(by paco)260 知床から学べること

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(by paco)先週、北海道の知床に行ってきました。

今、札幌のある企業と継続的に仕事をしていて、今年は3月、5月、そして今回6月と札幌にいったのですが、そのついでに、今回は知床と摩周湖周辺にいってきました。

知床は、北海道の東端に出ているふたつの半島のうち、上の方の半島で、今年世界自然遺産に登録されたことはご存知の通り。ちなみに世界遺産はユネスコが各国の推薦を受けていったいの条件に当てはまる場所を認定しているもので、「世界文化遺産」「世界自然遺産」「複合遺産」の3種類あります。文化遺産や複合遺産は多いのですが、自然遺産は世界的に数が少なく、日本では屋久島、白神山地(秋田県・青森県)に続いて3か所目です(文化遺産は姫路城・原爆ドームなど10か所)。

もともと国立公園に指定されていることもあり、知床の自然が豊かなことはいうまでもありませんが、ほかの国立公園が、かつては人に利用されていた山や森である場合が多いのに対して、知床は多くの土地が未利用のまま現代まで原生的な自然が残されているとrokoに特徴があります。同じく自然遺産の屋久島では、昭和の初めまで樹齢数百年以上の大木を切り出す林業が行われていたし(それでも森は十分残っているのですが)、白神山地も木の伐採はあまり行われなかったものの、狩猟など、森の利用は行われてきました。

知床は、明治にはいるまではアイヌの土地で、アイヌはヤマト人と比べて人口も少なく、自然を壊さない静かな暮らしをしていたために、実質的に人の手がほとんどはいっていない地域として残りました。明治以後、知床半島の一部でヤマト人の入植者がはいり、森林を切り、牧草を植え、放牧が行われたりしました。しかしそれ以外のほとんどの陸地は手つかずの自然が残り、高い断崖の切り立った海岸線には人の暮らしの痕跡はほとんどありません。あまりに厳しい自然環境のために、入植は失敗し、放棄されたのです。現在、知床半島で集落があるのは、オホーツク海側ではウトロのみ、根室海峡側では羅臼など数か所に留まっています。

実際に旅行者として知床にいこうとすると、実質的には半島の中央近くのオホーツク海側にあるウトロに泊まる以外にはあまり選択肢はありません。ウトロは海岸沿いにあるわずかな平地にできた小さな漁港ですが、山地になる途中に丘陵地帯があり、ここにホテル街が形成されているのです。客室数数百という大きなホテルが数軒、ほかに20件を超える宿泊施設があり、大型観光バスで団体ツアーが次々とホテルにやってくる、そんな場所です。

旅行者の多くはパッケージのバスツアーに乗って、札幌や女満別、旭川の空港から、3泊とか5泊とかで道内各地を一気に回ります。毎日宿泊先を変え、1日200キロを超える距離をバスで移動し、数か所の観光スポットを30分ずつ見て回るといった感じのツアーで、その流れの中で知床にも訪れるという感じです。僕らはレンタカーを借りて個人で移動していたのですが、こういうタイプはそれなりにいるものの、数的には少数派で、ウトロのホテルに連泊する客もとても珍しいことがわかりました。

女満別空港や摩周湖方面からバスで移動してきて、ウトロの手前の「オシンコシンの滝」を見学、ウトロ市内の「オロンコ岩」に上ってホテルに入り、バイキングの夕食。翌日は午前中は観光船に乗って1.5時間のクルーズ、午後は知床五湖のうち、2湖を巡る遊歩道を30分歩き、その後、バスに乗って知床峠を越えて羅臼に抜け、根室方面など次の宿泊地へ向かうという感じで、代表的なスポットは5か所程度。いずれも軽装で「大自然」にちょっとだけ近づけるというお手軽なところばかりです。

僕らも、まずはこういった場所を一通り回ってみたのですが、正味1.5日あれば、確かにほぼ見尽くしてしまう感じでした。

もちろん、知床の見所は、そんなものではないはずです。たとえばクルーズ船が通る断崖絶壁には、ちょうど大セグロカモメなど海鳥が本当にたくさん営巣していて子育ての真っ最中なのが見えるのですが、これも船足が速く、じっくり観察できるわけではありません。8倍程度の双眼鏡があれば、子育てのようすがかなりよく見えるはずですが、そういった配慮もないので、「たくさん鳥が飛んでる、子育てしてる」というだけで、こんなに間近に営巣が見えるのに、それをきちんと見せる工夫がなく残念でした。

知床五湖も、静かできれいな湖なのですが、どことなく「普通」の感じで、深みがありません。なぜだろうといろいろ考えて、今ひとつわからないのですが、やはり説明のためのパネルなどがあまりなく、見どころがわからないせいではないかと思います。ヒグマの生息地で、観光客とヒグマの接近遭遇の事故もしょっちゅうあるために、ヒグマの危険を示すパネルはあるのですが、それさえ、実感が持てるような提示にはなっていません。たとえば実物大のリアルなヒグマの模型を遊歩道入口近くに置き、怖さを示したり(実際、ヒグマは立ち上がると軽く2メートルを超すため、体も大きく、堅いツメは僕の指ほどの大きさがある)、生態を示すなど、本当に身近に野生の熊がいるのだということをもっとリアルに示すと、クマへの理解も進んで危険を避ける行動をとるだろうし、知床の自然ももっと理解できるのでははいかと思います。エゾシカは、ウトロのホテルの庭にも親子連れで現れたり、知床五湖の森の中でも何頭も見かけるなど、野生の鹿が、まるで奈良公園のようにあちこちで見返ることができます。でもそれ故によけい、野生ではなく、奈良と同じように「半分飼われている鹿」というようにも感じてしまうのが残念。

知床のすばらしさを伝え、感じ、理解してもらうには、自然の感受性が落ちている都会人、そしてあわただしいバスツアー中心の旅行者であることを考えると、もっともっと工夫が必要だし、それにふさわしいスポットを開発する必要があると感じました。

もちろん、地元のレンジャーは、いろいろな形で自然を伝える工夫をしているのが見て取れます。知床自然センターというしっかりした施設もあり、内容も決して悪くないのですが、展示や映画も、どこか「観光」的で、「ちょっと展示を見て買い物をして帰る場所」になってしまっています。けっこう大きなシアターがあり、そこで映写される20分ほどの映画はなかなか美しいのですが、きれいではあっても、深みが伝わってこないのです。

自然が豊かすぎて、逆に何をどう見せたらいいのか戸惑っている。そんな印象を受けました。

こういう姿勢はホテルやウトロ市街のみやげ物屋やレストランでも同様で、黙っていてもお客が来るということもあり、サービスも質、設備、商品など、どれをとっても中途半端。ホテルも、旅館上がりで建て増しを繰り返し、和室の部屋に、最後に鍵付きのドアをつけてホテルらしくしました風のつくり、といえばわかるでしょうか。

ホテルの部屋の湯沸かしポットにはたっぷりのお湯が入ったまま、電源ケーブルがつなぎっぱなしになっているし、連泊なのに前日使った歯ブラシを翌日捨てて新しい物を置いていくという「もったいない」管理も、エコロジカルではありません。

豊かな自然という資源を生かし切れず、かといって宿泊施設面でも道路の整備の面でも、たくさんの観光客を受け入れるキャパだけはある。アンバランスな状況にある知床ですが、世界遺産登録を機に、ひとつひとつ再構成と最適化が進められるといいなと思っています。

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