(by paco)390aイスラエルのガザ侵攻に注目(3)

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(by paco)今週は2本立てです。テーマがまったく違うので、記事も2本に分けました。

後半の記事はこちらをご覧ください。

まず最初は、先週からの続きで、ガザ侵攻について、さっくりまとめておきたいと思います。

先週の記事のあと、結局、両者停戦に至り、いったん戦闘は終結しました。これ以上の犠牲者が出ないことについては、ほっと一息だし、戦火が拡大して、世界に影響が広がるようなことがなく、よかったと思います。でも、問題は何も解決していないどころか、火種は大きくなる一方です。

まず、ガザに侵攻したイスラエルは、その目的を達することができたのでしょうか。戦争目的は、ハマスの攻撃力の破壊でした。しかし、実際には、ハマスの戦力はほとんど生き残っているといわれています。ハマスの戦力の中心はロケット砲(小さなミサイル)と、ライフルや自動小銃などを使った市街戦の戦力です。イスラエル軍は白リン弾まで使って人体への攻撃をはかったわけですが、3000人を超える死傷者の中で、ハマスの戦闘員は300?500人といわれ、被害のほとんどは一般市民でした。一方はハマスは、1万6000人程度の戦力を持っていると言われているので、ハマスは実質的に無傷に近い状態です。主要な幹部も生き残ったようです。

エジプトとの国境、ラファ周辺にある秘密の地下トンネルは、大半が破壊されたと報道されていますが、もともと手で掘り進んだような小さなトンネルばかりで、破壊されたといっても、再建するのもそれほど難しくないでしょう。今後、さらにトンネルが掘られないように、米軍が監視するという約束を、イスラエルは取りつけました。とはいえ、この約束はブッシュ政権最後の決定で、すでに政権はブッシュとはまったく性格の異なるオバマに交代しています。この約束が実質的に機能するかどうかは不透明です。

こう考えると、イスラエルはガザに侵攻して、破壊と殺戮を繰り返したものの、その被害の多くは標的のハマスの軍事力ではなく、一般市民の生活であり、破壊したものが再建される可能性も高い。殺戮と破壊による憎悪だけが蓄積され、目的は達していないのです。

一方ハマスは、戦力はほぼ保持することができ、妥協せずに戦い抜いたことで、支持を広げています。なぜ数千人も殺されりケガをしたのに、その戦いの責任の一端を持つハマスが、パレスチナ人は非難することはないのでしょうか。日本人は、かつて太平洋戦争に負けた旧陸軍や帝国政府を見限って、戦後、米国の傀儡政権を支持しました。どこが違うのか。

日本の旧帝国陸海軍や旧帝国政府は、戦ったとはいえ、外に出て行く侵略戦争でした。ハマスは、もともとガザという、わずか60キロ×20キロほどの狭い地域に封鎖され、困窮したパレスチナ人に、なんとか生活の基盤を作ってきた組織です。実際、ハマスは学校や病院を作り、民政を担う政府であり、軍事部門はハマスの機能の一部に過ぎません。イスラエルによって理不尽に厳しい生活を余儀なくされているガザのパレスチナ人にとって、ハマスは自分たちが生きていく上でなくてはならない役割を担っている存在であり、今回の戦闘に、「イスラエルを挑発した」という責任の一端はあるものの、より悪いのは、ここまで悲惨で意味のない殺戮を行ったイスラエルであるという理解をしているのです。イスラエルがあまりにも残忍な攻撃をしたために、パレスチナ人の民意はハマスから離れることなく、よけいに強固にハマス支持につながっていくという構造になっているのです。同じく戦争に負けた旧帝国陸海軍は、国民を守らずに、真っ先に植民地の満州や朝鮮、台湾、上海などから引き上げてきました。逃げる手段を持っていない、入植した日本人は、守ってくれると信じていた軍隊に先に逃げられ、惨憺たる思いで日本列島に逃げ帰ってきましたが、その間に多くの人々がのたれ死にしました。戦闘でイスラエルの悲惨な攻撃で死んだパレスチナ人は、犠牲は出したものの、市民とともにあって戦ったハマスを支持しました。

イスラエルは、結局侵攻したガザで本格的な市街戦には入らず、待ち構えていたハマスはイスラエルをつぶす機会を失いました。しかし、戦力は維持され、市民の憎悪を受けて、次の機会を待っている状態です。

イスラエルは、強気な侵攻に、一応形式的には勝って戻ることができ、これから始まる選挙に、選果をもって望むことができます。これがイスラエル政府が得た「選果」、つまり選挙に勝つことが目的で、ハマスを完全につぶせるとは思っていなかったと言うことだと思います。また、米国の新政権が本格的に動き出す前に、ひとまず矛を収めることで、「2階に上がったハシゴをはずされ」たくなかったというタイミングも見たと思います。

現在、イスラエル国内での現政権の評価は、いったんは上がったものの、実際の選果がそれほど大きくないのではないかという疑いから、思ったほどの評価は得られていないという指摘があります。

ハマスは、これから、「負けたのではない、勝ったのだ」というプロパガンダを行い、ガザのみならず、西岸地区のパレスチナ人にも支持を広げたいというのが本音だと思います。破壊を受けたガザとハマスに対して、サウジアラビアなどアラブ各国が支援を始めていることも、逆に人道支援という名の下に正々堂々と支援を受けることができるのも、メリットと言えるかもしれません。

というわけで、今後は、武力の戦闘から、プロパガンダと勢力拡大の政治的な戦いに移り、同時に「決着がついていない」ことの、次の戦いへの準備が始まっていると考えるべきです。まだまったく終わっていないガザ戦争の行方は、まだ流動的です。

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