(by paco)373街の形でCO2を削減する

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(by paco)昨年から、横浜市の環境政策の立案に審議委員として関わっているのですが、その中で出ている議論や意見から、CO2を削減するための社会的な方法、いわゆる低炭素社会の形について、示してみたいと思います。

ちまたでは「地球温暖化を防ぐために」と称して、「あなたにもできること」である、レジ袋をもらわないとか、冷暖房の温度設定を最適にするとかという話が出てきます。しかし、コミトンの読者ならおおよそおわかりの通り、その程度のことをやっても、低炭素社会はまったく実現されません。たとえば日本が使う原油の中で、レジ袋をつくるのに使われる分は全体のコンマ数パーセントであり、全廃できたとしても、その程度のインパクトしかありません。冷暖房温度を最適にしても、エアコンの消費電力自体は最大20?50パーセント程度減る可能性がありますが、そんなことをするより、エアコンのフィルターの清掃を確実に行うこと、エアコン自体を最新型に交換する方がずっと効果があります。また家庭内のエネルギー消費に占める割合などから考えれば、やはり効果は限定的です。

では、なぜそういった行動が提唱されるのかと言えば、まさに「あなたもできること」だからであって、市民1人ができることの限界を、図らずも提示していることでもあるのです。もちろん、やらないよりはやった方がいいに決まっています。しかし、やったからといって、問題は解決しないということははっきりしています。

では低炭素社会の実現は夢のまた夢なのかと言えば、そんなことはありません。ちゃんとやり方はあります。

その一例として、横浜市や東京都で検討されている(実行されている)のは、都市内の一定範囲にわたる開発や再開発の時に、CO2削減の検討と実施を義務付けることです。

日本の都市は、駅前商店街がさびれてしまい、活気を失っていたり、老朽化して、再開発を必要としている場所がたくさんあります。こういった場所では、駅前商店街の通り沿いをまとめて再開発して、新しい商業ビルに建て替えて、街の活気を取り戻すアクションが盛んにとられています。六本木ヒルズ、代官山アドレス、東京ミッドタウン、表参道ヒルズなど、最近生まれた都市内のスポットは、もともと古い町並みがあった場所の地権者や利用者をまとめて再開発を決意させ、新しい街のプランを提示して、多くの資金を投入して生まれ変わっています。このような大きな再開発までいかなくても、たとえば東横線中目黒駅南の高層ビルも、もともとは2?3階建ての小さな商店が軒を連ねる駅前商店街とその裏手のアパートや住宅街をいったんすべて壊し、そこに商業ビルをマンションを建てて、元の街を上回る商業的な価値と居住空間を生み出しました。このような再開発を通じて、都市は再生を繰り返している、その中に僕たちは生活しています。

このような再開発や街づくりの時の流れとして、まずは大きな構想と権利者の権限関係の整理から始まり、多くの関係者の利害を調整した上で、具体的な商業ビルなりマンションなりの仕様が決まり、大まかな仕様が関係者に了承されてから、建物の詳細設計に入ります。この段階では、建物の建築費用はすでに予算が決まっているのですが、このために、都市のエネルギー消費が最良になるような設計をするには、すでに遅いのです。

たとえば駅前の再開発で、駅ビルと商業ビルを3棟、高層マンションを3棟建てるとすると、
エネルギー設計を早いタイミングで行うか、最後に行うかで結果はまったく異なります。もし最善のタイミングで行えれば、設計の仕方によってはエネルギー消費を限りなくゼロにすることも可能なのです。

まず、再開発の構想段階で、現状の街野エネルギー消費量を合算し、把握しておきます。都市の場合は、通常は電気と都市ガス以外のエネルギーは投入されていないことが多いので、すべての住戸、事業所に使用しているガスと電気の使用量の提出を求めれば、簡単に合計が出せます。これが現状のCO2発生量になります。

次に、再開発のプランをエネルギーが最適になるように設計します。ソリューションとしては、コジェネレーションによる集中熱供給と電力供給が効果を上げるのが普通です。たとえば、いちばん大きなビルの地下に最新鋭のガスタービン発電機を設置し、ここで、再開発地域のすべての建物で使う電力が発電できるようにします。実際には需要と供給のバランスをとるために、電力会社の電気も並行で供給できるようにしますが、基本的に電気は地域内の発電で自給できるようにします。そのうえで、発電の余熱でできる温水を地域内の住宅棟など熱を使う場所に供給し、キッチンや風呂などの給湯、床暖房などに使います。最新のガスコジェネレーションでは、発電時の熱効率(ガスが持っているエネルギーに対して、電気になる量の比率)は40パーセントを超えているので、電力会社の大型発電所と比べても熱効率はそれほど劣りません。

その上で、熱を供給することで、家庭など熱を使う場所で、温水器を動かす必要がなくなるので、そのぶんのエネルギー(ガスや電気)が不要になります。トータルのエネルギー効率は60%を超えることも可能になるのです。狭い区画内で数棟のビルが集まっていれば、地下に配管をとおして温水を配るようにすれば、1箇所の発電設備で、区画全体のエネルギーの大半をまかなうことも可能なのです。

その一方で、建物自体の省エネ性能を上げます。基本的には断熱を行うのですが、それによって投入した暖房、冷房が逃げないので、少ない冷暖房で同じ結果を生み出すような選択ができるようになります。断熱性能や気密性能を現在の技術で最大限にすれば、家が消費するエネルギーは現在の10?30%程度で済ますことも可能になるのです。

こうした設計は、その際開発計画全体の概要が決定される前に行う必要があります。コジェネ設備を入れるなら、どのビルのどこがいいのか。その規模はどの程度で済むのか。規模を決定づけるのは、予想される消費量ですが、その消費量は建物の断熱など省エネ性能にかかっているので、建築物にどの程度コストをかけられるのか、それによって、どの程度省エネ性能が見込めるのかを、この段階で設計しておく必要があります。もともと、現状のCO2発生量をカウントしておき、再開発後のエネルギー計画を比較すれば、どの程度のCO2削減効果が見込めるかが、容易にわかるのです。

実際の削減量としては、少なくとも30パーセント、適切に設計すれば、80?100パーセントにすることも可能です。

もちろんコストも変わります。コジェネ設備、熱供給のためのパイプライン、断熱性能を上げるためなど、さまざまな初期投資が必要になります。しかし、そのぶん投入エネルギーも小さくなるので、ランニングコストは削減できるようになります。不動産価格(賃貸料)は上がることになりますが、エネルギー関係のランニングコストが下げられるのと相殺し、何年程度で回収可能なのか、また低炭素を実現する街づくりが、街の魅力や付加価値をあげることができないか、多面的に検討することで、初期投資のアップ分を吸収する方法が見えてきます。

このような地域まとめてエネルギーインフラの整備をしようという方法は、決して最新のものではなく、たとえば東京・西新宿では甲州街道に面した新宿パークタワー(OZONEなどが入っているビル)の地下には、巨大な発電所があり、ここでのコジェネレーションによって、西新宿地区のエネルギーがまかなわれています。他にも、大崎駅前の再開発、東京国際フォーラム付近など、すでに多くの実績があります。

効果がとても大きいのですが、実際の再開発にあたっては、地域エネルギー利用戦略が早くから検討される例は多くはなく、せっかくの技術の高さが十分活かされていないのです。計画段階の書記から検討されなければ、あとからではコジェネ設備や給湯配管などを計画的に設置することができなくなるため、最適配置が難しくなります。各ビルがそれぞれ独自のエネルギー計画を立てているようでは、本当の低炭素としはできないのです。

そこで、こうした大規模な都市の再開発プロジェクトの検討段階から、地域エネルギー計画を建てることを義務付ければ、CO2削減の効果をあげることができるのです。

このような街づくりが行われれば、その街に住み、仕事をするだけで、すでに自動的にCO2を削減できるようになります。そこでは、冷暖房の設定温度を人間がいちいち決めなくても、最先端の省エネ技術の結果を享受することができるようになります。住民の意識の頼らなくても、そこで生活していればCO2が30?80パーセント以上も少ないの生活になるのですから、そこではもはやCO2の削減について個人が細かく気にする必要はなくなるのです。こういう状態が実現できてこそ、初めて低炭素社会と言えるのであって、個人のちょっとした工夫に頼るというのは、本質をはずしたアプローチなのです。

今、横浜市では、再開発など大規模開発の時の地域エネルギー計画を義務付けることをめざした政策を検討中です。これが実現したとしても、実際にその政策に沿って、省エネルギー型の街ができあがるまでには時間がかかりますが、その後はすべての事例に適用されることになるので、市街全体に広がっていくことになります。時間はかかりますが、確実に、大幅なCO2削減をめざして社会のしくみを変えていくことが、低炭素社会ということであって、個人の善意に頼るようではだめなのです。

とはいえ、個人には大事な役割があります。こういった政策を打ち出す自治体や議員、政党を支持し、もっと積極的にやるように、政治的に支援することです。市民の支持があれば、行政も政治も、強力に推進することができます。

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