(by paco)336言いわけのきかない時代(音楽をネタに)

| コメント(0) | トラックバック(0)

(by paco)今年は音楽ともっと仲良くするぞと宣言して始まった1年だったのですが、実際のところ、その目標を達成したのは妻と娘でした。去年の秋からふたりでボーカルスクールに通い始め、ドラムス、DTM(Desk Top Music)ソフトでの作曲、作詞、そして舞台で歌うと言うところまで実現して、彼女たちのがんばりにはびっくりさせられます。

で、今日はそのことについて加工というわけではなく、その間、楽器店にいったり、実際にソフトや楽器や道具を買うのを一緒に付き合ったりということをやりつつ、わかってきたことについて話してみようと思います。

ひとことでいうと、音楽についての技術開発は画期的に進んでいて、それはすばらしいことなんだけれど、別の側面として、「言いわけのきかない時代になった」ということです。

これまでアマチュアが音楽を初めて、プロをめざすにせよ、そうでないにせよ、自分がやりたい音楽を実現しようと思っても、いろいろと障害がありました。

たとえば、バンドを組んで音楽をやりたいと思っても、仲間がいないとか、ベースがいないからバンドにならないとか、そういう問題があり、やっぱりダメだとなることもよくありました。プロのバンドなら、ベーシストがいなくても、プロのベーシストを頼んで演奏してもらえばいいのですが、アマチュアの場合、ただで助っ人をやってくれる人がいるとは限らず、かといってベース抜きのバンドなんてあり得ない、ということであきらめることもありました。コストの問題もあります。楽器が買えないから練習できないとか、もっといい機材がないといい音が出ない、練習のスタジオを借りるお金がない、など。騒音の問題もあります。音楽ですから音が出ます。夜帰ってから練習すれば近所迷惑になり、練習できないからうまくならない、ということで音楽ができないという理由もありました。ピアノをやりたかったのに、手が小さいからいくら練習してもいい演奏ができない、限界だ、と思う人もいました。発表の場がないというも切実でした。レコード会社のディレクターが自分たちの音楽をわかってくれないから、多くの人に聞いてもらえる場がない、という障害もありました。

最近の音楽環境を改めて見回してみると、こういった「障害」がほとんど取り除かれていることに気がつきました。どのように?を書いてみましょう。

●バンドメンバーがいない

ベースやドラムスなど、ちょっと地味なパートはメンバーが不足しがち。以前なら友だちの友だちのつてをたどって探すぐらいしか方法がなかったけれど、今はネットでの出会いの場あるようです。生演奏で人に聞かせたいという場合はメンバーがいないと困りますが、逆に、足りないパートを含めてカラオケをつくっておき、そこにメンバーの生ギターやボーカルを乗せれば、少ないメンバーだけで演奏するより、厚みのある音が出ます。もちろん、100%生にこだわりたい人もいるでしょうが、それが唯一の音楽ではありません。

代わりに、すごいのは、DTMです。パソコンにDTMソフト、たとえばCUBASE(キューベース)やSONARをインストールして使いこなせば、ベーシストどころか、すべてのパートを自分一人で行うことができます。音源もすばらしいので、友だちの安ベースの音を録音するより、SONARの音源を使った方がいい音がするぐらいです。

DTMソフトの機能には大きく、音を録音してから編集する機能と、いわゆる楽譜のように音の情報を入力して、楽譜に従って音を出させる機能があります。以前はこのふたつは別のソフトだったようですが、今はかなり融合してきて、自由に行き来できるようになっています。ボーカルは当然録音することになりますが、ベースやギターが弾ければ、そのまま生で弾いて録音することもできるし、弾けなければ、楽譜を入力して、弾かせることができます。メンバーが足りなくても、自分で補えるし、自分にその楽器が弾けなくても、ソフトに弾かせることができるのです。

●カネがかかる

楽器は高価です。プロの演奏家が弾くバイオリンは数千万円のストラディバリウスだったりしますが、ポップやロックなら、すっかり価格破壊が進みました。電子楽器は、電気製品全体が性能アップと価格低下が進んでいる中で、以前よりすっかり安くなってきたし、中古市場が大きくなっています。中古を扱うショップが増えていることもありますが、ネットオークションが活発になったので、そこで調達する方法もあります。アコースティックギターやエレキギターは、たしかによい楽器は数十万円のものがザラにありますが、一方で、他の工業製品と同じように楽器も中国製の品質がよくなっているので、安いものを買っても、極端に品質が悪いということはなくなりました。以前は安いフォークギターを買うと、ネックが沿っていたりしたのですが、今はそういうこともありません。

キーボードに至っては、本当に安くなりました。もちろんヤマハやローランドでそれなりの機能を狙えば値段も張りますが、カシオ製の2万円台のキーボードもけっこう侮れない音と機能があり、15年前なら15万円以上した機能が2万円出さなくても手に入ります。すごい時代になりました。

高性能な電子楽器は、進歩も価格低下もすばらしいものがあります。1970年代に、世界初のシンセサイザーでの演奏を録音して注目された冨田勲は、名盤「惑星」を録音するために1000万円のアナログシンセサーザーを必死に使いこなしたわけですが、今はこの時代のアナログシンセサーザーの機能をデジタル技術で実現した、「アナログモデリングシンセサイザー」があり、3?5万円ぐらい出せば、とっても宇宙っぽい音が自由自在に楽しめます。

さらに、本格的なシンセサイザーの最高峰ということになると、ローランドの最上位機種でも35万円程度。これが本当にすごい楽器で、今まで聞いたことのない楽器の音をつくることができます。たとえばバイオリンの、木製のボディに響く、その響き方をするピアノ、というような「楽器」もつくれます。その音をコントロールする方法も、キーボードで演奏するだけでなく、赤外線センサーの上に手をかざして、その動かし方で音を上げたり下げたりして演奏したり、自分でつくったリズムパターンを繰り返しループさせたところに、音を重ねて演奏したり、さらにそれを録音しておくこともできます。

たしかに高機能なものは高価ではありますが、性能に対しては非常に安く、本当に驚かされます。安くすます方法も広がっているので、お金がないことも言いわけにできなくなってきました。

●演奏技術が足りない

音楽は、やはり「うまい/へた」があり、ピアノ音ひとつとってもうまく弾けないとかっこわるいというのがあります。もちろん、うまいに越したことはない、かもしれません。しかし練習してもなかなか技術が上がらないからといって、音楽をやらない理由にはならなくなりました。

たとえば、ドラムスやベースはリズム楽器ですから、正確なリズムが刻めないと「へたくそ」と呼ばれてしまいました。しかし今は、前述のDTMソフトによって、正確なリズムを刻むことにはほとんど価値がなくなってしまいました。正確なリズムなら、パソコンや電子楽器に任せた方が正確です。また速や弾きも、以前はうまいギタリストやピアニストの象徴でしたが、電子楽器やパソコンの演奏に歯が立つ演奏家はいません。まったく判別不能なぐらい速く弾くことができます。

さらに、DTMソフトを使えば、下手なリズムで演奏しても、正確に8分音符、16分音符に当てはめてデータ化してくれるので、まったく問題ありません。逆に、アナログ演奏の味を活かしたいなら、無理に正確な刻みに入れないでデータ化することもできます。

歌だって、どうにでもできます。まずマイクの性能がいいので、声量を出す必要がありません。ささやき声でも十分いい声に録音できます。音程がとれなくてもだいじょうぶ、録音したものを、声が上がりきらなかったところだけ選択して指示すれば、正確な音程まで上げてくれます。リズムが狂っていても、正確なところに合わせて歌っているように変換することができます。音程を上げずに速く歌っているようにリズムを速くしてしまうこともできるし、同じ声なのにゆっくり歌っているようにすることもできます。もちろん、あまりにも大きな補正を使用とすると、だんだん生の声の雰囲気が失われて機会じみた声になっていきますが、ある程度の範囲内ならまったくわからない補正ができます。

男だけど、女性の声で歌いたいという場合は、自分の声のキーを上げて、声の質を変えてしまえば、女性のような感じにすることもかんたんです。

さらに、キーボードやマウスで入力した楽譜に、テキストで歌詞をつけてから、「初音ミク(はつねみく)」というソフトに入力すれば、実際の人が歌っているように歌ってくれる、という機能まであります。あまりに音痴な人はこれを使えばいいでしょう。

●作詞作曲ができない

演奏はいいけれど、オリジナルがつくれないという人もいるでしょう。楽譜が書けないから、メロディを思いついてもどうしたらいいかわからないということもあります。

そんなときは、マイクで鼻歌を歌えば楽譜にしてくれるソフトもあります。このソフトには自動カラオケ作成機能があるので、ボーカル部分の作曲がうまくデータ化されたら、これに自動アレンジ機能でカラオケを作ってもらえばいいでしょう。ちゃんと、ドラムス、ベース、ギター、キーボードなどがそれぞれのパートを編曲してデータ化してくれます。

作曲の基本になっているコード(和音)進行も、オーソドックスなものがデータになっていたり、いろいろな曲のコード進行ばかりを集めた本も出ているので、それをちょっと拝借すれば、自分なりの曲を作ることも難しくありません。もちろん、完成度の高いものに仕上げるのは大変ですが、サポートしてくれる道具は昔の比ではありません。

●発表の場がない

曲を作っても発表できないという悩みが以前はありました。しかし今は、なんといってもネットがあります。以前知恵市場にも書きましたが、MySpaceというサイトには世界中のアーティストが、プロもアマチュアも集まっていて、自分の曲を聴かせています。音楽好きが億単位で集まっているし、SNSのように友だちから友だちの紹介を広げる機能などもあるので、ここらか人気が出るアーティストも多くなってきました。まずはオリジナル曲をつくって、MySpaceや、他にもたくさんあるネット上のシェアサイトで公開すれば、いい曲ならたちまちファンを増やすことができます。

路上ライブができるところも以前より増えているし、各地のライブハウスが1?2万円で数曲歌いたいというアーティストを集めたイベントをやっているので、こういうところに参加することで生のファンを増やすことができます。

PCを使えばCDを焼くこともかんたんで、ちょっとしたプリンターならCDに直接印刷することもできますから、数曲はいったミニアルバムをつくってネットやライブで販売すれば、利益を上げることだってできます。1000円のミニアルバムを手売りで1000枚売れば、メジャーデビューだって見えてくるのが今の時代なのです。


さて、いろいろな場面について最新事情を書いてきましたが、今ちょうど、娘のウポルが自分のデモテープの最終調整中です。作詞作曲した局にアレンジをつけてカラオケにして、それをバックにボーカルを録音して、SONAR上でミキシングして、これをCDに焼いてオーディションに送るつもりのようです。

技術的には、たった人でもレコード会社がとるのとあまり変らない楽曲をつくることはできるようになってきました。お金もそれほどかからず、演奏技術もほとんど必要ありません。では必要なものは何か。才能、というか、自分にしかできない、自分ならではの音楽を生み出す力でしょう。こういうものをつくりたいというイメージさえあれば、それを実現する手段は豊富にあります。

こと、音楽に関しては、「○○がないから」というような、不足を言いわけにすることはほとんどできなくなってきました。そして、こういう流れは音楽だけでなく、絵や写真や、その他いろいろな分野がそうなって来つつあるのでしょう。大事なことは自分が何をやりたいのか、そして本気でやる気があるのかという点に絞られてきました。

すばらしい時代であると同時に、実力がむき出しになってしまう、怖い時代にも入ったようです。

★コミトンは、年内の発行は今回で終了です。
次回は年明け、1月7日を予定しています。お楽しみに。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://w1.chieichiba.net/mt/mt-tb.cgi/157

コメントする