(by paco)横浜市への環境政策の提言を考えています。市の上層部から検討してほしいという依頼があり、あれこれ考えているところです。今日はその素案のひとつを書いてみます。
いちばんやってみたいプロジェクトは、「緑のリサイクル」です。
横浜市は以前から緑を増やすことを政策に掲げていて、現状の緑被率を落とさずになるべく増やすこと、そして、水源の森林を保全することにも熱心です。横浜市の水瓶は相模湖と津久井湖で、その上流のひとつが山梨県の道志村を流れる道志川。横浜市では、市の範囲を超えたこういった上流地域にも水源保全のための予算を出してきました。横浜市の緑被率は30%を超えているので、けっこうな面積の森があるのですが、さらに市の範囲外に、水源地としての森に関与しているので、かかわりのある森は、意外に広いということになります。
けっこうな面積の森があり、木を植えることにも熱心ということになると、やはり木の利用を考えなければなりません。しかし意外なことに、市はこれまで木を植えることや緑地をつくることには熱心でも、その緑地で育つ木を使うこととには意識が向いていないようでした。市役所は横浜の中心地、都会的な場所にあり、緑地が多い市の西部や、さらにその奥の水源の森の現状にハメが向けられていなかったのかもしれません。
もちろん、緑をこれ以上減らさないようにすることは当然だし、緑を増やさなければならない場所もあるようです。しかし一方で今森がある部分は、育った森を利用することも考えなければなりません。
森の利用ということでは、僕はこれまでもいろいろと考えてきたので、アイディアは豊富にあります。そこで最初に考えたのは、薪ストーブとペレットストーブの普及です。
薪ストーブの話は繰り返し書いているので、コミトンの読者にはおなじみですが、現代的な薪ストーブはとしかされたところでも十分使うことができます。六兼屋で使っている「アンデルセン スキャン 1C-8GS」や、二回りほど小さい「1G-4GS」といった機種では、デザインも都会的で今の住宅にも自然に馴染むし、白や赤のものなど、選択肢は豊富です。そしてそれらを住宅地で使っても、実際のところ、ほとんど問題がないのです。実際、僕の友人のatomは、都内の大田区の自宅にこのストーブを設置して使っていますが、冬場毎日使って2シーズン目に入っても、クレームはいっさいないどころか、隣家を呼んで自慢し、うらやましがられているほどです。
横浜市の郊外、西部の都筑区には、Toshiさんの家があるのですが、彼の家のまわりを散歩していると、ストーブの煙突が立っている家が結構あります。15分ぐらい散歩する範囲に、少なくとも1軒あり、もう少しありそうな感じでした。環境エネルギー政策研究所の所長、飯田哲也さんの家もこのあたりにあるのですが、彼も横浜市で薪ストーブオーナーです。このあたりでは宅地の面積は50坪程度はありそうな場所で、家が並んでいても、庭が間にはいるので、煙突があっても隣家の迷惑になることはないのです。
実際、薪ストーブから煙が出るのは、つけはじめのせいぜい10分程度、白い煙と、木が燃えるちょっと焦げ臭いにおいがするだけです。薪にしっかり火がついて、燃焼が安定すれば、見た目も無色透明の煙で、においもなくなります。
今回の「緑のリサイクル」では、市内や市の水源の森を指定して、適切に伐採し、それを薪にして、市内に供給して、緑の循環を起こします。一方市内の住宅地に対しては、薪ストーブの推奨機種と、推奨設置条件や施工法を決めて、しないでの薪ストーブの利用を、市が積極的に認め、支援する態勢をつくります。ここでは消防と協議して安全確保の用件をつくり、施工業者(工務店、ハウスメーカー、ストーブ店)に対して、薪ストーブを設置するときのガイドラインを示して、手軽に利用できるようにします。家を建てる施主は薪ストーブを入れたいという気持ちをもっていることも多いのですが、いざ設計の段階で相談すると、「無理じゃないですか?」と断られてしまいがちです。設計士や工務店、ハウスメーカーは、無理であるという根拠があるわけではなく、やったことがないし、基準も見つからないということで、安全策で進めていないだけなのです。安全に設置できることを示せば、施主のニーズに応えようとするところや、積極的に勧めて、薪ストーブを買ってもらおうというところも出てくるでしょう。
薪ストーブがあると、赤い炎がゆらゆらするリビングが楽しめるし、ひとりの夜は気持ちが休まり、友だちが来ていれば話が弾みます。自慢のしがいもあるので、オーナーのメンタリティーも満足できそうです。
ではなぜ薪なのか? 木質資源(バイオマス)の利用は国も推進しているのですが、この場合のバイオマスは、ブラジルから輸入するエタノールだったり、バイオディーゼルだったりです。これらはクルマなどの燃料として直接入れられるので、使い勝手もいいし、何となく、未来っぽいかっこよさもあります。しかし、これらの燃料は植物を原料にするにしても化学変化や熱を加えるなどの加工をしています。そのため実際に使えるエネルギー量は、原料の植物からかなり減った量(30?60%程度)になってしまいます。ブラジルからエタノールを輸入する計画もありますが、原料であるサトウキビがもっているエネルギー量が、エタノールをつくる際に失われ、さらにタンカーに乗せて地球を半周してもってくるのですから、植物のもつエネルギーのどれほどが実際に使えるのか、正確な推計は見ていないのですが、おそらく20?30%程度だと思います。そうやってもってきたエタノールをクルマに入れて使うときに、クルマのエネルギー効率は燃料に対して普通15%程度、ハイブリッドでも30%にはなりません。かけ算すれば、5?10%程度しか、利用できていないことになります。
これに対して木を切って薪にして、家庭のストーブで利用することを考えてみます。木を切るチェーンソーの燃料や薪割り機械の燃料(手で割ってもいいですが、量産することを考えると、動力のついた薪割り木を使う方が量産向きです)などで、微々たるものです。薪をトラックに積んで国内を移動させるエネルギーもいりますが、ここは無視できます。というのは、上記で比較しているエタノールの場合も、国内をタンクローリーで移動する部分は無視しているからです。ちなみに薪は、切った木を数か月?1年ほど乾燥させる必要があります。しかしこれは風と太陽による天日乾燥で十分ですから、エネルギーは不要です。こうして薪が家庭に届いて以降は、ストーブでの燃焼効率は、90%を超えています。クルマの燃料として利用するときの15%と比べると、圧倒的に有利です。
こうしてみると、木という植物資源を利用するときに、薪ストーブで暖房として利用する方法がいかに効率がいいか、わかると思います。だからこそ、石油や石炭が使われる以前は、薪が燃料の中心だったのですね。
「緑のリサイクル」では、木の供給源を市内やその周辺部に求めることができるので、効率はさらによくなります。また道志川沿いなど、水源地帯の木を利用することで、森の管理がおこなわれ、水源林が健全性を取り戻す効果もあります。手入れが行き届き、気持ちがいい森林が増えていけば、相模湖周辺の観光地も魅力を増すことでしょう。神奈川県や隣接の山梨県東部の自然も、手入れがされずに荒れていた状態から復活させることができます。
横浜市民の立場から見るとどうでしょうか? 薪ストーブを使うというのは、ストーブの購入費用(1セット50?100万円程度)と、燃料代がかかります。どちらも、従来の石油ストーブやエアコンより高くつく可能性があります。しかし、その代わり、揺らめく日を見てくつろぐ楽しみ、ストーブオーナーの満足感、そして何より、遠赤外線が豊富なじんわりとした暖房で、暖かく冬を過ごすことができます。実は日本の住宅の暖房事情は非常にお粗末なのです。もともと日本の住まいは、蒸し暑くてカビが生えやすい夏場をどうやって快適に過ごすかを中心にしてつくられています。だからこそ、紙と薄い壁という構造なのです。逆に冬は、わずかな火を焚き、厚着をして、ガンマしながら過ごすのが、日本の生活でした。そんなわけで、日本人は全般に暖房機に無頓着で、乾燥するばかりのエアコンや、空気を汚すばかりの石油温風ヒーターなどをあまり考えもせず使っているのです。薪ストーブは、煙突がついているので、燃焼後の空気を外に出すため、部屋の空気が汚れないし、遠赤と自然対流で部屋を暖めるので、気持ちが温かさ。つまり暖房のクォリティが高いのです。生活の質の向上は大きなメリットです。
もちろん、欠点もあります。まず、燃やし始めに温度が上がるのに手間と時間がかかること。スイッチひとつでぱっと温風が出る石油ヒーターとは違います。薪を入れ、着火して、暖まるまで待つ必要がある。でも、なれてしまえば失敗なくつけることができるようになるし、危険もありません。火のつけはじめの瞬間は暖まりませんが、いったん火が安定すれば、加速がつきます。たとえば冷えた日、室内が15℃、20℃まで暖めたいとすると、石油ストーブで最初の1℃は速いけれど、あとが時間がかかる。薪ストーブは、途中で追い越して、結局2割少ない時間で20℃になる、というイメージです。実際、六兼屋では真冬の冷え切った部屋によるついても、薪ストーブだけで1時間もすれば、気持ちのよい温度にしてくれます。
火を消す方はちょっと大変です。スイッチひとつで消えないので、自然に鎮火するのを待つ必要があります。しかし、実際のところは火がついたまま(たっぷり火をつけて)寝てしまうのが普通だし、外出のときも、安定して火がついていれば、そのまま出かけてしまっても問題ありません。薪が自然に燃え尽きて、戻ってくるころには何ごともなくすんでしまいます。心配なときは、外出前は石油ストーブやエアコンと併用すればいいのです。
しかも、CO2発生は、実質的にゼロです。燃やせばCO2は出ますが、森が成長して吸収するので、温暖化ガスはゼロとカウントできるのです(カーボンニュートラル)。そのぶんの石油や電気の使用量を減らすことで、温暖化ガスの排出を減らすことができるのですが、その量は家庭から出るCO2の30%程度になります。CO2フリーの気持ちがいい暖房が使えることを考えれば、コスト負担をしてもいい、というユーザーがいるか、という点ですが、実例は上記の通りだし、潜在ユーザーは一定数いるでしょう。
市内の住宅で薪を使い、CO2排出を減らして、市民生活を豊かにする。森のある地域では、木を切り(間伐)、森を健全にすることで、自然を守り、防災効果や、水源を守ることができる。木を切ったところには新たに苗木を植えて育てればいいのですが、もともと横浜市は植林を増やす政策ですから、この予算は問題ありません。薪ストーブオーナーが増えれば、自分の手で木を植えたり、木って薪にしたいと考える人も増えるでしょうから、森に関わるボランティアも増やすことができるでしょう。管理のコストも削減できます。
この政策を実現するには、次のような点をクリアにする必要があります。まず、利用できる森の全体像と、その森の状況を全体的に捉え、利用可能な総量を推定し、しないで普及させるストーブの目標を決めます。そのうえで、ストーブを設置したり利用するガイドラインを作り、安全を確保する。切り出しのコストや移動コスト、薪をつくるコストを概算して、「横浜の薪の標準価格」を決め、必要な設備を用意します。具体的には、原木の貯蔵と薪割り、薪の貯蔵と配送センターをつくり、そこで安定供給を可能にするのです。これによって、市内できられた木がここに集められるようにします。森の木だけでなく、公園や河川敷、街路樹、家庭の庭から出る剪定木など、行き場がない木は結構あるのです。これらを徹底的に利用したばあい、どの程度の温暖防止につながるのかを試算し、計画全体をシステムとして提示することで、市民の理解を得るようにするといいでしょう。
こういった方法で、一定の効果を上げられれば、同じように、木質ペレットを使う循環、菜の花油をとってバイオディーゼルを使う循環など、地域内のエネルギー循環を起こすこともできます。地域のエネルギーを使い切ったあと(Enegy in our Area)、やや遠いところとの循環に手をつける。たとえば、インドネシアのような熱帯地域と提携することで、植物の生長効率がいい地域との循環をおこなうことができるし、秋田や北海道の風力発電との連携もありえます。
「緑のリサイクル」から始めて、市内のエネルギー革命を起こしていくという政策は、日本中の自治体に大きなインパクトを与えると思います。この方法で、どこまでのCO2削減が可能かは、緻密なシミュレーションが必要ですが、こういったものの積み重ねを向こうに、本当の持続可能社会の片鱗が見えてくるのだと思います。
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