(by paco)323人生のwhat?を見つける(3) 縦軸

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(by paco)今週は、先週の横軸の続き、縦軸です。

縦軸とは、時間の軸、つまり歴史の軸。日本の学校では小学校から高校まで、歴史の授業がありますが、実態はといえば、クロマニョン人から始まってせいぜい明治維新ぐらいまでの歴史までで時間切れになってしまうのではないでしょうか。でも、歴史で最も重要なのは、近代史です。おもにフランス革命からこっち、ここ250年ぐらいの歴史が最も重要です。にもかかわらず、日本ではそこを学んでいない人が多い。

さらに悪質なのは、去年問題になったように、世界史や日本史、地理の授業を、必須であるにも関わらず、省略して受験科目に当てるという高校が多数存在し、しかもそれがエリート育成を目的にした受験校に多い、という点です。大学では専門課程、というより実務教育が重視されて教養課程は軽視される傾向はますます強くなっているし、実施されている教養課程の質は、低レベルです。

ちょっと脱線してあえて言わせてもらえば、歴史や地理や理科など、教養を軽視するようなエリート育成高校の教員や校長は、構成に対する重大な犯罪を犯しているということをはっきり自覚すべきです。ああいう連中が、ちょっとばかり頭を下げて記者会見しただけで色を維持しているというのは、非常に悪質。それと同時に、そういう受験校にありがたがって入れる親も、自分の生き方を反省すべきです。受験教育を受けさせる親たちは、それが「子どもの選択肢を広げる」と信じているのですが、教養を学ばずにエリートになることがどれほど罪深いことか。個人の生活ではなく、社会全体に影響を与えてしまいます。

ちなみに僕自身は都立西高の出身で、いわゆる受験校です。でも、そこでは地理も歴史も理解もきちんと教えられていたし、僕が西高で受けた教育で、今、いちばん役に立っている、というより、自分のバックボーンになったことを教えてくれたのは、西高の地理の、久保田先生でした。残念ながら歴史は、ちゃんと教えてくれたのは予備校の方で、地理を野ぞして西高も「肝心なことをきちんと教えない」学校というそしりを免れません。でも、あえて恩師の名誉のために言えば、物理や化学の先生はちゃんとしていたな。

ということで、日本では歴史(縦軸)や地理(横軸)などの基礎的な教養が、エリートほど軽視されていること、非エリートでは余計に学ぶ余裕がないことによって、縦軸、横軸を中心にした、世界を見る目、自分の価値観をつくる視座が持てなくなっているのです。その結果、金儲けや目立つことばかりが注目され、目的になり、自分の心の中に根ざした、人生を通じて追いかけるに値するwhat?をみつけることはどんどん困難になっているのです。

では、縦軸である歴史は、自分の生き方を決めるのにどのような影響があるのでしょうか。

最近の例で言えば、9.11テロとその後の米国の戦争でしょう。6年前のあの事件の直後、僕は事件と、それに対する米国の対応、そしてアフガン以降始まった戦争について、一貫して疑問を提示してきました。知恵市場でも繰り返し記事を書いてきたし、米国の立場を擁護する人を交えて、リアルの対談も行って、問題の本質を知る努力をしてきました。テロの記憶が風化する時間の経過の中でも、僕はずっとこの問題についての情報を集め続けているのですが、時間がたてばたつほどテロ自体が、テロではなく、ブッシュ政権のヤラセ、もしくは知っていて防がなかったという疑いを支持する情報は増え続け(控えめにいっても、あの事件は米国政府の発表とはかなり違う真相が隠されています)、その後の、アフガン、イラクの戦争に至っては、まったく正義のない戦争であることが明らかになっています。
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アフガンでは、米国は一見成功を収めたように見えていますが、実態は完全な失敗です。まずあれだけ一方的な攻め方をしたにも関わらず、的だったタリバンの指導者を誰一人として捕まえることも、殺すこともできていないし、ビン・ラディンも同様です。そして6年たってみたら、米国勢力は首都カブールをようやく押さえているのみで、それ以外の地域ではタリバンと地方豪族による前近代的な支配に戻ってしまいました。

イラクに至っては、開戦の理由になった大量破壊兵器はまったく見つからず、開戦前に米国が開戦の根拠としてあげたすべての理由は、単なる言いがかりに過ぎないことがわかっています。さらに、その言いがかりが「情報が少なくてミスをした」のではなく、十分な情報があったにも関わらず、こじつけて開戦していることも明らかになっているのです。米国は、9.11以降、まるでやくざのように、攻撃を受けたとイチャモンを付けて西アジアや中東に兵を送り、めちゃくちゃにしたあげく、どうしようもなくなって軍を撤退させようとしています。

こういった米国の行動は、日本にも大きな影響を与えています。もともとイラクをはじめ中東では、日本への親近感はかなり高く、信頼された国でした。それが、言いがかりを付けて戦争を仕掛けた米国のコバンザメのように、戦争に加わったために、イラクでもほかの中東諸国でも、日本はすっかり嫌われ者になってしまいました。日本の評価を高めていた理由のひとつに、イラクでテロリストにつかまって「自己責任バッシング」を受けた高遠菜穂子さんを代表格にした、地道な活動が評価と信頼を得てきたからです。日本は、長年積み上げてきた信頼を、やくざのような米国の行動に付き合うことで、たった6年でごっそり失ってしまったのです。

ではこのような米国の行動は、ブッシュ政権というひとつの政権の珍しいミスなのでしょうか。歴史を見れば、米国はこれまで何度もやくざのような行動をとっては、周囲を巻き込んだり、ひんしゅくを買ったり、他の地域を支配したりしてきたことがわかります。

たとえば、日本が米国に負けた第二次世界大戦で、同じく敗北を喫したドイツのヒトラー政権は、米国資本によって、勢力を拡大することに成功したという事実があります。第二次大戦は、第一次大戦の戦後処理のミスからおきているのですが、第一次大戦に敗れたドイツは、米国やイギリスに不当とも言える制裁を受けて完全に疲弊しきってしまいます。ワイマール体制と呼ばれる民主政治は実現したものの、多額の賠償金を抱えて経済はまったく立ちゆかず、復興もできず、どん底に置かれた状況の中で成長したのがヒトラーのナチスでした。そのナチスを経済面で支えたのが、ロックフェラーなど米国の大資本家で、米国の投資がもう少し控えめであれば、ナチスはあそこまで過激にならず、第二次大戦は起きなかった可能性があります。実際、イギリスもフランスも、途中まではヒトラーに宥和政策をとっていて、ヒトラーがフランスを占領し、大陸欧州を制覇したあとも、イギリスはヒトラーと組んで欧州を分割する可能性を模索していたのでした。しかし、その後イギリス国内の政争に勝ったチャーチルが首相になると、イギリスの態度は強硬になり、米国を巻き込んで、ドイツを徹底的につぶしにかかります。戦後、戦勝国によってナチスドイツは徹底したワルモノにされたものの、ドイツがユダヤ人を殺し始めた時期にも、米国は、見て見ぬふりをしてドイツに投資していたのです。ヒトラーから見れば、イギリスのチャーチルの強硬政策に米国が巻き込まれた結果、一次はドイツと仲良しだった米国は急に態度を変えて、徹底したつぶしにかかった、というように見えてきます。

この構図は、イラクのフセイン政権もまったく同じです。フセイン政権はもともと米国が中東に非イスラム的な政権をつくるために支援して育てた政権です。特に隣国イランがイランか革命で反米的になってからは、イラクに軍事援助していいランと戦わせて、イランもイラクも弱体化しました。米国の支援で協力になったフセイン政権ですが、その後、風向きが変わって、イチャモンを付けられて2回も戦争を仕掛けられたあげくに、フセインは死刑になり、イラクは近代化一歩手前でめちゃくちゃにされてしまいました。実際、イラクは、戦争前は中東でもっとも西欧化され、文化も技術も進んだ国だったのです。フセイン政権は独裁的で、問題はあったものの、その問題を米国はずっと目をつむってきました。そして湾岸戦争のころから急にイチャモンツケの対象になったのです。

日本は今米国の忠実なポチとして行動をともにしています。特に小泉政権以後は、米国べったりが強化され、言いなりが続いてきました。しかし、支援してきた国に対して、状況が変われば、あっさり手のひらを返して牙を向けてくるのが米国のやり方です。「国益」を縦に、昨日までの同盟国をたたきのめすことも辞さない。

第二次大戦で日本が米国に宣戦布告せざるを得なかったのも、同じような事情があります。開戦の直前を除いて、日本と米国の関係は良好でした。経済面でライバル関係ではあったものの(それは今も同じです)、日本は石油のほぼすべてを米国に頼り、米国はペリーによって開国され、近代化した日本を子分のように考えていた節があります。しかし、緊張関係が高まった開戦直前、日本も妥協しようとしていたところに、誰もが驚くような強硬な条件を突きつけて、日本を開戦へと決意させたのは、米国のルーズベルト政権でした。その姿は、ドイツやイラクに対してとったものとまったく同じと考えられます。そのルーズベルトは、史上もっとも優れた大統領として今も賞賛されています。

ここ100年の近代史を見れば、米国やイギリスなど、世界の支配的な国が行ったことの理不尽さが見えてきます。しかし、日本では、その近現代史をまったくといっていいほど教えていないし、知恵市場の読者をはじめ、多くの日本のリーダー層は近代史を知らずに米国と付き合っている。

もちろん、米国やイギリスや、その他いろいろな国が「悪」で、敵対すべきだとか、反米的になれと言うつもりはありません。他の国、たとえば中国だって、単純に信頼し会える国、というわけではないのです。

ただ、こういった米国の行動パターンを知っているか、知らないかによって、ひとつひとつの判断はかなり違ってくるのは間違いありません。今のタイミングで言えば、このあとの日本の政治は、日本が米国のために行っている給油作戦を延長するかどうかという、「テロ特措法」の延長問題があります。日本ではほとんど報道されませんが、米国内でさえ、米軍の単独行動蓮でに終結させるべきだという意見が大勢を占めていて、その方向は変わることはありません。問題はどのようにフェードアウトするかであって、そのフェードアウトのさせ方に米国はもちろん、各国とも悩んでいる。安倍首相は、「日本の貢献は重要」という一本槍で法案をごり押ししようとして崩壊しましたが、世界の大勢から見れば、こんなロジックは異様なロジックです。国際感覚の中では完全にピント外れの議論なのに、日本では堂々と主張されてしまう。

もっとも、その主張がすんなり通らずに政権が崩壊したのは、まともな感覚があったということではありますが、国民の多くはこういう事情は知らないでしょう。

これから先の国際政治の判断は、将来をかなり大きく左右する可能性があります。その判断によって、日本はこれからも世界で名誉ある地位を占めることができるか、下り坂を転げ落ちるかが変るかもしれません。

日本が昭和の時代を迎えた1925年、日本は今よりずっと世界での地位が高かった。第一次大戦の戦勝国になり、国際連盟の常任理事国(五大国)になり、アジアの覇者だった。それが、国際政治のバランスの中で判断を誤り、20年後には敗戦のどん底に落ちます。今のイラクのように。来年は平成20年です。平成元年を覚えてますか? あの時から今までと同じ20年ほどの時間で、日本は世界のトップからどん底に滑り落ちたのです。

ちなみに、つぶされたフセイン政権のイラクも、ヒトラーが政権を取ったワイマール体制のドイツも、そして戦前の日本も、選挙が行われて国のリーダーが選ばれる民主体制の国でした。国民一人一人の判断が国の将来を担う人の判断を誤らせ、生活を破壊してしまいます。歴史や地理の教養を持ってものを判断していくことは、非常に重要なことなのです。

歴史を知り、それをベースに自分がなにをすべきか考えられるのと、歴史を知らずに判断することの違いが少しわかってもらえるといいのですが、自分がなにをすべきかを考えるとき、自分が時間軸のどこにいるのかを知ることはとても有意義で、what?をみつけるヒントをくれます。自分の居場所を見つめ、先をみつけようとすれば、自分がなすべきことが少しずつ見えてくるのです。

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