(by paco)今週火曜日から、what?セミナー4「ユダヤと米国、民主主義」が4回シリーズで始まります。
今週は、そのイントロダクションとして、ユダヤ人についてのアウトラインをまとめておきます。といっても、4000年とも言われる歴史を持つユダヤ人ですから、説明するといっても容易ではありません。全体を網羅することはもちろん不可能ですから、主要なことをピックアップしてまとめるつもり、であっても、もしかしたらかなり偏りがあるかもしれません。あくまで、いまの僕にできる、最も公平やユダヤの説明というように理解していただき、正確には文献をあたってください。
◆ユダヤ人とは誰のことか?
ユダヤ人にはふたつの側面があります。ひとつは親から子へとつながる「民族」としてのユダヤ人、もうひとつは、ユダヤ教という宗教を信仰する宗教集団としてのユダヤです。
民族としてのユダヤを考えるときには、ユダヤでは女系を採用していて、ユダヤ人の母を持つ人をユダヤ人と定義しています(イスラエルの「帰還法」の中での「ユダヤ人」の定義)。なぜ父親ではなくて、母親なのか。それは、子供は父親より母親により多く影響を受けて育つという考えからです。つまり、血統も重要ではあるけれど、それだけではなく、ユダヤとしての生き方を教えられて育った人をユダヤ人と定義しているわけです。
「ユダヤとしての行き方」は、もちろん宗教としてのユダヤ教の教えが中心になります。代表的なものとしては、土曜日を安息日として厳密に守る、豚肉を食べない、主要な祭礼を行う、など。ユダヤ流の子育てや、平均的に高い教育水準などが含まれるわけですが、ともあれ、母親がユダヤ人というのが、ユダヤの大きな特徴です。
ではいま世界にいるユダヤ人がみなこういう人かというと、そうではありません。父親がユダヤ人で母親はキリスト教徒であっても、ユダヤ人だと自称(他称)していることもあるし、無宗教のユダヤ人、キリスト教徒のユダヤ人もたくさんいます。
ユダヤ人は大きく、正統派と改革派に別れていて、正統派より厳密にユダヤ人を定義し、改革派は緩やかに定義する。そのため、ユダヤ人といっても、その定義や、果たして本当にユダヤ人と言えるのかという確認は、実質的にはあまり意味がありません。
では、宗教から見たユダヤ人というのはどうでしょうか。ユダヤ教はあまり積極的に布教活動を行ってきませんでした。そのため、ユダヤ人以外の人がユダヤ教に改宗することはあまりなく、民族(血統)としてのユダヤ人と、宗教から見たユダヤ教とは、ほぼ同じと考えられてきました。しかし、実際には日本人でもユダヤ教に改宗することはでき、その場合は、ユダヤ教とというだけでなく、ユダヤ人と呼ばれます。こうなると、「ユダヤ人を母に持つ」という定義から外れてしまい、いよいよ定義があいまいになります。
ユダヤ人という定義や、「あいまい」ということもできますが、そういうよりは「いくつかのユダヤ人の定義があり、それらを認めると、さまざまなユダヤ人が含まれる」ということだと思います。
◆ユダヤはいつ生まれたのか?
ユダヤ人の誕生は正確にはわかりませんが、紀元前1300年頃までさかのぼるという節もあり、その歴史は3300年ぐらいになります。その間の同行の記録がよく残っているという点を考えれば、ユダヤ人は現存する最古の民族のひとつといってもよいでしょう。
ユダヤ人の起源は旧約聖書に書かれており、旧約聖書がユダヤ教の中心的な聖典です。旧約聖書には、神(唯一神ヤハウェ)が6日間で世界を創造し、7日目に休んだとあり、その後、この神から1人の男(アブラハム)が呼ばれ、神と契約して、その子孫を特別な民として選別したと記載されています。これが紀元前1300年頃ではないかと見られていて、このあたりがユダヤ人の始まりになります。アブラハムの子孫がユダヤ人なのです。
アブラハムから続くユダヤ人が住んでいたのが、いまのパレスチナあたりで、ユダヤ人の歴史は中東から始まります。パレスチナとはどこでしょうか? メソポタミア古代文明が栄えたのが、いまのイラクの、チグリス川、ユーフラテス川の流域です(紀元前3500年頃)。メソポタミアから西に行くと、パレスチナ(カナンとも呼ばれる)があり、パレスチナは地中海沿岸で、いまのイスラエルとパレスチナ自治区、ヨルダンあたりでしょうか。
パレスチナの西は地中海、南西にシナイ半島があり、その西はエジプトです。古代の中東では、文明圏のメソポタミアとエジプトに挟まれて、さまざまな民族が交錯していたのがパレスチナでした。
紀元前10世紀ごろ、ダビデ王がユダヤ王国をつくって力を伸ばし、ソロモン王の時代に、古代ユダヤ王国は最盛期を迎えますが、異民族に攻撃されて、その後は、被支配者の歴史を歩むのでした。
通常、多くの少数民族は、異民族の支配を受け手次第にどうかし、民族のアイデンティティを失っていくのですが、ユダヤ人は決まった国を失ってから3000年間、秘史は移民として過ごし、世界各地に散らばりながらも、ユダヤ人として続いたのですから、驚きです。
長期間アイデンティティを保った理由はいろいろ指摘されていますが、土曜日を安息日として、何もせずに神のために祈るという週間が、ユダヤ人をユダヤ人として保ったと考えられています。
◆ユダヤ人はどこに住んでいるのか?
ユダヤ人は、現在1330万人が世界各地に暮らしています。そのうち、イスラエルと米国が、それぞれ550万人強。約4割ずつが両国にいて、世界のユダヤ人にとって、この2カ国が「祖国」のようになっています。
長い歴史の中でユダヤ人は決まった国をつくれなかった歴史が長いために、世界各地に広がっていきました。大きく分けると、スペイン方面に移住した「セファルディ」、中央・東欧に移住した「アシュケナジ」、北アフリカやアジアに移住した「ミズラヒ」の3系統です。さらに東に移住して、中国にもユダヤ人の末裔が移住しており、歴史の古い都市・開封にユダヤ人社会があったと記録があります。交易を得意とするユダヤ人がシルクロードに沿って東に居住地域を広げるのは自然なことで、その延長で日本にもユダヤ人が来ていたとしても不思議ではありません。
◆ユダヤ人の迫害の歴史は?
ユダヤ人は、第二次世界大戦中、ヒトラーによって大虐殺を受け、迫害されたことで知られています。
しかし、ユダヤ人を迫害したのは歴史上ヒトラーがはじめてではなく、何度も迫害の歴史をくぐり抜けてきました。
旧約聖書の中にあるように、エジプトに捕虜にされて奴隷され、「バビロン捕囚」ではバビロニア王国がユダヤ人を連れ去って奴隷にして、その後もさまざまな民族の支配を受けてきました。
時代が下って中世になると、ヨーロッパではユダヤ人はキリストを殺した民として軽蔑され、迫害を受けました。キリストはユダヤ人であり、ユダヤ教を改革しようとして自分の考えを布教したのですが、ユダヤの支配者から危険視されて処刑されたのでした。
そんなわけでユダヤ人はキリストの教えを信ずにユダヤ教を守り続けたのですが、キリストを教えを聞いた12人の弟子たちは、その後、北や西に布教し、ローマ帝国、ついでヨーロッパ諸国がキリスト教圏になりました(ゲルマン民族)。
ヨーロッパのキリスト教徒にとっては、神の子イエスを殺したユダヤ人は愚かで過ちに満ちた民であり、迫害の対象と見なしたのです。
近代に入ってからは、19世紀後半、ロシアや東欧でポグロムと呼ばれる迫害が起こり、数十万人が殺害されました。このとき殺害されたユダヤ人は、ヒトラーが虐殺した数を上回るとどこかで見た記憶があるのですが、いま調べたのですが、数字が見つかりませんでした。
20世紀に入ると、ヒトラーがドイツ民族の優位性を確認する目的でユダヤ人を迫害し、600万人を虐殺した、といわれています。数については異論もあるようですが、大規模な迫害だったことは間違いありません。このとき、ユダヤ人は、単に殺されるだけでなく、人体実験として皮膚をランプシェードにされたり、脂肪でろうそくをつくられたりと、ぞっとするようなことが行われ、この体験が戦後、イスラエル建国運動(シオニズム)につながっていきます。
◆ユダヤ人はなぜ迫害を受けるのか?
まず確認しておきたいのは、人間の歴史で迫害を受けているのは、ユダヤ人に限らず、世界中、あちこちでいろいろな人々が迫害を受けてきた、ということです。
ユダヤ人を迫害したキリスト教徒も、宗教として成立初期にはローマ帝国からひどい迫害を受けてきたし、最近はアフリカ・スーダンのダルフール紛争では3年間で18万人が虐殺されました。その前のルワンダ内戦では、100万人が虐殺されたとされています。
日本は迫害とは無縁の国みたいに思っているかもしれませんが、日本も迫害の加害の歴史があります。明治維新後、政府は北海道と沖縄の領有を宣言し、特に北海道に住むアイヌ民族を日本人にどうかさせようとしました。アイヌにとっては独自の文化を剥奪され、どうかを余儀なくされるのは迫害以外の何者ではありません。大規模な殺害はなかったものの、ひどい歴史です。
20世紀初頭に朝鮮半島、台湾を領有してからは、朝鮮人、台湾人に対する迫害、差別が続き、特に関東大震災後には流言飛語から朝鮮人を日本人が殺す事件があちこちで起きました。
人間は、時に集団で少数派を追い落とし、抹殺しようと凶器に走る歴史を繰り返しているので、迫害を受ける事例はユダヤ人に限らず、たくさんあります。
ユダヤ人は、その中でも繰り返し迫害を受けた歴史ですが、それは、ひとつには長い歴史を持った民族だということがあるでしょう。同じ民族がずっと被支配民族として続けば、迫害を受ける可能性は高まります。ユダヤ人自身の特質から来ているわけではないと考えられるわけです。
ユダヤ人の特徴が、迫害の理由に挙げられがちなのは、事実です。ユダヤ人は被支配者として、異民族の支配する国に住んだため、つける職業が限られたり、居住地が制限されたりしました。そうなると、どうしてもどうかした生活がしにくく、ユダヤ人が多い職業の特徴がさげすみの対象になりました。金融ビジネスはユダヤ人に許された数少ない職業でしたが、それ故に、カネをめぐるトラブルがユダヤ人の「悪意」に基づくものだと曲解されることも多かったのでしょう。「ベニスの商人」はその代表例だと思います。
長年民族のアイデンティティを守るためには、頑固さが必要で、それが「頑迷さ」「仲間に入らない強情さ」と映り、嫌われることもあったと思いますが、実際にそれが、他者によくない影響を与えていたとはいえないのです。異質なものが、イメージで悪に見なされていた例が多いのだと思います。
一方、ユダヤ人が、被支配民であっても、周囲の異教徒、異民族と仲良く平和に暮らしていた事例は、逆にたくさんあります。いま、中東ではパレスチナ問題が解決しませんが、第一次大戦ごろまではオスマントルコの支配下にあり、パレスチナでは、イスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒が平和に仲良く共存していたのです。
ユダヤ人が迫害されてきたのは事実だし、その点に同情する気持ちを持つのは自然なことですが、迫害を受けることがユダヤ人の本質である可能ように考えることがあるとしたら、それこそが実は自分の中の迫害の萌芽なのです。
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ということで、ユダヤ人について、ざっくり概要を書いてみました。まだまだ概要は尽きないのですが、ひとまずこのぐらいの基本情報をinputしつつ、セミナーで深めていこうと思います。
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