(by paco)春が足踏みしているような日本ですが、そうはいっても日に日に日差しは強くなり、東京では気の早いサクラが花を開いているのを、ときどき見かけます。日本にいると、今年、2007年に入ってからは、世の中を揺るがすような大きな事件は少なく、景気や経済状況もまあまあ。大災害もなく、というところで、世事に目を向けずにすむというか、自分のことだけを考えていればいいというか、まあ安らかな日々が続いている感じでしょうか。個人的に問題を抱えていたり、喜び事でうきうきしているという事情はあるでしょうが、世の中としてはそんな感じではないかと思います。
そんな春、そういえば最近、Global Eyesのテーマで書いてなかったなと思いだし、このちょっと平穏なタイミングで、ざっと世界を概観しておくのはいいかもと思っています。なるべく全体感をもって公平に、と思いつつも、やっぱりトピック的になりそうですが、これから、1?2年という比較的短い先を見通すために、注目しておきたい動きについて話してみます。
■米国:ブッシュ政権は死に体か?
世界のこととなるとまず考えるべきは米国の動き。まず、大きな展望としては、米国は明らかに衰退しつつある、という軸を持っておくべきでしょう。「唯一の超大国」と呼ばれて久しいわけですが、その内実はどんどん劣化していると見るべきで、たかがイラクとの戦争に勝てないのはその象徴です。ベトナム戦争でもみじめな敗北を喫した米国ですが、当時はソ連や中国など、東側の世界と米国との対立の構図があり、その中の局地戦としてのベトナム戦争という構図があったために(実態は、もっとドメスティックな、ベトナムの戦争だったようですが)、戦争の終結を難しくしていたという事情があると思います。しかし今は米国と対立する大きな勢力はなく、開戦の時と同じように強引にことを動かそうと思えば、立ちはだかる大きな反対勢力はありません。それなのに、あの小国の中で勝利できないのは、戦闘面はもちろん、政治面でも、まったく力を失っていることは明かです。米国をもってしても勝てない、という見方もありますが、「勝てない程度に米国の力が落ちている」と見た方がいいと思います。
経済面でも、すでに米国の主力産業の体力はすっかり落ちていて、バイオ産業(生命工学)やITなど一部の業界を除いて、目立った先端産業で、競争力を失っています。これまでは住宅バブルの状況の中で、一般家庭が借金をして住宅を購入し、転売して利益を出すという方法で、経済が牽引されてきたと言われてきましたが、金利の上昇と買い手である一般家計の赤字が加重になり、住宅バブルが崩壊しつつあるといわれています。財政と国際収支の赤字も大きくなり、米国が世界経済に中心という状況は、かなり失われてきました。それと反比例するように中国、インド、ロシアなどの経済成長が大きくなっている状況です。
結局のところ、軍事、経済の両面で米国は力を失いつつあり、それに伴って政治的な指導力もかなり落ちてきていると見ることができます。9.11テロのあと、単独覇権主義で世界をリードしたつもりが、すでにそれをやるきるだけの力がなくなっていたという状況です。というのも、昨年秋の中間選挙で与党共和党が惨敗し、久しぶりに民主党が多数派をとったものの、その民主党が、イラクを含む世界戦略に新しい提案を出し、リードすることができていない状況で、せっかく獲得した多数派を活かすことができていません。つまり、劣化しているのはブッシュ政権や共和党だけではなく、民主党も含めたすべての米国政界におよんでいるらしいということが見て取れるのです。
日本では米国に頼っていればなんとかなると漠然と考えている人がまだまだ多いようですが、本当に米国はこれからも世界の中心であり続けられるのか、ここ1?2年でその動向がクリアに見えてきそうです。
■中東:大戦争は回避できるのか?
そんな米国の指導力、決定力のなさが、はっきり現れているのが中東、イラクを中心とした地域の政治状況です。イラクは米軍が本来の目的をまったく果たせない状況になっていて、内戦状態になっています。イラクの東の大国イランと西のシリアが手を結んでイラクのシーア派を支援する一方で、イラク北部ではクルド人が独立の動きを強め、スンニ派にはサウジアラビアやエジプトなどが遠慮がちに支援してはいるものの、混乱の構図をはっきり見極めることができないほど、複雑になっています。
この状況の中で、米国は「できれば早くイラクから足を洗いたい」と思っている。とはいえできれば勝って撤退したい、でもそれはほぼ無理、という状況。せめて有利に見える状況をつくって撤退するとしたら、イラクで米軍と敵対するイランを攻撃して弱体化した上で、撤退しようという誘惑は、ずっとくすぶっています。この春にはイランに攻撃か?という観測も出ては消え、という状況ですが、これを裏で後押ししているのは、イスラエルです。もし米軍が、ベトナムの時のようにゲリラに敗北する形で撤退することになれば、イランやシリアを中心とする反米勢力はおおいに力をつけ、イスラエルを一気につぶしてしまおうという動きに出ることが予想されます。今は米国を後ろ盾に、「負けなし」の軍事力で周囲のイスラム勢力を圧迫していましたが、米国がイラクから敗北の形で撤退すれば、イスラエルは風前のともしびです。昨年、イスラエルが北隣のレバノンに侵攻しましたが、結局軍事的には勝てずに撤退し、レバノン領内の親イラン勢力であるヒズボッラーはすっかり強気になりました。イスラエルは、米軍の撤退の後を追うように、東からイラン・シリア・ヒズボッラー・パレスチナなどの攻撃を一気に受けて、地中海に追い落とされる可能性が高まっています。
もともとイスラエルは戦後にイギリスが後押しして強引に建国した国で、また建国60年にも満たない、実験的な国家です。軍事的な優位性のみで「他人の土地」に居座っているような状況だっただけに、軍事的優位性を失えば、再びイスラエルのユダヤ人は祖国を失い、世界各国に散るという結果になります。
ほんの10年ぐらい前までは、中東一の軍事力を持ち、圧倒的な力と存在感をもっていたイスラエルですが、その隆盛は意外に脆弱な基盤の上に立っていたのだと、実感させられます。この点、イスラエルと米国は、親子のように似たポジションにあったのだということができそうです。
こういう状況の中で、(1)米国とイスラエルが、イラン・シリアに戦争を仕掛けるという暴発的行為に踏み込むのか、(2)米国が何とか平和的撤退というソフトランディングに持ち込めるのか、あるいは、(3)米国は持ちこたえきれずに敗退し、イラン・シリアによるイスラエル滅亡へのシナリオに進むのか。
中東の将来もここ1?2年で見えてくるのではないかと思います。
■中国:さらなる飛躍か? 衰退の始まりか?
米国の覇権が縮小したあと、世界はどうなるのかが注目されます。中国とロシアというユーラシアの大国が想定されることが多いですが、これらの国が大国化するのでしょうか。
中国は日本の隣国ということもあって、脅威論を語る人が多いのですが、逆に「成長しきれずに失速」という予想を立てる人もいます。失速の根拠としてあげられるのが、高齢化と環境圧力です。中国は一人っ子政策で有名ですが、ということは、日本の出生率どころではなく出生率が下がる方向にあり、この結果、急速に高齢化が進みます。2010年ごろからは60歳以上の人口が急速に比率を高め始め、2050年には25%に達するとみられています。
今から10年後には高齢化傾向が明確になると考えると、今のうちに急成長を遂げようと考えるのは当然のことといえます。しかし、高齢者の絶対数という点では、すでに1.3億人に上る高齢者を抱えているのが中国の現状であり、これだけの高齢者を、現状のGDPで支えていると考えると、日本より深刻だと考えられます。ちなみに中国のGDPは2.3超ドル、日本のGDPは5兆ドル。65歳以上の高齢者人口は日本は2700万人です。比較している高齢者の年齢が65歳以上と60歳以上の違いがあるものの、高齢者の絶対数とGDPの比率は中国のほうがかなり不利であり、こうしたことが中国の実質的な発展の足を引っ張るという説があるわけです。
一方、環境圧力も大きいと指摘されています。中国の企業は環境配慮のレベルがかなり低く、あちこちで深刻な環境被害が起きていますが、これが実際的な問題を引き起こし、成長の足を引っ張るというものです。
一例を挙げてみます。今、中国には世界中から「廃棄物」が集まっています。使い終わったパソコンや携帯電話、その電子基板などもそれに当たりますが、電子基板から白金や金など、希少金属を取り出しているわけです。その取り出しの方法が非常に乱暴で、青酸ソーダ溶液にいきなり基盤をつっこみ、重金属が泡を吹きながら溶けだし、その廃液は川に垂れ流し、といったことが実際におこなわれています。重金属は蒸気として働く人や地域の人の肺に届いて健康被害を起こすし、川に流された猛毒の酸や重金属は周辺の生態系、さらに、人をむしばんでいきます。こういった無茶の結果は、日本の水俣病やイタイイタイ病のような被害をもたらし、そのための社会保障費が経済発展の足を引っ張るという見方です。また資源の枯渇も大きなリスクで、すでに中国政府は慢性的に不足する石油や天然ガスを世界中からなりふり構わずかき集めていますが、これにも量的・政治的限界が来るという観測もあります。
日本では最近、工事現場から鉄板が盗まれたり、マンホールのフタがなくなったり、公園のジャングルジムが盗まれたりといったことがおこっています。これらは日本だけのことではなく、世界中あちこちで起きていることで、そのほぼすべては、いろいろなルートで中国に渡っていると見られています。こんな状況が長く続くわけがない、というわけです。
いずれにせよ、中国の未来は、見た目ほど明るくないようです。無理を重ねて13億の大国が発展の途上にあるわけですが、どこまでこの状態が続けられるのか、続けられなくなったときに、これまた無茶な一党独裁という政体が持つのか。秘密が多い国だけに、意外に早く、トラブルが表に出てくるかもしれません。
■選挙:争点の本質はつかめるのか?
翻って日本。今年は選挙の年です。すでに統一地方選挙のためのポスター掲示板が町のあちこちに立ち始めています。夏には参議院選挙もあり、前回の総選挙で「勝ちすぎ」た自民党に対して、国民がどのような判断を下すのかが注目されます。といいつつも、ではなにが争点なのかといえば、よくわからない状況です。都知事選などは、「石原現知事が選挙に立つなら、自分もたつ」とのたまう候補(黒川紀章)もいて、なんで人のことが自分の立候補とそれほど関係あるのかよくわからないという選挙になっています。ちなみに黒川候補は選挙カーを透明ボディにして、美女軍団を侍らせての選挙活動をするとか言っていますが、これもなんでこうなるのか、まったく意味不明です。
地方選挙はまだしも、国政選挙の参院選はどうなるでしょうか。実は、問題が山積です。阿倍内閣が狙っている、国民投票法、そこから始まる憲法改正、自衛隊のフリーハンドの海外派兵など、従来の方針の大転換にもかかわらず、いずれも争点として見えてきていない状況です。
たとえば、国民投票法ができると、何が問題なのか、わかりますか?
http://tukui.blog55.fc2.com/blog-entry-279.html
http://www.nichibenren.or.jp/ja/opinion/report/2005_14.html
http://www.jicl.jp/chuukou/backnumber/26.html
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Japanmilitarism/honto-ha-osoroshii.html
教育基本法、自衛隊法の改正を、数を背景にかんたんに実現させてしまった安倍内閣ですが、このあとの行動が加速するか、踏みとどまるかの判断をすべく、自民党はこの夏の参院選挙を戦おうとしています。といいつつ、なるべく憲法改正などの大きなイシューが争点にならないように、「改革か、停滞か」のようなわかりやすい二者択一を示す劇場政治に持ち込んで、選挙を乗りきろうとしているのではないかと思います。これから夏にかけての選挙の季節は、1?2年後日本という船の舵が大きく切られるかどうかの大きな選択になると思います。これからの政治の情報にぜひ注目してもらいたいと思います。
■マスコミ:徹底的に打ちのめされて
一方、ここまで話してきたような、今後を占う重要なイシューについて、情報を提供すべきなのはマスコミ。でもそのマスコミが、今年初め、さっそくぼろぼろに打ちのめされています。納豆ダイエットから始まった改ざん事件ですが、こういったことがあると、TVメディアは完全に萎縮し、国(総務省)に頭が上がらなくなります。なんといっても総務省に開局の許認可権は握られているし、地デジ対応の助成金を大量にもらっていますから、国の顔色を見ながらの経営という傾向は強まる一方です。そんな中、これから選挙の季節を迎えるのですが、ぼろぼろのマスメディア、特にTVに、選挙の本当の争点をえぐり取る勇気など、ないでしょう。TVの報道は完全に機能不全になると思われます。新聞はどうか? もしかしたら、このあと、新聞のスキャンダルが起きるかもしれません。マスメディアを機能不全にしておけば、政府にマイナスになる報道は出てこなくなり、その間に、わかりやすい選挙に持ち込んで勝って(負けないですまして)しまおうという動きになりそうな気配です。
ということで、一見平穏にも見える2007年春ですが、その背後にある変化の動きを見落とさないようにしないと、やばいことになりそうな感じもある春です。
コメントする