(by paco)347流動化する世界 その(1)

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(by paco)日本では比較的平和な日々が進んでいる印象ですが、世界は大変動の前夜のような不気味な動きが広がっています。この動きが、悲観的な将来をもたらすのかどうかは、僕にもよくわかりませんが、目を話せない状況であることは間違いありません。もとより僕は国際問題の専門家ではありませんが、やはり世界の動きは気になっているので、最近ウォッチしていることについて、整理してみます。

まず、最初に取り上げたいのは、石油価格です。石油価格が連日最高値を更新していることはご存知の通りですが、この価格が本当に需給関係を反映しているのかというと、これがあやしい。いわゆる「原油相場の価格」はニューヨークの「マーカンタイル取引所(NYMEX)」で最も活発な取引が行われているため、ここで決まった価格が、中東や北海産の原油価格にも大きな影響を与えているのです。

NYMEXで取引されているのは、北米産の原油の代表種である「西テキサス産の中質油(WTI)」の、先物です。WTIの産出量は、世界の原油産出の1%にも満たないのですが、それがなぜ「活発な取引」なのか。NYMEXの取引の中心は先物です。将来のある日にある価格で取引する権利を売買しているのであって、現物を取引しているわけではありません。となると、現物の量が小さくても、ひとつの商品をなんとも取引することができるようになります。その結果、NYMEXで取引される総量は、世界の生産量の2倍以上になっているのです。現物の取引量は世界の生産量の1%にも関わらず、そこでの取引はマネーの観点では2倍以上になり、かつ、WTIというごく限られた原油の特性に左右される取引が、世界の原油価格を動かすことになっている、という点に注目する必要があります。

現物の数百倍もの取引が先物で行われいるということは、現物取引をヘッジするための先物取引より、投機目的での売買が多くなっているということを意味しています。「原油価格」が100ドルを超えたといっても、その値上がりの圧力はどこまで石油の需給を反映しているかという点で見るとかなり怪しく、WTIの値動きに投機することで利益が得られると考えるファンドが多ければ、それで値上がりが起こるということです。

WTIの生産地であるテキサス州では、2005年のハリケーン「カトリーナ」で大きな被害が出て、原油生産に対する影響もまだ終わっていないと言われています。この観点で見ると、WTIという限定的な商品についての状況が、先物取引市場で増幅されて世界の原油価格に影響を与えているという見方もできます。WTIがカトリーナの被害で需給が逼迫すれば、それが先物取引によって増幅されて、価格に反映されていくという構造をもっているわけです。

その一方で、世界の需給関係が、その代表的な指標であるWTIの相場に影響を与えていくというのも、もちろんあるでしょう。

今世界では、中国やインド、ブラジルなど、BRICs諸国の成長で石油需要が伸びているのに対して、供給はそれほど伸びていないという観測があり、供給不足になるのでは?という不安感から、価格は上昇圧力に押されています。僕自身も[知恵市場 Commiton]377で書いたとおり、ピークオイル仮説も説得力を持ってきているために、これからは石油は取り合いになり、価格は下がらないというファンダメンタルズに対する認識が、WTI乃価格形成に影響を与えているという側面もあります。

しかし、WTIの現状を見ると、やはり投機筋がマネーを動かすことによって利益を上げていくために、値動きの激しいWTIに資金を集中させているという要因が大きいのではないか、というの世界の見方です。このような見方から、今年中盤には100ドル超の現在価格から60ドル程度に下落(暴落)するのではないかという観測も有力で、原油価格が上がっているからといってうろたえる必要はない、という落ち着いた状況になっているのでしょう。

この反応自体はよい状況で、原油価格が上がったからといって、市場や経済がパニックを起こすようなことになれば、影響はさらに大きなマイナスになってしまいます。また、このあと説明するように、日本に関しては円高/ドル安が進行しているために、輸入品の価格が低下傾向にあり、原油の値上がり分の一部を急襲しているという側面もあります。70年代のオイルショックの時のようなパニックは、今のところ兆候がないのはよいことです。

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次に、気になる世界の動きはドル安です。円が急騰して100円を割り込む相場になっていますが、これは円に対する評価という側面より、ドルが暴落していると見た方がいいでしょう。

ドル暴落の背景には、よく言われているように、米国のサブプライムローン問題による信用収縮で、景気が後退するからと言うものが大きいのは事実ですが、このことから逆に考えれば、金融が崩壊すれば、米国経済の強みはまったく失われるというふしんかんが大きいのだと言えます。実際米国の金融以外のビジネスは、モノづくりはもちろん、ITも含めて、米国内での生産活動や成長性は、実はすでに90年代後半あたりから失われてきています。今回サブプライ問題で金融も崩壊すれば、米国経済がすっからかんであることが名実ともに明らかになり、ファンダメンタルズが失われて、ドルは暴落することになります。今進行しているドル安は、その第一歩であると考えたほうが良さそうです。

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実は、このドル暴落を決定づけているのは、中東での米国の影響力低下です。

ブッシュJr.政権は、2003年、世界の反対を押し切ってイラクに侵攻しましたが、このときの開戦理由について、ほぼすべてが大嘘で、しかも政権が意図的にウソをついたか、嘘の情報をそれと知りながら採用したことが、米国議会の調査などで明らかになっています。

フセイン政権は核兵器、化学兵器、生物兵器、長距離ミサイルなど、大量破壊兵器をいっさいもって田舎いことが明らかになり、またそのことは開戦前にすでにわかっていたことが、調査によって明らかになっています。またもうひとつの開戦理由であった、アルカイダとの関係も、結局はシロでした。フセインがアルカイダのメンバーをイラクにかくまっているという説明をブッシュ政権はしていたのですが、改選前の当初から、中東に詳しい人の間では、これがあり得ないことであることは指摘されていました。フセインはイラクからなるべく宗教色を排除し、オイルマネーを背景に近代化を推し進めて、経済・軍事ともに実質的な力のある中東の大国となることをめざしてきました。このような考え方は、アルカイダのイスラム教原理主義の考え方とは真っ向から対立します。宗教的な正義を前面に押し出して武装闘争を主張するアルカイダのやり方は、アフガニスタンのタリバン政権のようなやり方とは相性がよいのですが、タリバンは国の近代化には無関心で、教育を軽視し、女性の社会進出を拒絶するなど、前近代的な政策を行ってきました。一方フセイン政権は、教育を重視し、女性の社会進出も認めてきたということで、本来、フセインとアルカイダは水と油なのです。それを、「どちらもアメリカと敵対しているのだから、手を結んでいるのだ」という乱暴なカウボーイ型ロジックでフセイン政権をワルモノにしたのです。

その結果、イラク戦争は米国にとって何も得るものがないだけでなく、結局はイラクを破壊し、周辺のアラブ諸国から嫌われ、中東での影響力は一気に低下しました。イラク戦争に突入しなければ、反米的なイラクを封じ込め、イスラエルをくさびに、中東支配を続けることができたのです。パパ・ブッシュ大統領は1991年の湾岸戦争の時に、クウェートからイラク軍を駆逐したところで進撃をやめさせて、イラク領内に進行するのを止めました。その結果、米国はサウジアラビアやクウェートなどに軍事拠点を保ったままその後の10年を過ごすことができ、これが弱体化した米国が中東を抑えることができる、大きなパワーになってきました。ブッシュJr.大統領は、この停戦ラインを自ら破壊してイラク領内に踏み込み、自滅して中東の覇権を失ったのです。

米国のイラクでの敗戦が明確になるにつれて、力をつけてきたのが東の隣国イランで、イランは核開発というカードをちらつかせて米国を揺さぶり、綱渡りながらも、米国の失策を誘って、影響力を強めてきました。

核開発については、実際には原発程度の研究しかしていないのに、あたかも原爆を持っているかのように振る舞い、それを米国政府がわざと誇張して発表するといったことを繰り返して来ました。北朝鮮では、米国は核疑惑があるにも関わらず、軍事侵攻ははじめからあきらめ、中国に解決をゆだねました。キム・ジョンイルはそれをいいことに、ほとんど手をつけてもいない核開発というカードを使って、米国や日本から石油援助という「寄付」をただで獲得することに成功しました。核疑惑があっても許されるという実績がつくられたわけです。

これを引き合いに出して、北朝鮮が許されるなら、イランもおなじだと主張し、米国と渡り合う一方で、隣国イラン領内のシーア派(イランも同じシーア派)勢力を支援することでイラクで米国を打ち負かし、米国は核疑惑とイラク戦争の両方で、イランに敗北しつつあります。

この背後にいるのがロシアと中国、それにちょっと離れてEUがややロシア・中国よりの視点で眺めているというのがここ数年の状況でしょう。これを田中宇は「非米同盟」と名付けていますが、米国と敵対するというわけではないが、米国の支配下には留まらない緩やかな同盟関係を差しています。

イランはサウジアラビア、エジプト、シリアと組んで、イラクを影響下に置き、さらにパレスチナ問題の解決を目指す勢いで、この意図の通りに進めば、パレスチナの先の地中海沿岸に陣取るイスラエルは、最悪の場合、国家が崩壊して地中海に追い落とされ、イスラエルのユダヤ人は再び欧州に戻るしかないかもしれません。そこまでいかなくても、米国の後ろ盾を失って、アラブ側と交渉して、細々と生存を許されるような国家に落ち込んでしまう可能性は十分ありえます。

このような「敗北」に陥る前に、先手を打ってイスラエルがイランを攻撃して、軍事的に構成に立つという行動に出る可能性もあります。こうなると、イスラエルと米英の連合軍と、イラク、シリア、パレスチナ、そのは以後にサウジアラビアのオイルマネーによる資金力、ロシアと中国の指示というカタチになって、中東が大戦争状態になるかもしれません。イスラエルのイラク攻撃の可能性は昨年から言われていたのですが、今もまだくすぶっていて、米軍の内部でイラクへの攻撃に反対していた司令官が最近更迭され、米国もイラク攻撃の準備が整ったのではないかという報道もあります。

しかし、もしイスラエルと米国の連合軍がイラクを攻撃すれば、イラク戦争でぼろぼろになっている米国にはもはや余裕の戦力はほとんどなく、イスラエルはしょせん小国(人口600万人)ですから、長期戦を戦う体力はない。やけになって核兵器をイランに落とすかもしれませんが、もはや世界の支持は得られず、ひたすらワルモノイメージになるだけでしょう。一方イランは中東の人心をまとめてしぶとく戦えば、最初の劣勢を跳ね返して勝利すると見られています。

9.11後、アフガニスタンでは一瞬勝利したものの、その後の統治は、現在すでに崩壊状態。イラク侵攻は完全に失敗して軍は疲弊し、さらに劣勢を挽回するためにイランに戦争を仕掛ければ、米国もイスラエルも完全に自滅です。19世紀から続いてきた英国・米国の世界支配も、いよいよ終わりになる可能性が出てきます。

その後にどんな世界が立ち現れてくるのか、そして日本は?
これについては、来週もうちょっと考察を深めたいと思います。

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