(by paco)395民主的な政策決定(横浜市環境政策の現場から)-2

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(by paco)前回に引き続き、横浜市の市民から寄せられた政策提案について検討してみましょう。

(2)交通システム

◎取り上げたい意見

・ベロタクシー(自転車タクシー)の普及
・ベビーカーの人は地下鉄バス無料に
・駐輪場の拡充

この4つは、まったく別の立場の人からランダムに発言されたものです。ランダムに発言されたものを、どのようにグルーピングするかは、ロジカルシンキングの出番、ということで、この3つを「自家用車を使わなくても都市内の移動が手軽でスムーズになるような街にしよう」という政策とまとめることができます。かつ、この4つに共通するのは、「個人の移動をアシストする政策」です。

このように分類すると、ここでは出てきていない他のプランと組み合わせることができそうです。たとえば

- 都市内で手軽に利用できるレンタサイクル
- 自転車専用レーンの設置

など。他にもいろいろありそうです。駐輪場の拡充は急務でしょう。現状はコインパーキングも増えて車の駐車事情はかなりよくなっていますが、自転車を置くインフラはどんどん減少していて、乗ってきても置き場がないことが多いのです。特に、長時間滞在するショッピングセンターやホテルなどの地下駐車場には、一定の割合の駐輪場設置を義務付けるぐらいをするべきです。もともと、駐車場設置は法的に義務付けたものなので、これを改正して、駐輪場と駐車場の両方を一定の比率で用意するという条例を作る必要があります。この方法は新規建築物にしか効果がないので、既存の駐車場には、駐車スペースを転用した場合に、転用のための設備の設置(床面ペンキ表示や標識、料金徴収方法など)に対して補助金をつける必要があるでしょう。

次に、

・コミュニティバス
・コンパクトシティ→本牧トランジットシティ構想
・コンパクトシティ(駅前立地の高齢者住宅)

という提案もありました。こちらは上記に対比して、「都市内を手軽な交通機関を利用して移動できるしくみ」についての政策と言えます。都市内には地下鉄もありますが、最近の地下鉄はかなり深いところに駅があって、数百メートルからキロぐらいまでの都心部での利用には向きません。20人乗り程度の小型バスを使ってコミュニティトランスポーターや、それを恒常的な軌道に載せて走らせるLRT(Light Railway Transportation=新型路面電車)で、地下鉄より手軽に利用できるようにすることがねらいです。目の前に頻繁に走っている路面電車やバスの乗ってワンブロック、ツーブロックと移動できれば、小さな商店の前も人が賑わうようになり、人の流れと街の形が変わります。加えて、都心部を立体化(マンション化)して、人口密度を上げれば、クルマ依存社会は大きく転換するでしょう。

・カーシェアリングの普及
・カーシェアリングを市の公用車に利用

カーシェアリングは、個人がクルマを使って移動しつつも、利用を最小限にするしくみです。所有から利用に転換することで、利用の合理化が図られ、本当に必要な場合だけの利用になるので、結果的にクルマの利用が減るというわけです。また、目的に応じて、小型車を借りる、大型車を借りると、使い分けられるので、単位移動あたりのCO2排出も抑えられる可能性があります。

このカーシェアリングを公用車に使うというアイディアは、どうでしょうか? 先行利用して普及に協力するという視点としてはいいのかもしれませんが、実際に箸の公用車は複数の職員が交代に使っている「シェアリング」なので、CO2削減効果はあまり期待できないでしょう。

・事業所単位でエコドライブと脱クルマ通勤の推進
・CNGスタンドの拡充
・トラックドライバーへのエコドライブ研修
・運輸事業者向けグリーン経営認証取得促進と認定業者の優先利用

この3つは事業者向けの政策提案です。どれも有効な施策ですが、実はこういう活動は、カテゴリー的には「事業者向けの施策」でカバーすることになっています。排出の大きな事業者やクルマを多数保有する事業者には、「温室効果ガス削減計画書」の提出を義務付けていて、運輸事業者はこの計画の中に、エコドライブの推進やグリーン経営認証取得などを自主的に目標設定するというしくみになっているのです。とはいえ、「トラックドライバー向けのエコドライブ研修」は、実際に効果も大きく、業界にのみ任せておくのもスピードが遅いので、市が開催を支援するというのは意味がありそうです。トラックドライバーにエコドライブを教え、タコグラフ(運転操作の記録装置)を併用してチェックすると、実際に5?20%も燃費がよくなります。さらに自分の運転に自覚的になるので、交通事故が減る効果があり、運輸事業者としては、安全(安定)運行とコストダウン(燃費削減)の両方に効果があるのですね。

また、「CNGスタンドの拡充」(CNGは圧縮天然ガスで、都市ガスで走るトラックのための燃料スタンドです)は、興味深い施策です。燃料と車輌はチキンエッグの関係で、燃料が手に入れにくいから車輌を買わない、車輌が増えないからスタンドが採算がとれないという関係です。しかし、どちらかと言えば、やはりインフラであるスタンドからつくるべきで、この提案は合理性があります。

実は、これまでも天然ガストラックによる運送は広がっていたのですが、ヤマトや佐川のような大手の場合、自社の配送基地にスタンドを用意したりできるので、市内の公共的なスタンドのニーズがそれほど大きくなかったのですね。これからは中小運輸事業者、バス事業者にもCNG車輌を増やしていく必要があり、この提案は検討すべきです。

◎採用が難しい意見

・施策の矛盾をなくす→保育所の駐車場設置義務はおかしい

この提案の扱いは非常に難しいものがあります。保育園をつくったところ、駐車場がないので認可にならなかったということで、クルマ優先の政策をやめるべきだという意見でした。もっともなことだなと思うのですが、駐車場の必要性は、現実問題として、あると思います。場所にもよりますが、横浜市の郊外ではクルマ通勤がふつうに行われているところがあるし、そうでなくても、子供を送迎するのに、クルマを使いたくなる場面は多いものです。これは、小さな子供の子育てを今の時代の中でやってみればすぐわかることですが、子供が二人以上居れば自転車での送迎はかなり危険だし、自宅との距離や、道路に歩道がない、坂道が多いなどの条件が加われば、クルマで送迎したくなるのは当然です。駐車場がなければ、近くの路上に、送迎の時間帯に駐車が繰り返されることになり、近隣の迷惑も大きくなります。保育所に駐車場設置を義務付けるのは、CO2削減の時代といっても、優先順位は相当落ちると言わざるを得ません。一見もっともな意見でも、採用できないものも多いのです。


(3)建物(住宅・オフィスビル)

次に、建物分野の意見を見てみましょう。

◎取り上げたい意見

・住宅の性能表示を手軽に計算できる技術、制度
・地下室の禁止
・設計と施工両面からの省エネ

ここでもグルーピング(わく組)の作り方が問題になります。上記の3点を、あなたならどのような言葉でグルーピングしますか? 特に、以下の5つとの比較の中で、どうグルーピングするかを考えてみてください。

・環境性能表示/売買・賃貸時の提示義務
・ソーラーハウスの支援
・環境性能の高い建物に税の低減
・削減分をクレジット化して売却可能にする
・小さな活動にエコポイント→緑化、省エネ機器、

わかりますか? 上の3つは「環境によい住宅の定義とはどのようなものか?」と言うことだと思います。下の5つは? 「環境によい住宅が広まるようにするには、どうしたらいいか?」です。上はwhat?で、下はhow?ですね。

どちらもすでに政策検討されているもののですが、興味深いと思ったのは、「地下室」です。住宅やマンションに地下室が一般化したのは、地価が高騰したバブルのころで、土地代が高いので、狭い土地でも居住面積を確保できるようにというねらいでした。しかし重機で大量の土砂を掘り、ダンプで運び、谷を埋める地下室建設は、CO2発生面でも自然環境の面でも、そして住環境の面でも、いいことでありません。唯一、売り手(デベロッパー)の利益には貢献するだけなので、基本禁止にすると言うのは、よいことではないかと思います。

もうひとつ興味深いのは、「住宅での削減分をクレジット化して売却できるようにする」という方法で、これはなかなかおもしろいかもしれません。特に、ハウスメーカーが、自社が造った住宅からクレジット分を買い取り、ハウスメーカー自身の削減分にするというスキームができると、商品価値が上がります。もちろん、ハウスメーカーにはCAP & TRADEなどで削減義務がかかっていることが要件になります。

・見本としてのエコビレッジの実現→26年度横展開は遅すぎる
・エコビレッジ

エコビレッジは、コンパクトシティと同じく、狭い地域に集合して済むことでエネルギーの無駄をなくす方法ですが、コンパクトシティが、駅前など、比較的広域の、多くの人が往来するような地域を対象にしているのに対して、エコビレッジは(都市部では)団地や開発宅地のような、住宅地に適用されます。ニュータウンのような街は、開発から30年もすると高齢化が進み、住宅も老朽化してきます。そこで、改めて都市計画を立て直し、空地を用意して簡単な農業を行って自給自足型の要素を入れること、エネルギー自給のためにソーラー発電やバイオマスを導入し、ケアや介護の施設を用意するなどすることで、数十戸程度の団地を地域ごとコミュニティ化し、自給的な要素を広げて、安心して暮らせると同時に、環境負荷を下げることを狙うという街づくりです。

エコビレッジは自給自足的な性格があるために、従来は農村部に形成しようという動きが多かったのですが、最近では高齢化したニュータウンでも実行すべきという意見が多くなってきました。士でも計画に入っているのですが、進行が遅いと指摘されています。

都市型エコビレッジは、まだモデルがほとんど無く、CO2削減効果、コミュニティ形成の効果が未知数で、市が二の足を踏むのもわかりますが、やってみないことには成果もわかりません。増してゆっくりやると言うのはいいことはなく、まず、実行してから、PDCAサイクルを回すことを狙うべきでしょう。

・高輝度蓄光式誘導標識の導入支援

これは他のものとは異質ですが、興味深い意見です。なんのことかと言えば、非常口についている出口標識のことで、通常は蛍光灯のバックライトになっているものを、蓄光式に変えようという提案です。蓄光式ならエネルギーはゼロで、停電時、非常電源がないビルでも、よく見えて安全性が上がります。1つひとつのバックライトはたいした電力ではありませんが、24時間点灯しっぱなしであること、数が多いことを考えると、蓄光式はもっと増えていいでしょう。こういう目配りが必要なことをやるのは、市はけっこう得意なので、これは本流ではないものの、実現するべきだと思います。


ということで、まだふたつテーマがあるので、続きは来週にします。
(by paco)前回に引き続き、横浜市の市民から寄せられた政策提案について検討してみましょう。


(2)交通システム

◎取り上げたい意見

・ベロタクシー(自転車タクシー)の普及
・ベビーカーの人は地下鉄バス無料に
・駐輪場の拡充

この4つは、まったく別の立場の人からランダムに発言されたものです。ランダムに発言されたものを、どのようにグルーピングするかは、ロジカルシンキングの出番、ということで、この3つを「自家用車を使わなくても都市内の移動が手軽でスムーズになるような街にしよう」という政策とまとめることができます。かつ、この4つに共通するのは、「個人の移動をアシストする政策」です。

このように分類すると、ここでは出てきていない他のプランと組み合わせることができそうです。たとえば

- 都市内で手軽に利用できるレンタサイクル
- 自転車専用レーンの設置

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