(by paco)リクルートの人気フリーペーパー「R25」の「先読み力」の特集で取材を受けて、顔写真入りで登場したのが先々週。何人かの方に「みました」といわれて、さすがの媒体力とびっくり。ほかの雑誌ではなかなか気づかれないのです。
「先見力強化ノート」という著書もあるので、それでは僕なりの先見力で未来予測をしてみましょうと思い立ち、ちょっとがんばって書いてみます。外れたら恥ずかしいなあ(^^;)
●原油価格
まず最初は、原油価格。去年、2007年の年初は確か40ドル台で安定していた原油価格が、去年の春から上がりはじめ、今年のはじめには90ドル、さらに140ドルを超える高値になった後、やや下落して120ドル台というのが最近の動向です。
日本は原油の大輸入国であり、原油価格が高くなっていいことは何もないので、少しでも下がってほしいというところですが、今後はどうなるでしょうか。
ここまでの値上がりについては、いくつか仮説があり、ピークオイルについては以前コミトンでも取り上げて、検証しました。世界の油田の埋蔵量はどこもピークを打っていて、増産が難しく、今後は採取にコストがかかるようになるので、これを受けて値段が上がっていくのだという説です。
もうひとつが、需給バランスの問題で、中国やインド、ブラジルなど、巨大途上国が成長軌道に乗りはじめ需要が莫大なので、需給バランスから値が上がっているという説。
投機説もあり、余ったマネーが原油や穀物相場に流入し、ファンダメンタルズ以上に値を押し上げているという説です。
環境に関わっている人は、基本的に原油が上がることは歓迎で、高いから使わない、よって、CO2が発生しない方がいいと考え、高い理由がより本質的なほうが「うれしい」ので、中国やインドの成長が需要過多を招き、そこにピークオイルが加わって、ほしい人が多く、減らないのに、資源が少なくなるので、今後は原油価格は下がらないという説明をしています。
僕はどうかというと、僕は「下がる」と見ています。
原油価格値上がりの最大の理由は、マネーあまりによる投機と見ていて(だからこそ、実需があまりない、NY市場の先物相場が、原油価格の上昇を引っ張っている)投機のマネーはなぜ原油に投じられるようになったかというと、サブプライム問題で不動産リスクを分散した債権の信用がすべて落ちてしまったために、これらから資金を引き揚げ、ファンダメンタルズの面で見て、値上がりしそうという説明が付きやすい、原油と穀物相場にカネが流れ、それによって値上がりが起こっているというのが、現状のメカニズムと見ています。
サブプライム問題は、大きなメディアで報道されているよりずっと根が深く、米国政府が数十兆円単位の資金を投じて不良債権の買い取りを行わないと、金融不安が起こり、米国発の大不況が世界を覆うという危機感が出るところまで来ているようです。すべての債権が下落し、スタンダード&プアーズなどが行う格付けそのものの信用が落ちて、マネーの行き場がなくなってきているのが、今年起きたことです。実際、ほとんどの債権がジャンク品相当になり、どんなリスクが含まれているかわからないと判断されれば、そもそも相場形成できず、売買自体が少なくなれば、投機で稼ぐこともできません。投機は相場が動いているから、その動きをつかむことで金を増やすことができるのですが、金が動かないことには、稼ぎもないのです。
そこで、別の投資先を求めて、原油先物と穀物にマネーが移動したわけですが、ここで重要なのが、原油価格は値上がりしそうな理由が一般の人にもわかりやすいという点です。マネーは、いわゆる実需ではなく、金を動かして増やすゲーム性の資金なので、相場が動くことがマネーを動かし、投資家のまんぞくを売る、ファンドマネジャーの大きな関心事です。マネーを市場に投じて、それに市場が反応して、上がるにせよ、下がるにせよ、相場が動くほど、彼らはもうけのチャンスを得られるので、敏感に反応するような、センセーショナルな説明が付くほど、投じやすい相場ということになるのです。原油の場合、もともと中国、インドの需要増加で需給が逼迫していて、さらにピークオイルというありがたい仮説が登場したことで、ここに乗じれば相場が動くと踏んだのでしょう。マネーを投じ、相場が上がると予想する用なりサーチャーに資金を提供して、上昇相場の記事を書かせれば、マーケットは敏感に反応する時期に来ていた、と言うことではないかと思います。
実際、値上がりがここまで来ると、実需は落ち込んでしまい、高い石油は積極的に買おうとしなくなりました。先進国での実需が落ちて、それに反応するように、エコカーやCO2削減行動が市民の支持を得るようになると、ファンダメンタルズ(実需)の面でも値上がりの可能性が小さくなってきます。現在は、次第にそういう投機の動きとファンダメンタルズの関係が世間に知れ渡るようになってきたタイミングで、でも今はまだ「値上がりするなら、今のうちの買っておこう」という相場とのせめぎ合いが起きているのではないかと思います。
今後ですが、年末までにはかなり落ち着くというのが僕の見方で、そのきっかけは秋に起きると思います。想定される要因はふたつあり、ひとつは米国大統領選挙。選挙戦の中で、オバマ、マケイン、いずれも石油高騰対策として大胆な政策を打ち出す可能性が高く、いずれにせよ、石油需給はゆるむ予想が出て、相場が安定し、これを嫌がるマネーが手を引きだして(もうけを確定し始めて)、相場が下落するというシナリオです。もうひとつの要因が、中国の景気低迷です。8月の北京オリンピック後は、おそらく景気の減速になる可能性が高く(日本も韓国も、国が成長基調の中でその国威発揚のためにオリンピックを開催する国は、開催後深刻な不況に見舞われている)、特に中国は実体経済と公表されているデータのギャップが大きいと見られているので、いったん景気が落ち始めたら、深刻な事態になる可能性があります。相場を動かしているのが、中国の成長とエネルギー需要なので、中国が需要が落ち込む情報が出れば、これをきっかけに原油価格は下落するでしょう。
いずれにせよ、秋から年末にかけて、相場が下落し、さてどのぐらいになるか……、数字は当てずっぽうになりますが、投機前より少し高い、70?80ドル代に落ち着くのではないかと、予測しておきます。
●穀物相場
原油と同様に、サブプライム問題に揺れるデリバティブ市場から引き上げられたマネーは、穀物相場に向かいました。世界最大の穀物市場、シカゴ市場では、前代未聞の資金が集まり、大豆、トウモロコシ、小麦などの穀物が軒並み高騰し、経験の長い市場関係者さえも、こんな展開は見たことがない、という値動きになっています。
もともと世界の穀物市場は、それほど大きなマーケットではありません。輸出国、輸入国ともプレイヤーが限定的で、需給も比較的ゆるく、また需給が崩れる要因も比較的早くわかるので、相場の動きは穏やかだったのです。たとえば、オーストラリアの穀倉地帯が干ばつで作柄不良になるときも、秋の収穫に対して夏には作柄状況がわかるので、値動きもこれを織り込みながら、別の穀物で代替するといった調整が起きていました。市場で取引される穀物は、人間が食べるものと同時に、牛や豚など家畜の飼料用も多く、飼料用なら価格に合わせてある別の穀物に移るということも可能なのです。また豊作の年は低温倉庫で備蓄することも可能で、これが調整弁になり、値動きは穏やかだったのです。
しかし去年あたりから投機マネーが流れ込むことで、トウモロコシや大豆は3倍以上の値上がりになっていて、日本にとっては今後、大きな問題になっていくでしょう。
ここでも投機マネーは原油と同じような動きになっていて、環境問題が深刻なので、バイオエタノールの需要が伸び、需給が逼迫するので高くなるのもやむを得ないとか、温暖化で干ばつが増えて穀物需要が伸びるとか、中国、インドなどの発展によって食糧需要が伸び、しかも日本食ブームでヘルシーな大豆は人気、供給が不足して価格が上がるといった見通しが発表される(発表させる?)のに後押しされるように、高騰してきたのです。
実際のところ、米国の中西部穀倉地帯では、たくさんのエタノール工場が造られて、農家は工場の買い取り価格とシカゴの相場をインターネットでにらみながら、最も高く買ってくれるところに超大型トラックを農場主自ら運転して持ち込み、しこたま儲けています。「今日はあの工場が高い値段を出しているからあそこへ。明日は様子見かな」「買い手があちこちにいて競争してくれるので、うまく立ち回れば、どんどん儲かりますよ」とにっこりしていました。その様子はもともと農家らしくない雰囲気の米国の農場主を、さらに欲の皮の突っ張ったニューヨークのファンドマネージャーの姿に重ねあわせられそうな印象でした。
エタノール工場を造るのに、米国政府は大量の補助金を出していて、この補助金が形を変えて農場主の預金口座に入ります。穀物相場の高騰とエタノールフィーバー、それにマネー流入で高騰するシカゴ市場の相場の3つが重なり、米国の大型農家は久しぶりに好景気に沸き、我が世の春を満喫しているかのようです。
この状況を裏でほほえんでみているのが、モンサントなどの種苗メーカーで、エタノールならGMO(遺伝子組み換え作物)でも安全性をとやかくいわれる心配もないので、手間の少なさや収量の多さをPRしてこちらも活況を呈しています。
そんなあおりを受ける最大の被害国が、日本。
大豆やトウモロコシなどを大量に買い付けて輸入してきた実績はあるものの、「来年は高いところに売るよ」といわれ、作付けも「去年までは日本のためにNON-GMOを作付けしてきたけど、今年はたくさん収穫があるGMO品種にするよ」といわる始末。GMO出ないものを求めるどころか、絶対量の確保も、バイオエタノールはバイオディーゼルの工場に買い負けている状況です。
では大豆など、輸入穀物でつくる食品(豆腐や煮豆、食用油など)は、だいじょうぶなんでしょうか。これまで、国産と輸入品の価格差は、2?3倍ありました。シカゴ相場が高騰しているので、国産品の価格競争力が付いてきたことを意味しているし、海外でNON-GMOが手に入らないなら、安全志向の強い日本人に、国内産の穀物を提供しようという動機は、農家や関係者の間でも高まっています。価格高騰に伴って、豆腐や油の値段が上がるのはやむを得ませんが、もともとこれまでの価格が安すぎたので、本来の値段に戻ったと考えた方がいいのではないでしょうか。
このような流れで考えてみると、穀物相場は今後とも高値を続け、一時的に下がっても、高値安定になるのではないかと見ています。その結果として、国産穀物の需要が増え、休耕田に作物が作られるようになるという連鎖につながるのではないかというのが、僕の予測です。
ただ、原油相場から移ったマネーが穀物相場にさらに投入されるようなことになれば、さらにシカゴ相場が高騰することもありえますが、そうなれば国産穀物の競争力がさらに高まるので、結果は変わらないように思います。
問題は、直接食料になるのではない、飼料用です。安い穀物をエサにできなくなった畜産農家は、仕方なく高い飼料を買っていて、すでに精肉の値段はけっこう上がっています。しかし、国内には未利用食材がまだまだ結構あり、焼酎を造った後の芋などの絞りかすや、賞味期限切れ食材など、捨てられているものがあちこちにあります。これらがそのまま飼料になるわけではないものの、技術開発と用途開発によって活用余地があるので、飼料用に回ってくることになるでしょう。いずれにせよ、日本は輸入した食品の3割程度を捨てているという「もったいない」国なので、それを改善して、対応することになると思います。
ということで、今週は、原油と穀物の相場について、予想してみました。専門家でもないのに大胆な。さて、結果はどうなるでしょうか。
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