(by paco)サブライム問題は、いよいよすごいことになってきました。僕自身は金融の専門家でもないし、わからないことだらけですが、あくまで僕の目から見えていること、という点で書いていきます。
サブプライム問題の存在自体を知ったのは、昨年の今頃、田中宇の国際ニュース解説など、いくつかのネットメディアを通じてでした。サブプライム問題がこれから大変なことになる、という情報は、今年の年始あたりから呼んでいたので、今の状況そのものは別に驚くことは思っていません。起こるかなと思っていたことのもっともすごいシナリオをたどっているのは事実だけれど、ここまで来るとは思いもしなかった、というほどでもない、ところです。
サブプライム問題は、3つぐらいの切り口で考えることができると思います。
ひとつは、住宅バブルという側面。これは日本のバブルと基本的には同じで、将来不動産が値上がりすると考える人が多ければ、無理をしてでも買おうという意思が働き、サブプライムな人(低所得者)であっても、無理に購入しようとして、実態にそぐわない需要がバブルを引き起こすという側面です。今となっては、日本のバブル経済が起きていった状況をリアルタイムで知っている人もやや少数派になり、僕の受講生になってくれる20?30代の人たちにとっては、バブルということ自体、「歴史上のこと」であり、米国で起きていることがピンと来ないかもしれませんが、それ自体は、日本人にとっては「経験済み」だということです。アワのふくらみ加減が、さすがに米国はでかいなという感じはありますが、あくまでも相対的な問題です。
ふたつ目は、ではなぜバブルが起きたのかという理由を問う点です。上記の「住宅が値上がりを続ける」というのは、借金をした人の直接的な動機であって、「住宅が値上がりする」という情報を流し、状況を作った人は別にいて、これはニューヨークの金融ビジネスや住宅産業のトップ階層の人々が、ビジネスに好都合だから、誇張したもの、というか、ねつ造したものと考えられます。
日本でも、バブルの時代に値上がりを続けた不動産価格を見ながら、「こんな状態が長く続くわけがない」と実感していました。バブルの渦中(泡中)にいる人には、バブルは永遠に続くように感じられ、浮かされたように不動産を買い続けるものだというような言説をときどき見かけます。バブルの泡中にいる人にとってはそれと気づかない、という意味ですが、それは違います。僕はバブル当時に、20代後半で広告の仕事をばりばりやってましたが、「こんなことが長く続くわけはない」とはっきりわかっていたし、周囲とも話していました。住宅価格は値上がりを続け、東京名古屋大阪などでは、年収の10倍以上出しても、まともな生活ができないようなマンションしか手に入らなくなっていました。景気が過熱していろいろな仕事が活況を呈していたのですが、忙しすぎて、みんなへとへとでした。仕事が雑になり、どうでもいいことに金を使う例が目に見えて増え、みなが煮詰まっているのが感じられました。長くは続かないことははっきりわかっていたので、僕自身は不動産には手を出しませんでした。実は、一度、自宅用マンションを買おうかと、契約書にはんこまで押したのですが、どうしても納得できずに、契約破棄しました。危なかったなあ。
わかっているけどふくらみ続けるのがバブルです。米国は、日本のバブルの経験を知っているわけですから、防ごうと思えば防げたはずです。しかし防がなかった。彼らが住宅バブルを、それと承知であおったわけです。住宅バブルが起きなければ、経済がまったく回らず、景気後退が明確になれば、9.11以後の連続戦争状態の戦費調達に問題が出ます。アフガニスタン、イラクと戦争を続け、アフガンはNATOに引き継いだものの、すでに敗色濃厚。イラクに至っては、どうやって世界から非難を受けずに逃げ帰ってくるかを模索している状況で、完敗です。その間、膨大な戦費を調達し、しかも、その戦費調達を技家に通すために、耳障りのよい「減税政策」を毎年繰り返して、富裕層にどんどん富を集中させていきました。減税は、高額所得の税率を提言することによって行われているので、恩恵を受けるのは富裕層だけなのです。こういう無理ができたのも、GDPが成長してきた故ですが、その成長を支えていたのが、サブプライムローンをツールにした低所得者への融資と、それを可能にする金融技術でした。つまり、サブプライム問題の根底には、戦争を続けたい軍産複合体があり、戦争中毒に陥った体を、サブプライムのしくみを覚醒剤のように使いながらなんとか立って歩いていたのが米国だったわけです。
3つめとして、サブプライムの背景的な問題。
実際のところ、米国の経済は、実体経済を支える産業がほぼ壊滅していて、製造業はぼろぼろ、ITも開発部分はインドや中国のとられて国内のシステムエンジニアは大量失業状態、かろうじて機能しているのがバイオとメディカル(医療、製薬)という感じだったのですが、それとて絶対的な経済規模はそれほど大きくはありません。
ちなみに製造業については、GM、フォードのビッグ2は、中身は腐りきっていて、販売台数ではトヨタに世界一の座を明け渡しているし、クライスラーは救済合併してもらったダイムラーから三行半を突きつけられて三流メーカーとしてかろうじて生きている感じ。かつての米国トップブランドたるGEは、例の「ナンバーワンになる事業以外は捨てる」という「可憐な」ビジネス戦略で、実態は金融ビジネスになっていて、かろうじて残っていた航空エンジン分野で、実業を行っているレベルです。航空機製造業は、民間機を世界に供給していたボーイングも、欧州のエアバス社に追い越されがちで、競争力があると言える状態ではありません。
ということを考えてみると、サブプライムの仕掛けがかろうじて米国の経済を名目だけ維持してきただけというのがわかってくるわけで、そのしくみは、すでにご存知の通り、リスクの高いローンの、リスク部分を他社に転売して、リスクを分散するといえば聞こえはいいもの、他社に腐り肉やゴミを押しつけているしくみだったことがわかってしまったために、トリックがネタバレしてしまえば、誰も手を出さないねこマタギ状態になっているのが、今の状況です。
さて、このような状況から、今後何が起きていくのか、という点が問題です。
基本的には、この流れは米国という「巨神兵」がばったり倒れつつあるのを今目の前で見ている状況だと見るべきでしょう。
米国の混乱は、一時的なもので、時間はかかってもこの混乱を収拾して、米国は再び世界のリーダーになるという見方もあるでしょう。また世界のほとんどの国々は、親米でも反米でも、いずれにせよ米国を軸に動いてきたので、その軸がいきなりなくなるのは好ましくありません。米国は張り子のトラながら、名目的な世界の中心を引き受けていくことになるのかもしれません。しかし、その輝きが、かつてのように真の光を放つことはないでしょう。
ちょっと話が昔に戻ります。僕が昔から不思議だと思っていたことに、ヨーロッパの「ローマ帝国幻想」があります。西ローマが5世紀に滅亡したあと、ゲルマン人の国がつくられ、フランクの国王カール大帝が800年、ローマ皇帝を戴冠します。その後、10世紀から19世紀にかけて、ドイツ、イタリアを中心にして神聖ローマ帝国が断続的に存在しているのですが、この頃になるとすでに西ローマ帝国滅亡から500年。なぜ西ヨーロッパの王や貴族たちがローマ帝国皇帝の名前を欲しがったのか、不思議でした。実質的な支配権ではなく、名目上の覇権の承認(大義名分)を必要とするもので、だからこそ、ローマ皇帝としての戴冠はフランスや同一の王たちにとって、大きな目標になったのだと思います。人間の社会にとって、その時の実質的な支配権だけでは不足で、一世代前の権威を利用することがときに重要な意味を持つ、ということがわかります。
このことと今おきていることを並べて考えると、20世紀の世界覇権帝国の米国は、今回のサブプライムによる「自爆」で実質的に崩壊してしまったわけですが、だからといって、米国の覇権、地位が今後急速に失われるとは限らない、と考えられます。実質的には別の国の王(政府)が支配権を持ちながらも、形式的に「唯一の超大国アメリカ」をもり立てたところが、実質的な覇権を引き継ぐことができる、という、カール大帝や神聖ローマ皇帝と同じようなしくみが、今後登場しないとも限りません。こう考えると、米国は実質的には崩壊するが、形式的には他国の政府が集まって支える体制になるのではないか、と考えられるのです。別の言い方をすれば、今後米国は一定の地位を確保するものの、実質的な覇権は持てなくなり(限定的になり)、他の強国、現状ではロシア、中国、インド、EUなど政府が米国の覇権を裏で支える、多頭化、多極化の状況になるのではないか、というのが僕の予想です。米国は21世紀の「ローマ皇帝」になる、というわけです。
というのが「国際政治力学」から見た今後ですが、経済面はどうなるでしょうか。
まず、現状の株価の暴落は、ある程度下がって下げ止まり、信用は収縮したままになるだろうと思われます。これは、いわゆる不況とはちょっと違い、これまでの経済規模が、実質経済の数倍に水増しされていたのが、修正されるだけだと考えるべきです。バブルでアワがふくらまして見せていただけで、実質経済の規模はずっと小さかったわけですから、これからビールの泡が消えて黄金色の液体が見えてくる、というわけです。実質経済が回っているところ(日本はまだ比較的回っていると思います)は、アワの部分が飛んでからは、実質経済にあった市況になるでしょうが、米国のように実質経済がスカスカになっていれば、底なしの信用収縮を味わうことになるかもしれません。しかしそれも実体経済に戻るだけ、と考えるべきでしょう。
一方、この、国別の信用収縮の「ズレ」を補正する役割を果たすのが、為替相場です。もし、米国経済が本当にスカスカで、日本にはまだ実質が残っていれば、ドル暴落に振れて、円高になるでしょう。ドル建ての資源や原油価格はインフレ状態になり、たとえば原油も1ドル150ドルになるかもしれませんが、円高進み、1ドル50円になれば、輸入価値は実質的に75ドル程度になり、今年年初ぐらいの水準に戻ることになります。
また、これに連動して、日本の実質経済の価値が世界の投資家から注目されるようになり、株式相場は回復して、日本の国債の相場も上がるでしょう。もっとも、ドルが暴落すると、何を基軸にしてよくなった、悪くなったと考えればいいか、難しくなるので、よくなったかどうかもわかりにくくなりそうです。
僕ら、日本人の一般的な仕事の環境はどうなるでしょうか。これだけの大変動ですから、影響はあるでしょうし、部分的には危機的な状況になる場面もあると思います。しかし全体としては、半年から1年後には日本の状況は落ち着き、先進国の中では優等生になっている可能性もあると見ています。ただ、だからといって、働く労働者の環境がよくなっているとはいえないでしょう。先が見えない状況になると、経営側は労働者側に譲歩しなくなるので、ますます労働条件は厳しくなるかもしれません。しかしもしこのようなシナリオになるなら、日本企業は十分な収益を上げるでしょうから、富の再配分を企業にタイミングよく求めていくこと、数字やデータに惑わされずに、権利を主張することが重要になると思われます。組合組合や労働運動にはますます知能が必要になると思います。
というのが、今僕がイメージしている状況理解と今後の読みです。さて、実際のところ、どう動くでしょうか。
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