(by paco)277日本が世界のトップを走るダンス・カルチャー

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(by paco)今日、10月21日と明日22日の2日間にわたって、Soul and Motion Dance Studioのショウケース公演が行われています。今日は初日を見に行ってきました。

Soul and Motion Dance Studioは、その頭文字をとってみるとわかるのですが、SAM、つまりTRFのダンサーで、もと安室奈美恵の結婚相手のSAMが主宰するダンススタジオです。で、僕の娘のpollyがここのスタジオの熱心な受講生ということで、要するに、「娘の習い事の発表会」に行ってきただけ、ということもできるのですね。

が、とはいえ、ここのスタジオのレベルは非常に高く、今回の発表会も、いわゆる習い事の発表会を超えて、十分お金の取れる公演になっています。実際、Soul and Motion Dance Studioに限らず、他の大きめのスタジオが行う生徒の発表会は、けっこう大きなホールを使って行い、チケット代が3000円とか、4000円で実施しても、それが完売してしまう盛況です。今回の公演も、土曜日曜で計3公演が予定され、900席、3000円のチケットが、望んでも手に入らない状態です。

こういったイベンのチケットは、一般に販売されることは少なく、出演する生徒に割り当てチケットノルマとして販売されます。今回は12枚、36000円がエントリーフィー(出演する人がスタジオにお金を払う)とは別に割り当てられ、実質的な出演料になっています。

以前pollyが言っていた別のスタジオでの、同じような発表会では、割り当てられたチケットを余らせている人がけっこういたのですが、今回は早くから余らせている人が少ない状態になり、チケットが「レアもの」化していました。僕らは親族が行く以外に、友人知人に「もしよかったら来てください」と声をかけてみたのですが、こちらの予想に反してけっこう多くの方から希望が来て、チケットを集めるのにかなり苦労しました。声をかけた人は、もちろん僕や妻やpollyの友だちなので、pollyを見たくて来てくれるわけですが、やはり「今人気のダンスってどんな?」という興味がベースにあるようです。

今は、テレビの音楽番組に限らず、街頭の大きなオーロラビジョンなど、音楽が流れるところには歌い手だけでなく、ダンサーが必ず移っているという時代で、深夜には連日のようにストリート系のダンスや音楽の番組がオンエアされています。ダンスは、普通の日常生活で毎日のように見かける、普通の文化になっているのです。

そういう状況を反映して、いま日本では空前のダンスブームが起きています。見るだけでなく、踊りたい、踊るからにはうまくなりたい、習いたいと考える若い世代が爆発的に増えているのです。

実際、ダンススタジオがあちこちにつくられ、その料はちょっとびっくりするほどです。「そうなの?」と思う方は、今度、いつもの街を少し気をつけて歩いてみてください。雑居ビルの上の方の回に、「ダンス」「HIPHOP」「JAZZ」「バレエ」「タップ」などと書かれた看板を見つけるのはけっこうかんたんです。都心部はもちろん、住宅地の駅から数分の商店街のはずれというようなところにひっそりと、でもしっかり根付いているのです。

習う方の動機はというと、いくつかバリエーションがありそうです。ひとつは、音楽番組などを見て、ダンスに憧れてという場合。音楽は好きだけど、歌やバンドよりダンスが好きという場合もあるし、単純に体をリズムに乗せているのが気持ちよう誘うというのもあります。健康法のひとつとして、スポーツジムでエアロビクスをやるより、ダンスの方が楽しそうという人もいれば、夜、クラブに遊びにいくのが好きで、どうせ行くなら人よりうまく踊りたいと人も多い。特に男子は、女の子に持てるためにダンスという動機もあります。今、持てたい男子が選ぶのは、「お笑い」かバンド、ダンスが手っ取り早く、スポーツより楽しそうなのにモテる、というイメージがあるようです。

現実的に考えても、ダンス人口の90%は女子なので、その中で男子がいれば、「モテる」かどうはともかくとしても、女の子との出会いにはこと欠きません。舞台ではもちろんですが、レッスンのときも、踊るおねえさんたちは露出度は高いし、くねくねとセクシーですから、男子としては見ているだけでもドキドキものです。まあ、実際のところは、ダンスをやっている男子がモテモテ、かどうかはわかりませんが、「モテたければダンス」というのは、今の中学?大学生の男子には共通の理解になっているようです。

さて、動機はいろいろでも、やり始めてみるとおもしろくなり、どんどんのめり込む人も出てきます。今、スタジオに習いに来る制度の中心は、高校生から大学生、フリーターの20代女子で、特に熱心なのは、やはり大学後期からフリーター世代です。大学生は後期に入って時間に余裕が出てくるし、バイトにも慣れて可処分所得が増えてくる。ダンスがおもしろくなると、バイトの給料をダンスのレッスンにどんどんつぎ込んでしまうこも多い。就職のタイミングになって、「会社に入ったらもうダンスができなくなっちゃうし」と考え、結局フリーターを選ぶ人も多いようです。

時給900円のバイトをして、1回90分2000円前後のレッスンを受けに来るという生活で、今回のようなイベントがあると、出演料やチケット代、衣装代などを捻出するために、イベントの練習が始まる前に、ふだんのレッスンを休んで集中的にバイトして、イベント資金を稼いでくる人もいます。

こうしてダンス人口が増えるにつれて、全体のレベルも確実に上がってきていて、今や日本は、ダンスの人口、スタジオ数、ともに世界の1?2を争うところまで来ました。先進地はやはり米国で、ニューヨーク、ロスあたりになるわけですが、東京もまったく引けをとりません。Soul and Motion Dance Studioは、そういう中では、日本のダンスの草分けであるTRFのSAMが主宰し、TRFのあと2名の女性ダンサーであるCHIHARUさん、ETSUさんもレッスンを持ち、さらに倖田來未やBOA、AYUなど、ダンサブルな音楽のアーティストの振り付けをしているダンサーが多数レッスンを持っているという意味では、日本はもとより、世界でもトップクラスに入るダンススタジオといっていいのだと思います。

今回の公演では、出演者は200名近くになり、先生(振り付け師)ごとのナンバーに分かれて、16のナンバーが披露されました。

pollyが結構長くダンスをやっていることもあって、こういった舞台は何回も見ているのですが、今回の公演は、本当にレベルが高く、ただただ圧倒されました。こういったシロウトが出る公演では、どうしても単調になったり、一部はうまくても他は、なんとかついてきているだけといったことが多いのですが、今回は、ほとんどの出演者がそのままPV(プロモーションビデオ)のバックダンスをやってもいいぐらいのレベルで、しかもその中でトップレベルのダンサーは、本当に息をのむうまさです。

出演者の95%は10代?20代の女性たちで、おへそ、太ももは露出、胸を協調する衣装と、かなりと扇情的なのですが、舞台の強いライトに健康的な肢体を惜しげもなくさらして動くリアリティはかなりのものです。生き生きとした表情を見ていると、この人たちは、もしかしたら、学校や職場では絶対に見せない表情をしているのだろうなあと思ったり、中学生や高校生は、学校では絶対このかっこいいダンスを披露したりしないのだろうなと思ったり。もし中学生や高校生が学校でこんなダンスをやったら、そしてそこに男子がいたら、刺激が強すぎで、生活指導の教師に「検挙」されるに決まっています。

我が愛娘のpolly(13歳中1)も、だいぶ形がよくなってきたおへそをライトに照らされ、厚いパッドの入った黒いブラジャーでまだ小さな胸を協調して、長い髪をなびかせて、時にきりっとした表情で、時ににっこりと、いつもかっこよく、くねくねと踊っていました。さすがです、娘。要するに、娘自慢をしたくて、今回のコミトンを書いているのか>自分 f(^^;)。

そんなわけで、今非常にハイレベルになっている日本のダンスシーンですが、ではプロのダンサーをめざすような彼・彼女たちの前途はどうかというと、現実は厳しいものがあります。仕事として可能性があるのは、音楽アーティストのバックダンサーとして、ライブコンサートやPVに出演するという道か、その延長でダンスの振り付けと自分もダンサーで踊るという、振り付け師の仕事をするか、ダンススタジオで教えるか、おおむねそのいずれか。いわゆるダンス単体では、現状ビジネスにはなっていないので、仕事にする場合も、ダンサーとしてではなく、振り付け師や教師としての道になるのが現実で、かつ、収入面も決して多くを期待できません(一部の売れっ子は別にして)。希望者が多いので、ちょっとしたバックダンサーの仕事は、限りなく無報酬でも、やりたい人が詰まってしまうといった具合です。

それでもダンスをやりたくて、フリーターとしてダンスをやり続けている人は多いのですが、どんなにうまいダンサーでも、社会的にはフリーターで、年収だって、せいぜい200?300万円止まり。彼女が踊れるダンスのすばらしさと比べて、それが「仕事」にならないむなしさは、大きいものがあります。

パソナのCEOの南部さんが、こんな趣旨の話をしていました。「今の若い人には、たくさんの才能があり、ダンスや音楽、農作物を作る、高齢者の介護をするなど、いわゆるビジネスにならないものでも、世の中にとって意味のあることができる人がたくさんいる。こういった能力を、仕事として活かせないのは、彼らの責任ではなく、社会の責任だ」と。「そうはいってもそんなアマチュアのダンスにだれがお金を払うんだよ」というツッコミがきこえてきそうですが、僕は南部さんの意見に賛成です。すばらしいダンスの能力を彼女の努力と成果に見合うお金にするしくみがないだけで、そのしくみがないから、彼女は「アマチュア」と呼ばれてしまっているだけです。もししくみがあれば、収入面でも報われ、プロのステータスも得られ、見る人もハッピーになれます。「ダンスばかりやっていつまでもフリーター」でいる彼女が悪いのではなく、そのダンスの価値を正当に認めるしくみがない社会の方の欠陥なのだ、というのが南部さんの考えなのです。そしてそのしくみさえあれば、(彼女のような)フリーターは、社会の表舞台で活躍できる。

ちなみに南部さん自身は、パソナで農業という職業を選ぶ人に対する支援を行っていて、「植物を育てる」という能力を持った若者に、社会的なステータスを与えるための仕組み作りに力を尽くしています。南部さんに続いて、ダンサーやミュージシャンやゲーマーや介護に熱意がある若者に、その分野での仕事をつくってあげる人が必要です。

最近、亜細亜大の学生と話をしていて、彼らの職業観にフリーターをバカにし、正社員になることに対して必要以上に価値をおいていることに気づき、ちょっと愕然としました。親から「フリーターはよくない」というかなり強いメッセージを受け取っているようです。

大事なことはフリーターか正社員かではなく、自分の人生を何かに賭けているか、ということだと僕は思うのだけれど、「正社員」のステータスが相対的にすっかり上がってしまうことで、かえって「自分は何をやりたいか」があいまいになっていきそうな気配を感じています。

という、若い世代の生き方に話が行き着いてしまいましたが、これについては僕自身まだ研究中なので、機会を改めて書きます。今日のところは、「今日本のダンスシーンは、すごいことになっているぞ」というお話で留めておきたいと思います。

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