(by paco)278交流居住が動き出す兆し

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(by paco)「交流居住」という政策の実施に協力しているという話は、以前にも書きました。

この政策の推進イベントとして、「全国過疎問題シンポジウム」が続けられていて、今年は宮城県白石市で、先週10月25?27日の3日間にわたって行われました。僕は26日のパネルディスカッションにパネラーとして呼ばれていって来たのですが、全国から500人ほどの、主に自治体やNPOの関係者が集まり、なかなか盛会でした。

グロービスはじめ、あちこちで研修をするときに、僕がデュアルライフを実践しているという話をするのですが、本題の研修よりこちらのほうに反応があることも多く、自然の中で生活したい、いやされたい、子育てしたいと考える都会人はかなり多いことが実感できます。

こういったいなか暮らしに興味がある人向けに、今どんな活動が行われているか、少し事例を紹介しましょう。

福島県の南部、泉崎村は、東北新幹線の新白河駅から車で15分ほどの位置にあり、東京に通勤も可能な立地(おおよそ1.5時間圏)です。ここに「天王台ニュータウン」という住宅団地があり、今村長が先頭に立って、ここの売り込みに懸命です。

入口はいくつか用意されています。まず、インターネット上で仮想村民になる「e-村民」制度。泉崎村のファンクラブといった位置づけですが、ここに登録すると、農業体験ツアーなど、村で行われるイベントの案内をもらえます。気にいれば、実際に農業体験に行ったり、酒造りやタケノコ取り、天王台ニュータウンの見学をしたりと、じょじょに好感度を高めてもらって、気にいれば天王台に家を建てて、地域に住んでもらおうというねらいです。

気になるのは生活の基盤(仕事)をどうするか。泉崎で就職を希望する場合は、村長が先頭に立って、役場を挙げて職探しに協力してくれます。村内やその周辺にある企業への就職なので、必ずしも希望の仕事とは限りませんが、就職先そのものはそれなりにあるようで、今年春に、TV東京系の番組「ガイアの夜明け」でも取り上げられました。もちろん東京の勤務先に新幹線で通うことも不可能ではない立地だし、大学教員など、毎日出勤する必要がない人になら、なんの障害もないでしょう。

農業などを目的に定期的に通う「ちょこっといなか暮らし」から、定住する「どっぷりいなか暮らし」まで、じょじょに深めていける体制になっています。

長野県北部、新潟県に近い飯山市でも、早くから交流居住に取り組んでいて、農業体験や餅つき、地域伝統の料理作りや、スキーなどのスポーツで他の威信でもらうことから始まります。もう少し深く農業を学びたい人には「百姓塾」という名で、全7回にわたって農業の基本を学ぶコースを提供して、いなか暮らしに向いているか、体験的に考え、決断できるようなしくみを用意しています。実際に別荘を購入して半定住したり、本格的な移住を考えている人には、希望に応じて宅地を探す手伝いもするなど、個人に合わせた対応をすることで、ファンを増やし、定住者も増えてきました。

こういった活動を行っている自治体は、沖縄から北海道まで、各地にあり、その多くが市町村(自治体)が重要な役割を果たしています。NPOや地域の市民に受け入れ体制があるところもありますが、こういった団体は、やはり「農業」「アクティビティ」「空き家探し」など、機能が特化していることが普通で、半定住や、定住全体をトータルに相談に乗れるのは、市町村の担当職員になることが多いのです。

大都会にいると、区や市の職員とは住民票をとったりする程度の、窓口対応程度しか利用する機会がありませんが、地方、特に農漁村では、民間のサービスが少ないために、自治体が直接移住希望者の対応するのが現実的なのです。

もしあなたが移住や半定住、あるいは「とにかく田舎の生活に興味や関心がある」という場合は、まずは気に入っている地域の自治体にアクセスすることをおすすめします。

とはいえ、どの自治体でも交流居住に取り組んでいるというわけではないことに注意してください。交流居住自体は総務省の政策になっていて、国から各自自治体に、政策として実施するように「勧めて」いますが、今は国が決めて地方に「強制的にやらせる」時代はありません。総務省は政策モデルを提示し、必要なら予算的な支援措置を考え、そのうえで「政策として実施したい」という自治体に対して重点的に支援する方針に変っています。自助努力する自治体には支援するが、意欲がない自治体に無理に押しつけることはしないというわけです。

結果として、あなたが気に入った自治体が、交流居住にどの程度手を打っているか、関心が高いかどうかは、問いあわせてみるまでわかりません。

たとえば、僕がいる山梨県北杜市では、これまで交流居住にはあまり熱心ではありませんでした。一応「えがおつなげて」というNPOがあり、ここが農業体験や空き家情報の提供などをしてきたようですが、役所はこれまでのところ、町村合併の作業で手一杯という状況で、戦略的に実施してきたとはいえません。

その一方で、上記の飯山市は、役所のスタッフが積極的にリーダーシップをとって、ていねいな対応をしています。以前、交流居住研究会で会った飯山市役所のキーパースンは、いなか暮らしをする人が増えるのはいいことだけれど、「すごくいいよ?、どんどん来て、すぐ来て、とは言わない」と言います。いなか暮らしは人間関係や仕事、農業の厳しさなど、都会人には厳しいところも多く、だれもがうまくいくとは限らないからです。あえて厳しいことをいい、現実を見せて、それでもやれそうだと思う人には、積極的に協力していく、という姿勢で、これは交流居住に取り組む多くの自治体に共通することです。つまり、実際にどのように田舎に関わるかは、あくまで本人次第だということです。

実際に、いなか暮らし(体験/半定住/定住)に興味がある場合、まず、気に入った地域を探して、そこの地域の自治体が交流居住の情報発信をしているかどうかを確認するといいでしょう。積極的な自治体は、交流居住のポータルサイトで検索すると、情報を出しているかどうかがわかります。ここに出ていないところでも取り組んでいるところはあるので、自治体名で検索して、市町村のウェブサイトを参照してみてください。

このふたつでどちらも交流居住やいなか暮らしのことが書かれていないなら、まだ準備が整っていない自治体である可能性が高い。自治体に直接電話して、担当者を聞いても要領を得なければ、あきらめて他を探した方がいいでしょう。

僕がこの事業に関わって4年ほどになりますが、これまでは一部の自治体と、総務省や農水省が細々と仕掛けているという程度でした。しかし今年は集まっている自治体も多くなり、何をやろうとしているか、方向性も各自治体で地域ならでは個性が出てきたのも好ましい限り。地域活性化のための重要な柱に位置づけようとする自治体がはっきりと増えてきました。

では、田舎に行こうかなという個人の側は、どうでしょうか。政策全体から見ると、今定年を迎えつつある団塊世代は、この政策の中心ターゲットですが、僕は以前から「子育て世代や若い世代に目を向けるべき」と主張してきました。

では仕事も家庭も、両方とも自分らしくをめざす20?40代にとって、田舎で生活することは可能なのでしょうか。ひとつの方法は、上記の泉崎村にように「なんとか通える田舎」にすむ方法ですが、これは通勤時間が厳しく、かえってQOLが下がってしまいそうです。その代わりに、会社にいる時間を減らすというオプションが考えられます。

今、企業では成果主義をさらに勧めて、裁量労働制を導入する動きが進んでいます。これは、仕事量を勤務時間(残業時間)で判断するのではなく、与えられた仕事で結果を出せたかどうかで判断し、報酬につなげるというもので、導入されれば残業代はつかなくなり、代わって、職務手当などの形になります。こうなると、残業をいくらしても給料は変わらないので、仕事の効率を上げて早く終わらせた方がいい、というモチベーションが働き、生産性が上がるというのが、基本的な考え方です。

この動きが何を意味しているのかというと、企業は「自分で考え、自分の意思で行動し、結果を出す社員」を求めているということです。実際、企業の人事関係者や責任者に聞くと、自分で「この仕事ができる」と宣言し、「その代わり年俸いくらほしい」といえるぐらい自立した社員がいるなら、仕事のやり方はどんどん任せたいと考えている人が増えています。それができないのは、会社の制度の問題ではなく、自立した仕事のやり方ができない、依存型の社員の方の問題なのです。

あなたはどうでしょうか、「○○の仕事を××だけやるから、年俸1000万ほしい」といえますか?

これがいえる人なら、企業はそのスタイルを受け入れ、しくみを整えてくれる可能性があります。こうして居場所の自由を確保すれば、田舎で仕事をすることも、十分可能になるのです。

こういう話をすると、「やってみたいけれど、だんだん仕事をするのがいやになりそう」という意見をよく聞きます。会社にいるとかタイムカードという制約がなくなると、だらだらしてやらなくなると感じているわけです。しかし、実際にやってみると、結構やれるはず、と僕は感じています。やるべきことがあれば、そうそうだらだらしていられないものです。お金をもらっている仕事ですから、むしろきっちりやろうというモチベーションが高まるものです。できるかどうかに悩むより、「どのようにしたら今まで通りの仕事が自宅でもできるのか?」を考えたほうがずっと建設的です。

こうしてみてくると、自治体や地域は交流居住を推進中で、企業は社員が自立してくれるのを歓迎モード。となると実際にできるかどうかは、自分の意思と、それをやりきるためのインフラ(パソコン環境など)を整えられるかにかかっているといえそうです。

20?40代の時期に、家族とともに田舎で過ごす時間が持てれば、ストレスも少なくなるし、子どもには、自然と楽しく付き合い、学ぶ時間をプレゼントすることができます。

そのためのキーになるのが、ビジネスパースンとしてのあなた自身の自立です。毎年書いている、自己申告シートに、「今年やる仕事」を自覚的に書き、それを半期や年度末に「宣言したことができたかできないか」、自分できっちり判断することができていますか? その判断は、自分の目からだけではなく、上司や会社からの目でも同じような結果になっているでしょうか。

こういう点がクリアできれば、堂々と会社員のまま自然の中で暮らせるチャンスが手にはいるのです。

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