(by paco)マスメディアが、民主国家の戦争に最初に大きな役割を果たしたのは、ほかならぬ日露戦争でした。
19世紀半ばに発明された電信システムは、欧州を皮切りに、大西洋をまたぐ海底ケーブル、さらに大英帝国の植民地であるインドや中国へをケーブルを伸ばしていきました。日本でも明治維新直後にはすでに東京横浜間の電信が開通し、19世紀末までにはアジアも含めた世界中に電信網が構築されていました。つまり、遠く離れた地球の裏側の情報も、電信によって瞬時に伝送できる状況になったのが19世紀末だったのです。
そんな中に起きたのが1904年に始まる日露戦争でした。欧州の大国ロシアと、極東の小国日本との戦争は、欧州の人々にとっても関心の高い戦争でした。特にインドやアジアに利権を持つ大英帝国にとって、日本がロシアと戦うことは、ロシアの南下、中国への進出を食い止めることを意味していたため、日英同盟を結び、英国は日本を支援していたわけです。
日本の戦争指導者も、イギリスはじめ欧州諸国を味方につけることは大きな意味がありました。当時の日本には戦争を遂行する経済力が足りず、イギリスなどで戦時国債を発行し、戦費の調達をしなければならなかったのです。そこで、日本の戦争指導者は日露戦争開戦前から、欧州の新聞記者などマスコミを優遇し、日本からの情報を電信によって欧州にもたらし、市民の日本支持を取り付けて、戦時国債の発行をスムーズに行おうとしたのです。
この方法は当初うまくいき、日本は大国ロシアに勝ち目のない戦争を挑む勇敢さに好感が寄せられ、国債による戦費調達も順調に進みました。しかしその後、ロシアもマスコミへの対応を改善し、情報戦で日本を上回るようになります。ロシアは中国大陸での戦いに劣勢で、日本が押していたものの、ロシアはそれを「戦略的退却、日本を奥地に誘い込むための撤退」だと主張して、欧州の世論の支持を引きつけることに成功したのです。日本は当時、日本国内に外国人記者を危険を理由に日本国内に足止めして(待遇は良くして)いたのですが、のちに従軍を許し、積極的に日本の勝利を報道させることで、再び日本への支持を取り付けることに成功したのです。
こういった情報戦が功を奏して、勝敗のはっきりしない大陸での戦争を有利に見せることができ、日本海海戦の勝利をきっかけに、米国を仲介に引き込むことに成功して、日本有利の講和に持ち込むことができたのです。
日露戦争は、戦争の状況をどのようにマスコミに流すか、そしてそれによって国内と海外の市民の戦争支持を受けることが、戦いを有利に進めることには不可欠ということを示した戦争でした。つまり、史上初のマスコミを舞台にした情報戦が行われ、日本が勝利したのが日露戦争だったのです。
情報戦を有利に戦うことが、戦費の調達に有効であり、また講和を結ぶ際、有利な条件で交渉することができるということが、初めて明確になった戦争だったのです。
このことは、その後の各国の戦争指導者の胸にしっかり刻み込まれ、後の第一次世界大戦では特にドイツに押されていたイギリスが、米国を参戦させるために、米国向けの情報工作を行うという役割を果たしました。さらに、第二次大戦のナチス・ドイツでは有名なゲッペルスが宣伝相となり、国内向けには情報の管理を、海外向けにはドイツの正当性の宣伝や、米国を参戦させないための情報戦を展開していくことになります。
第二次大戦前に、米国のルーズベルト大統領は、「ヨーロッパの戦争には加わらない」と公約した、というはなしは前に書きましたが、その公約を破って参戦できたきっかけになったのが、日本の真珠湾攻撃でした。真珠湾攻撃が、日本の外交官の手違いから、宣戦布告書を米国政府に手渡すのが送れ、宣戦布告なしに真珠湾攻撃が始まってしまったというのは有名な事実です。このことを逆手にとって、日本の攻撃を「卑怯者」とののしり、「Remenber Pearl Harbor」を強く国民に印象づけることで、米国民の怒りの感情を醸成し、参戦反対の世論を、一気に逆転したのでした。
実際にはルーズベルトは日本政府と日本軍の暗号を解読していて、日本が宣戦布告を行うこと、真珠湾攻撃が行われることを知っていたことがわかっています。ということはルーズベルトは、「わかっていて攻撃させた」のですが、このことは米国民に伏せられ、「宣戦布告なしに不意打ちされた」ということだけに国民の目を向ける情報コントロールを行って、バラバラになっていた米国民の意識を一気に戦争への仕向けたのです。
もし日本が、宣戦布告してから真珠湾攻撃を行い、また攻撃を知っていたルーズベルトが真珠湾の米国艦隊に退避命令を出していたら、米国は参戦という結論を出しても国民の支持を得ることができなかった可能性があります。国民を戦争に駆り立てるために、ルーズベルトが巧みな情報戦を行ったことは間違いありません。
こういう情報戦の重要な意味づけについて理解が浅い人は、情報戦の役割を重く見る人を、「陰謀史観」と呼んで蔑視します。しかし情報戦をたくみにコントロールし、情報戦に勝ち抜くことは、民主国家が国民の支持を受けて戦争を行うためには、不可欠なものだということがわかります。それを「陰謀でものを見る」と非難することは、お門違いといえます。現代の戦争に勝ち抜くためには、見方の国民の意思を戦争へと誘導し、敵の戦意を喪失させるという大きな役割を果たすのが、情報戦なのです。
ここまで見てきてわかることは、政府が国民の意図に反して戦争に突入する場合、政府によって国民向けの情報戦が行われることは、当然のことだということ。日本政府が戦争に踏み切ろうとするなら、戦争やむなしの情報を徹底的に流し、国民である僕らのマインドを戦争に駆り立てることから始まるでしょう。情報自体が、すでに戦争への第一歩になるのです。そして、この情報戦を担うのが、マスコミです。マスコミは、戦時には国民を戦争に駆り立てる役割を果たします。だからこそ、マスコミの情報発信の姿勢が、非常に重要なのですが、この点についてはまた来週。
コメントする