろいろ方法論があると思いますが、僕は残念ながら、マネジャー育成の専門家ではないので、今のところ打ち手は限られています。もっと直接的な方法があれば、ぜひ教えてください。
<おとなの社会科>をやっていて感じるのは、社会の中核を担う人の知的パワーの乏しさです。今回書いたマインドセットも含めて、知的パワーの高い人を増やさないと、やるべきことを実行できる企業、人材が増えていきません。
ちょっとでも志のある方は、自らを高く見積もり、できることを増やして、軽々と植えに飛び越えていく自分をめざしてほしいと思います。<おとなの社会科>では、そういうマインドセットをうまく理解してもらえるよう、エッセンスを入れていこうと思っています。
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