(by paco)286西洋文明、崩壊の始まり?

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(by paco)2006年、最終のコミトンになりました。そんなわけで、今回は今年あった大きな変化について考えてみたいと思います。

今年、2006年が、歴史の中でどのような位置づけになっていくか。つまり、今年起きたことの中で、将来につながる大きな事柄は何かを考えてみると、世界帝国、米国の劣化が非常に明確になったことだと思います。米国の劣化は、これまでも様々な角度から指摘されてきましたが、それでも米国が世界の唯一の超大国であることは誰も否定できませんでした。しかし、もしかしたら、2006年は米国の凋落が明確になったターニングポイントとして記憶されることになるかもしれません。そしてそれは同時に、「欧米」と表現される西洋文明の時代が少しずつ崩壊していく時代の始まりを意味するはずです。

西洋文明が世界で優位に立ったのは、実はそれほど古いことではありません。スペインやポルトガルが世界を分割した、というような歴史を習ったことがありますが、あれは当時のヨーロッパ人、特にローマ教会がスペインとポルトガルがケンカをしないように分けただけで、実質は中国やイスラム文明圏にヨーロッパ人が来て交易をしたというレベルで、力関係は決してヨーロッパ優位ではありませんでした。中央アメリカや南米大陸の文明がつぶされていったという例外を除けば、おおむね世界はいくつかの文明圏が独立して力を持っていて、西洋文明が優位ではなかったのです。

西洋文明が優位に立つのは、産業革命以後、特に19世紀に入ってからのことで、つまりはここ200年ぐらいのものです。それ以前は、中国文明とイスラム文明が十分力を持っていて、その間にインド文明もあり、世界は西洋的な考えで動いていたわけではありません。

19世紀以後、世界は西洋文明が優位になり、中国もインドもイスラム圏も植民地支配を受けざるを得ないほど弱体化し、西洋諸国のいいようにやられてしまいました。その流れが、今年、大きく揺らぎつつあるのではないかという予感が見え隠れし始めています。崩壊の始まりかもしれません。

9.11以後、米国は世界の反対を押し切ってアフガン、イラクと戦線を広げて、世界最強の軍事力を背景に、小国を圧倒して支配権が健在であることを閉めそうとしているかのようでした。しかし、開戦から5年を過ぎて、米国とイギリスの西洋文明最強の連合は、アフガンでもイラクでも敗北しつつあります。そう、アフガンでも、です。

アフガンは、確かにいったん米国が制圧したかに見えましたが、その後を引き継いだNATO
軍はじょじょに劣勢に回り始め、いまや首都カブールと、いくつかの都市を押さえているだけの状況になっています。代わって、いったんは弱体化したと思われたタリバンが再び力をつけ、南部の拠点であるカンダハルの防衛にあたっているNATO軍は陣地にこもっているのが精一杯の状況になりつつあるようです。欧米は、アフガンで負けつつあります。

アフガンは、かつて、ソビエト連邦が進攻し、大軍をおいて支配しようとしたものの、抵抗を排除できずに撤退、これがソ連崩壊の引き金を引きました。1980年代のことです。こうして冷戦が終わって米国は唯一の超大国になったのですが、その10年後に米国が同じアフガンに侵攻し、結局アフガンに足を取られて崩壊しそうな状況です。何しろ、米国と欧州各国軍(NATO)がセットでかかっても、アフガンに安定政権をつくれないばかりか、オサマ・ビンラディンは生死不明のまま、タリバンのオマル氏さえ、拘束できていないのです。軍事作戦は成功していないどころか、目的をまったく果たせていないと言うべきです。

イラクに至ってはもっと深刻で、今年11月の中間選挙でブッシュ政権の基盤である共和党は惨敗、ブッシュも政権有力者も、イラク戦では敗北しつつあることを認めざるを得なくなりました。今のところ、撤退するという説と、さらに兵力を増強するという話が交錯していますが、この先、米軍がイラクで勝てる可能性はまったくないと言うべきです。

米国がアフガンでもイラクでも勝てないという状況を見て、勢いづいている国がいくつもあります。ひとつはイラン。イランはアフガンとイラクを南北に置く国で、イラクにもアフガンにも影響力を持ち、欧米の軍隊と互角以上に戦っています。イラクで、反米の筆頭格にあげられるサドル師は、シーア派であり、シーア派はイランの中心的なイスラム教ですから、結局シーア派の支援者としてイランが力を強めていて、かつ米国を追い詰めているのです。イランの力の源泉は暴騰している石油価格といわれていますが、それだけではないでしょう。

米国は、アフガン、イラクに続いて、さらにその西、地中海に面した国、レバノンでも米国チームを打ち負かしています。米国が世界でもっとも力を入れている国がイスラエルで、米国はイスラエルに内蔵を鷲づかみにされているとも言われています。つまり、米国はイスラエルの言いなりだ、というわけです。そのイスラエルが、今年、北隣のレバノンに進攻し、レバノンのシーア派勢力である、ヒズボッラーの掃討作戦に出たのですが、返り討ちに遭い、敗退しました。イスラエルが本格的に敗退したのは初めてのことで、世界一の大国、米国の強力な後ろ盾と、イギリス譲りの強力な諜報機関をもってしても、シーア派勢力を打ち負かすことができなかった。そしてこのヒズボッラーを支援しているのもイランです。

世界地図を見てもらいたいのですが、イランは、東のアフガンを勢力下に起きつつあり、アフガンとパキスタンは双子関係に近い国なので、アフガンがイランの勢力下になれば、パキスタンもイランの勢力下にはいるでしょう。西は、イラク、さらにシリアを影響下に起きつつその西のレバノンにまで勢力を広げている。さらにヨルダンを挟んでパレスチナも支援していて、今年、パレスチナの選挙で勝利したハマスは、イランの力を背景に、米国よりのアッバス議長グループと対峙し、選挙で負けたアッバスは力で負けつつあります。

つまり、米国=ヨーロッパ連合は、中東から西アジアまでの範囲で、イランを中心とするイスラム勢力に負けつつあるということです。ちなみにヨーロッパは、今は軍事的に他の地域を制圧する力はなく、EU域内の安定にもかなり力をとられているので、イランが台頭(たいとう)するなら、イランと協力関係を結んで共存することを選ぶでしょう。

イランが、西アジアの大国としてのし上がりつつあるように見えていますが、しかしむしろ、米国が負けつつあるという方が適切で、イランは北のロシア、東の中国と連携しつつ、「非米同盟」をつくっているというのが、田中宇の見方です。同盟かどうかはともかく、ユーラシア大陸で、中国、ロシア、そしてイランをひとつの核としたイスラム諸国という勢力が伸びていて、米国は明らかに負けつつあり、欧州はEUとしてまとまることを優先しているというのが、今の状況です。

さて、そのイランですが、この国は実は、西洋文明が拡張する以前は、西アジアの強国でした。以前の国号はペルシャで、世界史では、アケメネス朝ペルシャ、セレウコス朝ペルシャ、ササン朝ペルシャといった王国名を覚えた人もいると思います。イランは、世界史の中でたびたび、周辺国を統合して強国になり、栄えた国なのです。同じように、中国も漢民族の国というよりは、周辺民族を統合した帝国として世界史の中でたびたび栄えてきて、今再び世界の中に強国として登場しようとする前夜にあたっています。

日本では小泉政権が米国べったりで、引きついた安倍政権も米国によって生命力を維持しているので、米国が今も世界の中心で最強国というイメージを持っている人が多いと思いますが、世界は確実に動いています。9.11以後、一瞬光り輝いた米国が、実は線香花火が落ちる直前のような、一瞬の輝きだったという可能性も感じさせるのが、今年2006年でした。

米国が、今年を境に階段を転げ落ちるのか、それとも再び持ち直すのかは、僕にはわかりません。そしてそれ自体、僕にはどうにも手が出せないことです。ただ、来年への可能性としてみておいてほしいのは、もしかすると、世界は唯一の超大国の転落に向かっている可能性もある、ということです。

さて、この流れの中で来年、起こるかもしれないことを考えてみます。まず、もしかしたらありそうなのが、イスラエルとイスラムとの間の戦争が起きて、イスラエルが敗北する可能性です。あの強国イスラエルが負ける?と思うかもしれませんが、今イスラエルは滅亡の危機に瀕していると考えるイスラエル人もいるぐらい、きわどいところにいます。ヒズボッラーは今年の勝利を背景に、来年はさらにパワーをつけ、レバノンの中でかろうじて欧米の影響力があるセニオラ内閣が倒れれば、一気にイスラム化される可能性があります。これでイスラエルはすぐ北にまで的の駒が迫ります。パレスチナのハマス政権は今は欧米からの援助が泊まって苦戦しているように見えますが、イランはもちろん、各地のイスラム勢力からの支援を受けて、力を蓄えれば、北のヒズボッラーと東と南のハマスが連動して攻勢に出て、イスラエルを一気に地中海に追い落とすことも考えれるのです。今年のレバノン戦争で、あのイスラエル軍が敗退したことは、イスラエル滅亡を初めて予感させるできごとでした。

次の可能性は、アフガンでNATO軍が負け、撤退して、タリバン政権が復活すること。これと同時にパキスタンにもタリバン政権ができて、仲の悪い隣国インドとの関係が緊迫化する可能性もあります。もっとも、インドとまで戦うのはやめて、力の近郊をめざす可能性もあると思いますが、パキスタンまでイランの勢力下にはいる可能性があります。

こうなると、イランはペルシャ湾を挟んだサウジアラビアに影響を与えて米国べったりのサウド家の支配をひっくり返し、新イランの政権を誕生させる可能性もあります。こうなると、イランは、イラン、イラク、サウジアラビア、さらにはクウェート、UAEの石油まで一気に確保してしまうかもしれません。まさにイランを中心としたイスラム帝国が復活する可能性もあるのです。

実はこの逆を、米国は狙っていた節があります。アフガンとイラクで勝利して、イスラエルと呼応して、オセロのように間に挟んだ地域を順に米国よりの政権に置き換えていくという戦略です。しかし、現状を見ると結果は逆になる可能性があり、全部イスラムにひっくり返されて、米国は中東の支配を失うのではないかと予想する人もいます。ここに中国とロシアがどう絡むか。歴史はどこに行こうとしているのか、とんでもない方向に進む可能性も否定できません。

とはいえ、もちろんこれは「可能性」の話で、ここ数年は表向きは膠着状態が続くかもしれません。ただ、ひとつ言えることは、日本から見ると妙に盤石に見える米国の強さは、実はかなり怪しげなところまで来ているということです。米国は、イラクでの戦争に負ける以前に、自国の経済が崩壊して、自滅するという人もいます。すでに米国は主要な産業で負け続けていて、いつドルが大暴落してもおかしくないと考える人もいます。もしドルが暴落すれば、大量の米国債を買っている日本は、紙くずをつかまされて国になってしまうでしょう。

さて、2006年、世界はこんな動きをしているように見えるのですが、来年はどんな状況になっていくのでしょうか。できれば余りひどいことになってほしくはないと思うのですが、果たして米国が強い状態が「ひどくない状態」なのか、逆なのかは、疑問もありそうな2006年の年末です。

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