(by paco)先週に続いて、ガザ戦争について書きます。
ガザ戦争の行方によって、日本がどのような影響を受けるのか、考えてみましょう。
これまでの例の通り、イスラエルが勝利すれば、どうなるでしょうか。パレスチナではハマスの影響力が落ちて、穏健派のファタハが消去法的に勢力を盛り返し、中断している大統領選挙を行って、アッバスが再任される可能性があります。北のヒズボッラは無傷ですから大きな影響はないでしょうが、シリア、イランは不利な状況になります。特に、新しい中東の盟主になるべく、大言壮語を繰り返してきたアハマディネジャドは国民の支持を失って、イランが弱体化する可能性があります。イスラエルが勝てば中東全体は安定方向なので、原油の値段も上がらず、イランは石油収入が増えずに経済的にも困窮して、政権が不安定になるでしょう。イランの政権がすぐに崩壊することは、政治体制から見てないと思いますが、対話重視のオバマがイランを電撃訪問して、イランとの国交を回復、というようなこともないとは言えません。しかし、こうなったとしてもパレスチナ人の苦悩は深まるばかりで、ガザと西岸地区をイスラエル軍が封鎖し、飼い殺し状態がますますひどくなることは間違いなく、人道危機は高まると思います。これが次にどういう展開を生むのかはまったくわかりません。
一方、ハマスが優勢に立つとどうなるでしょうか。ハマスがある程度のところまで持ちこたえれば、イスラエルはたいした「戦果」がなくても撤退せざるを得なくなるでしょう。おととしのヒズボッラーとの戦争では、イスラエル軍に意外に持久力がないことが明らかになりました。もともと国民の数が少なく、700万人のうち、ユダヤ人は80%(パレスチナ人が20%弱)。570万人ほどのユダヤ人の中から、正規軍が17万人、予備役を入れれば57万人とありますが、実際のところ、17万人の兵員を、交代休暇を取りながら戦争を継続巣には、大兵力で長期間の軍事行動には堪えないようです。ヒズボッラーとの戦争では、地上軍をレバノン領内に侵攻させて1か月戦ったものの、開戦理由になったイスラエル人捕虜4人の開放も、ヒズボラの解体も達成できずに、撤退となりました。
今回は、12月28日なので、1か月程度の戦闘でイスラエル軍が戦果を得られなければ、ハマスが勢いづく可能性が高くなります。イスラエル軍は南のエジプトとの国境を封鎖していますが、この封鎖が解ける事態になれば、エジプトから物資が流入し、同時に義勇兵がガザに入って、ハマスは一気に優勢になるでしょう。こうなると、ヒズボッラーが何らかの理由を付けてイスラエルに攻撃を加え、西岸地区でもテロを中心とする攻撃が始まると、イスラエルは総崩れになる可能性があります。国連などによる停戦交渉が始まるでしょうが。交渉が間に合わなければ、あっという間に西エルサレムやテルアビブなどの主要都市がパレスチナ、ヒズボッラー、アラブ義勇兵などによって占領という可能性もあります。
中東は大混乱に陥るでしょう。エジプトは親米政権がアラブナショナリズムを押さえ込んでいますが、ハマスが有利になれば、クーデターが起きて右派政権が誕生し、強硬な態度に出る可能性があります。東隣のサウジアラビアでも親米王族がなんとか国を治めていますが、崩壊して油田を「人質」にとって西側と交渉を始める可能性があります。原油価格は本当に高騰し、世界経済は大混乱になるでしょう。イランが参戦すれば、隣国イラクに侵攻して、駐留する米軍はペルシャ湾に追い落とされ、撤退もできずに全滅する可能性さえあります。ホルムズ海峡は封鎖されて、物理的に原油がストップするでしょう。厳しい現状を打破するために、米軍とイスラエル軍がイランのテヘランなど主要都市に核攻撃を行う可能性さえあります。世界中のイスラム教徒が狂乱し、インドネシアやインド、スリランカ、をはじめ、東南アジアでもドミノ倒し的な政変が起きる可能性もあります。イスラエルから大量のユダヤ人が難民になって欧州に押し寄せ、一部は日本も政治亡命を求めてやってくるでしょう。
日本は?
原油価格の高騰と、信用崩壊で円安に振れて、国内経済は大混乱になることは間違いありません。サブプライム問題どころではないでしょう。ただ、中東の混乱がある程度の範囲で収まれば、力を失った米国に変って、日本の経済力が相対的にクローズアップされ、円高に振れて、原油高に翻弄される世界を尻目に、反映を確保できる可能性もあります。どちらに振れるかは、わかりません。
これ以上のことは考えたくもありません。
ハマスが、全面勝利して中東大戦争にまで発展する可能性は低いと思います。国連、欧州、ロシアなど、仲裁が成功し、中東和平が実現されるかもしれません。そのぐらいで収まるのが、一番望ましい結果ですが、現実はどうなるでしょうか。
さて、先週から1週間たち、戦況は大きくは変化せず、侵攻したイスラエルが一方的に攻撃しているというように報道されています。エジプトが仲介に入り、停戦案が合意されそうだとか、イスラエルが一方的に停戦して、終結するのではないかという指摘もあります。
では実際にハマスはイスラエルの武力に敗北したのかというと、そういうことでもなさそうです。イスラエルはガザに侵攻したものの、本格的な市街戦になる直前で止まっているようです。街の周辺からの砲撃と空軍による爆撃に留めていますが、その爆撃に違法性の高い白リン弾が使われているようで、ガザ市民の犠牲者が増え続けています。しかし、ハマスの戦力が破壊できたのかというと、空爆ではそこまでの戦果は上げられないと見る方がいいでしょう。一般市民の犠牲が増えている一方で、ハマスは戦力の温存を図り、反撃のチャンスをうかがっているという状況でしょうか。ハマス側からの情報が少ないので、イスラエルが「ハマスの戦闘能力をつぶす」という軍事的な目的を達成できたかどうかは、今のところわかりません。しかし、イラクやアフガン、ソマリアの例を見ても、いかに最新兵器を駆使しても、空襲だけで敵の戦力を破壊できたことはなく、地上軍の展開が不可欠です。その地上軍がガザ市外にまでは入っていないらしいことを考えると、ハマスはまだ戦力の多くを温存していて、イスラエルが引き上げたあとに、ロケット弾攻撃を再開する可能性があります。こうなるとイスラエルの対面は丸つぶれで、ハマスは一般人の犠牲の上に戦力を温存し、イスラエルは「虐殺」を行っただけで、目標の戦力は回ができていなかったということになり、ハマスは高らかに「勝利」宣言をすることになるかもしれません。
この戦争のもうひとつの焦点が、最南部のエジプトとガザの国境です。この国境はイスラエル内の「ガザ自治区」とエジプトとの国境に当たるので、イスラエル軍が展開指定国境を封鎖しています。しかしハマスは国境に60箇所と言われる秘密のトンネルを掘り、ここから武器はもちろん、医薬品や食糧、iPodなどの電気製品まで、密輸して、ガザ地区内の生活を維持し、軍備を強化してきました。この地下トンネルとつぶすことがイスラエルのもうひとつの目標であり、米軍から小型でトンネルなどの構築物への破壊力がある最新ミサイルの提供を受け、トンネルの破壊を行っています。しかし地上軍でしらみつぶしに破壊しなければ、トンネルのすべてをつぶすことはできないでしょうし、いったんは破壊しても、出入り口付近を破壊するのみでしょうから、ハマスが再び修復して使えるようにすることも可能で、実効ある破壊ができるかどうかわかりません。この破壊のために、米軍からの技術協力を取り付けたという報道が出ていますが、政権交代のこのタイミングでの協力の約束が、新政権になっても継続されるか、それが効果を上げるかどうかは、未知数です。
また、もし本当にこのトンネルがすべて使えなくなれば、ガザ市民の生活はほとんど成り立たなくなるでしょうから、今度は生活の困窮がひどくなり、イスラエルは人道上の非難を浴びることになるでしょう。
さらに、停戦後には、ジャーナリストがガザしないからさまざまな報告を行うことになり、特に白リン弾の非人道的な攻撃が明るみに出て、国際的な非難を浴びる可能性もあります。白リン弾は、照明弾ですが、上空で爆破して燃えて証明しながら落下し、それ自体は破壊力がないものでした。しかしこの白リン弾を低空で爆発させて、燃え尽きない状態で人が多い場所に落下させると、燃え尽きていないはクリンの破片が人体に降り注ぎ、ひどいやけどを負わせて死亡させる兵器になります。わずか数センチの破片が皮膚に落ちただけでも、皮膚を焦がしながら体の内部に入り、骨にあたっても消えずに燃え続けて体の内部を燃やしてしまうという残虐な兵器で、毒ガスや化学兵器、細菌兵器と並んで、国際法に違反した兵器(兵器利用)であると言われています。白リン弾にやられた死体は、表面上は小さなやけどあとしかないのに、体内が焼けているという状態で発見されるので、すぐわかります。今はガザはイスラエルによって封鎖状態で、ガザからの写真や映像があまり出てこないのですが、停戦後にはこういったものがインターネットに流出して、イスラエルがガザで何をやったのか、明らかにされると思います。ちなみに白リン弾は、イラクのファルージャで米軍が使ったことで注目され、米軍は国際的に強い非難を浴びました。
というわけで、現状ではイスラエル有利、そしてこのまま、合意か、合意なしかはともかく、停戦が行われれば、ひとまず殺戮は中断するのですが、それがイスラエルの勝利と呼べるかどうかは、今のところ未知数です。きたのヒズボッラー、東のシリア、イラクが沈黙しているのも不気味です。停戦後、アラブ諸国やガザ市民、ハマスが、この停戦を敗北と呼ぶか、負けなかった=勝利と見なすかにも、注目していく必要がありそうです。
とはいえ、現状ではハマス側がイスラエルに逆襲するまでのシナリオはなさそうで、中東大戦争に発展するリスクはかなり下がったと思います。日本を含めて、世界に大きな混乱を与えるところ間の拡大の危険は小さくなったと言えそうです。
最期に、今回の戦闘で死者1000人以上の大きな被害を受けたガザ市民が、強硬派のハマスをどう見ているのかという点ですが、市民は犠牲を払ってでも強い態度を貫くハマスへの支持を変えないだろうという見方が有力です。なぜそれほどまでに支持するかと言えば、イスラエルによるガザの封鎖があまりにもひどいためで、生殺しのように生活がじりじり困窮しているのに、その困窮の原因であるイスラエルに頼らないと、水も電気も供給されないというガザの宿命を、そのまま受け入れて現状維持をよしとするようなマインドにはなれない、ということでしょう。
実際、ガザを含めて、ヨルダン川西岸地区、東エルサレム、そして周辺国であるヨルダン、レバノン、シリア、エジプトなどに住むパレスチナ人たちの苦難は並大抵ではありません。イスラエル建国以来、住む場所を不条理に奪われ、人権を奪われ、いついわれのない理由で逮捕・収監されるかわからず、裁判もなく死刑になることもある。住む場所を奪われたために、難民キャンプでの生活を余儀なくされ、仕事も満足にないし、仕事を探して別の街に移動したくても、街と街の間にはイスラエル軍が無数の検問所をつくって、通行の自由をわざと困難にしています。検問所の兵士は、通貨を求める市民を非常に居丈高に扱い、その扱いにちょっとでも反抗すれば、逮捕・収監したり、殴る蹴るの暴力に訴えたり、急いでいるのに、わざとチェック作業を長引かせたり、「治安上の問題が起きた」といって、いきなり検問所を閉めてしまうこともあります。朝隣町に仕事にいったまま、戻れないことも珍しくなく、パレスチナ市民はこのような状況に講義する場さえ満足にありません。イスラエルはこういった理不尽な管理を行うことで、パレスチナ人に誰が支配者なのかを教え込もうとしているのです。
こういった不条理な状況の中で、自治政府は、受け取った援助の横領で汚職がひどく、市民が困窮しても、膠着状態を解決するビジョンさえ持てていない受け身の状態です。それに対して、ハマスは、イスラエルの対する武装闘争というビジョンと、学校や病院も含む民生も担当しているので、市民からの支持が厚くなるのです。
ナチスによる迫害にあったユダヤ人の苦悩も理解できますが、だからといって、パレスチナ人を同じように、あるいはそれ以上のひどい扱いをしてもいいという理由にはなりません。しかしそれ以上に僕が怒りを感じるのは、ユダヤ人の迫害の歴史を利用して、中東での有利な立場を獲得しようとする米国、英国の嫌らしいやり方です。
しかし日本も米国傘下の国としてその結果の恩恵を受けていると思うと、それ自体やりきれない気もします。こういう深い矛盾の中に、中東の人々の苦悩があることは、知っていていいと思うのです。
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