(by paco)先日、あるコンサルタントと会ったら、仕事の話をそっちのけで、民主党政府のCO2削減政策について矢継ぎ早に質問を受けました。まさにFAQだったので、改めて書くことにしました。
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Q.CO2の25%削減は無理ではないか?
A.可能。かんたんに達成できるとは言わないが、きちんと手を打てば、十分可能だ。たとえば、一般のオフィスでも「ちょっとした工夫」の範囲内で、10?30%の削減はすぐにでき、かつ初期投資の回収も数年でできる。
一般企業では、数年といっても2年ならいいが3年以上は無理、ということもあるだろう。であれば、この回収年限を縮める分だけ金利優遇を行うか、助成金を出せばよい。あるいは、官民共同のESCO(エネルギーサービス会社)をつくり、3年以上の回収年限のものの初期投資を引き受け、企業からは、向こう5年間は現状と同じ電気料金・ガス料金を払ってもらう仕組みをつくって5年で回収したあと、クライアント企業に設備を引き渡す。初期投資の償却までをESCOが公的サービスとして担当すれば、企業は現状と同じ負担で(初期投資をせずに)エネルギーを削減でき、その後はコストダウン恩恵を受けられる。さらにこのスキームをより大きな初期投資が必要な(きちんと回収できる)省エネ策に応用すれば、30%を超える削減も可能になるだろう。以上は、オフィスを所有する企業の対策になる。
賃貸オフィスを使っている企業では、最も効果的なのは、オフィスビルそのものを交換してしまうことで、要するに、最新のエネルギー設備を持つオフィスへの移転だ。これを促進するためには、まずオフィスのCO2削減能力をエコラベルで表示して、選べるようにすること、そして削減の力の高いビルにたいして、ビルオーナーへの固定資産税減税や助成を行うことで、建て替え時点や大規模改修のときにCO2削減性能をあげることを促進すればよい。入居企業にたいしては、経済的な効果を明らかにする。CO2削減はそのまま光熱費の削減になるので、ランニングコストが安いビルになり、入居の動機につながる。
ほかにもさまざまな打ち手がある。
太陽光、風力、水力、地熱など、さまざまな未利用の再生可能エネルギーがあり、まだまだ利用可能だ。都市内では、地熱と小型風車が今後注目されるだろう。地熱の利用法は、ヒートポンプの熱源としての利用が有力だ。今のエアコンは室外機で「大気」との間で熱やりとりして動いている。夏は室内の熱を大気に放出するので、室外機の前は暑くなる。冬は大気の熱を奪って(室外機の前は冷たくなる)、その熱で室内を暖めているが、この熱のやりとりを大気ではなく、地熱との間で行う「地熱ヒートポンプ」が実用段階に入っている。コストダウンのための技術開発がまだ必要だが、標準化の問題であって、それほど困難ではない。地熱利用の最大のメリットは、冷房時に大気を暖めないのでヒートアイランド現象を起こしにくいことだ。ヒートアイランドが起きると、冷房によって暑くなった都市内で冷房するために、さらに冷房を強くすると言う悪循環が起きる。地熱とやりとりすれば、ヒートアイランドが起きにくいので、ムダがない。大都市の密集した地域では有効だろう。
小型風車をビル風が起きるような場所に大量に設置して、ビル風防止と発電に利用するのも有効だ。価格も太陽光パネルと同程度になっている。
ほかにもさまざまな「今すぐできて、効果が見込め、採算性も十分」の打ち手があり、これらをやりきれば、25%どころか、その先に50%も視野に入ってくるだろう。まだまだやるべきことができていない、ということだ。
ちなみに、京都議定書さえ達成できないのに、という嘆きにたいして反論を。1990年比6%削減に対して8%増加が現状だが、要因はふたつ。ひとつは日本はここ10年で石炭火力発電所を急増させている。石炭発電は同じ発電量のガスや石油と比べて、20?50%もCO2排出が多く、8%増加分と石炭発電所の増加によるCO2排出分はほぼ同量だ。ふたつ目の理由は、柏崎刈羽原発の停止。これは地震が原因だが、地震や事故による停止のリスクは遙か以前から指摘されていて、にもかかわらず、原発中心のエネルギー政策を続けてきた政府の責任である。原発をフェードアウトし、再生可能エネルギーに転換する必要性は、地震など災害国・日本こそ最も高いことを認識すべきだ。自然エネルギーはエネルギー密度が低いので、そのぶん地域分散型であり、災害時に一気に破壊されるリスクが少ないし、もちろん災害・事故時の汚染のリスクもほとんどない。
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Q.削減可能だとしても、経済的損失が大きいのではないか?
A.経済発展につなげる仕組み作りが重要。
何を損失と見なすかによって考え方が変わる。上記のような省エネ・創エネの技術は、お金を出しておしまいの対策ではなく、いったんインストールすれば長期にわたって機能する社会インフラだ。道路や河川改修と同じように、よいインフラがあれば、よい経済活動につながる。またインフラ整備そのものに経済波及効果があるのはほかのインフラ整備と同様だ。従来のように道路やダムをインフラ整備の対象にするのではなく、省エネ・創エネを対象にするように切り替えればよい。道路やダムは経済的にペイするまで数十年かかるものものが多いがCO2削減では、数年で改修もできるので、インフラ整備として考えれば非常に効率がいいし、メンテナンスなども含めれば長期的な雇用も期待できる。さらに、25%以上の削減効果は、そのまま日本経済の「ベースラインの経費」を削減することにつながる。つまり「固定費の安い筋肉質の経済」に移行することを意味している。
今後の温暖化対策の進行や石油・ガスの値上がり傾向を考えると、「エネルギーランニングコストの安い都市・国」は投資対象として魅力的になる可能性が高い。つまり、「本社を置くなら、世界で最も省エネが進んだ都市に置く」という選好がされる可能性があり、この点は、「情報ハイウェイ」などのインターネットインフラが常識になった流れとおなじだ。今から低炭素インフラを国中につくることができれば、将来、国や都市の魅力を上げ、国際競争力の向上にもつながる。
初期投資に払うカネは、「コスト」ではなく、将来につながる「投資」と考えるべきで、また投資に為るように削減策を設計するすることが重要だ。
初期投資のカネをどうやって用意する方法だが、基本は「投資促進策」と「税制」が軸になる。投資促進は上記の金利優遇や企業が嫌うような長期投資を肩代わりする「官民共同ESCO」などがそれに当たる。税制は、「バッズ(Bads)課税/グッズ(Goods)減税」の原則に則り、CO2排出の多いところから税を取り、少ないところを助成することで、カネの流れを環境によい方向につなげる。税収中立(取る税と、払う助成のバランスをとる)ことで、日本経済全体の経済的な損失はない(損をする人と得をする人は出てくる)。税という形をとるのは、フリーライダーを防ぐことが目的だ。環境対応は社会全体で支える必要があり、ただ乗りは許されない。支える能力がある人は、強制的に参加させる必要があるが、「バッズ(Bads)課税/グッズ(Goods)減税」の原則に則れば、積極的に環境によいアクションをとりさえすれば、損はしないか、得をすることになる。損をする人(将来を築くことに消極的な人)が「とんでもない話し」とさけぶのはある意味当然だが、得をする人がいることも忘れないようにして、自分のポジションをそこに移動することが重要だ。損をする人は大声でさけぶが、得をする人は小声でしか話さない。
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Q.海外から排出権を買ってくるという方法は、無意味ではないか?
A.無意味ではない。温暖化防止はあくまで地球全体の問題なので、海外の方が安くて確実に削減できるなら、海外に投資して、投資に応じた排出削減分を仮想的に日本がもらうは合理的だし、京都議定書でも規定されている(CDM=Clean Development Mechanism)。
海外の削減プロジェクトの場合、本当にうまく機能しているのか不安ということがあるが、CDMは国連が認定して厳しい条件が付けられている。絶対に問題が起きないとはいえないが、過剰に疑ってかかる必要はない。
CDMによらない民間での削減プロジェクトもありうる。当然、採算性はシビアになり、実効性の担保はゆるくなる可能性があるが、認証取得や長期にわたる監視などにかかるコストが削減できるので、多くのプロジェクトが動く可能性がある。
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Q.海外から排出権を買うことは、日本の富が流出することだ。やめるべきではないか?
A.「日本の富」が「過剰収奪」の結果と考えるべき。確かに日本の富を海外に出してしまい、かつ上記の「低炭素インフラ整備」のメリットを他国にみすみす奪われてしまうと言う面はある。しかしもしそれがイヤなら、国内でやればいいだけで、国内の方が投資効率が悪いから海外でやるという話になっているだけだ。効率と長期戦略のバランスで選択すればよい。
一方、海外に金を払うということの原理的なしくみも考えておくべきだ。日本は外需に頼って貿易で稼いでいる要素が大きな国だ。海外との取引で富を得ているとすれば、その富の中に、外国の環境からの収奪によって得られた「不正な富」が含まれている。たとえば、安い原油を買えるのも「CO2排出のデメリットを解消するコストが含まれていない」という点で、環境に不利で、人にのみ利益があるしくみだ。環境に不利な分(過剰収奪)を環境に還元することが求められているのが「環境問題」の本質なのである。とすれば、「日本の富」と思っているものは、実は世界の環境から奪ってきた富だということになる。奪いすぎた富の一部を還元することだと位置づければ、「稼いだカネは全部オレたちのもので、ひとにはやらない」という言い回しが、身勝手なものであることに気づくだろう。
もうひとつ例を挙げておく。日本人(先進国人)は結婚式のときに、プラチナにダイヤモンドの指輪を交換する。一般の人にも返るような値段でプラチナやダイヤモンドが売れるのは、自然から奪ってきているからだ。一粒のダイヤモンドを取り出すために、数十トンという大地を削り、削った土は川に流されて、魚が住めなくなったり、周囲の環境が激変している。さらにそこで働く労働者は、炎天下で土を掘り続けても、1日100円にも満たない報酬だ。自然と地域住民に過酷な負担を強いた結果が結婚指輪の安い値段であり、その値段の結果がジュエリー会社や百貨店の利益になる。これが過剰収奪の結果としての富である。このようにして得た富を、自然は地域の人たちに還元するのは、当然と考えられるかどうか(想像力を働かせられるかどうか)が重要なのだ。
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Q.米国や中国の参加は必須ではないのか?
A.必須だが、参加なしに日本は実行しないと考えるのはよくない。米国はすでにオバマ政権になり、意欲は十分で、世界をリードする気概がある。世界的なスキームづくりにもかかわり、米国の国益にかなうスキームにすべく、力を注いでくるだろう。中国もすでに環境に向けて大きく舵を切っており、一部は日本を凌駕している。日本が環境先進国であるという「ガラパゴス的認識」は捨てるべきだ。「日本が参加しなければやらない」と中国に言われる日もそう遠くないと自覚すべし。とはいえ、中国は巧妙なところがあり、単純に削減スキームには乗ってこないだろう。ポスト京都議定書のような国際スキームに乗ってくるかどうかは、国益との関係で判断することになるだろうが、国際スキームづくりが紛糾しているからといって、削減が遅れていると見なすのは危険だ。温暖化対策の半分は国政政治であり、見た目だけで判断するのは幼稚な見方である。
中国、インドなど、途上地域の(CO2削減スキームへの)参加を促していくのは当然だが(そこにこそ日本のリーダーシップを注ぐべきだ)、順番は日本が先になってもよいという覚悟を示すことが必要だし、それこそが京都議定書の趣旨だ。京都議定書では、中国やインドは加盟はしているが、削減義務は負っていない。先進国が先にやることを条件に参加しているので、日本を含めて削減実績が上がれば、途上国も参加すべきだという圧力になる。京都議定書のレベルにもあっぷあっぷしているようでは、途上国が好き勝手にやることを止められない。
また現在までに排出された大気中のCO2のほとんどは、日本を含めた先進国がここ100年間に排出したものだ。現在の温暖化に途上国は責任がない。将来への発展には責任があるが、現在の状況には責任がないことは、先進国の国民として、はっきり理解する必要がある。
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ということで、CO2 25%削減は単なるお題目ではなく、十分可能であると同時に、やっていくべきことです。ほかに、「素朴な疑問」があれば、ぜひpaco@suizockanbunko.comあて、メールをください。答えていきたいと思います。
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