(by paco)367企業内環境税をディスカッションする

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(by paco)5月(2008年)から、プラスグループで環境経営の支援を行っているのですが、その一環として、環境経営の考え方をコアメンバーと議論し、考える下地づくりを行っています。

ちなみにプラスグループの環境経営は、決して劣っているわけではありません。しかし個々の戦術は採られていても、グループ全体の戦略性については、まだやるべきことが多く、この課題をクリアすべく、協力しているところです。

8月8日のミーティングで行ったディスカッションは、なかなか興味深いものだったので、今回のコミトンはこれを再現してみようと思います。

テーマは、「企業内環境税とは何か、その意味と価値」です。

まず、短い記事を20名ほどのメンバー(社内の部署で環境面を担当する代表者)に読んでもらった上で、以下のイシューについてディスカッションを始めました。あなたも、まず読んでみてください。

(1)京大のアプローチについて、わからないことを相互ディスカッションしてください。
 - なぜ、学内環境税という方法を選んだのか?
 - ほかの選択肢と比べて、どこがいいのか?
(2)プラスグループでも、この方法は有効だと思いますか?
 - 京大との共通点は?
(3)「グループ内環境税」導入の検討チームが作られ、あなたがメンバーのひとりに抜擢されました。あなたはどのような姿勢(戦略)で、チームの議論に臨みますか?
(4)もしプラグループ全体にこの方法が導入されたら、あなたは何をしますか?
 - 「グループ内環境税」以上に、うまく温暖化対策が進む方法があれば、提案してください。

ディスカッションは、(1)?(4)を順番にやるというよりは、(2)(3)あたりのイシューにここのメンバーが自分なりの答えを持つというあたりにゴール設定をおきました。この会議ではあまりディスカッション形式がとられていないので、今回はメンバーを「暖める」ところも含めてのディスカッションになります。

さて、あなたも記事を読んでみて、内容は理解できたでしょうか(イシュー(1))。

ディスカッションでは、こんな感じのやりとりになりました。●がプラスのメンバー、■がpacoです。

●このしくみは、要するに全学で2億4000万の予算を確保して、それで学内の建物の省エネを行うということですよね。なんでこんな面倒なことをやったのか、よくわからないな。
■全学で使っている電気やガスなどのエネルギーコストに対して一定比率の「環境税」を設定して、その合計が予算の半分の1億2,000万円になるように設計しているわけですよね。そのうえで本部が同額を確保して、全体の予算は2億4,000万円。ただ、自分のところで「払う」環境税は、自分たちの省エネに使うことになるので、とられておしまいではないですね。
●自分たちで「払った税金」が戻ってきて、それを使って省エネをやるということなのか。
■しかも、たとえば文学部が1000万円の「税」を確保したら、本部から1000万円なのか、500万円なのかわからないけれど、何らかの「補助金」が付くわけですから、学部内で独立採算で省エネをやれといわれるよりは、本部からのお金も含めれば、メリットがありそうです。でも、それならはじめから、「文学部には1500万円の予算」と割り振ったほうが効率が良さそうですよね。

●大学も企業も同じですが、同じコストでも省エネ効果が高いところと低いところがありますね。工学部とかは省エネ効果が高そうだけど、そういうところに本部が優先配分した方が、全体としては効率的なんじゃないのかな?
■たしかにそう言うことはあるでしょうね。でも、そういう議論は検討段階で出たと思うんです。それでもあえて、この「学内環境税」方式を選んだということですから、やっぱり何かメリットを感じていたと思うんです、なんでこんなことをやったんでしょうね?

●全部の学部が決まったルールで負担するのだから、公平感はありそうですね。
■そうですね。「文学部はそんなにエネルギーを使っていない。たくさんエネルギーを使っている工学部の予算を削って、そこで省エネをすればいいじゃないか」というような意見が出そうです。大学は縦割りで、学部の教授会が強い権限を持っているので、「自分たちの問題ではない」と考える教授が多ければ、予算は確保できません。その点、「使用したエネルギーコストに応じてみな同じルールで払う」ということなら、公平性が確保できそうです。
●それに、大学全体で取り組んでいるというパフォーマンスを外に示す意味もあるのでは? 本部が勝手にやっているのではなく、全部の学部や部署が参加し、やっていると、外に対して言えるでしょう。
■そういう効果もあるでしょうね。

●大学だから、予算枠は一定ですよね。使用エネルギーに応じた「税」を確保するということは、そのぶん、本を買うとか、そういう普通の研究費が減るということだと思います。去年はたくさんエネルギーを使ったから、「税」をたくさんとられるけど、今年はしっかり省エネすれば、来年は払わなくて済む、と考えれば、自分たちの問題として省エネに取り組むという意味があるのかもしれません。
■この意味は大きいと思います。払うのはつらいけれど、がんばって工夫すれば、払う額が減る。つまり、自分たちの問題として取り組むことができる。
●本部が無理矢理押しつけたという意識は払拭できそうですね。

●ところで、この省エネ活動は、国の補助金の対象にもなることを狙っているのかな。そうなれば、外からのカネをあてにできますよね。
■京大のこの「学内環境税」という方法自体に補助金が付くことはないと思います。ただ、たとえば工学部が省エネの方法を選ぶときに、環境省の補助金の対象になっている方法を選べば、省エネコストの半分が環境省から助成されると言うことはあると思います。実際、国の環境予算で、使い切れずに余りそうなものは結構ありますから、自分たちで探せば、同じコストで多くの省エネができます。省エネができれば、エネルギーコストも減るので、そのぶん、来年の「環境税」が少なくて済むのですから、補助金がもらえるなら、おおいに考えるべきでしょうね。
●本部が一括でやり方を決める方法では、補助金の対象になる省エネを探して実行するというようなきめ細かなやり方はできないかもしれませんね。

●学生への影響というのはどうなんでしょう? 予算が減って研究ができないということはないんでしょうか。
■あるかもしれませんね。でも、コスト効率のよい省エネが見つかれば、逆に予算が増える可能性もありますから、工学部の先生がゼミ生を対象に、省エネプランを考えさせるということもありえるのではないでしょうか。

■ではだいたい内容は理解いただけたということで、(2)?(3)のイシューについて考えましょう。仮にプラスグループで「企業内環境税」が検討されたり、導入されたりしたら、あなたはどう対応しますか? 疑問とか、可能性についてはどう考えますか?
●どの部署も公平に負担ということなら、「税」を払うことはいいと思います。それで省エネをするのもいいと思うんですが、実際に何をやるか、効果があることができるのか、疑問です。うちの部署は工場を持っていないので、オフィス内の電気やガスぐらいしか使っていないし、うちの部署のオフィスは賃貸なので、設備を勝手に変えるわけにも行きません。
■そうですね、業務系オフィスの場合、そういうことがあると思います。まず、何をやればいいのかわからないという疑問だと思うので、それは専門家にアドバイスをもらうしくみがあればいいでしょうね。ESCO事業という業態があり、企業に省エネの提案をして、提案が受け入れられたら、省エネでエネルギーコストが下がったを一定の比率で報酬として受け取るという業態です。こういったところからアドバイスをもらえば、自分たちだけで悩まずに済みます。
●でも、うちの会社の場合は、工場もあるので、うちの部署で予算を無理に使うより、たとえば工場で使った方が、効果的な省エネができるのではないでしょうか?
■確かにそうかもしれません。こういうことですよね。工場では一定の予算を「税」で確保して省エネをやることになりますが、その時、「もっと予算があれば、一気に省エネできるのに」と考えたとしましょう。一方では「この予算を使っても、効果的な省エネは難しい」という部署があった場合、どうしたらいいと思いますか?
●そうか、余っている予算を工場に回して、代わりにそのぶんの省エネ効果分をこっちでカウントすればいいんだ。
■そうです、排出権取引ですね。企業内の。もしここまで仕組みがつくれれば、省エネ余地が大きい部署はどんどんプレゼンして、予算が余りそうなところから「税」を持ってくればいいわけです。ちょっと複雑なしくみではありますが、あえて複雑にすることで、最適化が図れる可能性があるんです。

●うちの部署は車輌が多いから、そのぶんも対象にできれば、やれることはいろいろありそうだな。
■京大の事例は建物に関する省エネだけですが、プラスグループで応用するときは、範囲を自由に設計すればいいので、効果が高くなると思われる範囲でやればいいと思います。設計は慎重にやるべきですけど。

●ところで、京都大学ともあろう者が、省エネ目標が1%というのは、ゆるすぎませんか?
■僕もそう思います。建物以外にも省エネすべきところがあるはずなので、それは別の方法でやっているのかもしれませんが、それにしても1%というのはよくわからない数値ですね。

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ということで、こんな感じのやりとりをした結果、だいぶ理解が深まりました。最初に記事を読んでもらった当初は、「なんでこんなまどろっこしいことをやるんだ、トップダウンで一括でやればいいじゃないか」という雰囲気だったのですが、最後のころには、「こういうやり方もあるのか」と理解が深まりました。

もちろん、だからといって社内環境税をやるという選択をすべきだというわけではありませんが、環境経営のやり方についての理解が深まることが目的なので、これで所期の目的は達することができました。

ではなぜ、トップダウンでやらずに、わざわざ環境税という方法をとるのか、そのメリットを環境経営という観点から整理してみましょう。

環境経営では、戦略性がいちばん重要です。同じ予算をかけ、同じことをやっていても、A社はそれを前者の経営戦略に位置づけ、ねらいを定めてやり、B社は各部門が行き当たりばったり行い、やっているところとやっていないところの差が大きければ、どうなるでしょうか。環境経営が優れているかどうかは、会社が決めるというより、外のステークホルダーが見て、確かに環境に配慮している会社だと認めてくれるかどうかが大きいのです。その時に、B社のようにやっていることがばらばらだと、「確かにやっている部分もあるけれど、無関心の部署もある、全体としてちゃんとやっているとは思えない」という判断になります。実際、トヨタもリコーも、環境経営の評価が高いところは、やれるところはすみずみまでやっていて、やれていないところも将来展望を持っていることが多い、という点です。少なくとも、限られた場面だけでやっているわけではない、ということです。

本部が一括してやれば、確かに効率がいいかもしれませんが、やりやすいところだけやって、難しいところは手をつけていない、全体としてやっていない、という評価になりかねません。全部署に「税」を課せば、全体でやっていると見なせるし、工夫して取り組んでいるというメッセージも伝わり、同じ予算、同じコストでも、戦略性が高まるのです。

環境経営のひとつのキモは、こういったまどろっこしさにあります。前者を巻き込み、工夫して取り組める方法を採用することで、戦略性を高め、自律型の環境経営が実現する、というメカニズムをつかんでおくことが重要です。

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