(by paco)268民主国家に、戦争ができる理由(9)

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(by paco)市民に「受け入れがたい情報」を受け入れさせる方法は、特にナチスドイツの宣伝相ゲッペルスによって開発され、その後、英国によって深く研究され、それが第二次大戦後、米国に移植されたと言われています。

その代表的な手法が、露出度を上げるという方法です。これはわかりやすいですね。

日本では小泉内閣になって、小泉首相がほぼ毎日定例会見を開き、これをテレビ(=映像)という印象の強いメディアが必ず報道します。小泉首相がテレビに映らない日はほとんどありませんが、最大野党の党首である、小沢さんがテレビに映る日はまれです。毎日繰り返し見る人に対しては、一般的に親近感や安心感、信頼感を感じやすく、基本的にその人物のいっていることを信用しようというマインドが醸成されていきます。小泉首相の次に露出度が高いのが、内閣のスポークスマンである官房長官で、ポスト小泉のトップランナーは現在の安倍晋三官房長官であるというのも、このようなメディアのしくみによって影響を受けているのです。ついでながら、安倍長官の対抗馬としては、前任者の福田前官房長官が上がっていたのも、同じ理由です。露出度は、民主国家で国民の世論を「操る」ための重要なファクターです。

次に、重要なことを単純化した短い言葉で語るという手法が挙げられます。昨年夏の総選挙の時には、小泉首相は「改革を止めるな」というメッセージを掲げました。靖国神社参拝については「戦争で亡くなった人に敬意を表する」という言い方しかしません。

こういった短い言葉で説明されると、その言葉にある内容だけで主張をとらえがちになるという大衆のメンタリティを利用する方法です。本当なら、「改革」という言葉の裏側に、「小泉内閣のやってきたことは本当に改革になっているのか(=何かを変えているのか)」という問いや、「その改革はよい結果を招いているのか」という問いが含まれるはずですが、「改革を止めるな」と言い続け、それ以外の問いには答えたり語ったりしないようにすることで、ひとつのメッセージを印象づけ、信用させることができるのです。

ここに、3つめの方法である「繰り返し同じことを言い続ける」が加わります。ひとつのメッセージだけを、なんとも登場する人物が言い続けるので、他のメッセージに比べてそのメッセージだけが、突出して人々の間に注入されることになります。

「露出度を上げる」「単純化されたひとつのメッセージだけを語る」「それを繰り返す」という3つを徹底的に実行すると、そのメッセージだけが大衆の間に印象として残り、そして「信頼感のある人が言っている」という印象と、「自分の国の指導者はできれば信用したい」という思いが重なって、そのメッセージだけが突出して理解・認知されるようになるのです。

実際、この効果は絶大で、そこで語られているメッセージがたとえウソで根拠がないものであっても、人々に認知され、信用されるところまで来ると、もはやウソということさえ、実質的な意味がなくなっていきます。

たとえば、イラク戦争の根拠になった「フセイン政権は大量破壊兵器を隠し持ている」というメッセージも、その時に並行して繰り返された「45分以内に発射できる」といったメッセージも、実はウソだということがわかっていたことが、のちにわかっています。まともなあたまで判断できる人なら、これは信用できる情報ではない、公に言うべきではないということはわかるような内容だったのに、ブッシュ政権もブレア政権も言い続けたのです。その結果、米国民、英国民は、それぞれの政府の主張を信用するようになり、開戦に賛成しました。しかしその主張がなされている時点で、すでに多くの人から、「イラクが大量は破壊兵器を持っている根拠はない」「45分以内に発射できるという情報の根拠は、非常にいい加減なものだ」ということは、さまざまなメディアで発信されていました。しかし、もっとも露出度が高く、メッセージが単純でわかりやすい、主張が、両政権によって繰り返し語られることで、人々はそれを信用したくなってしまうという構造が、開戦直前の、ほんの数年前に世界に立ち現れていたのです。

人々のマインドがこのようなモードに入ると、とてもあやしげな主張さえ、信用したくなるという状態になります。イラク戦改選前の2003年春、当時のパウエル国務長官が行った「イラクの大量破壊兵器の証拠」という説明は、どう見てもこじつけにしか見えなかったものの、米国民と英国民からは、「開戦の十分な理由」と見なされ、指示されました。いったん「戦争は避けられない」というマインドになると、それを押しとどめようとする意見や、戦争の根拠がどんなにあやしげであっても、もうもとには戻せないという大衆の心理が生まれてしまうのです。

真珠湾攻撃の直前、この作戦を指揮した山本五十六司令長官は、外交努力に最後まで期待して、「外交交渉が成功すれば、ぎりぎりでも攻撃中止命令を出すから、必ず中止してその場で反転して戻れ」と命じています。これに対して現場の指揮官たちは「いったん攻撃のために出港すれば、戻るのは無理だ」と主張するのですが、山本長官は「命令があれば攻撃をやめて戻ると約束できないやつは辞表を提出しろ」といったという有名な逸話があります。指揮命令系統が厳格な軍隊であっても、いったん動き出した方向を変えるのは非常に困難です。まして、一般大衆のマインドが、いったん戦争に傾けば、それを変えるのは非常に困難だということが、20世紀に繰り返された戦争を見るとわかるのです。

さて、このようなメカニズムがつかめたところで、もうひとつ重要なことがあります。今の時代の中で、主要国の政府は、このような政府のメッセージを伝える方法について、その有効性を理解し、戦略的に、意図的に活用して、国民の支持を得ようとしているということです。小泉首相が毎日会見を行うのも、小泉首相が自分の後継者を選ぶときに、その第一候補の人物を、財務省や経産省の大臣にするのではなく、内閣官房長官のポストをつけるのも、みな戦略的にやっていることです。「改革を止めるな」「非戦闘地域での復興支援活動」というような、小泉政権のわかりやすいメッセージも、すべて意図的に考えられ、繰り返し刷り込みを行う目的で発せられている、ということに、国民ははっきり自覚する必要があります。

このような国民に対するメッセージの発信の仕方は、おそらく、イギリスから米国へ、米国から日本へと、伝えられ、インストールされたものでしょう。小泉政権以前には、日本政府の宣伝力は、今ほどは強力ではなく、またへたくそでした。小泉首相はブッシュJr.大統領と個人的にも信頼関係が強いわけですが、このような関係の中で、ブッシュJr.が対テロ戦争の有力同盟国日本を引き込むために、あえてこのような大衆コントロールの手法を教えたのではないかと僕は見ています。これによって、米国、欧州のブレア、アジアの日本が同盟関係でつながり、米国と英国の意図が日本によってアシストされて世界に実行に移される、という関係になっているのです。

以前には、たとえば湾岸戦争の時には、日本は自衛隊を直接送ることができませんでした。それは、野党はじめ、国民世論の反対が強く、政府が押し切ることができなかったのです。イラク戦争では日本はついに自衛隊を直接戦地に派遣しました。これが可能になったのは、国民の世論を味方につける方法を、米国、ひいては英国から日本が学んだからにほかなりません。

ちなみに、日本は「自衛隊を戦地に送っているのではない」と思っている人はいませんか? 確かにサマワに派遣されていた自衛隊は「復興支援」という名目でした。それ自体「戦地ではない」といういいわけを信じてしまうことが、すでに小泉政権の「大衆世論操作戦略」にはまっていることなのですが、まあこれはこれとして。

日本の自衛隊は、サマワから撤退した今も、イラク戦争に、もっと直接的な形で参戦しています。自衛隊の輸送機は、今も米軍の支援と称して輸送業務に携わっていて、中東の既知からバグダッドへの兵員や武器輸送を行っています。

後方支援という名目になっていますが、これは英語ではロジスティックスであり、どういいわけしても戦争の一部です。戦争は、前線の兵士の戦闘だけではなく、それを支える兵站線があって初めて可能になります。これを自衛隊が担っているのですから、サマワでの活動以上に戦争そのものです。そしてそのことは、秘密でもなんでもなく、テレビでも報道されているものの、誰も問題にしない。それは「復興支援の自衛隊はもう帰ってきた」という政府のメッセージが強烈で、それ以外の「イラク戦争への関与」は見えないようにしているからです。

日本はすでに海外で戦争をしている国になっているのに、それを感じさせない。これが小泉内閣の意図なのですが、日本人の多くは、そんなことを直視することもなくなっています。それほど、政府によるマインドコントロールというのは強烈に効くものなのです。

さて、次回は、このような状況を打開するために、何ができるのかを考えてみます。

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