(by paco)307環境のミニイベントで話す

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(by paco)Eat The Earthというグループから「環境について話してくれるなら、きちんとしたイベントにするんだけど」と話をもらって、環境についていろいろと話してきました。今日はその時のようすについて書いてみます。イベントは、先週の日曜日、5月27日(日)。場所は、青山にあるOVEという、不思議な店です。ちなみにこの会場は、一応カフェ&バーということになっていますが、オリジナルの自転車がおいてあって、サイクリングの小旅行なども主催しているようです。結構広いスペースはカランとしていて、どういう空間なんだろうという感じですが、青山とは思えない、ちょっとゆとりのというか、癒し系っぽい場所です。今回は、ここのオーナーさんとETEのメンバーが懇意にしている関係で、店の通常の運営とは違う形で空間を提供してくれました。

このETEというグループは、20?30代のビジネスパースンが集まって、いろいろ楽しんじゃおうという感じのグループですが、今回はその中から40名ほどのメンバーが集まってくれました。店内の200インチスクリーンの前に椅子を並べて、けっこういっぱいです。1時間ずつ、3セッションのレクチャーと質疑、そのあとミニパーティを行いました。

最初のセッションは、メンバーが最近興味を持っているという「不都合な真実」について。映画を見た人が過半数を超えていて、このこと自体驚異的。ただ、環境に関心があるというわけではなく、いろいろなことにアンテナを広げている中で、環境問題もアンテナに引っかかってくる、でもどうとらえていいのか、今ひとつわからないという感じのメンバーです。

まず話したのは、「不都合な真実」への批判と、それについての考え方。映画の中に、「最大6メートルの海面上昇が起こる」という説明があるのですが、この点について、「(国連の関係機関の)IPCCの報告にも、これほどの海面上昇は書かれていない」といった批判があります。たしかに海面上昇の予想にはさまざまあり、6メートルという数字はかなり大きいほうです。しかし、重要なことは、上昇が1メートルなのか、6メートルなのかということではなく、海面上昇のリスクはかなり大きく、いつどこまで上昇するのかについて、細かくあげつらって批判することにはあまり意味がない、という点を理解しておく必要があります。確かに1メートルと6メートルではまったく状況が違いますが、しかし1メートルでも大きな影響が出ることには変わりがありません。

また、6メートルという予測が決して大げさではないことの裏付けとなる、こわーい記事がちょうど出た日だったので、その話もしました。海面上昇のいちばん大きな原因は、極地方にある陸氷が融けて海に流れ込むことです。陸氷が一番多いのは南極の大陸上で、ここには厚いところで数千メートルという氷が積もっています。北半球ではグリーンランドとその周辺の島にあり、特にグリーンランドは広さ、厚さともに、今後の海面上昇にとって大きな意味を持っています。

これまでも南極の氷が融けているという観測結果はあったのですが、基本的には海の上に乗っている(大陸から張り出した)氷のことでした。南極大陸の陸氷が海に向かってゆっくり滑り落ちていて、それが海の上に浮いて大陸とつながった状態になっています(棚氷)。この浮いている氷が割れて、氷山となって海に流れ出したとか、融けだしているという観測です。棚氷が崩壊すること自体、温暖化の証明なんですが、でも棚氷はもともと、海の上に浮いているもので、その体積の大半は海の中にあります。いわゆる「氷山の一角」という言葉の通り、海の上の部分はすでにわずかなので、棚氷が融けても、海の体積はそれほど増えないのです。

しかし南極やグリーンランドの陸氷が融けると、大変なことになります。これまで、陸氷の崩壊はリスクは指摘されていたものの、はっきりした観測はわずかでした。しかし、この日の前日に朝日新聞が報道したところによると、南極大陸の海岸線から1000キロ近くも入った内陸で、巨大な氷の割れ目が見つかり、そこに溶けた水がたまっているということがわかったのです。つまり、南極の陸氷に亀裂が入って水が侵入しているということです。この溶けた水が海に流れ込むことも大問題ですが、それ以上に怖いのは、この亀裂が横に広がって、さらに大地に向かって深くへと進行して、陸氷がピザを切るように亀裂が入ることです。南極大陸の何分の一という大きさの陸氷が、ピザのワンピースが皿から落ちるように、海に落ちる可能性があるのです。厚さ2000メートル、オーストラリアの何分の一、というような堆積の氷が海に落ちれば、その氷が融けなくても、海の全体の水の体積は猛烈に大きくなり、一気に海面が上がります。このような現象は、南極だけでなく、グリーンランドでも危険が指摘されていて、今回の南極大陸での陸氷の溶解は、大規模な陸氷崩壊の危険を具体的に示すものです。

実は、大規模な陸氷崩壊は、過去にも起きています。最後の氷河期から温暖化し始めた1万年(だったかな)ほど前、カナダの陸氷が大崩壊をおこし、一気に北大西洋に流れ込んだことがありました。このときも、陸氷の上に水がたまりはじめ、周囲に氷が堤防のように残っている状況から、氷の堤防が崩壊して、一気に氷と水が大西洋に流れ込んだと考えられています(これを裏付ける地形が、カナダに残されています)。この結果、海流の流れが変わって、再び寒冷化するのですが、今、もし大規模な陸氷の崩壊が起きたら、それがどんな結果をもたらすかは、正確にはわかりません。ただ、長期的には温暖化傾向はますます続くと見られています。

このように、陸氷の崩壊という可能性をどこまで予測に織り込むかで、海面上昇の予測は変わってきます。しかし、何もせずに温暖化傾向が続けば、こうした陸氷の崩壊は避けられません。「6メートルは大げさだ」「科学的ではない」と指摘して喜んでいる場合ではないのです。

また、映画の作者ゴアについて、「売名行為」とか「大統領選への人気取り」といった指摘もありますが、ゴア自身はすでに20年も環境問題にかかわっており、単なる人気取りでやっていることではないといった話もしました。

その後、環境問題の身近な、意外な話として、レジ袋の話をしました。レジ袋を使わないようにしようという動きが盛んになっていますが、どのように考えたらよいか、ということです。レジ袋をつくるための石油の使用量は、実は決して多くなく、1%にも満たない量です。絶対値はそれなりの大きいものの、レジ袋をすべてやめてもそれだけでは温暖化防止にはほとんど役立ちません。

ではなぜ、レジ袋が問題になるのかといえば、それは「レジ袋ぐらい減らせないなら、もっと大きな痛みを伴う環境行動は無理だ」と考えられているからです。コンビニで飲み物を買って自宅やオフィスに戻るまでのわずかな時間のために、レジ袋をもらいますか? やめられるなら、まずやめてみましょう。この程度のことがやめられないなら、「必要」と感じている石油の消費、たとえば暑い日にエアコンで涼むこともそうだし、農村部でクルマを使うとか、そういう石油消費を減らすことはもっと難しい。簡単なことから進められるかどうか、それの試金石として、レジ袋が今注目されているのだと話しました。その意味で考えると、レジ袋をもらわないことは、単に石油の消費量ということではなく、大きな社会的意味を持っていることがわかります。割り箸を使わないとか、自転車を使うということも、それ自体が決定的に温暖化防止に役立つわけではないにしても、社会の方向を変えるための入口としての価値は大きい、ということです。

ここまでがPart1で1時間ほど。休憩を挟んで、Part2で、ヤマガラの森の話をしました。里山の意味、森自体は小さくても、都会の人が来て理解が深まる意味が大きいこと、身近な山に入って、好きになることこそ重要、といった点で、これは「ヤマガラの森」ブログに書いているような話です。植林自体も重要だけれど、身近な自然を知り、そういった自然がいいものだと観じたり、壊したくないものと理解することがなければ、無価値なものとしてかんたんにこわされてしまうものだということも、わかってもらえたようです。

若い世代は、自然の中で思い切り遊んだ経験が少ない人も多くて、森の中で遊ぶということ自体がピンと来ない人も多いのが現状です。その結果、森などの自然は、人の活動からなるべく遠ざけ、自然のままにそっとしておく方がいいと考えているのですが、自然とは、手をつけてはいけないものではなく、手をつけながら、自然を豊かにすることができるということを、具体的な写真などを見せながら話したので、すっと心の落ちたのではないかと思います。

200インチの壁一面のスクリーンに国蝶のオオムラサキ、カブトムシやクワガタムシ、その幼虫まで大写しになって、苦手な人もいたかもしれませんが、女性も含めて下を向くこともなく、みんな写真に見入って、理解してくれたのは感動的でした。

続くPart3はQ&Aコーナーで、いろいろな質問を受けたのですが、たとえば音楽と環境の関係だとか、ものを欲しがらない質素な生活についてとか、彼らの関心に即して、僕の考えをお話ししました。日経BPの記事のリストを見せながら話したので、とっかかりができてよかったようです。

ここまでで3時間ほど、いろいろな話をしてきたのですが、話を聞いていた会場のマネジャーがこんなことをいってくれて、うれしくなりました。「僕は人の話を3時間も聞き続けたのに、一度の寝なかったのは、はじめてだ」。ありがとう。

そのあとは、お楽しみの懇親会。「フードセラピー」をやっている「和の里」というグループがケータリングに来てくれて、エコなお食事を楽しみました。

今回の会の幹事の女性が香川県出身ということからヒントを得て、瀬戸内の食材、特にかぼすやオリーブオイルなどを準備。これを調味料のベースにして、たこや鰹などの海の幸と野菜を組み合わせた小皿、チコリを船に見立てたオードブル、玄米のおにぎりなど、和風ピクルス、あぶり長いもやニガウリなど。どれも素材を活かした料理で、立食パーティの料理としてはとてもヘルシー、なのに華がある、なかなか心に響くものでした。

立食パーティでは、たいてい講師役など、けっこう主役で参加することが多いので、参加者からいろいろ聞かれたりして、ろくに食べられないことが多いし、食べても味の印象はほとんど残らないのですが、今回はたくさんしゃべりながらも、本当に印象のが残る料理でした。ありがとう。

このパーティの間に、さらにいろいろな人と話ができました。畑をやりたいといっている人、カナダでカウボーイをやっていて、今はバリバリのコンサルタントとか(純日本人)、起業家、コーチ、自転車乗り、環境とビジネスの関係を知りたい人等々。

せっかくの機会なので、あえて控えめなことはいわず、徹底的にアジテートしました。環境によいアクションを起こすには、眉間にしわを寄せてやってもだめなこと、戦略性が重要なこと、マーケティングや広告宣伝の面で、手つかずの活躍の場が広がっていること、どんな仕事をしていても、環境によい企画を考えることはできること。

そんな話の中から、先週、日経BPで書いた記事も生まれました。

この記事を書いたあと、ETEの運営グループにこの話を投げたところ、おもしろい!という返事をもらっていて、もしかしたら実現するかもしれません。楽しみ!

活きのいい若い世代と、環境で協働できるとしたら、こんなにいいことはありません。

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