(by paco)342子どもとお金についての、ふたつの地球

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(by paco)今週は、子どもとお金についてのふたつの話題をお伝えします。ひとつはネパールの少女たちを襲う人身売買、もうひとつはフランスの手厚い助成で増える子どもたちです。

人身売買という現実については、コミトンでも何度か書いてきていますが、読者の皆さんにどのぐらい認知があるでしょうか。まして、身の回りのごく普通の日本人にとっては、人身売買など、はるか過去の歴史用語と思っている人も多いのではないかと思います。しかし、現実には人身売買は今世界のあちこちで起きているし、日本人の犠牲者も含まれています。そのうち、今日はネパールの少女たちの人身売買について書いてみます。

ネパールは世界の最貧国のひとつで、貧しさゆえに売られてしまう少女が年間数千人とも数万人とも言われています。人口2700万人、1人当たりのGDPは1400ドル。かつてはシルクロードとインドとの中継地点として栄えた時期もありましたが、ヒマラヤ山脈を北に抱え、高地で土地は痩せているので、シルクロート貿易が海路に取って代わられると、めぼしい産業が無くなり、生活は貧しくなりました。現在は国民の70%が農民で、山の斜面に張り付くように畑や田を作って暮らしていますが、場所によっては収穫がわずかで、1日1回の食事がやっとという農民も珍しくありません。

ちなみに、日本はどうかというと、最近の農薬餃子事件でも明らかになったとおり、食糧の60?70%を輸入に頼っています。外から買ってくる経済力があるからいいようなものの、産業基盤を失って輸入する金がなくなれば、単純に言えば国内で生産できる食糧は需要に対して半分以下になり、1日1?2食しか食べられないという事態を迎えかねません。実際、日本の国土で養える人口は3000?4000万人程度という研究もあり、ネパールのような状況は決して他人事ではありません。実際、昭和初期の日本では増え続ける人口に対して、仕事や食糧が不足し、特に農家の第二子以降が食と食事にありつくことが難しくなりました。農村が疲弊し、国民が植えかねないという状況が、政治を外に向けさせ、中国への進出を後押しして、満州の植民地化という政策を支えました。

さて、ネパールの人身売買です。手口は以下のようなパターンになります。貧しい山間地の農家に10歳の娘がいます。彼女は母親とふたりで親戚の家に暮らしています。父親が病気で死んでしまったため、お役ふたりでは生活できず、親戚の家で農作業を手伝いながらなんとか暮らしているのです。日本なら、こういう場合、生活保護制度などでなんとか生計を立てようとしますが、社会保障がほとんど無い最貧国では、つてを頼って生活するしかないのです。受け入れた親戚の方はも、母娘を受け入れる余裕はほとんど無く、できれば出ていってほしいと思ってはいますが、追い出すわけにも行きません。そこに、ある人会から男がやってきて、受け入れている家族の主婦に畑のはずれでそっと声をかけます。

「あの少女を街で働かせないか? うまくうんと言わせれば、あんたに、あの子の給料の前払いとして5000円払うよ。町の工場は景気がよくて、手先の器用な少女を求めているんだ。前払い金など、あの子の働きなら2?3か月で働く給料分だし、工場には寮もあり、こういう田舎から出てきた少女と共同生活だから、ここで暮らすより楽なぐらいさ。俺がちゃんと工場まで連れて行くから、心配ないよ」

主婦は、少女の母親には黙っておいて、処女をそっと井戸端に呼んで、工場行きの話をします。

「町の工場にいけば、お金をたくさんもらえるし、そのお金はあんたのお母さんのところにいくから、暮らしが楽になるよ。お母さんのために働きに行かないか。お母さんに話すと、子どもを働かせられないと反対するだろうけど、あんたももう10歳だ、自分の考えでお母さんを楽にしてあげられるんだよ」

こうして母親思いの少女は男に連れられてバスに乗ります。

国教の峠を越えて、バスに揺られて1?4日走り続け、着いた先はデリーやムンバイです。男は少女を売春宿に連れて行き、「おまえはここで働くんだ」と行って店の主人に渡し、さっさと消えてしまいます。主人は「おまえは売られてきたんだ、カネはおまえの親に渡してあるから、そのぶん働かないと、親がひどい目にあうよ」とおどし、先輩少女の仕事の現場を見せます。こういう仕事をするんだ、お客さんの言うとおり、体を開かないと殴るよ。

少女は泣き叫び、逃げだそうとしますが、もちろん逃げられるわけもなく、殴るけるの暴行を受けた上に鍵のかかった狭くて暗い部屋に入れられ、1週間飲まず食わずの状態に置かれます。その後、部屋からだされた少女は抵抗する気力もなくなって、客を取るために店の前にほかの少女や女たちと一緒に並び、客から選ばれるのを待つのです。

幼い少女ほど商品価値があり、指名されるので、取らされる客は1日50?60人になり、身も心もぼろぼろにされていくのです。性病を移されるのも時間の問題で、ほとんどの少女がHIVに感染し、発症して体が動かなくなれば、店の裏の薄暗い部屋に閉じこめられ、死を待つだけになるのです。もちろん、人身売買も、18歳未満の売春も、インド、ネパールともに非合法です。

こうした少女を救うために活動するNGOもあり、警察と連携して定期的な摘発を行っていますが、売春宿の数は多く、警察官の数は限られているので、運良く救出される少女は多くありません。売春宿はマフィアを雇い、少々の数の警察官なら逆襲されてしまうので、摘発は大規模な体制で急襲せざるを得ず、回数は限られてしまうのです。事前に摘発に感づかれれば、少女たちは素早く店の裏から別の街の売春宿に移されてしまうので、その後は手がかりをつかむのが困難になります。

救出された少女たちは、NGOのスタッフとともにバスで首都カトマンドゥの施設に移り、医療やメンタルケアを受けた後、本人の希望で自宅に戻ったり、施設で仕事の技術を学んで自立していきますが、エイズを発症して死んでしまうことも少なくありません。

ちなみに、こうして被害を受ける女性は必ずしも幼い少女ばかりではありません。高校生や大学生として田舎から出てきて、アルバイトをしながら勉強している女性たちもカモにされます。学費と生活費を稼ぎながらの勉学は厳しく、「インドに行けば数日でたくさん稼げる」と言葉巧みにと誘われると、フラッと乗ってしまうこともあるのです。

こうした少女の人身売買を防ぐために、NGOでは国境にスタッフを配置して、警察の協力を得て国境を越えるバスをすべての検問を行っています。ひとりでバスに乗っている少女を見つけておろして事情を聞くのはもちろんですが、夫婦のふりをして男が若い女性を連れて行く例もあり、気が抜けません。早朝から深夜まで、1日400台のバスすべてを検問しても、人身売買のすべてを防ぐことはできず、厳しい現実が続いています。

このような状況を生んでいる根底には貧しさと貧困、そして隣国インドの経済的な発展による格差があり、貧しさにあえぐ生活もきつければ、貧しさゆえにさらに人権や生命まで危機的な状況に陥ってしまうのが、今世界が抱えているひとつの現実です。発展するインド都市ごとをしている日本人も増えてきました。ムンバイは世界的なIT産業の街になっていますが、その横に活況を呈する売春街があり、少女の人身売買の問題が隠れている。そのことだけは、忘れてはいけないと思います。

次にもうひとつの子どもたちの話。フランスです。

日本は出生率の低下に悩み、人口減少の時代に入っていますが、同じように出生率低下に悩んできたフランスでは、徹底した育児支援政策によって出生率が回復し、先進国では異例の「合計特殊出生率2.0」、つまり1人の女性が一生の間に産む子供の数が2人になり、人口維持に必要な2.1にあと一歩にまでなりました。

フランスの少子化にたいする政策はシンプルです。徹底的に金銭的な助成を行い、生めば生むほど有利になるしくみになっているのです。

ひとりよりふたり、ふたりより3人と、たくさん子どもがいる方が育児手当が厚くなり、3歳未満の子どもにはさらに手厚い助成があります。3人の子どもがいて、1人が3再未満の場合の合計の手当は13万5000円(親の収入に制限はなし)にもなります。さらに保育園の助成もあって、自己負担は月額1?2万円。医療や教育は基本的に無料で、子育てにお金がかからず、育児の手間を軽減できる保育のしくみもしっかり整っている上に、選択肢も広くなっているのが特徴です。

保育については、通常の保育園も、家の近くに預ける方法、企業が運営する職場の保育園に預けることもできます。企業保育園は、もちろんすべての企業にあるわけではないものの、ビッグビジネスでは積極的に導入されているようです。また保育先として「保育ママ」制度があり、子育てを終えた一般家庭のお母さんが、小さな子どもたちを自宅で預かったり、子ども支度にいって保育したりするしくみが整っています。日本でも同じしくみがあるのですが、保育ママになるための研修がしっかりしていて(60時間の受講が必要)保育の品質が保証されていること、保育ママであっても十分な保育料補助があるので、親の選択肢が広いことが特徴です。

社会的な支援も進んできました。映画館では小さな子どもと一緒にみれる時間が設定されていて、ベビーカーで映画館に入って親子でみることができ、館内はやや明るめに、音量は小さめにして、子どもに恐怖感を与えないようにしたり、終了後、ロビーでいろいろな家族が集まって子育て情報の交換をしたりという風景も見れる雰囲気です。

もうひとつ重要な政策が、フランスの労働基準法で、週35時間労働が義務付けられています。つまり1日7時間以上働かせてはいけないというもので、この制度の適用職種がどの階層までなのかはわかりませんでしたが、一般社員は男女とも適用になり、企業は人数を多く雇わなければならないとのことでした。特に中小企業にとっては負担が重い制度で、前回の大統領選挙でも大きな争点になっていましたが、企業よりの政策を打ち出したサルコジが勝ってからも、大きな変更には至っていないようです。

これだけの手厚い支援があるために、育児をしている親たちの表情はとても明るく、子育てが大変、つらい、という親は少ないようでした。もう1人産みたいという声も多く、さらにはパパたちが同じように育児に関われるので(週35時間なので)、子どもを育てることに人生の充実感を感じている夫婦が多いのが印象的でした。

フランスのパパママたちの楽しそうな子育てを見ていると、日本の親世代のつらそうな顔とが思い出され、大きなギャップを感じざるを得ません。今、ある会社でライフワークバランスのワークショップを大規模に実施しているのですが、子育てに関わりたいという親は多くても、現実はほど遠く、「どうせ残業時間から解放されないのにへたな夢を見させないでくれ」という雰囲気さえあります。日本はほんとうに貧しい国だなあと感じてしまいます。


ということで、少女が売られていくネパール、少女を買って売春させるインド、少女や少年をたくさん生み育てられるフランス、そして金銭的には豊かなのに子育てをする余裕がない日本。さまざまなレイヤーを一緒に載せて、地球は回り続けます。

この現実に、あなた自身はどう関わっていきますか? 僕は当面、今関わっている関与先で、少しでもライフの充実を図る社員が増えるべく、努力を続けます。この会社に関わり、現実が見えるほど、伝えるメッセージがゆるくなっていたなあと感じる自分がいます。来週のワークショップからは、もっと理想を見せていこうと思います。

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