(by paco)今週は、今一番気になっているニュースについて話します。イスラエルによるガザ侵攻です。
ガザ侵攻については、こちらにも記事を書いているので、それ以外の話をします。
まず戦況ですが、現状、実態についてはあまり情報がありません。イスラエル軍がガザを完全に封鎖しているために、報道陣も入らず、両軍からの発表以外の、客観的な情報がほとんどないためです。
一般的に言えば、イスラエル軍はこれまでのパレスチナ人との戦争で圧勝している例が多いし、イスラエル軍の装備は米国から最新鋭のものが調達され、戦車や航空機など、自らの身を守れる状況での攻撃が多いために、イスラエル軍が圧倒的に有利という見方をされることが多いのです。
しかしその一方で、ガザはハマスの「庭」に当たる場所で、すみずみまで熟知しています。そこにイスラエルは地上軍を進軍させたわけですから、戦場ではハマスが有利になります。また市街地ということで一般市民と戦闘員が混じっている場所での戦闘ですから、イスラエルの攻撃で非戦闘員の犠牲が増えるほど、国際的な非難を浴びることになり、戦闘継続が難しくなります。
この戦争は、イスラエルが仕掛けたように見えますが、ハマスが挑発してイスラエルがこれに乗った戦争で、ハマスにはハマスの計算があり、イスラエルにはイスラエルの計算がある中で、どのような結果になるのかが注目されるという状況です。
先に僕の立場をはっきりさせておくと、基本的には僕はパレスチナにシンパシーを感じていて、今回の戦争の結果、パレスチナとイスラエルの力関係が逆転することになればいい、と思っています。ただ、その結果としてもたらされるものは、日本や僕自身の生活環境にとってはおそらくマイナスで、日本人の生活はイスラエルが中東で強大な力を持っているから成り立っているという矛盾の中に生きているという現実があります。また、どちらが勝つにせよ、犠牲になるのはガザの一般市民で、特に女性と子供たちが犠牲になると思うと、本当に心が痛みます。しかし、ガザに限って言えば、女性や子供たちも、犠牲が出てもハマスは戦うべきだと考えているのではないかと思うし、今回の戦争が始まらなくても、またハマスが負けてしまえば、ガザの(女性も子供も含む)パレスチナ人の生活は最悪の状況になっていて、戦いがない方がいいとはとても言えないような、生殺し状態にあるのは間違いない事実です。そういうガザのパレスチナ人とハマスの行動を考えると、すでに戦闘になっている以上、勝つところまで行くしかないのではないかという気持ちに傾いています。こういう気持ちになること自体、僕自身イヤだったりもするのですが、長年パレスチナ情勢を研究していると、やむを得ないという気持ちになるのかなあともいます。
今回のガザ戦争は、ハマスにとってもイスラエルにとっても、そして世界史の流れから見ても、ピンポイントで絶妙なタイミングで始まっています。この戦争は偶発的なものではないし、悲惨な戦闘であることは事実としても、何らかの決着がつかなければ終わらないだろうという理解をしています。
まず、ハマス、というかパレスチナ人にとっては、指導部が複数あるねじれ状態という現実があります。パレスチナはイスラエルによって、ガザ人ヨルダン川西岸地区に分かれていて、従来は西岸地区の「政党」であるファタハが政権を担い、そのリーダーとして現在はアッバスが議長を務めています。
ちなみにファタハは1980年代まではパレスチナ解放機構(PLO=リーダーのアラファトは2004年に死去)として活動していましたが、1994年にオスロ合意によって暫定自治政府が設立されると、親米派・穏健派グループが集まってファタハを名乗り、10数年に渡って、西岸地区とガザの内政を担当してきました。とはいえ、自治は非常に限定的で、実質的にイスラエルの支配下にあり、街から街への移動の自由もなく、街道には頻繁に検問所が置かれて、理不尽な生活を強いられているし、経済基盤もほとんどないので、欧米からの援助に頼って「飼い殺し」的な生活をしているのが現実です。
そのファタハは援助にすっかり慣れてしまい、政権腐敗が激しくなったこと、西岸地区とガザ地区が物理的に離れていることなどから、信任を失い、2006年の総選挙ではハマスが圧勝して、少数派のファタハが支えるアッバス大統領がねじれ状態に陥り、暫定政府が機能不全に陥りました。西岸地区でもファタハは信任を失っているので、今選挙をやれば大統領選挙でもハマス有利ですが、それもあって、アッバスは大統領選挙を先延ばしにしてきました。信任を失ったアッバス率いるファタハ政権と、市民の信任はあるけれど、実権がないハマス、そしてそれぞれが西岸とガザに分裂させられているという状況が非常に不安定で、ハマスとしては、この状況を打破するきっかけを求めていたわけです。
今回の戦争でハマスが勝利すれば、パレスチナ人の支持はハマスに集中するのは明かで、政治的な統一に成功して、ハマスがパレスチナ人を代表する政府を名実ともにつくることになるでしょう。ハマスとしては、穏健派ファタハと比べて、イスラエルと敵対して支持を集めてきたので、どこかのタイミングで実際に力でイスラエルに勝利することは渇望してきたはずで、今回の戦争が「ハマスによる挑発だ」というのは、こういう流れの中にあります。
また、ハマスの背後にはいくつかの支持グループがあり、そちらの状況もあります。パレスチナ人は西岸地区とガザの自治区に住むだけでなく、北の隣国レバノンや東隣のヨルダン、北東のシリアなどにも難民として生活しています。そのうち、レバノン南部を支配するヒズボッラーは、ハマスと同様、強硬派で、一昨年のヒズボッラーとイスラエルの戦争では、イスラエル軍を市街戦に持ち込んで身動きが取れなくして、撤退させた実績があり、今回のハマスの行動もヒズボッラーの勝利が背景にあるのは間違いありません。ヒズボッラーにも背景があり、東隣のシリア、さらにその東のイランの支援を受けていると言われています。イランの大統領アハマディネジャドは、同じく強硬派で、イランは産油国ですから、去年の原油高騰でたっぷりと潤い、ヒズボッラーやハマスへの支援も潤沢に行われたのではないかと想像されます。
つまり、パレスチナ問題と言いつつも、パレスチナに限定されるわけではなく、イラン→シリア→ヒズボッラー→ハマスという反米・反イスラエルの強硬派が元気がいいというここ数年の動きがあり、そこに親米・イスラエル容認のファタハ政権が支持を失ったという事実から、地殻変動が起こり、その結果として戦争が起きているということをつかんでおく必要があります。
日本の新聞は、「過激派・ハマスが、ロケット砲でイスラエルを砲撃したために、イスラエルが<テロ撲滅>のために軍をガザに進めている」という報道をしていますが、これは非常に表面的な見方なのです。
さて、一方のイスラエルにも事情があります。イスラエルはもともとシオニストと呼ばれる極右勢力が中心になって建国した国で、武力でパレスチナ人を圧倒し、旧約聖書に約束されたちにイスラエル人の国をつくることが歴史の必然だと考えています。しかしイスラエル人(ユダヤ人)の中にも中間派や、穏健派もいて、穏健派はシオニズムには否定的で、今も欧州や米国に住み、あえて「ユダヤ人だけの国」をつくる必要はないと考える人もいます。「あってもいいが、その国が今度はパレスチナ人を抑圧していいというわけではない」と考える人もいます。イスラエル国内では、右派(シオニスト)が強硬に、軍事的にパレスチナ人の撲滅や駆逐を訴え、行動をとるのに対して、中間派は右派の強攻策が失敗して敗北すれば、イスラエルの国家存続が危ういと考えています。
イスラエルは建国のころの1940?50年代はイギリスを後ろ盾にしていましたが、建国時(1948年、第二次大戦終結後3年)には米国が後ろ盾になっていました。イスラエル損族のためには米国の支持が絶対と考えるイスラエルは、米国政権内に「イスラエルロビー」を送り込み、議会や政権担当者にイスラエルへの絶対的支持を実現してきました。今や米国ダイトウリョウモ米国議会も、新イスラエルと発言しないと選挙ではまったく勝てない状況が続いていて、ブッシュ政権はもとより、今度のオバマ政権も同じようにイスラエル支持です。この支持を背景にイスラエル国内ではシオニスト(右派)が常に力を持って、パレスチナを圧倒してきたわけです。
しかしブッシュJr.政権で潮目が変りました。ブッシュ政権は9.11以後、イラクに派兵し、常にイスラエル支持を訴えてきたのですが、実際に強硬な行動はことごとく失敗していて、田中宇によれば、この状況は「イスラエル支持をやり過ぎることでアラブ人からの反感を余計に強め、わざと失敗することで、イスラエルを振り落とそうとしている」と分析しています。
実際、ブッシュ以前の政権も含めて、米国はイスラエルを守ることに異常なコスト(カネ、軍)を払い、さらにそれによって世界から嫌われ者になる行動をとってきました。その動きがあまりに強すぎるようになったために、米国が内政・外交の自由を失っている状況です。とはいえ、イスラエル支持をしない政治家は連邦政府に入れない。そこで、強烈にイスラエルよりの行動をとり、逆に失敗することで、イスラエルの影響を振り切ろうとしているのだというのが、田中宇の分析で、もし米国がイスラエルの影響を本当に排除したいと思えば、この方法以外にないというのは、合理的な判断だと思います(この田中説には陰謀論者のレッテルが貼られるのですが、僕は一定の評価をしています)。実際、ブッシュ政権の8年間の戦争はすべて失敗で、米国への信頼は失墜し、影響力は地に落ちています。米国がイスラエルを支持すると行っても、軍事力は落ち、政治力もないので、実行が上がらない状況になってしまいました。
もしブッシュ政権のネオコンが「やり過ぎによるイスラエルふるい落とし」を実行したのなら、イスラエルが調子に乗って強硬な態度に出るのは命取りです。にもかかわらず、イスラエルが今ハマスと戦うとしたら、イスラエル右派と軍部が(最後の)賭に出ている可能性があるし、長途米国の政権交代時期に合わせて軍事行動を起こすことで、オバマ政権がイスラエル支持の行動をとらざるを得ないように誘導している可能性もあります。
しかし、米国の影響力が実際に下がっていることを考えると、イスラエルがハマスに軍事的に不利になると、北隣のヒズボッラー、そのは以後のシリア、イランが勢いづき、イスラエルは北、東、南から攻撃を受けて、地中海に追い落とされる可能性があります。建国以来、全戦全勝によって維持してきたイスラエル国家は、今回、敗北すれば、すべてが無に帰してしまう可能性も否定できないのです。
ということで、まだまだ長くなりそうなので、今週はこのぐらいにして、次週に続けます。
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