(by paco)今週は、ちょっと堅い話題です。
ホワイトカラー・エグゼンプションという言葉を知っている人はどのぐらいいるでしょうか。今、この制度を導入すべく、自民党と厚労省は法案提出を狙っています。これから始まる通常国会での提出、成立がめざされていたのですが、公明党や労働組合の反対で、とりあえず今国会の法案提出は亡くなったようです。夏の参院選挙に向けて、マイナス材料はなるべく残したくないという選挙向けの動機が大きいので、選挙の結果、自民党が有利になれば、秋にも臨時国会が召集されて、法案は成立してしまう可能性があります。今すぐというわけではないけれど、近い将来導入され、そして読者の皆さんのような、普通の企業で働く多くの人が、この制度の中でもしかしたら大きな影響を受けるかもしれません。
という緊迫した状況をまず知ってもらった上で、2006年末にでたニュースから
▼ホワイトカラー・エグゼンプション:労政審報告に盛る
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「ホワイトカラー・エグゼンプション」導入についての最終報告案が出される労働政策審議会労働条件分科会に臨む西村健一郎会長(中央)=厚労省で27日午後5時7分、塩入正夫写す 労働法制の改正に関する労働政策審議会(厚生労働相の諮問機関)の労働条件分科会は27日、最終報告をまとめた。報告には、一定の年収などを条件に労働者の労働時間規制(1日8時間など)を除外し残業代を支払わない「日本版ホワイトカラー・エグゼンプション」が盛り込まれたが、労働側は最後まで納得せず、同制度の導入は認めないとの意見が記された。「認めない」との強い表現が使われるのは極めて異例。報告を受け、厚労省は今後、法案要綱の作成に入り、来年の通常国会に提出を目指すが、労働側の反発を押し切る形でこのまま作業が進むのか、注目される。────────────────────────────────────報告は「労働契約ルールの明確化」として▽就業規則の変更で労働条件が変更されるルールなどを盛り込んだ労働契約法の新設▽「仕事と生活のバランスを実現する」としてホワイトカラー・エグゼンプション▽働く時間に労働者の裁量を反映させる企画業務型裁量労働制の適用拡大??などを盛り込んだ労働基準法改正について行われた。
うちホワイトカラー・エグゼンプションでは管理職一歩手前など対象者が示され、年間104日以上の休日確保などの条件は示されたが、具体的な年収などの要件はなかった。同省も具体的に記さないままで法案化を検討している。
付与された労働側の反対意見は「既に柔軟な働き方が可能な制度があり、新たな制度の導入は認められない」とした。
また、使用者側の委員の一人が「中小企業に影響の大きい問題なのに議論は尽くされておらず(報告は)時期尚早だ」と反対した。
今回の報告について、使用者側委員の紀陸孝・日本経団連専務理事は「働き方の新しい選択肢の一つとしてこの制度を考えてほしい。導入する際には労使が話し合って決めることになっており問題はない」と話した。
一方、会見した労働側委員の長谷川裕子・連合総合労働局長は「制度は24時間働けと強いるようなもの。厚労省は終始、制度の導入ありきで、私たちの訴えにも『過労死を助長する』との過労死遺族の訴えにもかたくなだった。一体誰のための役所なのか。盛り込まれたのは残念だが、反対を貫きたい」と話した。【東海林智】
◇ことば…日本版ホワイトカラー・エグゼンプション 労働基準法に基づく労働の時間規制(1日8時間など)を除外し、成果などを基に賃金を支払う制度。米国の制度をモデルにしており、年収など一定の要件を満たす管理職一歩手前の企画、研究職などホワイトカラー労働者を対象に導入を検討。本人の裁量で、例えば繁忙期には連続24時間働き、そうでない時は1時間勤務も可能になる。一方、時間規制がないため、どれだけ働いても残業代は一切支払われない。米国では当初、高所得者のステータスシンボルのように扱われたが、現在はファストフード店の副店長レベルまで適用範囲が拡大されている。
毎日新聞 2006年12月27日 22時45分 (最終更新時間 12月27日 23時23分)
という内容ですが、理解できたでしょうか。要するに残業代という概念をなくしてしまい、与えた仕事に対する達成度(成果)に対して、報酬を払うというのがこの制度のしくみです。
年功序列が崩れて、成果主義が導入され、仕事の成果を出しているひとをより高く評価し、報酬でもポジションの面でも、報いていくという流れが明確になって10年ほど。これをさらにだめ押しするのが、ホワイトカラーエグゼンプションです。簡単に言えば、たくさん成果を上げた人は報酬やタイトルが高くなり、成果を出せていない人は報酬が下がるという制度です。
それなら、別に悪いことじゃないんじゃない? 今でも成果主義で評価された人は収入が高くなるエリートだし、成果が出せない人は査定が悪いんだから、ホワイトカラーエグゼンプションとやらが導入されても、特に変わらないんじゃないかと思っている人もいるでしょう。
でも今残業のつく会社にいる人は、周囲を改めて見回してみてください。評価は低いけれど、あるいは、評価が低いから、仕事が遅く、毎日遅くまで残っているという人はいませんか?(あ、それはオレのことだ、と思っていたりして?) こういう人は評価に応じて基本給や賞与は低めですが、残業代がかなり着くので、実はけっこう収入が多くなっていたりします。この人をAさんとしましょう。
一方、けっこういい仕事をしていて、仕事も速いから、特に用がないという日はさっさと帰るというタイプもいるでしょう。こういう人は評価は高めで報酬もいいわけですが、残業代はあまり稼げないので、収入としてはAさんとあまり変らなかったりします。でも、こういうタイプのBさんは、収入そのものより、帰ろうと思うときに自分の工夫で早く帰れることを知っているので、毎日おそくまで居なければならない人が自分並みに稼いでいても、をずるいと思うことないかもしれません。
ホワイトカラーエグゼンプションが導入されると、Bさんは成果を出しているので、今まで以上に報酬がもらえるかもしれません。しかしAさんは明らかに報酬が落ちてしまいます。成果が少ないので、報酬も減ってしまうのです。いくら残業や持ち帰り仕事をしても、アウトプットの量が今まで通り少ないなら、報酬は低いままです。もしあなたがAさんの立場ならどうするでしょうか。もっとがんばって成果を出そうとする? でもAさんはAさんなりに努力して、成果が小さいなら、これ以上努力してもあまり多くの成果を出すことができないかもしれません。こうなると、がんばることが逆にばかばかしくなり、クビにならないぎりぎり程度にゆっくり働けばいいやと思う可能性があります。こうなると、Aさんのパフォーマンスはさらに落ちてしまい、報酬を下げても、全体としてのパワーは落ちてしまうでしょう。
一方、結果が出せるBさんは、収入が上がってハッピーですが、となりのAさんの仕事量が少なくなってしまったので、そのぶんをBさんがやらなければなりません。自分に与えられた仕事だけやればいいや、というわけにはいかなくなり、仕事が増えてしまいました。増えた分、仕事時間が長くなってしまい、早く帰れなくなったったのです。要領のいいBさんといえども、過労が続くようになってきました。これではホワイトカラーエグゼンプションが何の目的のために導入されるのか、説明が難しいのではないでしょうか。
この制度は、実は「裁量労働制」という名前で、すでに企業の中で使われ始めています。しかし職種が限定去られていて、研究開発やコンサルタントのような専門性が高く、個人での動きが多い職種が対象でした。今度のホワイトカラーエグゼンプションでは、職種を問わず、全労働者向けなので、多くの人がこの問題に直面することになるのです。
今すでに課長クラスの役職に就いているという人は、残業代はないから、要するにおなじだよね、と思うでしょう。でも課著クラスの役職ということは、仕事の量についても、ある程度自分でコントロールする権限があります。一方、しんせいどの対象になるのは平社員で、仕事量は上からの指示で決まる人たちですから、自分で仕事量を決めて自分で達成に向けて努力するというのとは意味が違います。ホワイトカラーエグゼンプションでは、自分は仕事量をコントロールできないのに、成果に報酬が連動するようになるという点が違いと言えるでしょう。
となるとこの法案が成立して導入されれば、「仕事量だけは一方的に押しつけられ、残業は何時間してもいいからアウトプットを出しなさいといわれ、自分に無理な量なので、結局深夜まで仕事、つまり労働強化という方向なりかねない危険があるのです。
米国では確かにこの制度がすでにひどく導入されていますが、対象になっている職能と報酬に制限があり、マネジメントの仕事ができない人は対象外になっています。米国ですから、マネジャーの多くはMBAホルダーです。日本では年収の制限もないし、対象もマネジャーだけでなく、MBAも持っていないワーカーに、この制度が適用されることになるのです。
さて、この制度、あなたにとっては、トクになりそうか、不利になるのか、どっちだと思いますか? またその結果、あなたの会社はいい方向に行きそうですか?それとも問題があふれてくるのでしょうか。
今この制度の法案は、秋以降、静かに国会に提出され、静かに成立しかねない状況です。成立すれば、強引に導入する企業も増え、その制度の上でうまくやれない人は、かんたんにクビになってしまうかもしれません。こんな重要な法案が、静かに、身近な人との議論もなく進められていいのでしょうか。僕は会社員ではないので、「別にどうでもいい」といえばそうなのですが、この問題について会社員の皆さんは本当に放置していいのか、僕は人ごとながら、とても気になっています。
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