(by paco)横浜市の環境政策立案は、その後も粛々と進行中です。
大きな目標値から、具体的な戦術まで、いろいろな議論をしているのですが、その中に、以前から僕が狙っていた「都会で薪ストーブ利用」が政策に組み込まれる可能性が、出てきました。まだ正式決定までには至っていないので、こちら有料版の方に書きたいと思います。
薪ストーブについてはこれまでもあちこちで書いてきたのですが、改めて、僕が薪ストーブやペレットストーブに注目している理由を書いておきます。
環境問題の中でも最も重要な問題である地球温暖化問題。その解決には、CO2排出を削減しなければならないのは知っての通り。そのための方法として、バイオマスエネルギーを利用するというのが、主要なソリューションのひとつです。バイオマスエネルギーとは、植物由来のエネルギーで、大きく、草質系と木質系に分かれます。草質系では、菜種やトウモロコシ、大豆を育てて油を絞り、それを加工して、エタノールやバイオディーゼルとして燃料として利用するという方法が中心です。一方木質系では、木をそのまま燃料にする「薪」と、細かく砕く「木質チップ」、おがくず状に砕いてから熱を加えて固める「木質ペレット」などがあります。
これら植物由来のエネルギーは、植物が光合成によって育つときに大気中のCO2を吸収して育ち、燃料として燃やした時にでるCO2は再び植物が育つときに吸収されるという循環がおきることから、バイオマスエネルギーを使った分は、石油や天然ガスなど地下資源の利用削減ができて、大気中のCO2が増えない、という原理になっています。
さて、このバイオマスエネルギーの中でも僕が木質系(薪・ペレット)に注目している理由は、大きく3つあります。
まず、薪にしてもペレットにしても、木のもつエネルギーをなるべく最小限の加工でそのまま利用しようというものなので、エネルギーのムダがありません。エタノールの場合、発行の環境をつくったり、蒸留してエタノール濃度を上げるために、かなりのエネルギーが必要で、さらにブラジルや北米などエタノールの生産地から日本に運ぶためのエネルギーロスも考えると、どうしても無駄が多くなります。木質系なら、これら利用するまでのロスが最小限ですみます。
ふたつ目は、日本に木質資源は現状たっぷりあり、かつ余っているので、未利用資源を利用しつつ、しかも森の保全に役立てることができます。森を切って燃料にして、そこにまた木を植えて育てる循環が、日本人が古来から利用してきた森の使い方です。
3つめは、木質バイオマスは、これまでのところ、国の規制がもっともゆるい分野だということです。エタノールにしてもバイオディーゼルにしても、ガソリンや軽油にだいたいして使おうとすると、揮発油税をどうするかという問題にぶち上がります。また石油業界の囲い込みという犯罪的な行為にぶつかって、現状、日本ではエタノールもバイオディーゼルも利用が進んでいません。木質資源の場合は、あまりにも古くからあった燃料であり、すでに「時代遅れ」と考えられてきたために、強力な業界団体もなく、税制もカバーの外にあります。このことは、市民中心の進め方が政府や団体の圧力でつぶされる可能性が少ないということを意味していて、アイディアが活かしやすい分野だという点です。
こういった理由によって、木質資源の利用は、いちばん進めるべき分野だと僕は考えてきたのですが、コストだの、燃焼装置が高いとか、いろいろな理由で、環境専門家の間でもあまり注目されることはありませんでした。
注目されない、時代の中心にならないというのは、僕は「そんなことはないだろう」と見ていたのですが、そのためには「実証」が必要です。今回横浜市で政策の中に位置づけることができれば、「木質バイオマスを軸にしたCO2削減策」が、トレンドとして注目される可能性があると見ているのです。そのためにも、実際にこのプロジェクトを成功させる必要があります。
ところで、このプロジェクトを進めるために(というより、環境問題一般への取り組みを進めるために)、真っ先にいわれるのは、「コストがかかる」という点でした。確かに薪やペレットの利用はコスト競争力の問題がつきまとうのですが、僕はコストは本質的な問題ではないと思っています。逆に、コストに見合う価値を提供できるかどうかを問題にするべきなのです(マーケティングの王道です)。
コストをひとまず別にして、ほかに、障害はあるのでしょうか?
最大の障害は、薪にしてもペレットにしても、都市内の住宅で使えるものだという理解そのものがほとんどないという点にあると見ています。リゾートや田舎でなくても、街中で使えるのだという認識がほとんどないので、「まさか、我が家で使えるわけはない」と考えている。この思いこみが、普及を阻む最初の障害なのです。
もちろん、都市内の家の中で直火を使うのは、安全とは言えません。使うためのノウハウやマナー、ルールがあります。それらを守りさえすれば、都市の中でも薪ストーブやペレットストーブを使うことは十分に可能なのです。そのことを、市民に知らせて、「それなら使いたい」という人を増やしていくことが第一歩になります。
次に、このノウハウやルールを成文化し、「使うなら守ろう」というように認知を広げる必要があります。今のところ、ノウハウやルールは、密やかに都市内で薪ストーブを使っている人の中に、そっとしまい込まれているので、これを明文化するための会議を開く必要があるでしょう。そのルールの中には、次のようなものを含める必要があります。
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(0)コンセプト
薪・ペレットを使うことの意味・意義/ルールなくして利用なし
(1)設置のルール
使えるストーブの種類/設置の方法/安全な設置ができる業者の選定
(2)燃料供給のルール
薪やペレットの供給元の確保/市内に「薪ステーション」をつくり薪を集積/価格の調整/供給方法/住宅内での保管方法/自宅で薪を割らない
(3)利用のルール
着火のルール/燃焼のルール/消火のルール/燃やしていいもの・悪いもの
(4)メンテナンスのルール
灰の処理/シーズン後のメンテナンス/煙突のメンテナンス
(5)指導のルール
指導団体・指導者の育成/利用者の義務/市の役割
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これらを明文化して、内容を理解した人に限って利用を認めるというルール造りをすることが必要です。このルールを作るためにも、たとえば僕が勝手につくって押しつけるわけにはいきません。ステークホルダーとして、以下の人たちに集まってもらい、ルール造りを行うべきでしょう。
a.市の関係担当部局(大気汚染防止・温暖化防止・住宅規制・住民対応・消防)
b.住宅の設計・施工・ストーブ業者
c.すでに横浜市内・他の都市内で利用しているストーブユーザー
d.木の供給源(市内の森林の所有者・市の公園・緑地の管理者・造園事業者)
e.薪・ペレットストーブの利用意向のある人
f.関心のある住民
これらの人々にアクセスできるルートを確保する必要があるので、市内の「里山文化研究所」などのNPOの協力を仰ぎ、僕の方でつくったたたき台をもとに議論をしてもらって、ルール造りと、今後の推進の方法について詰めていくステップが必要でしょう。
その後、市の方で政策として打ち出すことをオーソライズするわけですが、これまでの議論の中で一意板問題になっているのが、大気汚染防止法との関係でした。日本では公害に苦しめられた経緯から、市内でものを燃やすことについてはかなり厳しい法・条例・制度ができていて、完全なばい煙除去装置を付けた工場で石炭などが燃やせる他は、ガス以外の燃料はほとんど燃やせない規制なのです。この、市レベルでの条例と派別に、国の法律では住宅用の薪ストーブやペレットストーブを規制するルールはほぼありません。つまり、国のルールではストーブ利用は問題なし、市のルールでは、詳細に見ると「不可」、ただし、大気汚染防止条例そのものは、住宅利用の薪ストーブはもともと対象になっていないという解釈も可能なので、こう考えれば、そもそも対象外だという判断になります。今のところ、この線で進めようという話になっていますが、つぶれるとしたら、大気汚染防止条例、特に浮遊微粒子が多いことが問題になります。
さて、市の条例をクリアしてよいという「政治的判断」ができれば、市の政策として「木質バイオマスを積極利用して、温暖化防止」をアピールします。
これと並行してストーブを一般に利用してもらうための勉強会を開いて、設計や施行のルールを説明して、希望の人に設置できるようにすること、希望する住民にも勉強会を開いて、利用の仕方やコストなどの説明を行います。ここまで来ると、市の政策に基づいていよいよしないで薪ストーブを使う人が、登場することになります。
そのうえで、「薪ステーション」をつくり、薪の供給をスタートさせるというフェーズに入ります。薪ステーションは、市内から出る「木」を集めて、薪にするための集積所で、大きく3つの機能からなります。
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(1)原木ヤード
市内から出る剪定木や開発によって伐採された木の受け入れと貯蔵。規格を決めて、たとえば「太さ15センチ以上、長さは2?3メートル、樹種は広葉樹のみ」、それにあった木は無償で引き取ると広報します。
(2)薪づくりヤード
チェーンソーで適当な長さに切り、斧で割る場所です。原則、薪ストーブユーザーが自らの責任で割りますが、ストーブオーナでなくても割りたい人がボランティア登録制で割ることもできるようにします。油圧式薪割り木も用意し、高齢者や女性でも割れるようにします。安全のため、指導者(ボランティア)を半常駐させます。
(3)乾燥・保管ヤード
割った薪は量をカウントして記録した上で、3?12か月程度自然乾燥させないと使えません。屋根のかかった通風のある場所で、乾燥させます。
(4)出荷ヤード
乾燥のすんだ薪は、薪ストーブユーザーが自分で自宅まで運びます。自分で割ったものを持っていくのではなく、割った量をカウントしておき、それに応じて持って行けるようにします。割る量が足りない場合は、購入します。またペレットの在庫も用意して、常時購入できるようにします。
(5)物流ヤード
軽トラックを購入し、手軽な料金で運搬に使えるようにします。
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このような機能を持った薪ステーションを市内にまず1か所用意して、薪の生産・流通拠点にします。ステーションは、300坪程度あればまずは十分でしょう。市のもつ遊休地や企業の遊休地を無償提供してもらって、利用するのが理想です。
このような準備を整えた上で、実際の運用にあたることで、まずは市内で出る公園や河川敷の剪定木を燃料として使い切ることを目標にします。現状は廃棄物として焼却炉で燃やし、発電していますが、発電するより暖房用に使った方が効率はずっとよいのです。しくみが回り出したら、市内の民有林も間伐を推奨し、間伐または皆伐して植林し、森とエネルギーを循環利用するしくみができるのが次の目標で、これを5年以内程度に。これで市内の木質バイオマスは循環利用が可能になるので、今、市が推進している「150万本植林運動」の結果、育った木も、20?30年後から剪定木になって、薪として利用できるようになるでしょう。
この量で不足の場合、横浜市の水源地である道志川流域(山梨県)から間伐材を集めて薪として利用することで、水源保全とエネルギー循環が実現します。
そのためにも、まずは最初のユーザーが適切に薪ストーブを利用することが重要です。街中でストーブを使うと、火の粉や煙の心配など、トラブルも起こりえます。そのようなトラブルに、市の職員とNPOスタッフが共同で解決にあたり、ユーザーの適正利用と住民の理解を求めることも必要でしょう。
これで、最終的にどの程度のCO2削減につながるかは、もう少し進めてみないとなんとも言えないのですが、環境を守るというのは、こういう手間もかかる仕事をひとつひとつ積み重ねていくことなのです。
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