(by paco)364東京電力はなぜエコでないのか?

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(by paco)日経BPのサイトで環境コラムを書いていることはご存知と思いますが、3週前に書いた記事に対して読者(hamazakibashiさん)に噛み付かれ、対応に苦労しました、トホホ(^^;)。
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記事だけでなく、記事下にある「コメント」もクリックして読んでいただくとおもしろいかと。

電力会社が盛んに販売しているエコキュート(オール電化住宅)は、確かに環境性能は悪くないのですが、いろいろ問題があり、僕は基本的に支持していません。それで、上記の記事では東京ガスはじめガス会社が対抗馬として出したエコウィルを推薦したのですが、その理由がふたつあります。ひとつは、エコキュートよりエコウィルの方が環境性能がすごくいい、と言うわけではないものの、発展途上で競争による切磋琢磨が必要な今のエコマーケットの中では、エコキュートだけが一人勝ちするのは、あまりよくないという点。もうひとつは、短期的にはエコキュートのメリットはあるのですが、長期的にリスキーだという点です。

この「長期的」な問題について、今回は書こうと思います。

まずひとつ目の問題は、エコキュートが原発の電力を使って動くシステムで、原発の電力を少しでも売りたい電力会社が、原発電力を投げ売りする低価格商売で、エコキュートの魅力が大きく見えているという点です。

エコキュートは、電力でヒートポンプを動かし、お湯をつくる給湯器です。ヒートポンプは空気中から熱を集めて圧縮するシステムなので、投入するエネルギーに対して集めた熱(つまりお湯を沸かすエネルギー)の方が、2?4倍大きいという特徴があります。

石油を燃やして電気を起こし、その電気でエコキュートを使うとします。100のエネルギーを持つ石油から発電所で電気をつくると、変換効率は40%程度なので、40のエネルギー分の電力に変えられます(60%は廃熱として捨てている)。この40のエネルギーをエコキュートに投入すると、2?4倍のエネルギーを持つお湯が出来る、ということなので、80?160相当のお湯が利用できるわけです。つまり原理的には電気をつくる前の石油のエネルギーに匹敵するか、それ以上の熱エネルギー利用が出来るので、石油を燃やした熱でお湯をつくるより、エコだ、という仕掛けです。

ここまでは嘘はないのですが、問題はこのあとです。

エコキュートは、石油からつくった電力ではなく、原発の電力を使うようになっています。もちろん電力に色はないので、コンセントから電気を使うだけなのですが、エコキュートは夜間電力利用が原則で、夜間電力は昼間の電力の70%もお安いのです。なぜお安いのか? 

原発は、一度運転を始めたら出力調整がききません。24時間、同じ出力で運転しないと、核反応が不安定になるので危険なのです。日本には50基を超える原発があり、電力の30%以上をまかなっていることになっていますが、時間帯別に見ると、電力利用の少ない夜間はピーク時(昼前後)の30%以下になってしまいます。ということは、昼間は原発に加えて、火力発電もしているのですが、夜間は原発だけ使っても、電力が余ってしまう、ということです。とはいえ、電力が余って使われないと、送電線がパンクして壊れてしまうので、どこかで使わなければなりません。そこで、夜間電力をうんと安くしてエコキュートなどの利用を増やそうとしているのです。

電力会社にとっては、設備の有効活用は基本的なKSF(Key Succsess Factor)ですから、昼と夜の電力需要の差が小さくなるようにするのは、ある意味当然です。しかし、エコキュートの利用が増えすぎれば、夜間電力の需要が増えて、原発をもっとつくってもいい、というロジックを支える根拠になってしまいます。需要があるし、CO2も少ないのだから、原発をつくる、原発万歳、となるのがとてもリスキーなのです。

そもそもなぜ深夜電力がこんなに安いのか。原発の発電原価が安いからではありません。使ってくれないと、原発を止めなければならず、運転可能な原発を止めるということは、「これ以上原発はいらない」というメッセージになって、不都合だからなのです。でなければ、70%OFFという異常な値引きが出来るわけはありません。

逆に消費者から見れば、エコキュートは「エコ」だから選ばれているわけではなく、「エネルギーコストが安いから」選ばれているのが現実です。つまり、エコロジーよりエコノミーです。それ自体は悪いことではないのですが、エコノミーの理由が原発支援だと知ったら、それでもエコキュートを選ぶのか、原発が増えてしまう可能性があるならやめるのか、聞いてみたいものがあります。

もっとも、今は注文住宅で建てる人は少なく、マンションにしても戸建てにしても、すでに設備も仕様も決まっているものを購入することが多いので、エコキュートを積極的に選んでいる人はそれほど多くなく、結局は「エコ(ノミー)だし、エコ(ロジー)だし」という宣伝文句に疑問を持たずに、選んでいるのだと思います。

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では原発はなぜエコではないのでしょうか?

一般的な反原発派の主張では、事故リスクがあげられます。日本はどこでも活断層があるような国で、去年の新潟の地震では東京電力の柏崎刈羽にある7基の巨大原発すべてが大きな被害を受け、今も運転再開は1基もありません。地震発生当初は数か所と報道された不具合もその後は1000か所を超える不具合が報告されていて、再開の見通しも立っていません。

地震のような天災による事故のリスクがどの原発でも起こりうることを示したのですが、実はこの原発の下にあった活断層は、以前から地震の巣になることがわかっていて、そのことを隠していたことも判明したのです。原発をつくる場所は、「活断層のない場所」というのが公式見解だし、調査も「やった」ことになっているのですが、「実は活断層があった」。しかも、それを隠すのが、電力業界の体質なのです。

電力会社や工事業者の隠蔽体質はすさまじいのひとことで、情報公開は進まないし、事故があってもなるべく隠し通す、事実はなるべく遅く公表するという姿勢ですから、安心して任せ、使い続けることは出来ません。

地震や事故によって放射能が放出されるリスクは、電力会社の説目ほど低くはありません。CO2発生量は少ないことになっていますが、放射能がまき散らされれば、CO2どころではない被害になります。

とはいえ、原発の大事故は実際ところ非常に少なく、チェルノブイリとスリーマイル島ぐらいだ、という言い方も出来ます。日本では起こらない、という根拠のない主張もされます。確かに、事故のリスクは低い、のかもしれません。

では、仮に事故なく、無事に運転できたとすれば、エコなのでしょうか。

原発の運転中に出るCO2は確かに少なく、温暖化防止効果は大きいように見えます。

しかし原発はウラン鉱石の採掘から生成、核燃料にするまでにも多くのエネルギーを使っている上に、この間のCO2発生量の内訳が正確に公表されてはいません。「燃料をつくるまでにこのぐらい」という数値はあるのですが、その数値を裏付けるデータが公表されていないので、証拠がないのです。

もうひとつの問題が、使用済み燃料の管理です。原発から出る「核のゴミ」は、強い放射線を出すために、数万年の管理が必要です。地中に埋めるとか、いろいろ言っていますが、無事に事故なく管理できたとしても、核のゴミを管理し続けるためのエネルギーは長期にわたるために、莫大です。使用済み燃料は数百度の高温を発しています。放置すると加熱して燃料棒が溶解するため、送風や水冷などで冷やす必要があり、これを数千年にわたって行う必要があるのです。

使用済み燃料を再処理して燃料を取り出すとか言っていますが、再処理すれば、取り出された物質の毒性はさらに強くなり、「燃料」だというプルトニウムは現状、燃料として使う技術が確立されいない上に、「燃料」を取り出した残りは取り出す前の使用済み燃料よりさらに放射線が強くなっているのです。

使用済み燃料をどう扱うにせよ、気の遠くなるような期間の管理が必要で、その間に莫大なエネルギーが必要であり、CO2も発生するし、そもそもそんなに長い管理が必要なこと自体、「サステナブル(持続可能)」とはとても言えません。

というわけで、原発を、少なくとも、国土の狭い日本で使い続けるのは、リスキーかつ、環境に悪く、サステナブルではないのです。

ちなみに、こんな原発ですが、今すぐ廃止、というのも問題が大きいので、設計寿命まではていねいに使い、寿命が来たら延命措置はせずに、速やかに順次廃止があるべき方向です。原発の設計寿命は30?40年ですから、あと40年後にはすべての原発が止まっていることになり、その間に原発に頼らないエネルギーインフラをつくっていくのがめざす姿です。

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エコキュート自体は環境にはいいシステムなのですが、原発を使い続け、増やす方向に作用するという点で、あまり普及させたくないというのが僕の考えです。

同じように、エコソリューションとしてこれから注目を集めるものとして、EV(電気自動車)があります。鉛やリチウムイオンなどの充電池とモーターで走るEVは、技術の進歩で実用段階に入りました。来年にかけて、軽自動車クラスの小型EVが市販にうつされ、一般の人にも選択可能になってくるでしょう。

EVは、CO2、燃料代ともに、ガソリン自動車よりはるかにエコです。ガソリンエンジンはクルマに乗せた状態では、エネルギー効率が15?20%程度。ほとんどのエネルギーを熱として捨てています。EVのエネルギーである電気は、効率が40%弱なので、単純に2倍以上、効率がよく、CO2排出も少ないのです。単に、クルマの運転中に出ないという話ではなく、電気をつくるところから含めても、温暖化防止になるのです。

そこで、電力会社はここにも目をつけていて、夜間電力でEVを充電し、昼間使ってください、エコキュート同様、70%OFFですよ、エコの上にエコです、と攻勢をかけてくる可能性が高い。ということは、これも原発の電力の「持ってけドロボー」な戦略ですから、安易に乗るのもどうかと思うよ、ということになります。

なんだか八方ふさがりな感じです。

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いえいえ、電力会社がちゃんとしてくれればいいだけなのです。風力や太陽光の電力をしっかり買い取り、原発はあるうちは使うけど、なるべく自然エネルギーにします、としっかりコミットしてくれれば、安心してエコキュートもEVも使えるのです。

風力は24時間、電力をつくるので、日本中の風況のいいところにつくりまくれば、10?30%をまかなうことも可能です。原発をフェードアウトして、風力や太陽光の電力でエコキュートやEVが動くなら、それはすごく未来的。でも、現状では、「原発をもっとつくろうね」というスタンスなので、危なっかしいのです。

ちなみに風力は日本ではたくさんつくれないという人もいますが、そんなことはありません。山岳地帯、海上、小風力など、つくる場所はいくらでもあるし、たくさんつくろうと推進すれば、台風や豪雪に負けない風車の開発も進むでしょう。つくれないと言っているのは、現行の法律に従っていれば、ということなのです。国立公園内はいっさいだめ、海上は漁業権があるからだめ、鳥が少しでも死ぬとだめ、と現状のだめを並べれば「つくれるところは限られている」のですが、ドイツでもデンマークでも、風力を利用するために規制を作り直し、使えるところではどんどん使うよう、変えているので、利用が広がっているのです。

規制の変更、電力会社の買い取り義務または積極的な買い取り、そしてコストを負担する仕組み作りができれば、EVもエコキュートも、本来のよさを発揮し、僕も存分にプッシュすることが出来ます。

政治や行政の方針が変わる必要がありますが、電力会社自身の意思決定でもできることがいくらでもあります。今は、原発を死守することが前提で、必死に逃げ回っているのみであり、原発はエコ、というお題目で人々を騙しながら、「TEPCO」には「ECOがあります」とか、美しげなキャッチフレーズを語っていますが、冗談じゃありません。

大きな企業規模と役割がある電力会社、特に世界有数のエネルギー企業、東京電力には、しっかりと未来にコミットしていただきたい。子どもたちに、心の底から恥ずかしくない企業行動をとるべきです。

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