(by paco)前回の「民主国家が戦争をする理由(1)」の続きです。といいつつ、ちょっとタイトルを変えてみました。
論理思考を学びたい人にとっては、このふたつのイシューの違いについてよく考えてみることをおすすめします。
(1)民主国家が戦争をする理由
(2)民主国家に、戦争ができる理由
このふたつの違いをうまく説明してみる、ということです。で、これについてはまた後ほど、ということで、本題に入ります。
前回、「民主国家では、自ら戦場にたつ可能性がある市民が国としての意思決定を行うので、(みんな死にたくないから)大きな戦争は起こさない」というしそうについて書きました。そしてその考えが、20世紀のふたつの大戦で完全に否定されたわけです。
では民主国家とそうでない国家では、戦争の意思決定のメカニズムに、違いがなかったのでしょうか、それとも意思決定は違っていても、戦争は起きたのでしょうか。
民主国家以前の、王権が強い国家では、戦争は主に王やその周辺の少数の貴族が恣意的に決めていました。一般国民はこの意思決定にはかかわりがないと考えられたわけです。
民主国家では、国民が意思決定を行います。少なくとも、大きな影響力があります。この点は、太平洋戦争に突入した大日本帝国も、ナチスドイツも、日本が戦った相手であるルーズベルト大統領率いる米国も同じでした。
ナチスは独裁政権じゃないかと思うかもしれませんが、もともとナチスは、史上もっとも民主的な憲法といわれたワイマール憲法のもとで、合法的な選挙によって第一党にのし上がり、政権を取りました。ヒトラーはワイマール憲法下で極右思想の基づくテロリズムに近い反社会的活動を行い、逮捕された経歴があります。釈放後、非合法活動では社会を変えられないと考え、合法政党を作り、選挙活動を行って、政権を取ったのです。政権獲得後、ナチス党が多数を占める議会の議決によって、民主的なしくみを停止し、独裁権を握りました。
日本では、もっと典型的に、民主国家による全体主義が行われました。日本では太平洋戦争開始の翌年、昭和17年4月にも総選挙が実施され(男子のみでしたが、だれでも選挙権がある普通選挙)、当時の東条首相に明確に反対する議員も当選しています。しかし、戦争に反対する議員が多数当選することはなかった。つまり、立憲君主国家の大日本帝国は、少なくとも法的に、形式的には、民主的に戦争を遂行したのです。
同じく、米国でも、憲法や公約に反して米国を世界大戦に導いたのはフランクリン・ルーズベルト大統領でした。彼は大統領選に、異例の4選され、国民から圧倒的に支持を受けていました。米国では建国以来、孤立主義、つまり欧州の紛争には関わりを持たず、南北アメリカ大陸に限定された覇権を持つ(欧州も南北米大陸には口を出すな)、という考えが明確にされていました(特に、19世紀の「モンロー主義」)。これに基づき、ルーズベルト大統領も、ヨーロッパの第二次大戦には参戦しないと公約を掲げていたけれど、結局、公約に反して参戦を決意します。
このように、現代の民主国家では、民主的な政治制度から大規模な戦争を選択する政権が生まれているわけですが、このようなことが起きる背景には、国民の世論が戦争を支持するという事態があります。民主国家である以上、国民の支持がなければ戦争を行うことはできません。逆に言えば、国民の支持さえあれば、民主的な政府でも戦争に踏み出すことができるし、逆に国民の支持があることで、戦争をより強力に推し進めることができる。戦争に伴う耐乏生活や、若者の戦死を、「あなたたちが選んだ政府が決めたこと、つまりあなたたちの意思だ」ということで、それ以前の政体より全国民を強力に戦争に駆り立てることができる、ということでもあります。このような原理によって、現代の戦争がより強力に、広範囲に行われるようになったといえます。
では、国民はなぜ、多くの犠牲が出る可能性があっても、戦争を支持するのでしょうか? 戦争という選択を支持する理由は、その時の状況や戦争の目的によって違うのですが、共通していることは、マスメディアの関与です。
戦争をしようと考える政府は、戦争をするべきだというメッセージを国民に伝え、それに対してyesという回答を国民からもらう必要があります。政府の考えを国民に伝える機能を果たすのがマスメディアであり、戦争を決める前後には、マスメディアの果たす役割は特に大きくなります。政府がいくら戦争を考えていても、マスメディアがなければ、あるいはマスメディアがそれを好意的に伝えなければ、国民の戦争支持が圧倒的になることはまずないでしょう。ジョン・ロックやアンリ・ルソーなど、18世紀に民主主義を考案した思想家たちにとって、マスメディアという仕掛けはまだ遠く、非力なものでした。それゆえ、マスメディアによって国民の意思が戦争へを一気に傾くという事態を、彼らは想定できなかったのだと思います。
マスメディアが、民主国家の戦争に最初に大きな役割を果たしたのは、ほかならぬ日露戦争でした。そしてその時のマスメディアのパフォーマンスを強力に活用したのが、ナチス・ドイツの宣伝相ゲッペルスなのですが、この話はまた次回に。
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