(by paco)先週は、CO2削減に社会全体が動いていく、という話をしました。今週は、その動きが、特に企業にどのように影響するか、もう少し具体的に見ていきたいと思います。
前回見たとおり、今後は、企業に2025年に30%削減というあたりを目標にした削減義務が課されることになります。この「義務」が、どのような義務になるかは、まだ明言できません。本当に「義務」になり、罰則が設けられるのか、努力目標になるのか、補助金などをセットで「あめとむち」政策になるのか。また、企業単位なのか、事業所単位なのかという問題もあります。罰則も、削減コストに相当する程度の大きなものになるのか、社名の公表など、名誉的なものになるのかは、今検討が進められているタイミングだと思います。
今の流れは、政府の動きが鈍いのに対して、自治体の動きが大きくなっていますから、当面は「東京都にある事業所」というような単位での「義務化」になっていくでしょう。その時に、「東京都に事業所を置く企業は、本社がどこにあっても、全社に対して」という義務づけの仕方もあり、この流れが強くなっています。こうなると、本社が大阪の会社であっても、東京に支社があれば、全社で取り組まなければなりませんから、大企業、中堅企業のほぼすべてがこの網の中に入ってくるでしょう。逆に、所在する事業所単位だと、東京には5店舗だけ、と言うような起業の場合、その5店舗だけやればいいということになります。しかし、その5店舗だけという負担に不満を持つ企業なら、5店舗を閉店して東京都にすぐ隣接する川口市や川崎市に移してしまうという選択肢もあり、こうなると網からこぼれます。ある自治体が規制を強化しても、事業が逃げてしまえば規制に効果がなくなります。その意味で、東京都という日本の中枢都市がアクションをとる意味はとても大きなものがあります。またどの規模の事業者までを網にかけるか、という議論もいろいろと進められています。
ちなみにこのような、地方が先行する動きでは、米国でも注目すべきニュースがありました。環境政策で先行するカリフォルニア州などが、連邦政府を「温暖化対策に無策である」という点で提訴したのです。
先行する州では自動車から排出されるCO2を削減する義務を課そうとしていますが、これに対して、連邦政府がまったく動こうとしないために、州が連邦政府に訴訟を起こした形になっています。詳しくは一番下のニュース記事をご覧ください。
このような訴訟が起こされるのも、地方はすでに先行しているけれど、中央政府がそれを邪魔している、という構図があるからです。やはりより広域で一気に足並みをそろえる方が、対応する企業にとってもメリットがでるという現実が前提にあります。
この裁判と、その結果のCO2削減義務がどのようにかかるかは、米国も日本もまだ明確ではありません。しかし、来年度から1?2年以内に、いくつかの自治体が地域内の実質的な大企業に対して削減義務を課してくるのは間違いありません。
では、この「削減義務」が化せられた企業は、どのような対策をとればいいのでしょうか。対策の考え方は、工場を持つメーカーか、非メーカー化によってかなり変わってきます。温暖化防止の分野では、工場部門を「産業部門」と呼び、それ以外を「業務部門」と呼びます。そもそもこの呼び方自体がすごくわかりにくいですよね。工場の中には「業務」はないの? 百貨店など商業は「産業」とは呼ばないの、というような、へんな区分です。僕はこの両者を「工場」と「オフィス」と呼び分けることにします。
工場では、生産のためにエネルギーや資源を投入し、モノをつくって送り出すので、大きなわく組でいえばCO2の排出を減らすには、投入する化石燃料を減らせばいいことになります。そこで、今は石油やガスを買っている工場では、石炭を石油に、石油を天然ガスに変更すれば、CO2が減ります。同じエネルギーを取り出す時にでるCO2は、石炭→石油→天然ガスの順に少なくなるのです。また、燃料の一部を木質バイオマスやバイオガスなどに置き換えれば、そのぶんのCO2の排出は削減できます。電力を風力や太陽光由来のものに置き換えても、CO2を削減することができます。しかし、燃料代は環境によい順に高価になる傾向があるので、コストがかさみます。どのぐらいコストをかければ目標のCO2量を削減できるか、許容できるコストと利用しやすさのバランスから、最適なものが選ばれるようになるでしょう。
一方、使用するエネルギーの総量を減らすという方法もあります。いわゆる省エネです。製品の作り方を工夫する、素材を変える、製品自体を小型化する、部品数を減らす、生産こうでで出る熱をムダにしないで使いきるなど、モノづくりのあらゆる場面に省エネのポイントがあるので、余地があればどんどんやるべきです。そしてこの方法のよい点は、減らした分はエネルギーコストの削減になるので、コストアップと戦う必要があまりないのがよいところです。省エネのための初期投資をどのぐらいで回収できるかがポイントになるでしょう。しかし省エネは日本ではすでにかなり進んでいるので、今後さらに取り組んでいくためには、技術的にドラスティックに換える必要があり、その発想ができるかがポイントになりそうです。しかし、まだまだ改善の余地が大きな工場が多いと見ています。
これに対して、オフィス部門ではどのような方法があるでしょうか。工場部門ではなく、企画や事務など、オフィスワークを担当する仕事場や、物販や飲食の店舗では、工場のような省エネは難しい。いわゆる「紙・ゴミ・電気」の削減はある程度できますが、これも限度があり、電気の使用を「ゼロ」にすることは、仕事をしている以上できません。オフィスで使う照明器具やエアコンなどを省エネタイプに偏こするという方法はありますが、今は大企業の本社でも自社ビルではなく、レンタルオフィスを使うことが珍しくないので、これらビルの設備をテナントが勝手にいじることもできません。
こう考えていくと、オフィス部門でCO2発生を抑える方法のひとつは、CO2発生の少ないビルに移転することだというのがわかります。
最新のビルは、エレベータの制御が緻密で、ムダな運転がないようになっています。エアコンや照明も場所ごとにきめ細かく制御できるようになっていたり、熱源になりがちなサーバも省エネ型がでているので、こういった最新のオフィスに最新の機器を入れれば、それだけでCO2削減になるでしょう。
しかし、ここはもう一歩進めて、テナントになる企業がビルオーナーに対して、「省エネ性能が高いビルを借りたい」と強く訴えることです。ビルオーナーは、付加価値が高い資産をもち、収益を上げることがねらいなので、省エネ性能が低くても借り手がつけばいいと考えます。借り手が「省エネ性能が高くないと借りない」といえば、オーナーはビルの性能として省エネを考えるようになります。上記のエレベータやエアコン、照明などの設備のほかに、ビル自体の断熱性能を上げる、窓の採光を工夫して、夏は太陽熱を遮断し、冬は取り入れるような工夫、そして日差しがあるうちは照明を付けなくても仕事ができるようにするなど、省エネ性能で競い合うようになり、性能の高いビルにテナントが集まるようになれば、双方の動機が一致します。
工場を持たず(あっても小さく)、オフィス中心の企業の場合、まずオフィスの借り換えというのがソリューションになります。
とはいえ、オフィスの借り換えが現実的でなき業もあるし、それだけでは不足です。しかし、工場ではないので燃料を石炭からガスにするわけにもいきません。実際のところ、使っているエネルギーはほぼ100%、電力でしょう。
このような場合、代替手段として、使った分の電力を自然エネルギー由来の電力に切り替えるという方法があります。手っ取り早くやるには、「電力認証」「カーボンオフセット」と呼ばれる「商品」を「購入」すればいい。購入の仕方にもよりますが、風力由来の電力を1kwあたり10円程度で買うことができますから、買った分だけ、使っている電力のCO2排出をゼロとカウントすることができるというしくみです。
たとえば、1年に160メガワット時(≒月13メガワット時=13000キロワット時)使っているコンビニ店舗の場合、月間で考えて、13000キロワット時の電力を使っていますから、このうち10%のCO2排出を削減するには、1300キロワット時の電力認証を買う必要があります。1キロワット時の認証が10円とすると、月に13000円で10%削減できることになります。しかしコンビニの売上は数10万円から数100万円程度ですから、1?2万円のコスト負担は軽いとは言えません。あと17年後までに店舗当たり月5?6万円の負担をしなければならなくなるということが見えてきます。
ではこれは不可能なのかというと、そこから先が経営の考え方になります。1店舗で月5万円ですが、店舗あたりの電力使用量を減らせば、負担は小さくなります。省エネ型の冷蔵機器の導入や、営業時間の短縮で電力使用量を30%減らすことができれば、CO2排出のためのコスト負担はなくなります。逆に同じ形の店舗であれば、店舗数を減らして合計の電力料金を減らせば、店舗あたりの売上は伸び、売上(利益)あたりの負担は原理的小さくなります。
ここからわかることは、CO2削減目標とそれにかかるコスト負担は重く、だからこそ反対も大きいのですが、実現するとしたら、経営努力をどこに向けるか、考え方がさまざまあるということもわかります。
削減目標が小さいうちは、コスト構造のちょっと仕立て直しでなんとか対応できたりするのですが、目標が大きくなるとドラスティックな改革をしないと達成できない。実は、これこそが2025年までに30%削減といった、大きな長期目標を打ち立てる意味なのです。経営にしても、個人生活にしても、今の延長ではなく、大きく考え方を変える必要があり、しかしその変え方にはたくさんのオプションがある、という状況を作り出すことで、横並びの経営ではなく、さまざまな打ち手を一気に考えさせ、ドラスティックに社会を変えようという意味があるのです。
今例に出したように、1kwhあたり10円の風力発電を使うという方法のほかにも、CO2を削減する電力利用はいろいろあります。自前の太陽光パネルや小型風力発電機を店舗に設置して、その電力を利用する方法、海外で行った削減努力を買い取る方法(CDM=クリーンデベロップメントメカニズム)など。さらにそれぞれにバリエーションがあり、電力認証を買う方法もあれば、風力発電などに投資して、そのぶんを自社の削減として買い取る方法、太陽光パネルを付けるにしても、農村の広い空地にたくさんおく方法と、都市内の使われていないビルの屋上を借りる方法もあります。
ちなみに、この都市内のビルの屋上や壁面を借りるというモデルは、有望だと思います。
パネルを設置した企業はビルのテナントやオーナーとは別に自社のロゴを表記していけば、街中にパネルを設置した企業としてクリーンな知名度を上げることになるでしょう。電力認証を買うだけだと、市民にそれを伝えることが難しくなりますが、ロゴ付のパネルを街のあちこちに設置できれば、自動的にブランド認知をさせることができ、コスト負担を実質的に低減できます。
さらにもうひとつ、この問題につきまとうものとして、先にやった方がコスト負担が小さくてすむ可能性が高い、という点も重要です。今は自然エネルギーは人気がなく、需要が少ないので、コストぎりぎりの販売額ですが、これから削減義務が課されれば、さまざまなステークホルダーが自然エネルギー由来の電力を買わざるを得ません。需要が高まれば、当然、価格は上がっていきますから、先に契約した方が低価格で購入できることになるでしょう。
今は自然エネルギー市場は風前の灯火という感じに追い詰められていますが、数年後は電力の取り合いになる可能性があります。
さて、このような状況が本当に起こるかどうか、僕が無責任に保証することはできませんが、今わかっていることから推論すると、こういう結論にならざるを得ません。それを前提に、あなたは、あなたの会社は、どう行動するのか。すでに、今年後半からCO2削減のソリューションはあちこちで引き合いが出てくるようになっています。まさに胎動が始まっている印象です。この動きが本格化するのは、これからです。
シュワ知事、連邦政府を提訴
2007.11.9 09:17
http://sankei.jp.msn.com/world/america/071109/amr0711090917001-n1.htm
8日、カリフォルニア州の州都サクラメントで、会見するシュワルツェネッガー知事(AP) 米カリフォルニア州のシュワルツェネッガー知事は8日、地球温暖化防止に向けて、州独自の排ガス規制を実施する許可を連邦政府に求める訴訟を同日、ワシントンの連邦地裁に起こしたと発表した。
訴訟にはニューヨーク州やアリゾナ州など14州が参加を表明しており、温暖化対策に消極的なブッシュ政権と、相次ぐ異常気象などで早急な対策を迫られている各州が対決する構図になった。
シュワルツェネッガー知事は同日、記者会見で「今回の訴訟は温暖化に対する闘いの大きな一歩になる」と述べた。
カリフォルニア州の規制は2009年以降に州内で販売される新車に対し現在より厳しい排ガス規制を課し、16年までに車が排出する温室効果ガスの30%削減を目指す内容。02年に制定されたが、実施には連邦環境保護局(EPA)の許可が必要だ。
同州政府によると、昨年4月と10月にブッシュ大統領に許可を求める書簡を送ったが回答はなかった。同12月にEPAにも書簡を送ったが回答は留保され、今年4月、半年以内に判断を示さなければ提訴に踏み切ると通告。当初、10月に提訴する予定だったが山火事で遅れていた。(共同)
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