(by paco)[おとなの社会科]04ユダヤと米国 のday2が終わりました。day2では、米国と米国民が、どのようにユダヤを支持しているのか、その実態とメカニズムについて考えました。
今回は、day2(米国のユダヤ支持の行動)の内容を押さえつつ、day3(米国政治がユダヤ支持になるメカニズム)への橋渡しをします。
前号(コミトン446)で書いたとおり、米国の中でユダヤ人は人口の2%にも満たない少数派です。ユダヤ人にとって米国は、地球上の全ユダヤの40%ほどが住む主要な国ですが、その米国から見れば、ユダヤは少数派に過ぎない。
ユダヤ人から見れば米国をユダヤに好意的な状態にしておくことはとても重要ですが、米国にとってはユダヤ寄りの行動をとる必然性は特にありません。しかしだからといって、「米国がユダヤに好意的であってはならない」ことを意味しているわけではありません。
この構図を理解することが重要です。
◆米国の主流派はピューリタンのアングロサクソン系
ユダヤのことを考える前に、米国の主流派である、「キリスト教保守」について知る必要があります
米国は、イギリスからの移民たちがつくった独立国です。米国大陸は、西洋人に発見された当初はスペイン人、そのあと、オランダ人が入植して植民地にしましたが、その後、イギリス人が移民して、主流派となり、18世紀後半、英国政府との独立戦争を勝ち抜いて、独立しました。
イギリスから米国に移民した人たちは、ピューリタン(清教徒)と呼ばれるキリスト教徒です。ピューリタンを知るためには、15?16世紀ごろからヨーロッパで始まった宗教改革にさかのぼらなければならないのですが、ざっくりいって、キリスト教の総本山バチカンを中心とするカトリック教会の腐敗に対して異議を申し立てた「宗教改革」によってうまれたのが、「新教=プロテスタント」であり、イギリスでの宗教改革によって産まれた新教をピューリタンと呼びます。
17世紀(日本では江戸時代の元禄時代ぐらいのころ)、ピューリタンたちがイギリス国王の支配から逃れ、自由で純粋な新しい生活をつくろうと考え、新大陸に渡り始めました。この、初期のピューリタン移民の物語が、ディズニーアニメ「ポカホンタス」で描かれた世界で、米国では教科書で必ず教えられる実話です。
ピューリタンたちは先住民であるインディアンを西に追いやりながら、新大陸の東側を支配下に収め、18世紀後半になると本国、英国との独立戦争に勝って、合衆国をつくります。
このような経緯からわかるように、アメリカ合衆国というのは基本的にアングロサクソン系のピューリタンが主流派の国です。
もちろん、カトリックもイスラム教徒もいますが、基本的に支配層はピューリタンが中心。それを示す一例が、JFKこと、ジョン・F・ケネディが大統領選挙に出たときにおこります。ケネディはアイルランド系のカトリックで、主流のピューリタンではありませんでした。ケネディが候補として有力になってくると、ケネディに反対する人々は、「ケネディが大統領になったら、アメリカはローマ法王の支配下に入ってしまう」と言い出しました。キリスト教や、宗教による政治支配の歴史にうとい日本人の多くは、どうして20世紀の文明国でこういう話になるかピンと来ないのですが、ピューリタンとカトリックはこのぐらい違うものなのだと頭に入れておくと良いでしょう。
ちなみに日本でも、豊臣秀吉と徳川家康がキリシタン(カトリック)を禁教にして弾圧します。その前の支配者・織田信長がキリシタンを優遇したことに対する反動でした。弾圧の理由は、カトリックを放置すると、日本がヨーロッパのキリスト教国の支配下に入ってしまうと考えられたからですが、安土桃山時代の考え方が、20世紀の米国でもそのまま生きていることに注目しておきましょう。
ということで、アメリカ合衆国は建国当初からいまも、ずっとピューリタンの国であり、その信仰心はヨーロッパの人々以上に深いものがあります。何しろ、ピューリタンが「理想の信仰のための国をつくろう」としてつくった国なのです。そしてその「国」とは、当初からいまも、基本的に開拓によってうまれた農地を耕し、質素に生きていく農民の国です。日本人は米国を「先進工業国であり、金融の国」と理解しがちですが、米国の本質は、むしろ開拓と農業、信仰にあるのです。
このピューリタンのメンタリティが今も色濃く残っているのが、米国の南部、中部、西部で、グレートプレーンズと呼ばれる大平原を開拓して、大規模農業を営む人々です。彼らは、家族経営で広大な農地を耕し、大型トラクタと灌漑農業で小麦やトウモロコシを大量に安く作ることと、そういうメンタリティにぴったりな大きなピックアップトラックに乗り、趣味のスポーツと信仰に生きる人々です。
◆キリスト教保守のメンタリティがユダヤときわどい蜜月をつくる
現代アメリカで、ピューリタン的な信仰と思考によって生きる人々を、「キリスト教保守」とか「キリスト教右派」「キリスト教福音派」「キリスト教原理主義者」と呼びます。あくまで米国の中での「右派」であって、キリスト教全体の「右派」ではありません。また、ざっくりひとまとめにしていますが、もちろん、詳細に見るといくつかのグループに分かれ、信仰の厳格さにも差がありますが、大きな傾向をつかむことから始めましょう。
ピューリタンは、「聖書に書かれていることに忠実な信仰生活を送る」ことを大切にする人々で、この場合、聖書とは、旧約、新約両方です。旧約聖書は、もともとユダヤ教の聖典ですから、ここに米国のキリスト教右派(保守)とユダヤ人、イスラエルとの接点が出てくるのです。
キリスト教右派は、聖書を大切にするだけでなく、聖書に書いてあることが神話ではなく、真実であると確信し、その実現を心待ちにする人たちです。たとえば「神による天地創造」を信じて疑わないので、学校でダーウィンの進化論を教えることにも反対します。いずれ救世主が現れ、最終戦争(ハルマゲドン)のあとに「最後の審判」が下ると、敬虔なキリスト教徒だけが救われ、すでに死んだ者も(本当に)生き返って天国で永遠の命をえると信じているのです。
このキリスト教右派が米国には、人口の20?40%といわれています。ずいぶん幅がありますが、厳格さのグラデーションをどこにとるかで変わります。ざっくりいて、40%近くがキリスト教右派です。
この人たちが聖書の教えをかなり厳格に信じているし、その中に、ユダヤ人と同じ旧約聖書の教えも含まれているので、基本的にユダヤ人とキリスト教右派が「同盟」関係になる素地がここにあるのです。
◆キリスト教保守の外交無関心にユダヤの意図がつけこむ
しかし、もともとユダヤ人とキリスト教右派は、敵対関係にありました。
キリスト教徒から見ると、ユダヤ人は「イエスを殺した愚かな人々」ですから、どちらかというと蔑視の対象で、それ故に、ユダヤ人はローマ帝国から近代に至るまで、ヨーロッパの各地で迫害を受けてきました。
また、キリスト教徒には「最後の審判と、それによる復活」が約束されていますが、それは新約聖書(イエス・キリストによる)の教えで、旧約聖書(=ユダヤ人の宗教)の教えではありません。ユダヤ人にとって死は、単なる消滅であて、復活の予定はありません。
旧約聖書に書いてあることを信じつつも、新約聖書に書いてあることを重視するキリスト教右派は、いずれ最後の審判が来れば、ユダヤ人は死に絶え、自分たちが神に選ばれて復活して天国に行けると信じています。つまり、どこかユダヤ人をさげすんでいるわけですが、それ故に、最後の審判までのある時期、一時的に手を結んでもいい相手です。
実際、聖書には、ハルマゲドンの前にイスラエル王国が復活すると書かれているので、1948年にいまのイスラエルがパレスチナの地で独立を勝ち取ったことは、聖書の真実性を証明していると考えています。キリスト教右派にとって、聖書に書かれているハルマゲドンや神の国の実現、復活は、遠い将来のことではなく、いま生きている人が目にすることができる、現世的な真実の予定なのです。
(もし彼らの信仰通り、そのまま神の国が実現すれば、日本人の多くもほどなく死に絶えることになると信じています)
つまり、キリスト教右派にとってユダヤ人は、一時的に手を組む相手としては悪くないし、いずれ神の王国ができれば、ユダヤ人はそこにはは入れないものの、その途中でユダヤ人がイスラエルを建国してくれることは、予想通りのシナリオなのです。
その一方で、「アメリカ人としてのキリスト教右派」は、自ら広大な米国大陸を切りひらいてきた開拓時代の2?3代あとの子孫ですから、自らの手で世界一の国をつくったという自負があります。世界に影響力を及ぼすことは、彼らの自信の表れです。本来米国人は、いわゆるモンロー主義(南北アメリカだけを影響圏として、それ以外の地域とは不干渉)によって、あまり世界に口出し、手出ししない自閉症的な思想の持ち主だったのですが、やはり「世界一のオレたちを頼る人たちがいるなら、助けてやろう」というおうようなメンタリティもあるのです。
目の前の農地と信仰、生活にしか興味がないのに、世界に関わることも肯定するおうようなキリスト教右派の人たち。
そこにユダヤ人がつけ込みます。
ユダヤ人のめざすもの(イスラエルの建国と発展)が、キリスト教右派にとっても意味があることだと論理展開した上で、ユダヤ人の緻密な論理展開によって、ユダヤを支持する必然性を説明されると、右派の人たちは心情的に支持に回ってしまうのでした。
ユダヤ人が求めるものが主に米国の外交政策についてであって、内政ではないことも、右派の人たちと利害が一致する理由になります。右派の人たちは基本的に農家ですから、米国政府の農業政策には敏感です。しかし外交政策は、ある意味、どうでもいい。自分たちの農業がうまくいく外交政策かどうかは関心があっても、中東の戦争がどうかについては、「良きにはからえ」です。
というわけで、米国を舞台にキリスト教右派という主流派と、ユダヤ人という少数派が手を組み、ユダヤ好みの外交政策について、キリスト教右派が無条件に支持するという構造ができました。
この「キリスト教右派とユダヤ人の同盟」の成立が1970年代。ここからユダヤ人は米国の外交を動かすパワーの源を獲得するのです。
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ということで、このような構造をさらに分析して、少数派がどのように多数派を動かしていくか、特に米国の民主制度というメカニズムを的確に機能させてユダヤ人とイスラエルを支持させていくメカニズムについて、day3でじっくり見ていきたいと思います。
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