(by paco)横浜市の地球温暖化対策検討部会(審議会)で、市民からの「意見聴取」を行ってきました。12月から4回、おいでいただいた市民は、63名。個人、町内会、NPOなどの市民団体、企業、企業団体、市の政策に提言をしたい全国区の団体など、さまざまな属性の方にいらしていただきました。
国や自治体が市民から意見を聞く機会をようするのは今や常識で、ネット上で行われるパブリックコメントやタウンミーティングは必須です。しかし、今回、横浜市では、市にオフィシャルな政策提言を行う責務がある審議会が、市民の意見を聞くという形を取ることで、より実効性の高いものにしようと企画されました。
あれ? 市の職員や市長に直接意見をいうタウンミーティングやパブリックコメントの方が実効性があるんじゃないの?と思うかもしれませんが、実はそうでもないのです。市長は個人や企業からの意見を直接そのまま政策に反映させることは立場上難しく、市長が聞いていても、まず市の職員に検討させることになります。一方、市の職員は、聞いた意見の中から本当に有効なモノをピックアップする能力に乏しく、ピックアップできても、なぜAさんの意見は採用するべきで、Bさんの意見は採り上げないのかを判断することは、やはり「公僕」の立場上困難です。
審議会は、識者が意見を持ち寄り、それぞれの意見の有効性をジャッジしながら、提言をまとめます。もともと一般にどんな意見があるのかを知っていて、それを単純に集約するのではなく、自分の意見を持っている人が審議委員になっているので(はずなので)、有効かどうかの判断が出来るという前提で選ばれているので、市民からの意見も適切に取捨選択し、他の提言内容と整合性を取って、まとめることができるというロジックになるのです。
実際のところ、そういう優秀な審議委員が集まっているのかと言えば、全員がそうとも言えない、という部分はありますが、現在の部会の場合は、なかなか悪くないメンバーです。そういう経緯もあって、今回横浜市では、審議委員が市民から意見を聞くという新しいチャレンジに挑戦しました。で、その意見聴取の審議会で、議事進行とファシリテーションを僕が担当しました。全4回、のべ24時間にわたる長丁場の意見聴取で、バテましたf(^^;)。ひとり5分の聴取で、4?5名プレゼンテーションのあと、まとめて質疑、という流れの司会をするのですが、なにぶん、プレゼンテーションになれていない人もいるので、5分の持ち時間を前置きだけで終わってしまう人が多く、どうしても延びてしまいます。
「今日は活動の報告ではなく、市への提言をしていただく会です」
「時間が短いので、先に提言を話してください」
「4分30秒でタイマーが鳴るので、なったらあと30秒です」
と毎回説明しているのですが、最初に提言(結論)を話せる人がほとんどいないし、どれが結論かわからない人もいます、というのは、ロジカルシンキングの話になってきそうなので、この辺までにしておきます。
意見聴取は、大きく5つのテーマ・カテゴリに分けて行いました。
CO2削減に向けて「……」の転換する政策提言
(1)ライフスタイル
(2)交通システム
(3)建物(住宅・オフィスビル)
(4)再生可能エネルギー
(5)事業活動
それぞれのテーマ・カテゴリで、さまざまな意見が出てきたのですが、まったく見たこともないという提言はありませんでした。しかし、これは盲点になっていたとか、軽視していたという提言もあるし、たくさんの人が言うわりに、効果が少ない、あるいは制作に反映させることは難しい、というものも多く見られました。
以下に、主要な意見と、それに対する僕の判断をまとめてみます。
(1)ライフスタイルの転換
◎取り上げたい意見
・リフォーム時の助成(ペアガラスなど)
・省エネ機器への助成
生活の中で出るCO2の発生を抑えるには、リフォーム時にペアガラスを入れるとか、給湯器などを省エネ機器に変える、というような「投資」は効果があるし、小さいところでは、白熱電球を蛍光灯に変えることも効果的です。それに「助成があるといい」という意見はわからなくはないけれど、市がそれを行うべきかどうかとなると、議論が必要です。市のお金は税金ですから、市民が出し合ったお金を再び市民に還元するとなると、たこが足を食うような状況になりかねません。
そこで考えられる方法として、環境に行動を取っていない人から税金を集め、それを環境によいことをしようとする人の支援に使うという方法です。
・環境税導入
ということになり、これが複数の人(4人)から提言されています。しくみ的はありえますが、環境税を、どこに優先的に使っていくかを考えると、個人住宅のリフォームや設備更新の補助に使う方法と、(公共施設などへの)太陽光パネルの設置に使うのと、どちらが納得が得られやすいかと言えば、後者になるでしょう。個人住宅にペアガラスを入れるときには、「高い分助成がほしい」と思うでしょうが、一方自分が出した税金が、市内の隣家のリフォームに使われると思うと、「なんで?」と疑問を感じるというのが市民心理だと思います。自分は2?3年前に自前でペアガラスにリフォームしたのに、今年やる人には私が出した税金から助成が行われるの?という釈然としない心理です。実際には、自宅がペアガラスならそのぶん光熱費が少なくなっているはずで、環境税も少なくて済むはずです(環境税は、通常、使ったエネルギー=電力・ガス・石油などに比例して払う)。環境税も少ないので、隣家には出していない、という考えもありますが、このあたりのしくみがすっきり理解できるとは限りません。
逆に言うと、環境税を創設する場合は、何に使う税か、誰が見ても納得感のある出し方をする必要があります。
では、ペアガラスへの交換など、環境によいことをした人にとってのインセンティブが他にないのか、という視点での提言が
・CO2削減につながる小さな行動にエコポイントをつける
ということになるでしょう。エコポイントとは、ショップやカード会社のポイントと同じく、疑似通貨で、直接現金で支援するのとは違うメリットの出し方設計できるのがよい点です。ためたエコポイントを使える店を地域の商店に限定して、商店の活性化につなげれば、エコポイント自体を地域産業の育成に使えます。すると、エコポイントの現金化予算を市の産業政策課の予算でもつ、といったことも可能になるし、地元商店の販促活動として、商店と市が折半で負担すると言うことも考えられます。具体的には、ペアガラス導入費の10%をエコポイントで還元した上で、商店では支払いに10%までエコポイントを使えるようにする。5%分は店の負担、5%は市の産業振興課の負担、というスキームです。
エコポイントにしても地域通貨にしても、問題なのは「使えるかどうか」です。使える店が少なければ、買い物のときもわざわざ出さないので、もらってもありがたみがありません。必ず使えるポイントに交換できるといいのでしょうが(スイカにチャージできるとか)、そうなると現金とほとんど変わらなくなり、わざわざエコポイントにする意味が無くなりそうです。
エコポイントも、政策提案が多いのですが、運用設計が難しい。しかし環境税よりはずっと抵抗なく導入できるし、広がりが大きくできるので、エコ活動に対する、「そんなにおいしくはないけれど、ちょっとうれしい」インセンティブとして使うことを考えると、政策導入の価値が以外に高いのかも知れません。
・ルームシェア・ケアハウスの普及でオーバーラップ居住を促進
こんな提言もありました。オーバーラップ居住とは、他人同士が1つの住戸に住み、リビングやバストイレを共有することで、共有部分で消費されるエネルギーを節約し、コミュニティ機能も充実させようというプランです。今、日本の住宅は、ルームシェアを前提につくられることがないので、市内のアパートや借家をルームシェアに使うのはけっこう難しく、賃貸契約も一般的ではないので、物件オーナーはためらいがちです。ルームシェアの契約・ルールづくりを進めることで、利用が進む可能性は充分にあり、個々ばらばらにアパートを借りるより、環境面でも、コスト面でも有利になるでしょう。以外に効果的な政策になると思います。
・市職員にリーダーシップ研修
・各区にCO-DO30の推進員を置き、地域活動の支援を行う
・各区の推進組織を作る
これは、市の職員自身が政策を現場で実現する力を付けるべきという提言です。論理はよくても、実際に現場で実現できていないという政策は確かに多いので、人材育成は重要な鍵になるでしょう。リーダーシップがいいのか、ロジカルシンキングなのかはわかりませんが、市の職員の「行動力・実行力向上」は政策、制度として、大きな意味を持ちそうです。
・市のトップページに横浜FCのエコ活動を告知してほしい
横浜FCは、ゴミ削減のときも協力していて、CO2削減でも有力なステークホルダーです。もちろん、同じように協力している企業はグループ、そして市自体の活動を知らせる情報発信は欠かせないのですが、これがお役所仕事的で魅力的ではありません。広く情報発信力という点では、パワーアップが必要でしょう。
◎採用が難しい意見
・他の都市をリードするリーダーシップ
これはすでに政策化されているので、「もっと強く推進すべき」というのは事実ですが、政策・制度的にはすでに実施済みということになります。
・地域活動で、省エネコンテストの実施
・回覧板などでの環境情報の提供
・地域学習会を実施
こういった活動への支援を期待する市民は多く、市としても力を入れています。実は、市の環境政策の多くは「普及啓発事業」で、これ以上普及啓発ばかりやっていてもダメだというのが基本的なスタンスなので、これ以上の力を上乗せすることは避けるべきです。
・学校への環境出前講座について教育委員会の理解度を上げてほしい
子供たちに対して、理解を深める活動は重要で、それをやっている市民グループの活動を教育委員会が軽視しているとしたら、確かに問題です。しかし教育委員会は市とは独立した組織なので、どこまで強制力があるアクションがとれるかは、難しい面があります。
・ペットボトルキャップの回収など、地道な取り組み
・花/健康体操などコミュニティづくり
・電気の切り忘れ1回100円 年間5000円とか罰金がたまる方法
環境について意識を高めるには、そもそも市民の「地域コミュニティ」がしっかりしていないと、情報も伝わらず、行動も取りにくいのは事実。ただ、それを「温暖化対策」で支援や制度化するというのは、因果関係が遠いと思われます。
・レジ袋削減
すでに、いろいろな活動が進んでいるので、これ以上に政策として追加してまでやるかというと、そこまでではなさそう。
・リターナブルびんの普及→生協から一般の商品にも導入したい
横浜市単独で、政策・制度として行っても結果が期待できなさそう。
★ということで、今回は5つのうちの一つ目のコメントまでで終わってしまいました。こんな感じで僕が一時スクリーニングを行い、部会で検討して、提言をまとめていくことになります。
非常に手がかかる作業になりますが、民主主義というのは、本当に手間がかかる非効率的なシステムだと感心します。中国が、一党独裁の社会主義でないと、大きな国は運営できないと豪語するのも、わからなくはありません。
僕自身は、手間がかかっても、効率が悪くても、民主主義の方が好きですが。
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